新型コロナウイルス感染者の症例報告
AASJホームページ > 新着情報 > 生命科学をわかりやすく

新型コロナウイルス感染者の症例報告

2020年1月25日
SNSシェア

新型コロナウイルス2018-nCoVに感染した患者さん41例の臨床経過についての論文が最新のThe Lancetに発表されたので、簡単に紹介しておく。

経過

武漢海鮮市場で原因不明の肺炎が発症したという報告を受け、まず1月1日市場は閉鎖、その間に59例の疑わしい症例が、12月31日より隔離体制が整った指定病院への入院が始まった。これと並行して、医師、疫学、ウイルス学の専門家チームが編成され治療と研究に当たっている。

1月2日にはウイルス配列に基づく診断法が確立され、59例中41例が新型ウイルス感染と確定されている。最初の41人は全員成人で子供はいない。半数が、海鮮市場で直接働いていた。

症状

SARSなどと同じで、呼吸器症状で始まる。鼻水が出たり、頭痛がしたりという風邪症状はほとんどなく、発熱(98%)、咳(76%)、筋肉痛と疲労感(44&)が主症状。恐ろしいのは、入院後早期に半数の患者が呼吸困難を訴え、重症の肺炎であることがわかる。さらに、21%では急性呼吸逼迫症候群ARDSが起こる。今回報告された41症例のうち11症例がARDS、最終的に6例(15%)が亡くなっている。

検査としては、白血球減少、リンパ球減少、GOT、GPT上昇、凝固障害などがみられ、血栓が進行している可能性が示唆される。また、炎症性サイトカインの上昇が見られるが、エボラの様な強烈なサイトカインストームではなさそうだ(イタリック部分は西川の勝手な想像)。

対策

現在のところ、感染症に対してははっきりした対策はない。レスピレーターによる呼吸管理だけが可能な対策になる。

SARSなどの経験から、コルチコステロイド治療は、病気の進行を遅らせても、死亡率を改善できないこと、核酸アナログのレムデシビルの治験を進めていること、そしてMERSで治験中の抗エイズ薬の結果に期待を寄せている。

X線写真所見は省いたが、普通の医師なら見落とすことはまずないだろう。コンパクトにまとまった論文で、この病気をよく理解できた。

新型コロナウイルスに関する5つの質問

2020年1月23日
SNSシェア

今日Natureにも、Ewen Callaway とDavid Cyranoskiが、中国の新型コロナウイルスの現状についてうまくまとめてくれているので紹介する。この記事でも、科学者たちが大車輪でウイルスの本態を捕まえようと努力しているのが伝わってくる記事だが、5つのquestionに分けて解説している。

  1. どの様にウイルスは伝染するのか?

すでにヒトからヒトへの感染は確認されている。あとはどの程度流行するかだが、ロンドン王立大学の疫学者Fergusonは、今後の経緯を科学的に分析することが、今後の広がりや流行期間の推定に必要だと述べている。

2、ウイルスの致死性?

最初、高い頻度で肺炎が併発するのを観察して武漢のウイルスが極めて悪性ではないかと心配されたが、この心配は少し和らいだ。500人の患者さんのうち17人が亡くなったが、これはSARSの致死率11%よりは良さそうだ。ただ、結論するのは早計だ。

3、ウイルスの由来

SARSはジャコウネコに由来したと推定されいるが、武漢ウイルスもDNA配列から、動物からではと考えられている (これについては最も最初のオリジンは蛇だとする中国からの論文を紹介した:https://aasj.jp/news/lifescience-easily/12238)。蛇が最初にしても、配列から様々な動物を経て進化してきたのではと推察されている(http://virological.org/t/preliminary-phylogenetic-analysis-of-11-ncov2019-genomes-2020-01-19/329)。ただ蛇も含めてウイルスに感染している動物は特定されていない。

4、ウイルスのDNA配列からわかること

中国とタイの研究者が、19系統の武漢コロナウイルスの配列を決定している。たしかに2週間でここまで進むことは、迅速な体制がアジアでできていることを示している。これまで決定された配列は多様性が少なく、11月に発生してから突然変異はまだ蓄積していないことを示している。今後、ヒトからヒトへと感染したケースを調べることで、人間にとってさらに危険なウイルスへと進化するかわかると期待されており、ウイルスの配列決定をできるだけ多く集めることが重要。

5、抗ウイルス薬は開発できるか?

