今日のニュースのトップは竜巻、ゲリラ豪雨、そして婚外子の権利についての最高裁判決だ。科学に偏った目から見ると、全て科学問題に見える。え?婚外子も?と聞かれる向きもあるだろう。私の偏った考えを紹介しよう。
まず私は今回の判決を支持する。遅かったぐらいだ。この判決を阻んで来た唯一の理由が、明治憲法以来(あくまでも明治以来)の婚姻形態/制度の保護と言うことだ。しかし、婚外子の立場から見ると極めて理不尽な話で、実際遺産相続の話に矮小化できるものではない。また、非嫡出子になるからと望まない人工中絶を強制される女性がいることも確かだ。これをきっかけに、根本的な変革が必要だと思う。
と言った上で、しかしこの決定を科学が可能にしていることを強調したい。天一坊事件を持ち出すまでもなく、婚外子の場合に最も問題になるのが血のつながりがあるのかないのかの判断だ。しかし、現在ではこの問題は存在しない。どれほど否定しようと、遺伝子診断を行えば血縁関係はすぐけりがつく。従って、嫡出、非嫡出の区別がなくなったとしても、血縁関係を争う訴訟が頻発することはほとんどない。頻発しても、裁判にまでいくこともない。すなわち、血縁関係を制度で保証する理由はほとんどなくなったと言うことだ。ただ、ここで血縁というのは身体的なことに限っている事を肝に銘じる必要がある。すなわち、血縁=身体=科学が全ての法的判断根拠にならないようにしなければならない。血縁関係がなくとも、家族である例はいくらでもある。大事なことは、親子家族の様々な可能性が認められる社会を作ることだろう。
デカルト以来、私たちは心と身体の2元論を克服できていない。とは言え、実際には一元的であるはずだ。これを一元的に理解することが21世紀科学の最も重要な課題だ。ところで、血縁を少し科学的に言い換えるとゲノムになる。こう考えると、制度と血縁、すなわち心と体を、法律の方では既に一元化して扱おうとしている事はすばらしい。今日の最高裁決定は21世紀に開いている。
元の記事は以下のURLを参照して下さい。
http://www.asahi.com/tech_science/articles/TKY201309010099.html
MRIイメージの基本アイデアは、アメリカのラウターバー博士が最初に提案した。この功績で、博士はノーベル賞を受賞している(実際には、最初のアイデアは私だとダマディアン博士が異議をとなえて、新聞広告を出した事も有名な話だ)。この技術は医療だけでなく、人間や動物の脳の活動記録に欠かせない道具となっている。私もその程度の事は知っていた。今回この論文を見て、私が聞きかじっていた血流の差を利用して脳の活動を調べる機能的MRIにとどまらず、今回使われた様に水の動きから神経結合性について調べたり、活動領域の大きさを調べたりするところまで可能になっていることを知り驚いた。この分野の論文を詳しく見たのは今回が初めてだが、論文を見る限りハードからソフトまで外国で開発されたものを使わざるを得ないのは、やはり日本科学の課題だと感じた。さて、今回の仕事では、まずボキャブラリーテストおよびTOEICの成績が、右脳の特定領域(領域の名前については「特定」で済ませておく)の大きさとが相関している事を発見した。次に、この参加者の中からボランティアを募り、英語のボキャブラリーを増やすトレーニングを行うと、同じ領域のサイズが増大し、またこの領域ともう一つの領域間の結合が強まった。しかし、トレーニングをやめるともとに戻ったと言う仕事だ。一方、National Adult Reading Testで調べた英語能力は相関が認められなかった。英語の苦手な日本人を逆手に取った、面白い仕事と言える。
さて記事だが、朝日新聞にも関わらず無記名の記事だ。論文は細田さん達がJ.Neuroscienceに発表したものだが、この情報は全く無視されている。多分、国立精神神経医療センターの発表を適当にまとめて掲載したのだろう。そのせいか、このセンターの発表と比べてみると、特に違っている点はない。しかし、日本人が英語教育に高い関心を持っている事を考えると、正確に伝えないといけない部分があった。それは、今回相関が見つかったのは、ボキャブラリーテストの能力で、訓練も単語やイディオムなどに焦点を当てたトレーニングが行われていた点だ。一般的な英語能力は総合的なもので、統語など様々な能力が総合されたものだ。論文でもその点も注意深く議論されている。