4月26日:政治的傾向と読書傾向(4月3日号Nature Human Behaviour掲載論文)
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4月26日:政治的傾向と読書傾向(4月3日号Nature Human Behaviour掲載論文)

2017年4月26日
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    先日、世界中でMarch for Scienceと名付けたデモが科学者の呼びかけで行われたが、トランプ政権になってポピュリズム政治が簡単に反科学的になりうることが強く認識されたからだ。このこと自体は、多くの社会学者によって昔から指摘されており、特に現在のように政治的分断が深刻になると、科学に関する分断もますます深刻になる。
   このことは十分わかっているつもりだったが、今日紹介するシカゴ大学からの論文を読んで、階層間の分断だけがトランプ現象として現れているのではなく、あらゆる階層でイデオロギーの深刻な分断が進むとともに、一般の人にとって科学自体が自分の好みで消費する対象でしかないことがよくわかった。タイトルは「Millions of online book co-purchases reveal partisan differences in the consumption of science(何百万冊の本の同時購買から科学の消費における党派的分断がわかる)」で、今年から出版が始まったNature Human Behaviour4月2日号に掲載された。
   もともと科学は中立で、国力を増大させ、国民の生活を向上させることで分断を和らげるものと考えられてきた。おそらく、多くの科学者もそう考えていると思う。しかし、産業革命から現代の情報社会に至るまで、科学自体がデジタルデバイドや失業といった分断の原因になることも確かだ。
   この論文を読んでまず驚くのが、著者らが着想した方法だ。従来このような研究ではもっぱらアンケート調査が用いられてきた。これに対し、この研究ではアマゾンなどのオンラインブックショップを通して買った本の分析を通して、政治傾向と科学への興味を調べる、いわゆるビッグデータ解析が用いられている。一人一人の行動から社会を解析することがますます現実になっていることを実感する。
   多くのオンライン購買では、まとめ買いも行われる。この場合、同時に買った本のタイトルは全て記録されているので、政治の本を買った人が、ほかのどの分野に興味を持っているのかがわかる。この研究では、オンライン消費記録から、政治に関する本を含むまとめ買いを行った行動を抜き出し、まず買った政治の本のタイトルから、消費者が保守orリベラルかを割り出す。その上で、同時に買った本の中に科学に関する本が含まれている場合、タイトルからわかるその本の内容で、政治傾向と科学への関心との関係を調べている。
   予想したとはいえ、結果は驚くべきものだ。まず、保守もリベラルも、異なる意見の政治本は読まない(身に覚えがある)。すなわち分断されている。ただ、どちらの立場でも政治本を読む階層は同じ程度に科学書を買うことから、同じ程度に科学にも関心があるといえる。
   しかし、読んでいる科学書の内容を詳しく見てみると、保守は応用科学を好む傾向があり、リベラルは基礎科学を好む傾向がある。例えば生命科学に対する興味は半々だが、保守の人は医学書は手にとっても、生物学や動物学の本を買うことはない。またリベラルは広い分野にわたる科学書を買っているが、保守層が買う科学書は比較的限られている。
   実際、保守の人が最も多く買うのが、気候についての本だが、気候について出されている多くの本の中の極めて限られた本が買われている。また、リベラルが買う気候に関する本とは完全に分離している。同じことは環境科学の本についても言える。
   要するに、保守とリベラルは政治本だけでなく、科学書でも全く異なる本を読むことで、さらに分断が深まるという結果だ。
   この研究では同時に買われた政治、経済、哲学、芸術などの本についても分析している。予想通り、政治、経済、哲学では両者が買う本はやはり分断しているが、それでも共通に買われる本も一定の割合で存在し、科学書のように完全に分離はしていない。
   以上が結果だが、方法論にまだまだ問題があるとはいえ、私はこの結果を極めて重要だと受け止めている。
   まず政治本をネットで買う階層は、現代社会に取り残された階層ではなく、現代社会を代表する階層と言っていい。この現代を代表する階層の政治信条が異なるのは当然だが、一旦どちらかの傾向が選ばれると、読む本の傾向が決まってしまって、蟻地獄に落ちたように、一つの方向へと縛られることだ。そして、本として提示される科学も、最初から分断された読者を向いていて、分断を助長している。類は類をよぶと納得している場合ではないと感じる
   科学は中立で、思想を超えて大多数の人をつなぐ力があるというのは間違いなく幻想だ。さてどうするのか?重要なのは、異なる考えの人が、違いをもう一度認識するところから議論を始めることだと思う。しかしNature Human Behaviourは面白い雑誌だ。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月25日炎症を抑える絆創膏(4月19日号Science Translational Medicine掲載論文)

