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6月15日 抗体の膣への浸透(Natureオンライン版掲載論文)

2019年6月15日

抗体の機能など、もう研究することはほとんどないように思っていたが、実際にはまだまだわかっていないことがあるようだ。最近それを認識する論文を相次いで読んだので、今日・明日と2回に分けて紹介したい。

今日紹介するエール大学、Sakai Akiko研究室(おそらく日本の研究者なのだろう)からの論文は抗体の膣腔への浸透についての条件を調べた論文でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Migrant memory B cells secrete luminal antibody in the vagina (膣への抗体は組織に移行してきた記憶B細胞により分泌される)」だ。

この研究の第一次的な目標はヘルペスウイルス2型(HSV2)により起こる性器ヘルペスの予防だ。もちろん成人にとっては決して致死的な感染症ではなないが、出産時に子どもに感染すると、重篤な問題の原因になる。これまでワクチンはほとんど効果がなかった。この原因として、ワクチンで抗体ができても、膣への抗体が移行できないため感染が防げないのではと考え、抗体が膣へ移行する条件を探ったのがこの研究だ。

しかし、抗体が作られれば身体中どこにでも浸透できるのかと思ったがそうではなかった。抗体はできても膣にはどのクラスの抗体も検出できない。そこで、このグループは膣に抗原を投与して免疫が可能か調べている。そして、1回免疫では、全身の抗体価は高まるのに、膣組織のB細胞やプラズマ細胞は全く上昇できない。ところが、もう一度免疫を繰り返すと、今度はほとんどのクラスの抗体が膣腔に分泌され、しかも記憶B細胞が大量に膣組織に浸潤していることがわかった。

さらに多発性硬化症に使われるリンパ球の血管からの遊走を止めるフィンゴリモドを用いて記憶B細胞の膣組織への移行を止めると、血中には抗体があっても、抗体が膣腔に分泌されないことを発見している。すなわち、2回目の免疫で、膣組織に抗体を作るB細胞が移動することが抗体分泌に必須であることを示している。

次にこの記憶B細胞の移行を誘導するメカニズムについて調べ、膣組織に1次免疫で形成されたT細胞と樹状細胞のクラスターが、2次免疫により刺激され、インターフェロンを介したCXCR3ケモカインを分泌することで、記憶B細胞が膣組織にリクルートされ、これが抗体を膣腔へ分泌するという結果になる。

特に最先端のテクノロジーを使っているわけではないが、必要な実験を積み重ねてシナリオを仕上げるという極めて好感の持てる研究だ。なんといっても、女性生殖器の感染予防のためのワクチン開発という点では、組織に抗原得意的T-樹状細胞セットが存在すること、B細胞が組織に移動してきて抗体をそこで分泌すること、の2つの条件が明らかになったことはワクチン開発にとって大きな進展ではないだろうか。

この影響はヘルペスワクチンにとどまらない。子宮頸部での抗体分泌と、膣とが同じかわからないが、パピローマウイルスワクチンも、実際には免疫ルートを膣に変えればさらに効果を高められるかもしれない。他にもエイズワクチンも出産時の子供への感染を防ぐために使えるかもしれない。淡々とした論文だが、多くの人を救える基礎研究だと思う。

明日は抗体の胎児への移行についての論文を紹介する。

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