私も驚いたが、このボキャブラリーテストの方がTOEICと相関している事で、これが誤解を生んだようだ。日本人はTOEICと聞くと総合的英語能力を想像する。残念だが、精神神経医療センターの記者発表でも、ボキャブラリー力が英語力にすり替わっている。今後言語を扱うときは「言葉の使い方」に注意が必要だ。一般の人には、ボキャブラリーも文法もみな同じと考えたのかもしれない。しかし素人ながら言語の魅力に憑かれている私には見過ごせない。私にとって、第二外国語のボキャブラリーが、他の言語能力とは全く異なる場所に形成されるという結論の方が興味がある。論文では一つの考えとして「英語の単語が私たちが普通にボキャブラリーに使う場所からこぼれだし、右脳に形成される」というか説が提案されているが、本当なら面白い。
いずれにせよ今回は、ボキャブラリー能力をそのまま英語力とした研究所からの記者発表にも責任があるが、多くの人が関心を持つ領域を記事にする場合慎重に調べてほしかったと思う。
科学報道を書く記者の方と同じで、科学報道ウォッチを書く私も様々な間違を犯すことは避けられない。わかった時点で改めていくのが重要で、その意味でも是非皆さんからのフィードバックをお願いしたいと思っている。まだフィードバックを受ける所までには至っていないので、今日は、これまで書いたことのフォローアップをしておこう。
先ず、7月12日朝日新聞の河岡さんの鳥インフルエンザ記事について意見を述べた際、我が国でもし新型鳥インフルエンザで亡くなる人が出る事になれば、河岡さんの研究を無視した行政の責任だと書いた。嬉しいことに、9月2日開かれた厚労省の専門家委員会について今日各紙が一斉に報道した。この委員会ではワクチン開発へのゴーサインが出され、今年中に臨床試験が出来るぐらいのスピード感でワクチン開発が進むらしい。是非揺らぐ事なく、河岡さんの成果を生かしていってほしい。
もう一つが、8月27日ScienceNewsLineに掲載されたアメリカのグループのチェルノブイリ周辺に生息する野鳥の調査についての記事に対するコメントだ。この意見の中で、政府が真剣に福祉まで動植物への放射線影響の研究を行っているのか疑問を投げかけた。その後私の友人に調べて貰ったところ、環境庁や放医研が平成24年に福島原発近くで動植物のサンプリングを進めており、収集したサンプルについて意見交換会も行っている事がわかった。少し安心した。この記録(http://www.env.go.jp/jishin/monitoring/results_wl_d130314.pdf)を読んでみると、しかし長期的な計画性がないように思える。本当は東北メガバンク構想などと連携し、どのような調査をどの動植物で行えば良いのかなど、しっかりした計画に基づいて進める事が肝心だ。今からでも遅くはない。動物や植物を使えば、ヒトでは決して出来ない様々な実験が可能だ。是非、可能なあらゆるデータを集めて将来世代に手渡す方向で施策を進めてほしい。
実際の記事は以下のURLを参照して下さい。
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20130830-OYT1T00210.htm
私にとって元々この分野は良く理解できる。専門と言って良い。また、中内さんは個人的にもよく知っている。骨髄造血幹細胞を単一細胞レベルで調べる研究の世界的第一人者だ。さて、今回の仕事は、放射線照射したマウスの造血系を再構成する能力のある血液幹細胞にはどんな種類があるのかを新しい技術を使って丹念に調べたものだ。しかし専門家の私は、この問題はずっと昔に解決していると思っていた。ただ論文を読んでみると、わかったと納得しないでやってみる事の重要性を強く感じた。実際詳しくは述べないが、これまでの考え方を大きく変える結果だ。これが最終版なら、日本の中内研から出たことを誇りに思う。勿論これから、正常の造血でも同じことが起こっているのか調べる必要がある。あるとわかると、方法はある。結果を知るのはそう遠い話でないだろう。期待しよう。
