筑波大学の名誉教授村上先生の紹介で、今回来日されるダライ・ラマ法王と科学者との対話に参加します。全体のテーマは「宇宙・生命・教育」ですが、私は「実在しないものの科学」と言うタイトルで話します。対話集会の内容については主催者のウェッブサイトを参照してください。
http://www.tibethouse.jp/dalai_lama/2013/
筑波大学の名誉教授村上先生の紹介で、今回来日されるダライ・ラマ法王と科学者との対話に参加します。全体のテーマは「宇宙・生命・教育」ですが、私は「実在しないものの科学」と言うタイトルで話します。対話集会の内容については主催者のウェッブサイトを参照してください。
http://www.tibethouse.jp/dalai_lama/2013/
男性としての魅力には自信のない私のような男も納得する仕事が、10月3日のNature紙502巻95ページに発表された。タイトルは「Life history trade-offs at a single locus maintain sexually selected genetic variation (単一の遺伝子座によって決まる生活史上の取引のおかげで、性的に選択される遺伝子の多様性が維持される)」。http://www.nature.com/nature/journal/v502/n7469/full/nature12489.html
多くの種では、外的な形態と雄としての生殖能力の強さが相関している場合が多い。その結果、雄の形態が一種類に収束する。インドクジャクはその例だ。しかし、外的な形態と生殖力の強さがはっきりしているにもかかわらず、雄の形態が強い雄の形に収束しない種が存在する。どうして弱い雄の遺伝型が消え去らないのか不思議だ。
この論文は、スコットランド・セントキルダ群島のソアイ島に生息する、現在は野生状態の(元は家畜として使われていた)羊の生態研究だ。この羊の雄は4種類のタイプの角を持っている。一度個体数が減少した後、現在では1700頭ぐらいになっているにもかかわらず、この4種類の角の形が維持されている。幸い、この角の形を決める遺伝子がわかっている。RXFP2という一種の受容体で、2種類(H+とHp)の遺伝子型の組み合わせで角の大きさが決まる。この研究では、なんと21年にもわたってこの島の羊の観察を続け、毎年の生殖成功率、RXFP2遺伝子型の分布、生活史などを克明に記録した。その結果、この一つの遺伝子が、角の大きさだけではなく、寿命にも関係しているという事実を突き止めた。実際、大きな角を持つ羊(H+xH+)は、他の羊(H+xHp かHpxHp)と比べると生殖成功率はずっと高い。角のほとんどない羊(HPxHP)は先ず子孫を残せない。しかし、生活史を調べてみると、最も大きな角をもつ羊は寿命が短いことがわかった。多くの観察を計算機で処理すると、雌との適合性が最も良い遺伝子型が結局H+xHpとなって、常に異なる遺伝子型が集団の中に維持される理由がわかった。同じ遺伝子は、雌の生殖能力や寿命には全く影響がない。ここからは想像でしかないが、寿命の短い理由は大きな角を持っているからになる。男の魅力を保つのはコストが大きそうだ。しかしこれを明らかにするために21年間も観察を続けたイギリスの研究者の人たちに脱帽だ。
米議会での暫定予算不成立により、10月1日から一部の連邦政府機関が閉鎖されていますが、米国国立衛生研究所(NIH)で最先端の研究的治療を受ようとする患者は全て締め出されています。研究所長のDr.Francis Collinsは、子供で致命的な疾患の患者を除いては、受け入れることはできないと”悲痛”な状況であるといっています。(AP: http://abcnews.go.com/Health/wireStory/shutdown-means-nih-hospital-turn-patients-20435497 )
一方、米国食品医薬品局(FDA)でも、その主要業務である新薬承認審査が止まり、新薬承認申請(NDA)の審査の遅れは避け得ないようです。(http://blog.pharmexec.com/2013/10/01/government-shutdown-halts-fda-product-submissions/ )
特に新しい難病治療薬は、創薬段階から製造販売承認まで、全て米国の後追いの状況ですので、これら機関での業務の遅れは、わが国でもそのまま影響を受けることは自明で、対岸の火事では済まされません。 (田中邦大)
オリジナルな記事については以下のURLを参照してください。
http://mainichi.jp/select/news/20131001k0000m040116000c.html