2017年4月25日
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    縫合することが難しい褥瘡など炎症性の傷口の対しては、何世紀もガーゼの様な布で傷口からの浸出液を吸収する他に方法はなかった。ところが最近になって、ガーゼの代わりに、ジェル状のマトリックスを用いた絆創膏が使われる様になってきた。この中でPromogranはコラーゲンとセルローズの混じったマトリックスによって浸出液に含まれるプロテアーゼを傷口から隔離することで傷の治りを早める。この新しい絆創膏は、生体反応は損傷治癒に必要であるとする従来の考えを改め、慢性の炎症では、炎症物質を抑えることが損傷治癒を早めると発想を転換したことで可能になっている。
   今日紹介するドイツ・ライプチヒ大学からの論文はこの考えをさらに進めて細胞浸潤を誘導するケモカインを吸い取って細胞浸潤自体を抑えるマトリックスはさらに優れた絆創膏になるのではという可能性を追求した研究で4月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Glycosaminoglycan-based hydrogenls capture inflammatory chemokines and rescue defective wound healing in mice(グリコサミノグリカンを材料としたハイドロゲルは炎症性ケモカインを補足しマウスの欠損性損傷を回復させる)」だ。
   ケモカインは炎症局所で線維芽細胞や白血球から分泌され、様々な種類の白血球の浸潤を誘導する分子で、炎症部位の感染防御に重要な働きをしている。しかし、損傷を治癒するという再生反応に対してはネガティブな働きをすることが多く、結果難治性の潰瘍が起こることになる。
   このグループはケモカインが局所のマトリックスに結合しやすい分子構造を利用して、ケモカインだけを補足するマトリックスを探求し、グリコサミノグリカン(GAG)がケモカインと特異的に結合することを発見していた。この研究では、ケモカインとの結合効率を指標に、ポリエチレングリコールとGAGが結合したマトリックスベースにした高分子をさらに至適化し、ケモカインと高い効率で結合する一方、損傷治癒や炎症に関わるサイトカインとはほとんど結合しないマトリックスを完成させている。
   完成した最終型のマトリックスの効果を確かめるため、糖尿病マウスの皮膚を欠損させた大きな損傷を作り、マトリックスの治療効果を調べると、現在よく利用されているpromogranを凌駕する損傷治癒効果が見られたという結果だ。また、人間の損傷部位より採取した滲出物と混合する実験で、ケモカインだけが特異的に吸着されることを確かめている。
   もちろんこのままでは、細菌感染に対する防御も抑えることになるため、実際に使うときには抗生物質を混ぜたマトリックスが必要だろう。しかし、使っている分子はすでにFDAで許可されている分子であることを考えると、治験の後臨床応用されるのも早い気がする。
   健康な人はいいが、糖尿病や寝たきりの人の皮膚潰瘍の治療は現在なお難しい。増殖因子や抗体を用いるのではなく、分子の物理化学的な性質を利用した安価な治療法が開発されれば、大ヒット商品になること間違いない。同じ様な機能性マトリックスの利用は大きな可能性があると実感した。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月24日:腸内細菌叢の操作法開発(4月20日号Cell掲載論文)

2017年4月24日
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    私たちの健康や病気に対する腸内細菌叢の役割に注目が集まっているが、この理由は細菌叢が介入可能なもう一つの自己と考えられるからだ。CRISPR/Casなどの遺伝子編集法の登場で、私たち自身の遺伝子を変えることが可能になりつつあるが、それでも簡単なことではない。一方、腸内細菌叢は常に変化を繰り返していることがわかっており、これを望ましいバランスに保って健康を維持する可能性は比較的高い。事実、〇〇に効く乳酸菌というキャチフレーズは巷に溢れかえっており、どれが優れているのかよくわからない。結局は、乳酸菌というブランドに頼りつつ、宣伝力で小さな違いを販売に結びつけているのが現状だろう。
   しかし、腸内細菌の実際の機能が明らかになり、何が効果の元かが明らかになると、腸内細菌自体を遺伝子編集で変化させ、望ましいバランスだけでなく、体に有益な分子を産生させるということが可能になる。実際2014年このコーナーで紹介した論文では遺伝子操作した大腸菌を移植すると、マウスの食欲が抑制されるということが報告されていた(http://aasj.jp/wp-admin/post.php?post=1755&action=edit)。この時、今後続々この様な遺伝子改変細菌移植治療が報告されるのかと思っていたが、その後ほとんど同じ様な報告を目にすることはなかった。
