7月23日:新顔ホルモンKisspeptinを利用した体外受精(7月21日号Journal of Clinical Investigation掲載論文)
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7月23日:新顔ホルモンKisspeptinを利用した体外受精(7月21日号Journal of Clinical Investigation掲載論文)

2014年7月23日
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確かめたわけではないので聞き流して欲しいが、日本の体外受精による新生児比率は3%に達していると聞いた。先進国平均は大体1%前後、一方イスラム圏では4%近くに達するとされているので、少し驚きの数字だ。それを反映しているのか、ヒトクローン作成成功を報告する論文は2報とも日本人が筆頭著者になっている。我が国にこの分野の優秀な技術が蓄積していることがわかる。今日紹介する論文は、体外受精時に卵子を採取する際、卵成熟を促すホルモンとしてKisspeptinがかなり期待できることを示す研究だ。タイトルは、「Kisspeptin-54 triggers egg maturation in women undergoing in vitro fertilization (Kisspeptin54は体外受精治療を受けている女性の卵成熟をううどうする)」で、7月21号のJournal of Clinical Investigationに掲載された。Kisspeptinの遺伝子はKiss1と名前がついており忘れることのない名前だ。歴史の新しいホルモンで、我が国でもペプチド研究に強い武田薬品がこのホルモンの抗がん作用に注目して研究していたのを覚えている。この分子で検索すると、武田薬品研究所から出た2001年Nature論文が最初に来る。実際私もこの論文が出た時をよく覚えている。我が国の製薬会社の研究能力の高さを示すと心強く思ったこともあるが、故人となられたこの論文の著者の一人藤野さんを個人的にも存じ上げていたからだ。藤野さんは製薬企業の側からいつも、大学は基礎研究をしっかりするようにと激を飛ばしておられた。Natureの著者に言われるとつらいなと思いながら聞いていたが、今となってはこのような見識の方が我が国の製薬業界におられるのか心配だ。前置きが長くなったが、研究は簡単だ。Kiss1遺伝子変異があると思春期の性的成熟が阻害され不妊になることがわかっている。内分泌学的研究から、この分子が排卵につながるホルモン反応の最上位に位置していることが最近明らかになり、動物実験でこのホルモンを外から投与するとゴナドトロピンの分泌を誘導することが明らかになっていた。これらの結果から、当然体外受精治療で採卵時の卵成熟誘導にこのホルモンを使う可能性が考えられるが、これを確かめたのがこの研究だ。プロトコルは通常のFSH、ゴナドトロピン受容体刺激剤の組み合わせで排卵サイクルを同期し、超音波で卵が18mm以上の大きさに達した時様々な量のKisspeptinを皮下に一回投与している。その後採卵から始まる通常の過程の各段階で、採卵のし易さ、卵の成熟度、体外受精の成功率、妊娠成功率などを24人づつのグループで調べている。結果は予想通りで、投与量に応じて体内での様々なホルモン産生が上昇し、成熟卵の採取率も格段に上がる。また、成熟卵が安定して得られ、卵の質も高く6nmol以上投与された群で、2−3割の妊娠率があったと言う結果だ。いわゆるLHサージと呼ばれる状態を生理学的に誘導して、体外受精に適した成熟卵を安定して得るための新しい方法になる可能性がある。ともすると生殖補助医療では様々な技術が問題になることが多いが、新顔のホルモンが登場してプロトコルが変わる余地があったとは、まだまだ発展途上の技術のようだ。この使い方に亡き藤野さんならどんなコメントをするのか聞いてみたい。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月22日:論文掲載の易しさからトレンドを見る(7月17日号Cell誌掲載論文)