SARSも武漢の新型コロナウイルスも同じ受容体を使って細胞内に侵入することが突き止められており、うまくいくとこれを抑制する薬剤や抗体の開発が可能かもしれないと、中国国立技術研究センターで開発が試みられている。

以上よくまとまったタイムリーな記事だ。

新型コロナウイルスは蛇に由来する。

2020年1月23日
SNSシェア

新型コロナウイルスの話は今やニュースの見出しトップに踊り上がっている。しかしヒトからヒトへの感染が可能になったという話以外に目新しい話はない。結局米国CDCのアドバイスに従って、なるべく人混みは避ける、家では石鹸で丹念に手を洗う以外、今のところ感染予防の方法はない。

しかし科学者は緊急体制で研究を続けており、刻々と新しい情報が入ってくる。例えば新型ウイルスの遺伝子配列はWHOから1月10日に発表され2019-nCovと名付けられた。

中国は正確な患者数を隠していたが、国際的圧力で慌てて正確な数を発表したという話が流布している様だが、ウイルスゲノムが1月10日に発表されたとしたら、それまでは正確な患者数など出せるわけがない。それから2週間の間に正確な診断が可能になったということだと思う。

ウイルスゲノムの特定により急速に研究は進んでおり、なんと今日Journal of Medical Virologyに中国北京、武漢、南寧のグループから、新しいウイルスが蛇由来ではないかという論文が発表された。おそらく一般の皆さんは、このスピード感に驚かれるのではないだろうか。

報道にもある様に、最初の患者さんたちは武漢の海鮮市場で様々な動物に触れていた人たちだ。しかし、どの動物からもまだ新しいコロナウイルスと同じウイルスは発見されていない。ただ、新型ウイルスの配列でのコドンの使われ方(核酸に対応して3つの核酸の並びがコドンとして使われますが、1つのアミノ酸に対するコドンは複数存在します。ただ、動物ごとにどのコドンを使うかのくせがあるので、このくせから動物の由来を特定できる場合があります)と新型ウイルスでのコドンの使われ方を比較することで、ウイルスの最初の由来を特定することが可能だ。この研究では新型ウイルスと多くの動物でのコドンの使い方のクセを調べ、なんと蛇のクセに最も近いことを明らかにした。

人間に感染するために変化した場所もわかっているので、今後蛇から人間への経路も明らかになると期待される。

気になる治験研究 4 学校教育で使える健康的な食に関するビデオ

2020年1月17日
SNSシェア

考えてみると、私たちの子供時代は「食べること=善」で、裕福な家庭は別にして、おそらく不健康な食というと、好き嫌いなどの、食べないことだったと思う。しかし現在、子供の周りの食環境は大きく変わって、食べることによる肥満などの様々な問題が発生し、「健康な食」を自分で選ぶことの重要性が認識されている。

この問題を学校教育として解決できないか調べた治験研究がJ.Nutr Educ Behav 11月号に掲載されたので紹介する。

この治験では、子供に公共テレビとして制作された、健康な食を用意するクッキング番組を学校で見ることが、その後の子供の食べ物の選択に好影響を及ぼすかを調べている。

実際には、異なる5カ所の小学校の中から8クラス、10〜12歳の学童を選んでいる。この8クラスを無作為的に、健康な食を用意するクッキング番組を見せるクラスと、食とは関係のないクイズ番組を見せるクラスに分け、それぞれの番組を見た後4種類の食べ物のうちどれを選ぶか調べている。結果は期待通りで、健康な食に関するビデオ番組見たクラスの子どもが健康な食を選ぶ確率がずっと高まる。

おそらく、一人でビデオを見て学習するより、仲間と一緒に正しい食について習うことの方が影響が大きいのだろう。教育の場の重要性を示す、子供の感受性をよく理解した面白い治験研究だと思う。

「ひきこもり」は万国共通の医学用語になるか?