   今日紹介するイエール大学からの論文は久しぶりに目にしたこの方向性の研究で4月20日号のCellに掲載された。タイトルは「Engineered regulatory systems modulate gene expression of human comm.ensals in the gut(デザインした遺伝子発現調節システムにより人間の腸内常在細菌の遺伝子発現を変化させる)」だ。
   論文を読んでみると、なぜ細菌の遺伝子操作を通した腸内細菌叢の介入が進まなかったのかわかった。前に紹介した様に大腸菌を操作して移植する方法はたやすい。しかし、人間の腸内細菌叢の大半はBacterioidetesとFirmicutesで、おそらく大腸菌はいくら自由に操作できても安全に腸内で維持することが難しかったからだろう。残念ながらこれまで使用されてきた大腸菌の操作システムは、Bacterioidetesなどの遺伝子操作には役に立たず、Bacterioidetesにも使える操作法を新たに開発する必要があった。
   全ての詳細を省くが、この研究はBacterioidetesでの遺伝子発現をテトラサイクリンの濃度依存的に、何万倍に達するまで誘導することが可能な実験系を開発している。この方法は、ほとんどのBacterioidetesで利用可能で、細菌の本来持つ遺伝子群の発現を調節することができ、無菌マウスのみならず、複雑な腸内細菌叢の中でも働くことができる。最後に、腸内でのシアル酸遊離をシアリダーゼの発現を調節できるBacterioidetesを用いて調節できるか調べている。残念ながら、シアル酸遊離は、原料となる糖鎖が必要で、酵素活性をあげたから無限にシアル酸の濃度が高まるわけではないが、操作は可能であることを示している。
   結果は以上で、まだ始まったばかりという印象だが、常在細菌の操作法を開発できたという点で、今後細菌叢を実験的に介入する研究が増える様に思える。もちろんこの先には、新しいプロバイオが視野にあるのだろう。
   これまでプロバイオというと数多くの細菌株の中から一つを選ぶという方法で行われ、実際にはなぜその株が一番いいのかという根拠に乏しかった。しかし、この様な方法が開発されると、従来の方法は淘汰される危険性さえある。
   一方、常在細菌の遺伝子操作は、組換え食物と同じ問題を抱える。また、人間に移植するということは、組換え体の封じ込めができないことも意味する。この問題も早めに議論を始めた法が良さそうだ。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月23日:体液説の系譜:臍帯血は老化した脳を蘇らせる(Natureオンライン版掲載論文)

2017年4月23日
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   病気の原因が体内を循環している体液のバランス異常だとする考えは古くから存在する。最も有名なのは、ヨーロッパやアラビアの医学の基礎となったガレヌスの4体液説で、この考えに基づいて刃物や時にはヒルまで使った瀉血療法が医療として広く行われた。
   この考えは医学の近代化が始まる19世紀にも受け継がれる。特に有名なのは、現在幾つかの病気に名前を残しているロキタンスキーで、4体液説の様に少ない成分に単純化するのではなく、「血液や体液には多くの成分が含まれており、その微妙なバランスの狂いが細胞を変化させる」という体液病理学を唱えた。しかし彼の説は、病気は各組織の細胞自体の変化によるとするウィルヒョウの細胞病理学、あるいはコッホの細菌学により衰退への道をたどり、現代の医学教育ではまず顧みられることはない。
   とはいえ、体液説系譜は分子生物学の現在も根強く存在しており、特に老化した組織を若返らせるという研究には、2匹の動物の血管をつないで血液交換を行うパラビオーシスを用いた研究が、思い出した様に発表される。
  個人的には、老人の組織を若者の血で再活性化するアイデアには抵抗があるが、わかりやすく、受けも狙えるのでこの方向の研究は途絶えることはない様だ。
   今日紹介するスタンフォード大学からの論文も私から見るとこのラインの研究で臍帯血を用いて老化した海馬を再活性化するという研究だ。Natureオンライン版に発表されたが、最初に投稿したのが2015年の11月になっているので、レフリーも抵抗する人が多かった様に思える。タイトルはズバリで、「Human umbilical cord plasma proteins revitalize hippocampal function in aged mice(人間の臍帯血血清タンパク質は老化マウスの海馬機能を再活性化する)」だ。
   私がこのグループが体液説の系譜につながると強く感じたのは、この研究を始める動機として、著者らが最初から「若い血液に記憶に関わる海馬の機能を高める」という信念を持っている点だった。
   しかしこの信念に基づいて臍帯血、青年、そして61歳以上の高齢者の血液から血清を分離、これを拒絶反応のないNOD/SCID(NG)マウスの静脈に投与すると、なんと期待通り神経刺激に伴い初期に発現する遺伝子の海馬での発現が、臍帯血投与群で上昇していることを発見する。
