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6月9日 新しい病気の理解も注意深い症状観察から始まる(6月5日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年6月9日

病気の治療は、まず正確な診断を行い、それに基づき適切な治療を選ぶことだ。ここで重要なのは、診断ができたからといって、すなわち病名を確定したからといって、病気が理解できているわけではない。既存の診断基準で病名を確定した後も、注意深い症状観察により、新しい病気の側面が発見されることはいくらでもある。その結果、新しい治療法に思い至ることが、臨床医の醍醐味だろう。

今日紹介する米国NIH からの論文は病気の新しい側面の気づきが治療につながるという一つの例で6月5日号のScience Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Lymphocyte-driven regional immunopathology in pneumonitis caused by impaired central immune tolerance(中枢性の免疫トレランスの異常によって起こる肺炎に見られるリンパ球により誘導される病理)」だ。

この研究の対象は胸腺や骨髄でT細胞やΒ細胞の免疫トレランス誘導に関わる分子AIRE機能低下によって起こる、様々な臓器、特に内分泌臓器が影響される事故免疫病だ。中枢性トレランスの障害なので、あらゆる臓器で自己免疫性炎症が起こってもいいが、病名が自己免疫性多内分泌症候群という名前が付いているように、診断には副腎などの内分泌症状が重視されるため、これまで肺症状についてはほとんど問題にされていなかった。そのため、全身性の自己免疫病であるにもかかわらず、症状が出ている内分泌臓器ホルモンの補充療法が優先されてきた。

この研究では自己免疫性多内分泌症候群の患者さんでは早い時期から様々な呼吸器症状が現れることに気づき、これらの異常は肺のCTで捉えられることを確認する。

そして、患者さんの気管には好中球の浸潤が認められること、また好中球の浸潤蓄積がリンパ球、特にT細胞の肺実質への浸潤と関連していることを、バイオプシーによる組織検査で突き止める。すなわち、肺症状、好中球を含む痰が、特異的ではないがこの病気の重要な症状になることを明らかにしている。

この結果は、中枢性の免疫トレランスの破綻により肺実質へ浸潤した自己反応性リンパ球により、2次的に好中球の蓄積が誘導され、肺炎が起こることを示唆する。そこで、今度はAIRE欠損動物モデルのT細胞を除去する実験を行い、このシナリオを確認する。

そしてこのシナリオに基づき、リツキシマブによるΒ細胞抑制、アザチオプリン(ミコフェノール酸モフェチル)によるT細胞抑制治療を5人の患者に行い、肺炎をほぼ完全に抑えることに成功している。

話は以上で、注意深い観察に基づく臨床での気づきが、患者酸へ新しい治療をもたらした、さすがプロと思える研究だった。また、同じことはチェックポイント治療でも起こる。がんのチェックポイント治療の副作用をコントロールするためにも、重要な研究だと思う。

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