2020年1月11日
SNSシェア
World Psychiatryに掲載された加藤さんたちの論文

長期間自分の部屋や自宅から出られなくなると、我が国では引きこもりと診断され、様々な公的・私的支援を受けることができる。各地域に支援センターが設置され、様々な機関が共同して本人や家族を助けている。しかし、今後この症状を一つの精神疾患単位として研究していくことも重要で、この要請に応えるため九州大学病院・精神科では引きこもり診療部を設立し、本人や家族の教育プログラムの治験を始めたようだ。

今日紹介したいトピックスが、この診療部門の加藤先生たちによってWorld Psychiatryに発表された意見論文で、引きこもりが日本の文化的風土に根ざした特殊な状態ではなく、多くの国で報告され始めた一つの疾患単位であるとして研究することの重要性を訴えている。すなわち、「引きこもり」が日本発の診断名として今後世界的に利用されるようになる。

ちなみにPubMedでHikikomoriと検索すると85編の論文が検索され、そのうち17編が2019年に発表されているが、我が国からの論文は5編だけで、すでに世界的な用語として多くの研究者に使われ始めているのがよくわかった。

また同じ雑誌に加藤さんたちは、1)引きこもる場所が自宅に限られる、2)6ヶ月以上続くことが多いなどの特徴に加えて、例えば社会とのコンタクトを避けているわけではないことなど他の病気との区別について述べてもいるが、これは専門家に任せたほうがいいだろう。

我が国の研究者の名前がついた病気は多いが、「Hikikomori」のような状態を示す日本語が病名になることは珍しい(例えばイタイイタイ病)。ぜひ世界的な疾患単位として発展してほしいと思うし、我が国でのHikikomoriが1%を超えたと聞くと、その可能性はじゅぶんあると思う。

とするなら、引きこもりという言葉が使われるようになった経緯を30年前に遡って誰かはっきりさせる必要があると思う。

気になる治験研究 3 心房細動と診断されたらアルコールをやめた方がいい

2020年1月10日
SNSシェア

心房細動は高齢化に伴って増加している。私の年になると、周りにも心房細動と診断された人をよくみかける。しかし、少し医学知識があるからと相談されても、「脳梗塞のリスク要因なので、まず専門医に診てもらって、必要ならカテーテルで不整脈の巣をアブレーションしてもらう」よう勧める以外、専門家でない私には答えようがない。

しかしこんな私でも、気の利いたアドバイスができるネタがオーストラリアのアルフレッド病院からThe New England Journal of Medicineに発表された。

この研究では、心房細動にアルコールの量を減らすことは効果があるかを調べている。実際には、だいたいワインにしてグラス一杯以上、毎日飲んでいる心房細動の患者さんを無作為に2群にわけ、禁酒群では一週間に2杯までに制限してもらう。コントロールはこれまで通りで制限しない。

禁酒を伴う治験というのは難しいようで、最初700人近くの患者さんに声をかけているが、500人以上が禁酒が必要と聞いただけで参加をやめている。最終的に禁酒してもいいと参加してくれた人は140人に減ってしまったが、治験参加者は決められた生活を半年続けている。

結果は期待通りで、半年の経過観察中に再発した率が、これまで通り飲み続けている人たちで73%に対し、禁酒群では53%に低下している。また、経過中に入院が必要になった患者さんがコントロールでは20%に対し、9%と半減している。すなわち、禁酒すれば心房細動は良くなる。

これまでアルコールは心臓に対する刺激性があるとされてきたが、この結果がそれを反映しているかどうかはよくわからない。いずれにせよ、心房細動と診断されたら、アルコールは控えたほうがいいようだ。

これからはこのネタをアドバイスに使うことにするが、私はおそらく治験に参加しなかった500人と同じで、禁酒を考えること自体が心臓に悪い。

究極の遠隔医療:スペースミッション中に発生した頸静脈血栓症

2020年1月9日
SNSシェア

我が国でも遠隔医療に対するガイドラインが制定され、徐々にオンラインで医療を提供する機関が増えている。しかしほとんどは病気についての相談で、例えば医療従事者が全く存在しない地域で、緊急の診断、治療を行えるような体制が取れるまでは、時間がかかるだろう。

しかしこんなケースが最近国際宇宙ステーションで突発したようで、この時の経過が1月2日号のThe New England Journal of Medicineに発表されたので紹介する。