   この現象がNGマウスだけでなく、普通のマウスでも見られることを確認した後、臍帯血を投与された老化マウスの脳海馬切片を用いた試験管内実験で、LTPと呼ばれる長期記憶に対応する神経反応が高まっていること、そして最後にさまざまな脳機能テストを用いて、臍帯血血清を投与された老化マウスの記憶力が回復することを突き止めている。
   最後に臍帯血に存在して、青年や老人の血液に存在しない分子を探索し、最終的にメタロプロテアーゼの阻害タンパクの一つTIMP2とGM-CSFが海馬の機能を回復させている主役であることを示している。全く知らなかったが、GM-CSFは海馬の記憶機能を回復させるという報告があるらしく、この研究ではTIMP2に焦点を当てて調べている。
  結果、1)老化とともにTIMP2の量が減ること、2)TIMP2タンパクは老化マウスへの静脈内投与で脳内に入り、初期活性化遺伝子の上昇を促進し、学習や記憶機能を高めること、3)TIMP2 ノックアウトマウスの脳スライスではLTPが低下すること、4)TIMP2に対する抗体を若いマウスに投与すると場所記憶が低下することを示している。
   実際に記憶の形成が重要なのは生後なのに、なぜ臍帯血だけに効果があるのかなど、疑問も多い研究だが、現在もなおロキタンスキーの子孫が生きていることはよくわかった。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月22日:心臓の拍動の定常性にマクロファージが関わっている(4月20日号Cell 掲載論文)

2017年4月22日
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    論文のタイトルは一目で人を引き付けることが重要だ。トップジャーナルですら毎日毎日数多くの論文が掲載される。しかし、科学雑誌を端から端まで読む研究者はまずいないだろう。ざっと目次を見て、自分に関わる分野や、面白そうなタイトルを見つけて初めて、サマリーに目を通す。上手に目を惹きつけるタイトルの中には、しかし直感的に「受け狙いの論文か?」と疑ってしまう場合もよくある。特に、起こっても不思議はないが、起こるかどうか気にしたこともなかったような現象、すなわち「どうしてこんなことに気づかなかったのか?」と思える現象についての論文にはしばしばそんな気持ちを抱く。
   今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文もタイトル(「Macrophage facilitate electrical conductance in the heart(マクロファージは心臓での電気刺激伝達性を高める)」)を見たとき「どうしてこんなことがわからなかったのか?」と思ってしまった。しかし本当なら臨床的にも重要な発見で、当然4月20日号のCellに掲載された。
   イントロダクションを見る限り、何か強い動機でこの研究を始めたわけではなさそうだ。マクロファージの中には、組織に居着いて機能する集団がある。典型的なのが肝臓のクッパー細胞で、古い赤血球を取り込んでヘモグロビンの分解に関わっている。当然心筋の中にマクロファージが多く存在すると言われても誰も不思議に思わない。ただ、このグループは心臓でのマクロファージの分布を房室結節(AVN)と心室に分けて詳しく見たところ、AVNに密集していることに気づき、何か機能があるのではと疑ってかかった。
   あとは蛍光抗体法や遺伝子発現、あるいは血管を融合させるパラビオーシスを用いて、AVNのマクロファージ様細胞が循環によってリクルートされるマクロファージであること、そして心筋と同じ様にコネキシンを発現してギャップジャンクションをAVN細胞と確立していることを明らかにしている。
   次に、遺伝子発現からマクロファージ自体もチャンネルを発現しており、生理的にも興奮性の膜を有しており、心筋の興奮に応じて同じ様に興奮していることを確かめる。
   ここまでくると、なるほどと読む方も真剣になる。これに続いて、様々な生理学的実験が行われ、マクロファージがあると心筋の膜電位がプラス側に偏り、より興奮しやすくしていることを明らかにする。これを体内で確かめるために、チャンネルロドプシンをマクロファージで発現させ、取り出した心臓に光を当ててマクロファージを興奮させると、刺激中に房室電導率が上昇することを発見する。
   最後にマクロファージのコネキシンをノックアウトしたり、マクロファージ自体を一過性に除去する実験から、マクロファージと心筋や伝導系との結合が消失すると、刺激伝達速度が低下し、マクロファージを完全に除いた実験では、最終的に房室ブロックに至ることを示している。
   細胞生物学、生理学、分子遺伝学実験を組み合わせた説得力のあるデータで、なぜ関与する様になったのか、進化的疑問はともかく、十分納得できた。今後様々な不整脈へのマクロファージの関与を調べる研究が増えるトレンドを作る、臨床的に重要な論文になるかもしれない。    タイトルで惹きつけて、読後も納得できる論文は面白い。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月21日:子育て行動の多様化に関わる遺伝的背景(Natureオンライン版掲載論文)

2017年4月21日