2014年7月22日
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今は出来るだけ多くの雑誌に目を通したいと思っているが、それでもNature, Cellと言ったトップジャーナルに掲載されている論文にはより注意を払っていることは事実だ。理由は簡単で、やはり読んで面白い論文が多い。実際雑誌でどのように論文を扱っているのかなどほとんど知らない時代、トップジャーナルに論文を送っても、それをレフリーに送ってもらうことすら難しかった。それだけ厳しいフィルターがかかっている。と言っても勿論チャンスがないわけではない。独立して初めて自分の教室からNatureに論文を通したときは皆で大騒ぎした。その後世間を知って、多くのトップジャーナルで論文がどのように扱われるのか理解し、またそれに関わるエディターと知り合いになると、幾つか問題に気づくようになる。いい悪いは別にして、この様なトップジャーナルではエディターが独立して次のトレンドの方向性を探して掲載することに強い意志を持っている。従って、論文自体の質は少々犠牲にしても、将来の可能性につながる論文が掲載されている可能性が高い。このこともトップジャーナルに掲載された論文が面白い理由だ。最近私が感じるのは、ヒトゲノムと精神活動をどう結合させるかに関する手探りの研究が多く掲載されている点だ。このホームページでもすでに4−5編、NatureやCellに掲載された自閉症に関する論文を紹介したと思う。今日紹介するワシントン大学からの研究もそんな一つだろう。7月17日号のCell誌に掲載された論文で「Disruptive CHD8 mutations define a subtype of autism early in development (CHD8遺伝子の機能を破壊する突然変異は発生初期の段階で自閉症の亜型を診断できる)」がタイトルだ。このグループはSimons Simplex Collectionと呼ばれる遺伝子異常の親子データベースの検索から、CHD8遺伝子機能が破壊される突然変異が自閉症と関わることを明らかにしていた。今回の研究のハイライトは、この遺伝子異常があると100%自閉症か知的障害を示し、正常人には認められないことを確認している点だ。即ち、この遺伝子の突然変異があれば自閉症様の症状を示すことが生まれる前から診断できると言う結果だ。更に、自閉症の一部は脳発生時の形成異常という器質的障害の結果であることも明確になった。事実、この遺伝子の突然変異では、頭の周囲が大きくなり、目の間が広く、目がくぼんでいる。他にも、ニューラルクレストと呼ばれる細胞の異常を思わせる消化管症状がほぼ全員に認められる。このように、この論文からもゲノム、身体症状、精神症状と様々な情報レベルを統合する方向への研究がエディターに好まれているなと言うのが理解できる。勿論器質的変化と精神症状を結びつけることで初めて論理的治療が可能になるかもしれないことを考えると、重要な仕事だ。特に顔の構造形成や腸の動きに関わるニューラルクレスト異常が基盤にあると言う発見は重要だ。しかしはっきり言って、ではどのような異常が基盤になっているのか切り込むと言う点では甘い論文だ。この遺伝子のノックアウトマウスは発生致死で、九大の中山さん達が研究して来ている。その研究から見ると、この論文が脳発生の基盤を調べる目的で行ったゼブラフィッシュの解析は余りにお粗末と言わざるを得ない。ひいき目に考えれば、ゼブラフィッシュを使うことで発生段階を操作する薬剤を開発しようとしているのかもしれないが、レフリーやエディターは甘いなと言う印象が強い。結論的に言うと、この部分は読後失望させる。ただ、レフリーが甘いなと思える論文がトップジャーナルに掲載されるときは、未来のトレンドを示しているかもしれないと深読できることは、教訓にしてもいいかもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月21日:腸内細菌と直腸がん(7月17日号Cell誌掲載論文)