何か症状が現れて見つかったわけではなく、宇宙での血管状態を調べる研究で超音波検査を宇宙飛行士同士で実施している時、左頸静脈に血栓が発見されたのが発端だ。

(これからわかるのは、遠隔医療に頼る場合は、超音波診断器は強い味方になるので、一般の人でも使えるようなシステムが開発されることは重要だ。)

画像は地上の専門家により精査され、極めて大きな血栓で治療が必要と判断された。血栓破壊術などは不可能で、普通こんな場合経口抗凝固剤を用いるが、常備されていたのがヘパリンだけだったので、診断翌日にはヘパリンの静脈注射を始めることに決まった。

(無重力状態でバイアルから注射器に移すのは至難の技らしい)

この間、血栓の大きさが減ることを確認し、ヘパリンの量を減らしながら43日間静脈注射を続ける一方、次の補給船で経口抗凝固剤を届けることに成功し、ミッション終了の4日前まで服用を続けている。船上の検査では、血栓は縮小しても、最後まで自然血流は強く障害されていた。

着陸時に大きく血流が変化することが予想されたので、抗凝固剤投与を中止した後、着陸している。驚いたことに、着陸直後の検査で、自然血流が回復し、血栓もかなり消失していることが確認された。その後24時間経って再検査した時には、血栓はほぼ消失してその後全く問題がない。

健康人にこれほどの頸静脈血栓が発症することは普通予測できない。おそらく血流が大きく変化する無重力空間のせいだと思われるが、だとすると今後も同じようなケースが出る可能性がある。

しかし今回のケースは究極の遠隔治療と言える。このような経験が積み重なって、医師のいない地域の遠隔医療でできること、できないことが仕分けされ、システムを完成させることができるようになるのだろう。今後高齢化が進む我が国にとっても重要な問題だ。

電子タバコによる肺損傷の原因がビタミンEアセテートに絞られてきた。

2020年1月5日
SNSシェア

Nature Medicineが昨年の医学トピックスとして真っ先に挙げたのが、電子タバコによる肺の損傷が英国や米国で報告されたことだ(図下)。

米国ではなんと2400人の患者さんが病院に緊急入院し、そのうち半数が集中治療室での治療が必要で、すでに52人が死亡し、大変な問題になった。

この原因が電子タバコによることは聞き取り調査などからわかっていたが、最終的な原因物質については特定に至っていなかった。

これに対し米国CDCが全力をあげて調査した結果が1月3日号のThe New England Journal of Medicineに発表された。

研究では患者さんの肺の洗浄液を集め、電子タバコに含まれており、しかも肺損傷を起こした患者さんだけに存在している化合物を探索し、51例中48人でビタミンEアセテートが含まれていることが明らかになった。

聞き取り調査などから、このビタミンEアセテートはテトラヒドロカンナビノールと呼ばれる大麻成分を溶かすために使われており、8割の人がこの大麻成分を蒸気化して吸っていたことを告白している(Wikipediaに典型的製品が公表されている)。

以上のことから今回の肺損傷の原因は、電子タバコというより、大麻成分を溶かしていたビタミンEアセテートが限りなく黒に近く、ビタミンEアセテートが含まれない電子タバコは他の害はともかく、肺障害については問題ないと結論されたと思う。いずれにせよ、ビタミンEアセテートが含まれているかどうか、各社早急に声明を出したほうがいいと思う。

ビタミンEアセテートはもちろんサプリメントとしても使用され、皮膚のクリームにも使われている。なのにどうして肺でこのような激烈な症状が出るのか不思議だ。現在のところ、長い脂肪鎖を持っており、これが肺を膨らませるのに必要なサーファクタントに潜り込んで機能を障害するのではと考えられている。

他にも、蒸気化するための高温に晒されて、肺障害性の化学物質に変化する可能性も示唆される。

いずれにせよ、ここまでくればあとは動物実験ではっきりと真偽が確かめられるだろう。論文が発表され次第報告する。

気になる治験研究2:インフルエンザに対するタミフルの効果 ( The Lancet オンライン掲載論文 )

2019年12月30日
SNSシェア

タイトルを見て「タミフルがインフルエンザに効くかどうかを今更調べることもないはずだ」と驚かれる人も多いだろう。

調べたわけではないが、おそらくインフルエンザウイルスが検出されると、我が国では患者さんの状態に関わらずタミフルなど、抗インフルエンザ薬が投与されのが普通で、実際テレビメディアでも処方が当たり前のこととして報道されている。