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   鳥類や哺乳類では、子育てが種の保存に必須の行動になっている。子供が独立できるようになるまで親が甲斐甲斐しく世話をやく野生動物の行動をみて、親の愛に感動するが、この時子供に愛を傾ける「親」の内容は大きく異なる。
    子育てはもっぱら父親という種も存在するが、多くの場合やはり主体は母親になる。また、主役が母親でも、父親の協力形態には大きな差がある。この差の一つに、social monogamyとgenetic monogamyがある。Social monogamyではオスとメスがペアを形成して子育てをするのだが、わかりやすく言えば子育てペアが子作りペアと必ずしも一致しない。一方genetic monogamyはこれが完全に一致している。
   今日紹介するハーバード大学からの論文はこのsocial monogamyとgenetic monogamyの違いの多様性が生まれる遺伝的背景についての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「The genetic basis of parental care evolution in monogamous mice(一夫一婦型のマウスでの子育て形態の進化の遺伝的背景)」だ。
   これまでsocialとgenetic monogamyのような夫婦形態の多様性についてはPrairie Voleと呼ばれるハタネズミが用いられることが多かった。この研究から、オキシトシンやバソプレッシンと夫婦の絆が明らかになっていた。この研究も基本的には同じ方向で計画されているが、組換え体の作成という古典的遺伝学的手法と、ゲノム配列決定を組み合わせて、より体系的に研究している点が新しい。
   オスメス掛け合わせると言っても、本当は簡単でない。野生のハタネズミを実験室に慣らすためには途方もない時間がかかるだろう。この研究ではハタネズミの代わりに、すでに感染症研究で実験室で繁殖が行なわれており、夫婦の絆の強さが明らかに異なる行動を示す2種類のシロアシネズミ属、P.maniculatusとP.polionotusを選び、用いている。両者の夫婦形態は異なっているが、掛け合わせが可能であることが重要な点だ。
   まずそれぞれの子育て行動の違いを、巣作り、リッキング(子供を舐める)、身を寄せあう性質、子供を集める習性に分けて調べると、子供を集める習性以外は、両者は大きく異なり、P.maniculatusはオスメスとも子育てがぞんざいだ。この違いが、親の行動を学習した結果でないこと、すなわち遺伝的形質であることを確認した後、両者を掛け合わせたF1を作成、次にF1同士を掛け合わせて769匹のF2世代を作成し、それぞれの行動パターンの分布を調べている。
  結果は期待通りで、先に分類した行動パターンを遺伝的に分離することが可能になった。同時に、舐めたり、寄り添う行動は遺伝的相関が高いが、巣作りだけは完全に独立した遺伝形式を取ることも明らかに成った。
   後は定法に従って、分離した形質と相関を示すゲノム領域を特定することで、子育て時の行動パターンの違いに関わる遺伝子座を特定することが期待され、実際12個のQTLと呼ばれる形質に相関した領域を特定している。
   次はそれぞれの領域で行動変化に関わる遺伝子を特定することになるが、全ての遺伝子変化を特定するには時間がかかるだろう。この研究では、第4染色体上のQTLとして特定された遺伝子バソプレシンの発現が相関していること、またバソプレシン投与により巣作りが大きく影響されるという、常識的な結論を示して、この論文を終えている。
   今後は、今回QTLとして特定した領域で行動に直接関わる変異を一つ一つ特定し、その進化を探るという大変な仕事が残っている。ただ、すでに実験室で飼われていると言っても、気性は荒く、おそらく違う行動パターンを取るネズミ同士の繁殖は簡単でないだろうと想像する(野生ネズミの繁殖を勧められた故森脇先生を思い出す)。このような地道な仕事を、ハーバード大学、しかもハワードヒューズ財団が支援し続けているのを見て、我が国の役所も、科学振興を支援するための心構えとは何か学んで欲しいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月20日:動物保護とハンティング(4月14日号Science掲載論文)

2017年4月20日
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    トランプが自信に満ちた顔で語るAmerica Firstの言葉の背景には、未来への計画や準備は必要ないという思想がある。一方、基礎科学についてみれば、未来を語らない限り、一般の人の共感は得られない。すなわち両者は本来相反する思想の上に立っている。トランプだけでなく、我が国の政治家の多くが、エビデンスを無視し、科学を軽視、あるいは敵視するのも、未来に向いている科学思想が彼らの刹那主義・エビデンス嫌いを否定しているからに他ならない。
  当然のことながら、アメリカ科学振興協会の機関紙であるScienceは数年前から、貧困問題、温暖化、環境問題など、21世紀の課題は科学的エビデンスに基づき解決を図るべきであると未来志向を明確に打ち出している。そして、科学軽視の政治家たちと戦っていくと思う。