2014年7月21日
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直腸がんでも他のがんと同じようにrasやp53の変異が見られるが、直腸がんに特徴的な変異もある。その筆頭がAPCと呼ばれる遺伝子だ。生まれつきこの遺伝子の機能が阻害されている方では、腸に多数のポリプが出来る。もう一つ、比較的大腸がんによく見られる変異として知られるのが、DNAのミスマッチ修復(DNAが複製されるときの間違いを直す修復機構)に関わる、MSH2、MLH1などの変異で、ミスマッチ修復分子とAPCの遺伝子変異は実に5割以上の患者さんに見られる。実際、両方の遺伝子に変異を持つモデルマウスでは、多発性ポリプが起こり、直腸がんの頻度も格段に上がる。私自身は、ミスマッチ修復がうまく行かないことで突然変異が増えてガンになると単純に思っていた。しかし今日紹介する論文はMSH2遺伝子が直腸がん発生に予想外の方法で関わることを示しており、発ガン過程が一筋縄でいかないことを再確認した。7月17日号Cell誌に掲載されたトロント大学からの論文で、「Gut microbial metabolism drives transformation of Msh2-deficient colon epithelial cells (Msh2を欠損した大腸上皮は腸内細菌の代謝物によりガンに転換する)」がタイトルだ。元々このグループは。腸内細菌が発ガンに関わる可能性について研究している。ただ、APC遺伝子のみ変異があるマウスで腸内細菌叢を変化させても、ポリプやガンの発生に影響がない。そこでこのAPCとMSH2両方の遺伝子の機能が阻害されたマウスを用いて調べると、今度は腸内細菌の関与がはっきり認められ、抗生物質で腸内細菌を除去するとポリプの数は減少し、がん発生もMSH2変異がないグループと同じ程度まで低下する。即ち、MSH2遺伝子欠損の発ガンへの影響はこれまで考えられて来たように突然変異が上昇するためではなく、腸内細菌を介して上皮細胞の増殖が上昇するためであることがわかった。次いでこの現象の分子基盤を研究し、腸内細菌が炭水化物を処理する際に代謝物ブチル酸が腸管で造られ、それがMSH2の欠損した上皮細胞に働くと、βカテニンと呼ばれる腸上皮細胞の増殖に必須分子が活性化し、この結果上皮細胞の異常増殖が誘導され、ガンになることを明らかにしている。なぜこれまでんミスマッチ修復酵素として知られて来た分子欠損が、細菌代謝物ブチル酸に依存した細胞増殖につながるかなど、まだ完全に解明できていない部分もある。しかし、MSH2遺伝子欠損が大腸がんに多い理由や、食生活が欧米型になることでなぜ大腸がんが増えるのかなど幾つかの疑問に答えてくれる面白い研究だった。ブチル酸を造る菌は特定出来ている様なので、これらの細菌を特異的に除去することで、大腸がんの発症率を大きく下げることが出来るようになるかもしれない。ヒトでも同じ事が言えるのか、是非研究を発展させて欲しい。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月20日:糖尿病にFGF(Natureオンライン版掲載論文)