さて読売の記事だが、短い紹介ではあるが図入りで力が入っている記事だ。ただ、中内さんの仕事が示す情報を正しく伝えているとは言えない。この仕事の重要なメッセージ、即ち長期にわたってリンパ球以外の血液を作り続ける幹細胞がある事を示した点については正しく伝えている。しかし、これがこれまでの説を大きく書き換える成果である事が全く伝えられていない。それどころか、わざわざ加えてある図では、これまでの説に単純に新しい細胞が付け加わった様な紹介になっている。よく図を見てみると説明書きが挿入されており、旧来の説にただ新しい細胞が付け加わっただけではない事を記者も理解している事はわかる。しかし専門家から見ると、誤解を招く図になってしまっていると判断せざるを得ない。オリジナルの論文にも、新しい説を解説した図がある。なぜこれを正確に参照させた図を作ろうとしなかったのか、極めて残念だ。これまでの説を理解した上で、中内さんの仕事を理解する事は専門家でないと難しいだろう。また、中内さんも正確に伝えなかったのかもしれない。しかし、「読者も結局難しい事はわからないし、正確と言われてもきりがない」と言う考えが記者の頭をよぎっていないだろうか。正確に伝える記事をどう書くのか、これは新聞記者の永遠のテーマのはずだ。もっと精進してほしい。
- ミトコンドリア病とは
ミトコンドリア病(Mitochondrial Disease)は、全身の各種細胞に在って細胞機能維持に必要なエネルギー産生を行うミトコンドリアの機能不全による疾病で、部位によりそれぞれ異なる症状が見られます。
ミトコンドリア病は、エネルギー需要の多い脳、骨格筋、心筋で多く発症し、神経系、心臓循環系、眼科領域、消化器系に加え、新生児・幼児の虚弱や低血圧症など、年齢にも関係なく色々な部位で糖尿病、心臓機能不全、肝不全、難聴、失明、腎不全、筋脱力、疲労などの症状が見られます。
ミトコンドリアの働きに関わる1,000以上のタンパク質が知られており、対応する遺伝子(核DNAとミトコンドリアDNA)の変化によって、それぞれの部位で多様なミトコンドリア病を発症します。
ミトコンドリア病については、多くのサイトで、解りやすく解説されていますので、例えば以下を参考にしてください:
定番の「難病情報センター」の情報です。わかりやすくまとまっています。 http://www.nanbyou.or.jp/entry/335 もう一つは、「日本ミトコンドリア学会」です。ここは学会として責任を持とうと様々な試みを行っています。特に、http://j-mit.org/patiodoctorsoudan/read.cgi?no=365 はドクター相談室です。既に診断がついている患者さんはこのサイトで専門家に様々な質問をする事が出来ます。患者会のサイトとして「MCM家族の会」http://www.mitochon.org/pc/ を挙げておきます。
また、アメリカのミトコンドリア病を克服するために設立された財団が提供するすばらしいウェッブサイトを紹介しておきます。これらの財団では力強い活動を行っており、このサイトからうかがい知れます。ここでは、患者さんへの情報も豊富に提供されています。残念ながら日本語サイトはありませんが、グーグル翻訳を使うとかなりの程度でわかると思います。AASJでも引き続き自前の情報を発信しますが、とりあえず2つのウェッブサイトを紹介しておきます。
1 United Mitochondrial Disease Foundation (ミトコンドリア病連合財団)
http://www.umdf.org/site/c.8qKOJ0MvF7LUG/b.7929671/k.BDF0/Home.htm
2. Foundation for Mitochondrial Medicine (ミトコンドリア医学財団)
http://mitochondrialdiseases.org
ミトコンドリア病はいろんな臓器の異常として現れます。それをまとめたわかり易い図です。参考にして下さい。図はクリックすると大きくなります。(図はBates MGD 等がEuropean Heart Journal 33:3023(2012)に発表したCardial Involvement in Mitochondrial Deseaseの図を邦訳しました) また、病気は多様な表現で記載されますので、第1表も参考にして下さい。
第1表 (代表的なミトコンドリア病)
・ 慢性進行性外眼筋麻痺 “CPEO: Chronic progressive external ophthalmoplegia”
・ ミオクローヌスてんかん症候群(福原病、マーフ、”ミオクローヌスてんかん、ミオク ローヌスてんかん等) “MERRF: Myoclonus epilepsy associated with ragged-red fibers”
・ ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様症候群(メラス、脳卒中様症状を伴うミトコンドリア脳) ”MELAS: Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic Acidosis, Stroke-like Episodes”
・ リー脳症 (精神運動発達遅延、大脳基底核や脳幹の対象性の壊死性病変) “Leigh Encephalopathy”
・ ミトコンドリア異常による心筋症 ”Cardiomyopathy with Mitochondrial Disorder”
・ レーバー病(視力低下、視神経萎縮) “Leber’s Disease”
・ ミトコンドリア糖尿病 “Mitochondrial Diabetes”
・ パーソン病(汎血球減少症、多臓器障害) “PEAR: Pearson’s Disease”
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私たちはミトコンドリア病の専門家ではありませんが、医学や生物学の知識は十分あると思っています。文献などにあたって、現在この病気が世界レベルではどのように取り組まれているのか調べていきます。そのとき、ミトコンドリア病で苦しまれている患者さんと一緒に勉強する企画を行って、ニコニコ動画で流したいと思います。もし興味のある方がおられたらAASJまで連絡をお願いします。
2. 私たちとしてのミトコンドリア病への取り組み
では私たちは何をNPOでやろうと考えているか紹介します。このサイトでは、医学教育を受けた素人が見た時、その病気について何を感じるのかを素直に伝えたいと思います。即ち、皆さんの側にいる専門家と言った様なものです。
さて、素人の私たちが色々勉強してみて感じるのは、この病気の難しさは、「よくわかっているのにわかっていない」と言う状況があるからだと思います。まずミトコンドリアの機能は大変良くわかっています。細胞の使える唯一のエネルギー、ATPを作る事です。他にも幾つかの機能はある様ですが、ミトコンドリアの異常による病気は、このATPを作る機能が様々な場所で、様々な程度障害される事によります。しかし、完全に原因遺伝子がわかっていても、どう病気が出てくるのかわからないと言う問題があります。
もしミトコンドリアの機能が完全に消失すると細胞は生きていけません。なのに多様な症状が出てくるのはなぜでしょう?この病気の難しさは、ミトコンドリアが細胞に完全に支配されていないところにあります。ミトコンドリアは細胞の中で、細菌のように増える事が出来ます。そして、細菌と同じように、自分自身の活動のための遺伝子をミトコンドリア内に持っています。しかし、細菌と違うのは、ミトコンドリアの活動に必要な遺伝子のほとんどは細胞の遺伝子の中にあることです。そして何よりも、私たちの体の中にあるほぼ全てのミトコンドリアは、全て最初の一個の卵子に由来しています。このため、卵子からだけ由来するミトコンドリアと、その活動を支配する細胞側の遺伝子が複雑に絡まっているのです。このため、原因遺伝子までわかっても病気の事を正確に予想できない最大の原因です
つい先日Nature紙に、お母さんから受け継いだ突然変異を持ったミトコンドリアと、細胞の遺伝子の方の突然変異の組み合わせを調べた論文がありました(Nature, doi:10.1038)。この様な実験的に計画されたモデル系ですら、予想される結果とともに、全く予想できない結果も生まれている様です。複雑だから挑戦しがいがある、新しい分野に多くの人が参入してほしいものです。私たちも、一度ニコニコ動画を通してこの複雑性について解説したいと思います。
ただ、標的については大変良くわかっています。このため将来治療法が開発される可能性も大です。Scott B. Vafai & Vamsi K. Moothaによる Mitochondrial disorders as windows into an ancient organelle Nature 491,374 (2012) と言う論文の中に力強い予想が書かれていたので転載しておきます。「ミトコンドリア病の遺伝子と症状を結びつける事はまだ難しい挑戦だ。しかし、ミトコンドリアについては生化学がよく研究されており、存在する蛋白についてもほぼ完全にわかっている。さらに、ミトコンドリアを取り出して調べたり、細胞の中で調べたりできるという利点もある。遺伝子異常がよくわかっている患者さんも多くおられ、何よりも患者さんの団体もしっかりしている。このような特徴を考えると、この病気はシステムとして病気を考える上で大きな利点がある。・・・・・私たちは、ミトコンドリア病の発病機序を理解する事で、この様な破壊的な病気に対して新しい治療を開発できると楽天的に考えていい。また同じ治療法は他の普通の病気にも効く可能性が高い」。期待しましょう。