しかし、例えば米国の疾病コントロールセンターのガイドラインで投与を推奨している対象は、1)入院が必要な重症患者、2)2歳未満の幼児、3)65歳以上の高齢者、4)妊婦、5)様々な合併症のある患者、6)免疫抑制中の患者、などに抗インフルエンザ薬投与は限られ、それ以外は様子をみて重症化しそうなら投与とされている。しかし、様子を見ているうちに多くは軽快し、また悪化を予測するのは難しいため、欧米では結局抗インフルエンザ薬を投与しないことの方が多いらしい。

タミフル治験の論文を集めて効果を計算したら、健康人の場合インフルエンザからの回復が17.8時間早くなるという推定があるが、欧米ではこの程度の差なら吐き気などの副作用の方が問題で、わざわざ高い薬を飲む必要がないと判断されるが、我が国では「どの程度の差でも効果がある」ならともかく使おうということになっている。

今日紹介する治験論文は、現在はほとんど抗インフルエンザ薬が処方されない欧米で、タミフルの効果をもう一度確かめようとした研究といえる。個人的には、何を今更という気がするが、タミフルもすでにジェネリックの安価な薬剤も利用できるので、もっと気軽に使ったらどうかという考えが背景にあるのかもしれない。

治験だが、インフルエンザのシーズンに病院を訪問した患者さんを無作為にタミフル投与群と非投与群にわけ、その中でインフルエンザウイルスの感染が確認された患者さんについて、回復までの時間や、逆に症状の悪化による再診や入院などの経過を調べている。

様々な項目について調査が行われており、一般の人にはわかりにくいので要点だけを紹介すると次のようになる。

  • 全患者さんで見たとき、インフルエンザで生活が制限される期間は平均6.5日だが、タミフルを処方した群では平均1.02日は回復が早まる。
  • 高齢者や基礎疾患により悪化のリスクの高い患者さんでは、回復までの日数が2−3日早まる。
  • タミフルでは吐き気や嘔吐を訴える人の数が増える。

以上が結果で、はっきり言ってこれまでの研究とほぼ同じで、タミフルは間違いなく効果がある。特に健康に問題ある患者さんには投与が望ましいという結果だ。結局判断はこの効果の程度が見合うだけのコストパーフォーマンスがあるかどうかの評価の問題になる。

この治験グループは、「使うべきだと強く宣伝はできないが、1日でも早く治りたいのが患者さんなので、幼児や高齢者、さらには悪化するリスクが少しでもある患者さんは当然のこと、健康人が感染した場合も使ってもいいのではないか」と結論している。言い換えると「値段も安くなったことだし、もう少し使ってもいいよ」が結論だ。