2014年7月20日
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糖尿病の中に、インシュリンは分泌されても骨格筋などの組織がそれに反応しないため血糖が低下しないインシュリン抵抗性の糖尿病がある。脂肪形成に関わる核内受容体PPARγ分子がこの過程に関わることが明らかにされてから、この分子に対する標的薬が,最初我が国主導で開発され、一時次世代の糖尿薬としてもてはやされた。しかしその後様々な副作用が明らかになり、現在はほとんど使用されなくなっている。例えば武田薬品のアクトスは同社の稼ぎ頭として大きく貢献した。しかし膀胱がん誘発の危険があることを指摘され、またそれを同社が隠していたとしてルイジアナ州連邦裁判所が賠償支払いを最近命じるなど、副作用を巡って暗雲が立ちこめている。ただ、PPARγ研究をリードして来たエバンスさん達にとっては残念な結果だったに違いない。この分子を活性化する薬が間違いなくインシュリン抵抗性を改善できるなら、この分子の下流で働くよりインシュリン感受性に特異的な分子を見つけて、同じ効果を得られないか調べたのが今日紹介するソーク研究所、エバンスさん達の論文で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Endocrinization of FGF1 produces a neomorphic and potent insulin sensitizer(ホルモン化したFGF1は新しいタイプの効果の高いインシュリン感受性増強を誘導する)」だ。この研究では、FGF1分子をノックアウトすると強いインシュリン抵抗性が出ること、またFGF1分子の発現がPPARγ分子により調節されているという2つの結果から、PPARγによるインシュリン感受性上昇がFGF1によるのではないかと仮説を立て、FGF1投与でインシュリン感受性を上昇させ糖尿病を防げないか検討している。結果は予想通りで、高カロリー食により誘導した肥満マウスや、遺伝的な肥満マウス、糖尿病マウスの全てでインシュリン感受性を上昇させ、血中グルコースを低化させることに成功している。元々FGF1は様々な細胞を活性化することが知られており、副作用が心配される。ただ増殖因子として働くときはヘパラン硫酸と結合することが必要で、遺伝子工学的に造らせホルモン化したFGF1にはその作用が低いと期待される。これを確認するため、長期投与実験を行い副作用を調べているが、マウスモデルではPPARγ刺激剤などで見られた副作用は認めていないと言う結果だ。基礎研究の応用段階で転んでも、そのままあきらめなずにもう一度基礎に帰ってやり直す、絵に描いた様な研究で、臨床応用も期待できる。更にFGF1遺伝子を遺伝子工学的に短くして、増殖因子活性を弱めた分子は、より強いインシュリン感受性上昇を引き起こすことを示している。エバンスさんは核内受容体研究のリーダーとして世界を引っ張って来た大御所だが、大御所の粘りを感じる研究だった。
カテゴリ:論文ウォッチ

7月19日:通院を減らす工夫(7月16日アメリカ医師会雑誌)

2014年7月19日
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症状の中でも痛みは厄介だ。持続的に続くだけでなく、時間によって大きく変化する。その度に何が起こったのか不安が深まる。最終的にモルフィネの使用に至るまで様々な鎮痛剤が開発されているが、不安になると医師の一言に頼りたくなる。実際症状を聞いてもらって対応してもらうと、精神的にも少し痛みも緩和することを多くの人は経験していると思う。私も若い時尿道結石の痛みに襲われたとき、尿中に潜血を認めて尿道結石であることがわかると、痛みがずいぶん楽になったことを覚えている。今日紹介する論文は、局所、全身を問わず慢性の筋肉や骨格の痛みを訴える患者さんの痛みに対して、自動電話やインターネットで対応できないか調べたインディアナ大学医学部の研究で、7月16日号アメリカ医師会雑誌に掲載された。タイトルは、「Telecare collaborative management of chronic pain in primary care: a randomized clinical trial(一次医療機関に通院する患者の慢性的痛みを通院なしに協調して治療する)」。研究は慢性の筋骨格痛に悩む患者さん250人を無作為に2群にわけて、これまで通り開業医さんに通院して治療を受ける群と、定期的な電話やインターネットの聞き取りを受ける群に分けた。後者は、最初の1ヶ月は毎週、次の3ヶ月は2週間に一回、そして残りの8ヶ月は月一回、自動応答電話かインターネットを用いて痛みや、他の症状、不安感など22項目にわたる質問に答える。この結果は、医師と看護婦さんのチームが検討し、得られた結果に応じて鎮痛剤を選び処方する。同時に、大きな変化があった場合は看護婦さんが電話で話を聞いて突発的な問題が発生していないか調べる体制をとっている。1、3、6、12ヶ月目にインタビューを行い痛みの改善度、治療に対する満足度などを調べている。結果はかなり劇的で、普通の通院治療を受けていた群と比べて、BPIと呼ばれる指標(治療前は5.3程度が、遠隔ケアを受けたグループでは3.57に低下したのに対し、対照群では4.59にとどまっている。なによりも、満足度が高く8割の患者さんがサービスに満足している。他にも、看護婦さんの電話も痛みの緩和に役立つようだ。きめ細かくケアしているようだが、選んだ薬剤にはそれほど大きな差がないことから、精神的なケアも大きいことがわかる。この治験のポイントは、痛みと言う症状に対し、遠隔ケアを用いることで、チームによる一元的対応が可能になっている点だ。症状に痛みの占める割合は高く、医師に対する不満足の大きな原因になる。自動応答やインターネットでも定期的に自分の症状を聞いてもらい、それに対して医療側からリスポンスがあることで大きな満足が得られることは、高齢・過疎化の進む我が国にも参考になると思う。とは言え、我が国でこの様な治療を行おうとすると、遠隔の聞き取り、看護婦さんのコールなどを治療として認定し、通院しないことをインセンティブとして診療報酬システムに組み込んで行く必要がある。その時、この様な痛みの遠隔緩和ケアを、一元的対応と遠隔ケア導入のための例題として取り組んでみる価値は大きいと思う。日本医師会の理解も必要だ。
カテゴリ:論文ウォッチ