3.ミトコンドリア病の治療薬について
ミトコンドリアの機能低下を原因とする病気を一律にミトコンドリア病と総称しますが、上記および第1表に代表的な疾病名を挙げたとおり、多彩な症状として現われます。従って、それぞれの症状に応じた一般的な治療薬を用いる対症療法が主流となっています。
ミトコンドリア病の確立した原因療法は存在しませんが、ミトコンドリアの機能を回復させる目的で、血管を拡張するアルギニンが用いられており、同様にアミノ酸類縁化合物のタウリンの治療薬としての開発も進んでいます。
ミトコンドリアは、酸化的リン酸化によってATPを供給し、重要な生体分子を合成し、カルシウム濃度勾配の緩衝材になるなど、細胞にとっては必須のオルガネラ(細胞小器官)であり、生体のホメオスタシス(恒常性)や加齢を制御しています。ミトコンドリアの不具合は、炎症や加齢ほかエネルギー由来の変調を来たすことになりますが、このような不調は、活性酸素種(ROS)の生成による細胞の酸化障害でもあります。近年抗酸化剤による加齢関連機能低下の抑制療法の試みがなされており、動物モデルにおいて、ミトコンドリアを標的とする抗酸化剤を用いて加齢抑制効果が確かめられています。
主にミトコンドリアの機能不全による酸化ストレスは、NO合成を減じ、血圧を上げ、接着分子と炎症サイトカインの分泌を制御し、LDL酸化の原因となります。筋肉組織のミトコンドリア機能の欠陥により、脂肪酸酸化が進まず、グルコース輸送を阻害し、インスリン刺激のグルコース輸送の低下として現れ、結果は間違いなくインスリン抵抗性を発症しII型糖尿病となります。慢性的なROSの過剰と炎症は、ミトコンドリアの機能不全をもたらし、組織での脂肪蓄積とインスリン抵抗性の果てし無い悪循環を来たします。
また、ミトコンドリアROSは、電子伝達からATPを共役する脱共役たんぱく質(UCP)の活性増加に関係します。UCPの活性化により、ATPを産することなく熱を産生できるので、ATPの長期間の低下を招き、細胞インスリンのシグナル伝達に影響を及ぼします。
第2表に米国FDAのオーファン薬の指定を受けてミトコンドリア病の治療薬として開発中の一覧を掲げます。 131001_DrugUnderDevelpment ForMitochondrials
ミトコンドリア病の原因療法として、ミトコンドリアでの電子伝達系を補うためにコエンザイムQ10やビタミンEの抗酸化作用を持つ各種誘導体の開発が米国FDAの下で進んでいることが判ります。 FDAは、稀少難病薬指定をしているエジソン製薬のEPI-743(α-トコフェノールキノン:CoQ10類縁化合物)にEID(緊急時介入薬)としての承認をしました。本剤については、今年3月に大日本住友製薬が同社から製品導入し、リー脳症の治療剤として開発すると発表しています。 (西川伸一 ・ 田中邦大)
今日はNature Medicineの一種社説を取り上げてみた。実際の記事は英語。
http://www.nature.com/nm/journal/v19/n8/full/nm.3301.html
6月シカゴで開かれたアメリカ医師会で肥満を病気と認めるかどうかについて投票が行われた。60%以上の賛成で可決されたが、これに対する意見を述べた記事だ。意見の調子はおおむね否定的で、この決定に対して医師会の専門会委員会自体が疑問を呈していることを紹介するところからはじめている。その上で、医師会が賛成する理由について紹介している。勿論肥満がさまざまな疾患を生むことは当然だ。また、アメリカ人の1/3がボディマス指数で言えば肥満と診断され、世界には5億人を超すという状況を考えれば、当然取り組まなければならない。この目的を手っ取り早く果たすためには、病気であると認定して、ショックを与えた方が効果があるという訳だ。