インフルエンザと抗インフルエンザ薬の統計を見ると、病気に対する我が国と欧米の間の大きな差を感じるが、一般の皆さんはどう考えられるのか、ぜひ知りたいところだ。

Scienceが選んだ今年のブレークスルー10選

2019年12月21日
SNSシェア

昨日のNatureの選んだ今年のサイエンスニュースに続いて、今日はScienceの選んだ今年のブレークスルーを紹介する。今回は、個人的感想も加えた。

  1. ブラックホールのイメージ 今年の4月、ブラックホールのイメージを捉えたと言うニュースは世界中を駆け巡った。論文はオープンアクセスなので(https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab0ec7)この写真を自由に閲覧することができる。見ることは信じることを絵に描いたような論文だが、どう撮影されたのかは天文学者に聞いてほしい。
  2. Deep impact過程の解明  今年10月Nature (574:242)に発表された研究は、ユカタン半島沿岸で今は海の下に眠る、6千6百万年前に起きた隕石衝突のインパクトを、ボーリングによって採取したコアに含まれるプランクトン解析により詳しく調べた研究。その時起きた津波でほとんどの生物が消滅した様子や、その後気温が急速に低下する様子が手に取るようにわかる。そして、千年もしないうちに植物が現れ、70万年後には哺乳動物が現れるなど、急速な回復が見られた。とはいえ、こんなことが今起きたら大変だ。
  3. デニソーワ人の解明が進む  このトピックスについてはAASJでも力を入れて紹介し、YouTubeで解説も配信したので、そちらを参照してほしい(https://www.youtube.com/watch?v=ngzOlfES7m4)。今年は重要なブレークスルーが数多くあったが、その中から2編の論文が選ばれている。一つは、これまで出自の明らかでなかったチベット出土の骨格がコラーゲン解析からデニソーワ人と特定されたことで、今後同じ地域から出土した骨の解析から、急速に骨格が明らかになると期待される(https://aasj.jp/news/watch/10139)。もう一つは、実際の骨格が明らかになる前にそれを予想しようとしたイスラエルの研究で、インフォーマティックスを駆使して骨格を予測する論文をCellに発表した(https://aasj.jp/news/watch/11407)。予測が当たっているか、すぐに明らかになると思う。
  4. エボラウイルス感染症の克服  最近HPで紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/11936)、2種類の新しいモノクローナル抗体薬は、感染初期であれば、9割の患者さんを救えるという治験結果がThe New England Journal of Medicineに発表された。
  5. 量子コンピュータ  今年10月GoogleのチームがNatureに量子コンピュータに必要な条件をクリアしたと発表した(これはオープンアクセスなので興味のある人は読んでほしい*https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5)。ただすかさずIBMからのクレームがついたようだが、今後世界各国で開発競争は加速すると思う。私が以前アドバイザーとして関わった京都大学白眉プロジェクトでもこのテーマに取り組む若手研究者がいたが、我が国の現状はどうなのか、正確なレポートがほしい。
  6.  真核生物の起源Asgardの培養 我が国からは産総研からの論文が選ばれた。(オープンアクセスなので興味のある人は直接読んでほしい:https://www.biorxiv.org/content/10.1101/726976v2)。嬉しいことに、真核生物進化に関する重要な貢献だ。真核生物は古細菌から進化したと推察されているが、その後深海のメタゲノム解析からより真核生物に近いAsgardの存在が知られるようになった。しかし、これはゲノムだけの話で、本当に存在するかどうかは明らかでなかった。産総研のチームは深海の沈殿物の培養にチャレンジし、十二年かけてついに生きたAsgardsと言える生物を単離することに成功した。古細菌と比べて多くの真核生物特異的と考えられていた分子や構造を有しており、将来、真核生物の進化を試験管内で再現することが可能になるかもしれない。
  7. 星の融合が捕らえられた  NASAのNew Horisonが海王星の向こうのカイパーベルトから送ってきた映像は、説明するより見てもらったほうが早いが(http://pluto.jhuapl.edu/News-Center/News-Article.php?page=20190222 、2つの星がこれから融合する有様を捉えていると考えられる。
  8. 嚢胞性線維症の治療薬の開発  遺伝病というと、治療には細胞や遺伝子自体が必要だと考えるが、嚢胞性線維症については、変異を持つクロライドチャンネルの機能を補完する薬剤の開発が進み、今年になってほぼ9割の患者さんの治療が可能になった(HPの記事を参照:https://aasj.jp/news/watch/11671)。しかし、同時に1年間の治療コストが3000万円を超えることも明らかになり、新たな問題を提起している。
  9. 栄養失調に関わる腸内細菌叢 J.Gordonのグループは栄養や代謝と腸内細菌叢の関係についての研究のトップグループだが、バングラデッシュでのフィールドワークで栄養失調を抑える腸内細菌を特定し、これを指標に腸内細菌叢を成長させ栄養失調を防ぐ食事の開発に成功した。食品の開発についてはHPで紹介しているので参照してほしい(https://aasj.jp/news/watch/10582)。科学で貧困に立ち向かうこのグループの活動にはいつも頭がさがる。
  10. AIギャンブラー 一年前AIギャンブラーというタイトルで、Libratusと名付けたAIが、論理だけでは割り切れないギャンブル、ポーカーに勝てることを示した論文を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/7990)。同じno-limit Texas holdsゲームだが、今年はFacebookが開発したPluribusと名付けられたソフトが、ポーカーのトッププレーヤーを打ち負かすことができたという論文が発表された(Science 365,885)。AIは碁や将棋のような対面ゲームだけでなく、複数を同時に相手にするゲームでも勝てることを示し、AIが単純な論理アルゴリズムとは異なることを示した(と私は思っている)。