Orphan Drugについて考えるワークショップ  兵庫県立明石北高等学校

2014年7月18日
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2014年7月11日(金)11:25~12:10

難しい科学用語を知り、科学の現状を考えるワークショップ企画、
「Orphan drug」について考えるワークショップを明石北高校にて開催しました。

この企画は、稀少難病治療薬の名称である『Orphan drug』という言葉にスポットをあて、「Orphan」という単語が「孤児」「みなしご」という意味を持っていること、稀少難病治療薬は対象となる患者数が少ないために利益が見込めず製薬会社による開発が進みにくいという現状を受けてつけられた名前であること等を知ってもらうと共に、治療薬の開発を待ち望む患者さんにとって希望の持てる新しい名称を考えようというものです。

昨年は同ワークショップを神戸の葺合高校のボランティア活動クラブにて開催させていただき、「レインボードラッグ(rainbow drug)」「フェニックスドラッグ(phoenix drug)」など数々の希望の持てる名称案が出てきていました。

今回の明石北高校でのワークショップは、2年生理系クラスの生徒さん35人を対象に、英語科の授業時間を使って開催させていただきました。ALTの先生2人もオブザーバーとして同席くださいました。

薬学など薬関係への進路を考えている生徒もいるということで、まず最初に、一般的な新薬の開発の流れについて説明しました。新薬の開発には、研究段階、開発・審査・承認段階があり、長い期間と多くの費用が必要であることがわかってもらえたと思います。

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続いて、ALTの先生に「Orphan drug」という言葉を聞いたときに受ける印象を伺いました。「親のいない子どものための薬だと感じる」「親が年を取り、病気になったときに、薬を買うことができず、親が亡くなってしまう。その結果、子どもは孤児になってしまう そんなイメージを受ける言葉」と答えてくださいました。

現実には、「Orphan drug」は稀少難病治療薬を表す言葉であり、「Orphan」には「孤児」「みなしご」という意味があること、なぜこの名称がついたのかを稀少難病治療薬の現状とともに説明しました。

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ここで、生徒のみなさんには、5つのグループに分かれて、思いつくままに名称を付箋紙に書き、それを模造紙に貼り付けていきながら、その言葉を考えた理由や、言葉への思いなどを出し合ってもらいました。

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意見が出そろったところで、グループごとにおすすめの名称案を発表してもらいました。

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「desire drug (強い望みの薬)」
「promising medicine(将来有望な薬)」
「happiness seeds drug(幸せの種の薬)」
「unique drug(唯一の薬)」
「smile drug(笑顔の薬)」
など、求めている人の希望を繋ぐ名前がたくさん出てきました。
「Disney drug」という名前も出ており、柔軟なすばらしい発想力に感心しました。
またDRUGを頭文字にし「Desire Rare Useful Gift」と言う名前を考えてくれたグループもありました。
新しく生み出された数々の希望の名称に、高校生の若さ、力強さ、そして優しさを感じました。