   今日紹介するオランダ・ナイメーヘンにあるRadboud大学からの論文はHuman firstという思想がいかに多くの動物を絶滅させてきたかを示した研究で4月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「The impact of hunting on tropical mammal and bird populations(熱帯の哺乳類や鳥類に及ぼすハンティングのインパクト)」だ。
   アフリカでは現在も野生動物の密猟が横行し、保護区でさえも動物が減り続けていることが問題になっている。様々な理由で行われるハンティングの影響を、世界規模で調べることは実際には簡単ではなく、気づいたときにはすでに手遅れになっていることが多い。
   この研究では、これまで動物や鳥の生息数調査に関する176論文を集め、それぞれの研究で算出されている97種類の鳥類、254種類の哺乳動物についてのデータを、それらが集められた地域でハンティングが許可されているかどうかで分類している。この一手間で、ハンティングがどの程度動物絶滅に手を貸しているかがわかると着想したことがこの研究の全てだ。
   もちろん密猟の有無など、本当は様々な要因が重なるはずだ。しかし、まずハンティングが許可された領域と、動物が保護された領域でどの程度の差があるかを調べてから次にいけばいいという割り切りは納得できる。
   結果はほとんどの皆さんが様々な報道を通して描いておられるのとほぼ一致する。
  まず保護区と比べ、ハンティングが許可された領域では鳥類も哺乳類も減少率が高い。例えば鳥類では保護区と比べ平均で60%より早く減少している。哺乳動物になるともっと悲惨で、減少する速度はほとんど倍近くになっている。
   また、この減少率は動物の生息地域が、都市からどの程度離れているかと相関し、哺乳動物では距離や到達にかかる時間とほぼ完全に反比例して動物が減少している。
   ハンティングの影響を最も受けるのが大型哺乳動物で、商業的ハンティングが入ってくると動物の減少は急速に加速する。そして、この傾向はアフリカ、アジア、南アメリカ全ての熱帯地方で同じだ。
   結果はほとんどの人がすでに知っていることと同じで、それを確かめただけだと言える。しかし、エビデンスを嫌い、未来を忘れた為政者に対してこそ、このように一つ一つ地道なエビデンスを積み重ね、自由な判断に提供するしかない。
   我が国を含む世界中で、今政治家が報道を規制しようとしていることが問題になっている。この底流には科学軽視と同じ思想がある。これを書いている時、ひとつ言葉を思い出したので書き留めておく「・・・君主が統治を行う上で何よりも心がけるべきなのは、人々を上手に騙し続けることであるようだ。・・・・一人一人の自由な判断を先入見で覆いつくしたり、何らかの仕方で制限したりするなら、誰もが有している自由と真っ向から矛盾することになる」(スピノザ:「神学・政治論」)。17世紀には未来に向いたスピノザのような人は少数派だった。しかし現在も君主の思想は変わっていなくても、はるかに多くの人が自分のいない未来を考えている。これが力になるかどうかで、世界は変わると思う。
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4月19日:新しい神経薬理学的方法の開発(4月7日号Science掲載論文)

2017年4月19日
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    チャンネルロドプシンを用いて、光で目的の神経を興奮させる方法が開発され、動物の特定の神経を、生きたま刺激したり抑制したりすることが可能になり、神経生理学や行動科学は大きく進展した。21世紀初頭のビッグイノベーションを3つ挙げろと言われたら、iPS, CRISPR,そしてoptogeneticsが私の答えになる。重要なことは、optogeneticsがオリジナルな方法を超えて様々な新しい方法を生み出している点だ。すなわち、研究者の想像力の連鎖を引き起こす点だ。
   今日紹介するデューク大学からの論文は特定の細胞のシナプスにまず薬理活性のある物質を貯めたあとで、光でその物質を遊離させ、特定の神経を刺激する方法の開発で4月7日号のScienceに掲載された。タイトルは「Deconstructing behavioral neuropharmacology with cellular specificity(神経行動薬理学を細胞特異的に脱構築する)」だ。
   特定の神経だけを刺激する方法は現在数多くあるが、そのほとんどは刺激したい細胞本来の薬理学的特性を無視して刺激が行われる。一方、長年の薬理学的研究により特定の分子を刺激したり抑制したりする薬理物質のレパートリーは膨大なものがあり、この薬理学的手法をもちいて、もっと生理学的に特定の神経を刺激できると新しい分野が開けると予想できる。