肥満を理由に社会差別が起こることを防ぐためにも肥満を病気と認めるべきという理由になると、さすがにアメリカ的だと思える。いずれにせよ、これだけなら全員一致で賛成だろう。しかし、40%は反対した。勿論科学的にどこまで肥満というのか、基準をどうするのかは難しい問題だなどの理由だ。その上で、最も深刻な問題として懸念されているのが、病気と認めることで医療が発生し、医療費の高騰を招くというものだ。すなわち、脂肪除去術を含め多くの治療が医療のもとに行われることに対する懸念だ。この議論を紹介した上で、Nature Medicine紙は、肥満を病気とするために必要な科学的基準の設定が難しいことを指摘し、更なる研究が必要であると締めくくっている。
高脂血症、高血圧、糖尿病、いわゆる3種セットと言われる疾患は、境界に多くの病気予備軍と言われる人がいる。また生活習慣病とは言い得て妙で、生活習慣を改めることで結構コントロール可能だ。従って、どこからが医療で、どこからが個人の努力かの境が曖昧になる。実際、これらの病気に対しては様々な薬品が開発され、いずれも会社のドル箱になっている。このドル箱の薬は特許期限が切れて各会社も次の手が必要になっている。このように穿って考えだすと、今回の投票も何となく裏が透けて見える気がするのは私だけだろうか。専門科委員会がこの投票に対して出した意見でも、この点が指摘されている。これから議論しなければならないのは、薬が病気を作るという問題だ。これまではこれは副作用を意味していた。しかしこれからは、薬が開発されることで病気が作られることだ。いずれにせよ、医師会や専門家だけで決めていい問題でないことだけは確かだ。これについては、専門家向けの本では議論されているようだが、薬が病気を作るとなると、あらゆる人の問題だ。日本のメディアでも是非取り上げてほしかった。
今日は8月26日朝日新聞富岡記者の記事を取り上げた (http://www.asahi.com/national/update/0825/TKY201308250154.html)。もちろんオリジナルな論文も読んだが、今回は記事の日米英比較を行ってみたい。ネットでアクセスできたのは、英国Telegraph紙(http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/10246709/More-than-four-cups-of-coffee-a-day-increases-the-risk-of-an-early-death-says-study.html)、及び米国USA Today紙(http://www.usatoday.com/story/news/nation/2013/08/15/coffee-consumption-death-risk/2655855/)の記事だ。今少なくとも米国では、コーヒーの安全性について関心が高まっていることは確かだ。ScienceNewsLineにも様々な論文が連日紹介されている。一番新しい記事は26日付で。Cancer Cause and Control紙で発表されたFred Hutchinsonがんセンターからの研究で、1日4杯以上のコーヒーは前立腺ガンの患者さんの再発を抑える働きがあるという嬉しい話だ。タバコ、高脂肪食、砂糖と進められてきた健康キャンペーンが、コーヒーを標的にしだしたかもしれない。しかし、このような嗜好品や生活習慣についての記事を書くのは大変だと思う。なぜなら、査読を通った医学論文ですら賛否両論あるからだ。従って、この仕事だけを正しいとして紹介するわけにはいかない。とは言え、Telegraph紙は淡々と、この仕事を紹介して、余分なコメントを全く加えることなく記事にしていた。これだけ読めば、皆さんコーヒーを控える。一方、朝日もUSA Todayも、一方的な報道は避けるべく、他の意見も記載している。例えば両紙ともNIHからの論文を紹介して、逆の結果もあり得ることを示している。(朝日は「一方で、米国立保健研究所(NIH)などは昨年、50~71歳の男女40万人対 象の 疫学調査 で、コーヒーを1日3杯以上飲む人の 死亡率 が1割ほど低いとの結果 を発表している。」)。同じように、両紙とも最後は各国のコーヒー協会からのコメントで締めくくっていることも面白い。ただUSA Todayはアメリカコーヒー協会の強い反論を紹介している。曰く「今回の結果は通常の科学や科学的研究方法から逸脱している」。