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ALTの先生からは、「hopeful drug (希望に満ちた薬)」いう名前が提案されました。 さらにhopefulの各頭文字にhealth option power energy future universal loveという意味を持たせているとの説明があり、生徒からは「さすがネイティブ、レベルが違う」など感嘆の声が上がっていました。

このワークショップを通じて、生徒のみなさんと、稀少難病の現状や課題、薬を待ち望んでいる人の想いを感じることができ、非常に有意義な時間になりました。

また、先生や生徒から、創薬の説明時の、「創薬には多くの人が携わっており、薬学部以外の出身者(工学部、農学部、理学部など)も多い」という話がとても興味深かったとの感想もいただきました。進路選択時のヒントのひとつになれば嬉しいです。  (企画/運営:藤本 記事:麻生)

2014年7月12日付 神戸新聞朝刊

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 (掲載許可承認済)

 

7月18日バイオペースメーカー(7月16日Science Translational Research掲載論文)

2014年7月18日
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神戸市の企業誘致を手伝うため、世界のペースメーカーの6−7割を占めるメドトロニック本社を訪れたことがある。その時、埋め込み式ペースメーカーで将来他社に遅れをとるとは思わないが、もしペースメーカー細胞移植や遺伝子治療でペースメーカーが再生することになれば、太刀打ちできないのでこの分野の研究にも力を入れていると聞いた。破壊の上にイノベーションが起こることをよくわかっている会社だと感心したことがある。この時の会話が現実になりそうな前臨床研究が7月16日Science Translational Researchに発表された。Cedar-Sinai心臓研究所からの仕事で、「Biological pacemaker created by minimally invasive somatic reprogramming in pigs with complete heart block (完全房室ブロックブタのペースメーカーを最小限のリプログラミングで誘導する)」だ。このグループはTbx18と呼ばれる転写因子遺伝子を導入するだけの単純な方法で、心筋がペースメーカーに変化することを昨年発表していた。今回の研究はその延長で、ヒトへの応用に向け完全房室ブロックを実験的に引き起こしたブタにNOGAと呼ばれる機器を用いてアデノビールスベクターに組み込んだTbx18を右室上部後方に注入しペースメーカーが回復するか、またその機能は正常ペースメーカーと比べた時遜色がないか調べている。最初の前臨床研究としては結果は期待以上だろう。遺伝子導入2日目からペースメーカーが誘導され、自律神経による支配や、運動負荷などに対する反応などほぼ正常のペースメーカーと遜色ない機能を発揮する。また心配された不整脈を発生させると言うこともないようだ。他にもビールスはほとんど心筋に導入され、他臓器に遺伝子が導入される程度は極めて低い。問題はこうして誘導されたペースメーカーの機能は8日目がピークで、その後低下し始めることだ。即ち本当の意味でリプログラムされたわけではなく、導入した遺伝子が働いている時だけ機能を発揮する点だ。この細胞をiSANと呼んでいるが少し誇大広告気味と言わざるをえない。しかし、一つの遺伝子を導入するだけでこの位の効果があるなら、より安定な遺伝子導入法もあるだろう。このグループは短期的効果を逆利用して、感染などにより一度ペースメーカーを外す必要が出た患者さんに先ず利用しようと計画している。論文の調子から見て、臨床研究は近い予感がする。
カテゴリ:論文ウォッチ

承認を受けた新規の稀少難病治療薬

2014年7月17日
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 厚生労働省は7月4日、新規有効成分の医療用医薬品やワクチンなどについて新薬22製品32品目に一斉の製造販売承認をしました。これらの製品に「難治性130疾患」(難治性疾患克服研究事業対象130疾患)に含まれる希少難病のゴーシェ病と骨髄繊維症の治療薬2品目が含まれています。承認申請資料や添付文書は未公開で、薬価も未収載ですが、概要を記します。

(1)  「ブプリブ(Vpriv)」  velaglucerase alfa( 遺伝子組み換え) [シャイア・ジャパン社]