   この課題をdrugs acutely restricted by tethering(DART)と彼らが呼ぶ方法で実現したのがこの研究で、実際にはHaloTagと呼ばれる小さな化合物に結合するバクテリア由来の分子を目的のシナプスに発現させたあと、HaloTagとスペーサーを介して結合した薬理活性物質を低い濃度で投与すると、細胞は刺激されないが薬理活性物質をHaloTag結合タンパクを介してシナプス膜上に貯めることができる。こうして特定のシナプス膜上に溜め込んだHaloTag-薬理活性物質に光を当てると、HaloTagが切れて、薬理活性物質によるシナプスの刺激が起こるというアイデアだ。
   脳のスライス培養を用いて特異性や、スペーサーの長さなどを至適にした後、この方法を線条体に存在する興奮性のD1ドーパミン受容体陽性細胞(D1細胞)と、抑制性のD2ドーパミン受容体陽性細胞(D2細胞)の機能を明らかにするために使っている。というのも、両者とも同じAMPA型グルタミン酸受容体を発現しているため、グルタミン酸刺激の効果を区別して解析することは難しかった。ただ、この問題を解決しない限り、ドーパミン刺激が低下したパーキンソン病患者さんの運動障害を解析し、運動能力を高める新しいリガンドの開発などは難しい。
   この研究では、黒質細胞を除去したパーキンソンモデルを用いて、AMPA型受容体抑制剤が運動機能を改善する効果のほとんどがD2細胞を介していることを明らかにしている。
   最後にD2細胞を詳しく分けて、ほんの一部しか存在しないコリン作動性の集団も細胞数は少ないものの抑制により運動機能が促進できることを示している。今後このポピュレーションを標的とした薬剤が開発できればパーキンソン病の患者さんも助かるだろう。   この研究では他の薬理活性物質も同じように使えることを証明しているが、紹介はいいだろう。著者らが期待した通りの効果が得られたという結果だ。読んでみると、今のままではこの方法が爆発的に他の方法に変わるのは難しいように感じる。しかし、今後脳内への投与ではなく、全身投与でリガンドが脳に到達し、リガンドを切り離す他の方法が開発できれば、これまでの薬理学の蓄積をすべて味方につけて、この方法はブレークするように感じた。
   我が国でも光遺伝学や遺伝子編集に大きなお金が投資されているらしいが、世界に伍していくための本当の戦略があるのか、これほど世界の進歩が激しいと、その成果は厳しく問われると思う。私も注視していきたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月18日:子宮ガンに対するガン免疫反応の解析(4月14日号Science掲載論文)

2017年4月18日
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    ガンに対する免疫反応は、現時点で根治が可能な切り札として大きな注目が集まっているが、患者さんがガンが発現するどの抗原に反応し、この時チェックポイントに関わるPD-1などの分子がどのように発現するのかなど詳しい解析を進めるのは難しい。というのも、ガン局所に浸潤するリンパ球を取り出して反応性を調べることはそう簡単ではない。
   今日紹介する米国国立衛生研究所からの論文は、転移性の子宮ガンの局所に浸潤したリンパ球を試験管内で増幅した後患者さんに戻すという免疫療法によりガンの完全退縮が観察された2例について詳しく免疫反応を調べた臨床研究で、4月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「Landscape of immuneogenic tumor antigens in successful immuneotherapy of virally induced epithelial cancer(免疫療法が成功したパピローマウイルスにより誘導された上皮ガン抗原の包括的解析)」だ。
   最近のゲノム研究はほとんどの子宮ガンのゲノムに数多くのパピローマウイルスが入り込んで発がん遺伝子を活性化していることが明らかになっている。このことは、多くの子宮ガン細胞ではウイルス抗原が発現して、ガン特異的免疫を誘導している可能性が考えられる。しかし、パピローマウイルス抗原を用いたガンのワクチン療法はうまくいっていない。そこで、この研究ではガン免疫療法が成功した患者さんを選び、この時ガン抗原として働いた分子をT細胞の機能アッセイで詳しく調べている。
   結果は、ウイルス抗原に対しても、ガン細胞が発現する変異分子に対しても、T細胞が反応していたという結果だが、この結果よりも少ない症例を徹底的に調べ尽くしている点が最も高く評価できる。我が国でも、ガン特異的リンパ球の移入療法は行われているが、結局効いたか効かないかだけで評価されるだけで、将来へ向けてできるだけ多くのデータを集めようとした研究は少ない。
   この研究では、化学療法前にガン局所をIL-2と共に培養し、増殖するリンパ球を集めている。その間、患者さんにはガン増殖を抑えるだけでなく、リンパ球を完全に除去できる化学療法を行い、抑制性のT細胞の働きを抑えたところに、増殖させたリンパ球を注射する。このトライアルで9人の内3人が完全寛解に到達している。そのうち、2人は寛解が54ヶ月、46ヶ月と続いており、この確実に免疫療法が効いた患者さんについて、以下のことを調べている。