さすがアメリカだ。朝日が日本コーヒー協会コメントとして載せているのは「日本人はコーヒーを週平均10・7杯(1日1・5 杯程度)飲んでいる」。なんと大きな違いだろう。どちらも同じような書きぶりだが、今回はUSA Todayの方がうまく書いていたと思う。UA Todayでは、この問題が今現在議論が白熱している領域であることを真っ先に書いている。すなわち、「コーヒーの健康へのリスクの論争はますます白熱してきた」と、一言で読者の注意を喚起している。勿論優劣を付けている訳ではないが、今後このような記事の国際比較もおもしろそうだ。いずれにせよ、この様な記事を読んでも特にコーヒーを控える人はあまりいないだろう。
しかし、この論文で私が何よりも驚いたのが、この研究の対象が、 The Aerobics Center Longitudinal Study (エアロビックスセンター長期研究)に参加している点だ。どんな組織か知っているわけではないが、当然エアロビックスと関わる組織だろう。日本の研究者が、コホートコホートと旧来の組織を念頭に声高に叫んでいるとき、アメリカではこのようなしなやかな発想で研究が進んでいるのを知ると、少しめげてしまった。
京都大学で生まれた稀少難病薬が一昨年に日米で発売されましたが、昨年はその売上が1,500億円に達して、2年目にしてブロックバスター入りしました。
フィンゴリモド(fingolimod)は、京都大学薬学部 藤多哲朗教授(当時)により冬虫夏草の成分を基に見出され、吉富製薬(現田辺三菱製薬)との共同研究・開発を経て、ノバルティス社(スイス)にライセンスされて多発性硬化症( MS)の治療剤として承認を受け2011年に発売されました。日本では、「イムセラ」(田辺三菱製薬)および「ジレニア」(ノバルティスファーマ)として、それぞれの独自商品名で共同販売されています。
多発性硬化症(患者会「MSキャビン」 http://www.mscabin.org/)は、感覚障害、視神経炎、運動麻痺などが認められる中枢神経系の炎症性脱髄疾患で、厚労省の難治性疾患克服研究事業において特定疾患に認定された130疾患に含まれる疾病で、国内における患者数は、約15,000人と代表的な稀少難病です。
本剤は、既存の治療薬とは異なる全く新しい作用機序(リンパ球上のスフィンゴシン1-リン酸受容体(S1P受容体)に作用して、自己反応性リンパ球の中枢神経系への浸潤を阻止し、その結果、多発性硬化症における神経炎症を抑制する) を持つ免疫調整剤の一種です。
藤多京大名誉教授の熱心なご尽力に加え、過去20年間内外製薬企業の合従連衡に耐えての厳しい開発業務の成果でしたが、残念ながら国内の製薬会社単独の発売とはなりませんでした。今年5月の田辺三菱製薬の「昨年度決算説明会」では、ライセンシーのノバルティス社から195億円のロイヤルティを得たと発表しており、一製品で得た収益としては同社として最上位クラスであったはずです。因みに、「イムセラカプセル0.5mg」は、1日1回経口投与で、薬価は8,172円/カプセルです(2011年11年25日の当初薬価収載時)。
その市場性のなさから、研究段階から見向きもされない稀少難病治療薬ですが、患者のためにリスクに挑戦して医薬品とすれば、企業にとっても十分利益になることが裏付けられました。この成功例に基に、大学の研究室での研究対象に加え、製薬会社や化学会社など他業種の研究室においても、難病治療薬にも目配りされ、その創薬の芽を見落すことなく、さらに開発に向けての検討がなされる契機となることを願っています。 (田中邦大)
このサイトの記事は http://www.sciencenewsline.jp/biology/ で読めます。
実を言うと、このサイトで取り上げる科学報道記事のほとんどは、理化学研究所・社会知創成事業に属する浅川茂樹さんが毎朝送って来てくれる科学新聞記事のリストから取り上げている。本当に感謝している。ただ、いつも科学報道記事、特に論文になった研究の仕事がある訳ではない。昨日、今日とそんな日が続いた。このため、敢えて日本の報道がほとんど取り上げない記事を、前に述べたScienceNewsLineの日本語記事から拾う事にした。記事のタイトルは、「チェルノブイリの現在から判るフクシマの未来」と言うセンセーショナルな題だった。