 ゴーシェ病は、ライソゾーム病の一種で、グルコセレブロシダーゼ欠損のより肝臓、脾臓、骨髄、神経にグルコセレブロシドという脂質が蓄積する遺伝性疾患で、国内推定患者数は100人未満とされていて、次の3種があります。

 Ⅰ型(成人型)は、慢性非神経型で、肝臓、脾臓が腫れ、貧血が幼児期~青年期に発症します。骨がもろくなり、痛みや骨折しやすくなります。

 Ⅱ型(乳児型)は、急性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて乳児期より痙攣などの神経症状が急激に進行します。  Ⅲ型(若年型)は、慢性神経型で、肝臓、脾臓の腫れに加えて神経症状を伴いますが、Ⅱ型より発病が遅く程度や進行も緩やかです。

 治療法として、酵素補充療法または骨髄移植があり、ともに肝臓、脾臓の腫れや貧血には良い効果が見られますが、神経症状への効果は乏しいとされています。

 「ビプリブ」は、酵素補充療法に用いるゴーシェ病治療薬で、ヒト細胞から製造され、天然の酵素と同じアミノ酸配列を有します。「ゴーシェ病の諸症状(貧血、血小板減少症、肝脾腫及び骨症状)の改善」に効能・効果示し、2010年2月に初めて米国で承認され、世界40カ国以上で販売されています。

 (2)  「ジャカビ(Jakavi)錠」 ruxolitinib phosphate  [ノバルティス ファーマ社]

 骨髄線維症は、骨髄の広い範囲に繊維化がみられる疾患で、原発性と二次性に分けられます。原発性骨髄線維症とは、造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄の広汎な線維化と脾腫を伴う疾患で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに位置づけられています。二次性骨髄線維症は、他の疾患に伴っておこる骨髄の線維化で、造血系腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでみられます。

 原因は、造血幹細胞に遺伝子変異が生じ、その結果血液細胞が増殖することがと考えられて、約50%の患者さんでは、JAK2という遺伝子に異常が生じています。骨髄の線維化の理由は、骨髄で増殖している血小板の母細胞である巨核球から線維芽細胞増殖を促す因子が産生放出されるためです。患者数は約1500人と推定されています。

 ジャカビは、骨髄線維症を効能・効果とする新有効成分含有医薬品で、希少疾病用医薬品です。造血組織である骨髄が線維化することで、正常な血液の産生が妨げられる進行性の血液がんに対し、ジャカビはJAK1やJAK2を標的として脾腫の縮小や諸症状を改善することが見込まれるチロシンキナーゼ阻害作用を有する低分子分子標的薬です。米国では、Incyte社が、Jakafiとして2011年11月に承認を得ています。

  両製品は、ドラッグ・ラグが生じることなく、速やかに承認申請、審査を経て上市されています。何れも稀少難病薬開発のインセンティブや報酬としての極端な高薬価と新薬創出加算を期待してでしょうが、国の積極的な施策に乗っての、アンメット・ニーズの稀少難病治療薬の出現と喜びたいと思います。ただ、両商品共に外資系企業の手になるもので、これら多額の健康保険からの資金が国外に流出することになります。なお、シャイア社は、アブビー製薬(アボット社の製薬部門の分離会社)に買収されることが決まったそうで、結局これら両社共に米・欧のメガ・ファーマとなりますので、国内企業も取り残されずに難病治療分野での奮起を大いに期待したいところです。

                                             (田中邦大)


		




7月17日:捏造に刑事罰を?(7月号British Medical Journal記事)