   まず、ガン浸潤T細胞(TIL)をパピローマウイルス(HPV)抗原とIL-2で増幅して得られるT細胞の反応を調べると、期待通りHPVに対する反応に加え、ガンの遺伝子解析から明らかになったガン抗原に反応するT細胞が含まれていることを確認する。
   次に、このT細胞の反応性を、個々の抗原ペプチドを用いて一つづつスクリーニングし、それぞれの患者さんが反応しているガン抗原を同定している。
   次に、パピローマウイルスに対するT細胞と、ガン抗原に対するT細胞の抗原受容体を、得られた受容体遺伝子を細胞に導入して再構成する実験で全て決定している。
   こうして得られたTILのT細胞受容体の遺伝子配列をもとに、今度は患者さんの末梢血に、ウイルス特異的、あるいはガン抗原特異的T細胞がどの程度存在するのかを調べ、子宮ガンではガン特異的抗原に対する反応が臨床経過に応じて増減していることを明らかにしている。
   この大変な実験から、2人の患者さんともパピローマウイルス抗原に対して反応しているが、それ以上にガン特異的抗原に対して反応していること、反応性の細胞は全てPD-1を発現していること、及びガンの増殖が抑えられている間はガン特異的T細胞が末梢血に存在すること、などが明らかになっている。
   この結果を基盤に、今度は全ての患者さんに効果を示す治療法の開発が行われるだろう。人間でガン免疫反応を調べるのは、治療を通してしかありえない。この千載一遇のチャンスをしっかり生かしたこの研究は、我が国の臨床研究者も見習うべき点が多いと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月17日:老化による慢性炎症への腸内細菌の貢献(4月12日号Cell Host Microbe掲載論文)

2017年4月17日
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    転写因子NFkBをハブにした炎症メカニズムは、実際には炎症だけでなく、というより炎症より前にシグナル依存的な形態形成のメカニズムとして発生してきている。おそらく使い勝手がいいので、外来の刺激への反応にもこのメカニズムが使いまわされたのだろう。その後新しい組織ができるときには常にこのシグナルが顔を出す。京大時代教室の重要テーマの一つだった骨髄、毛根、末梢リンパ組織は全てこの機構を使い回ししている。骨髄は両生類が陸に上がってから、毛根や末梢リンパ組織は哺乳類から発生する新しい組織で、すでにできている組織に何かを足すという形で進化したことを考えると、局所に入ってきた刺激に対する炎症のメカニズムはうってつけだ。
   これと並行して、加齢とともに起こってくる動脈硬化や糖尿病などもすべて炎症として捉えられるようになっている。症状がなくとも、高齢になると炎症の存在を示すサイトカインが上昇してくる。これは、様々なストレスが加わった結果と普通考えるが、最近この炎症も、腸内細菌の加齢変化によると考える人たちが出てきた。
   今日紹介するカナダ・マクマスター大学からの論文もその一つで4月12日号のCell Host Microbiome紙に掲載された。タイトルは「Age associated microbial dysbiosis promotes intestinal permeability, systemic inflammation and macrophage dysfunction(高齢に伴う細菌叢の失調により腸の透過性が上昇、全身炎症が高まり、マクロファージ機能異常が起こる)」だ。
   研究では、高齢(18ヶ月以降)のマウスのマクロファージの細菌貪食能が低下しており、これがマクロファージが慢性的に炎症のメディエーターTNFにさらされた結果であることを示している。
   次に、TNFやIL-6が高齢マウスで上昇している理由の一つが、腸内の細菌叢が生産される炎症刺激物質が腸上皮を通って循環に入るからではないかと、分子量3000程度の分子を用いて腸の透過性を調べ、確かに透過性が高まっていることを示している。
   この透過性が腸内細菌叢の変化によるなら、当然無菌マウスではこのような加齢変化は起こらないことになる。これを確かめるため、高齢無菌マウスを調べると、加齢変化が見られない。すなわち、腸内細菌叢が変化することで、加齢に伴う慢性炎症が起こっていることが確認される。
   この後、加齢が先か、細菌叢が先かという実験をいろいろ行っているが、細菌と相互作用する中で両方が変化してしまうというわかりにくい結論になっている。
   まとめると、何が細菌叢の変化を誘導するのかははっきりしないが、ホストと細菌叢が相互作用をする中で、細菌叢もホストの加齢に合わせて変化することで、腸の透過性が上がり、炎症物質が体内に入り、炎症が起こることになる。
   いずれにせよ、細菌叢への介入によりひょっとしたら炎症を抑えることができるかもしれない。実際、プロバイオでも、プレバイオでも高齢者に効果が高いことが報告されている。その意味で、IL-6やTNFは腸内細菌叢の変化を知るいいマーカーになるだろう。食品メーカーにとってはチャンスだ。しかしできれば、しっかりとした長期的テストで効果を確かめて効果がはっきりしたものだけ残るようにしてほしい。というのも、結局個人にとったら、効かなかったら後の祭りで、2度と確かめられない。
カテゴリ:論文ウォッチ