本題に入る前に、一つ発見した事を報告しておこう。前にScienceNewslineが、経済的にどう運営しているのか不思議だと語った。今回英語の記事をよく見てわかったのは、大学のプレス発表を集めていることだ。もちろんそのまま転載しているわけではない。自分のところで書き直している。いずれにせよ、大学のアウトリーチ活動とつながっている。もし専門知識を持った客観的な記事の書ける集団によるこのようなサイトが出来れば、読む方はそこを見れば全てわかって便利だろう。大学も科学に興味のあるより広い層にニュースを呼んでもらえる。この様なサイトが増えると、ある意味で新聞はいらなくなるかもしれない。報道の目指すべき事を深刻に考えるときが来ている。
さて取り上げられる回数からみて、報道と、ネットの差が激しいのが福島原発事故についてだろう。福島については、実際ネットだけでなく、我が国の報道は外国の報道とも大きくトーンが違っている。典型的な例が、昨年琉球大学の檜山さん達が原発近くの蝶に遺伝的可能な異常が蓄積した事を発表したScience Reportの記事だろう。もちろんほとんどの日本のメディアは報告しなかった。多分科学的に正しいかどうかj自信がもてなかったのだろう。実際、私の友人、大阪大学の近藤滋君は、コントロールの取り方がおかしいと批判していたのを思い出す。しかし、私は事故の生物への影響を決めようとして、この論文だけ公開の議論を行う事自体が不毛だと思う。科学でどちらが正しいかを近視眼的に議論しても仕方がない。重要なことは、福島原発事故の近くの動植物についての長期的調査研究は、人間についての調査と同様に極めて重要であると言うことだ。一定の条件で、世界の研究者にこの領域を開放し、実際に何が起こっているのか科学的に検証する事で、将来に大きなデータを残すことが出来る。檜山さんが正しいかどうかなども、遺伝子配列を調べていけばより正確なことがわかる。しかし、今の文科省はそのような研究に助成金を出すだろうか?科学的でないと抹殺するのだけではよくない。問題があるかもしれないが、より積極的な研究を促進するために助成金を増やすべきだぐらいの事を文科省に提言するぐらいのセンスが報道にほしい。政策当局が臭い物にふたをするしか能がないとすると、二度と得られない大事な資料は失われていく。例えば福島で野生動植物のフィールドワークをする特別の研究班は編成されているのだろうか?多分ないのではと思う(間違っていたら是非指摘を)。例えば、檜山さんの疑問からスタートして、フィールドワークや動植物についての研究やそれに対する助成が行われているかどうか調べて公開するのも報道の役割だ。
さて、Sciencenewslineの記事に戻ろう。これはチェルノビリで2011年から2012年に捕獲された1000羽以上の鳥を調べたアメリカサウスカロライナ大学のMousseauさんとMøllerさんの仕事で、PlosOneとMutation Reasearchに掲載されたばかりだ。Mutation Reasearchではアルビニズム(皮膚から色素が失われる)とガンの発生率について、PlosOneに掲載された仕事は放射線障害として知られる白内障の頻度を調べている。いずれも、様々な統計処理を行うと、チェルノビリで捕獲された鳥は上昇しているという結論だ。もちろん、論文はフィールドワークで、実際検出された異常が遺伝的かどうかはまだまだわからない。また、ゲノムなども調べられていない。このように、私もこの論文だけで結果が正しいかどうか判断できるとは思わない。とは言え、あら探しをヒステリックに行うのは愚の骨頂だ。アメリカの研究者がチェルノビリのフィールドワークを現在も続けていることに感心すべきではないだろうか。今東北メガバンクで事故の影響が心配される集団の大規模コホートが行われている。同じように、汚染地にずっと居続けている動植物を採取、様々なデータの蓄積、特に経時的なゲノム解析データの蓄積、および採集した動植物の掛け合わせ実験など、今しかできない基礎的研究をしっかり進めるべきだと思った。
24、25日と、京大再生研の瀬原さんに頼まれ、白眉プロジェクトの応募者の面接を行いました。面接の様子は勿論口外出来ませんが、久しぶりにわくわくするインタビューでした。自分のしたい事をしっかり見つけて自ら道を拓いている、独立心旺盛な優秀な研究者が我が国にしっかりと育っている実感を持ちました。こんなにすばらしい若い人が応募してくるだけで、この白眉プロジェクトは成功していると言えます。是非来年も伯楽としてお手伝いしたいと思いました。