2014年7月17日
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もちろん小保方問題に触発された企画ではないと思うが、7月号のBritish Medical Journalに論文捏造に刑事罰を科すべきかどうかについて識者の賛成と反対の意見が出ていた。賛成意見を述べているのはトロント小児病院のBhuttaさん、反対意見はオタゴ大学内科のCraneさんだ。是非紹介したいと思ったのは何よりも両方の意見がこれまでの捏造についての包括的知識に基づいて述べられている点で、決して一つの事件を巡って議論が行われているわけではない点だ。どうしたら知識が得られるのか?実際には捏造に関して多くの論文やレポートが出ている。誰でも手にすることが出来るはずで、我が国でこの問題を真剣に議論しようと考えている皆さんはこの記事に引用されている文献に目を通して欲しい。とはいえ、かく言う私もこの問題が起こるまでは捏造問題を考えたことはなかった。ただ今回の問題を考える意味で、最近になって例えば優秀(に見える?)若者が主役になった点ではよく類似している大阪大学医学部での捏造事件の資料を集めたりし始めた所に、この記事を目にした。この2人の意見を読んで先ず驚いたのは、1977年まで論文撤回が一回もなかったこと、その後撤回された論文は2400に及び、大体20000編の論文の内1編は撤回されることだ。しかし2000年に入って撤回論文数はうなぎ上りで、1970年代の10倍には達しているようだ。これは撤回論文の話で、捏造になるとその数は10倍になるのではないだろうか?はっきり根拠はないが、研究者に本音の調査を行ったFanelliさんの調査では、2%の研究者がデータを加工した経験があると言っており、捏造データの数はもっと多いかもしれない。実際3月14日ここで紹介した治験論文の9割で何らかの間違いがあることを知ると、この分野の論文をどう信用していいのか途方に暮れる。しかし、電子媒体のなかった私たちの頃でも、顕微鏡像を出す時どうしてもきれいな写真を探したことは間違いがない。調査によって、捏造が日常茶飯事になっていることを理解した上で、Bhuttaさんは、捏造が患者さんや社会の大きな損失につながる以上、刑事罰を科すべきと論じる。ここで問題にされたのは、3種混合ワクチンが自閉症の原因になると言う研究や、鬱病の薬剤でGSKが副作用を隠した例を挙げている。そして、捏造を起こした人達のその後を調べると、多くは復権を果たしており、その結果捏造リスクは低いと勘違いしてしまうことを指摘している。いずれにせよ、刑事罰にすることでどのケースにも一定の基準が適応できると言うわけだ。実際、阪大のケースと、東大分生研のケースではペナルティーの重さが全く違う。この様な差は一般には受け入れ難いだろ。飲酒運転と公務員処分に関してコンセンサスを得た時の様な一律のルールを造ることが必要だと思う。一方Craneさんは、刑事罰を科するのは間違っていると論じている。理由は明確ではないのですこしまとめにくい。強いて言えば、捏造は余りにも日常茶飯事で、患者さんの命に関わる例から、ほとんど個人的な事件まで多様で、法律を造るのは不可能だとしている。そして例として、筑波大学医学部・東邦大学の麻酔科に勤務していた藤井医師が172編の論文を撤回した話に触れている。即ち、論文がないと職を失うと言うプレッシャーで、術後の吐き気の数を書き換える様な小さな捏造の刑事罰をどう定義すればいいのかと問うている。最後に捏造問題が最近急増している理由は、研究社会の格差問題であることを指摘し、この問題に私たちは真剣に取り組むべきとしている。では私はどうかだが、Craneさんの意見に賛成だ。ただ、一元的に捏造に対処することは重要だ。その意味で、英国にはUK Research Integrity Office,米国にはUS Office of Research Integrityがあるが、この様な機関を我が国も活用すべきだと思う。しかし我が国ではどの部署がこの組織に当たるのだろう?
カテゴリ:論文ウォッチ

明石北高でのワークショップ(7/11)の紹介記事(神戸新聞)

2014年7月16日
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7月11日に明石北高校で行いましたワークショップを紹介する記事が、7月12日付神戸新聞朝刊29面(わが町明石)に掲載されました。

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神戸新聞社から本記事の掲載許可を取得済みです。

カテゴリ:メディア情報