最近、独身女性の卵子凍結、卵巣移植など生殖補助医療関係の報道が多い気がする。この背景には、不妊治療について600近い認定施設を擁し、基礎から臨床まで人材の豊富な日本の高いレベルがあると想像できる。今日アメリカアカデミー紀要に発表された、聖マリアンナ医大と、スタンフォード大学の共同研究は、まさに日本の研究レベルの高さを遺憾なく発揮している研究で、未熟な卵胞を活性化させる方法を開発し、早発性閉経の患者さんが出産する事が出来たという研究だ。
この論文で驚く点は、前半がマウスを用いた基礎的な仕事、次にヒトの卵巣を用いた実験研究、そして最後に早発性閉経の患者さん27人を用いた臨床研究から構成されている点だ。普通は、それぞれ別々の仕事になることが多い。基礎研究では未だ成熟卵胞が存在しない10日令マウスの卵巣を取り出し、未熟卵胞から成熟卵胞を試験管内で成熟させるためのシグナルについて探索が行われた。ここに関わる分子は、急速に研究が進んでいるYap-Hippoシグナルだが、その詳しい内容を紹介する必要はないだろう。この研究の最も重要な発見は、卵巣をはさみで切り刻むことでこのHippoシグナルを抑制し、結果未熟卵胞の成熟が始まると言う発見だ。これに、更に卵胞の成熟を促す分子Akt刺激剤を加えて2日ほど培養し、それを卵管近くに戻すと、ほぼ正常の排卵が始まる。マウスを用いてこの分子の動きをしっかり確認した上で、ヒト卵巣でも同じ方法が使えるか確認し、最後に早発性閉経の治療へと進んでいる。大変な仕事だ。今のところ出産に至ったのは、1例だけだが、論文にはもう一人の方でも妊娠が確認されたと書いてあるので、今後期待が持てる。画期的な方法の開発と言っていい。
実際各紙が一斉に報道している。その中で毎日新聞の須田さんの記事は正確で、わかりやすい。ただ、卵巣をハサミでばらばらにすると言う一見野蛮な処理が、この技術の鍵になっていることを是非伝えてほしかった。須田さんは「目覚めを促す物質を加えた培養」と書いているが、本当はそれだけでは足りない。読売、朝日では卵巣を小片にする事は書いてあるが、やはりこれが新しい技術である点には注目していない。ここで野蛮と言ってしまったが、Yapシグナルから考えると、すばらしい思いつきだ。素朴であってもしっかり科学がある。今後の期待は大きい。
昨日FOP明石で、FOPの患者さんや、家族の方と話をする機会がありました。その時、家族の方からFOPの突然変異がどう発生するのかと言う質問がありました。多くの家族の方がご存知のように、ほとんどの場合FOPの患者さんのご両親が同じ突然変異を持っておられる事はありません。もし同じ突然変異を持っておられるとご両親にも同じ症状がでるはずです。従って、ご両親の遺伝子は正常だと考えられます。とすると、新しい突然変異が患者さんに発生した事になります。この新しい突然変異はではどこで起こったのでしょうか。一番可能性が高いのは、ご両親の身体の中で精子や卵子が作られる時にその突然変異が発生する事です。実際お父さんの睾丸の中では何千万個の精子が毎日作られています。また、発生段階でお母さんの卵巣の中には約200万前後の卵子が作られます。この時に誰でも一定の確率でこの遺伝子の突然変異が起こると考えられます。すなわち、どの夫婦にもFOPの子供さんが生まれる可能性があります。従って、FOPのお子さんを持っておられるご両親が、何か特別であったと考えられる理由は全くありません。
さて、精子や卵子を作る時に突然変異が起こるとすると、兄弟姉妹がFOPにかかる可能性はほとんどないと思います。また、他の遺伝病と同じで、妊娠中の子供がFOPにかかっているかどうかを調べる事も可能だと思います。
2014年8月8日付けの論文紹介で、両親の遺伝子異常がなくても、発生過程で遺伝的モザイク状態が形成されている可能性があります。このため次の子供を産む前にモザイク率を調べることは役に立つと思います。
面白い仕事があるものだ。ScienceNewsLineに記事がでていたので、J Clinical Oncologyに掲載されたハーバード大学のAizerさん達の論文を読んでみた。研究の目的は、結婚しているかどうかが、ガンの予後にどう影響するかを調べることだ。Surveillance Epidemiology and End Result programというデータベースから、約130万人のがん患者さんの(10種類の固形がん)をサンプリングし、がん発症時に伴侶がいたかどうかで分類した上で、1)手術や放射線療法などがんを直接押さえる治療を受けたかどうか、2)最初診断されたガンで亡くなったかどうか、3)転移したかどうかの3点について調べている。結果は結婚している方が、1)根治を目指す治療を受ける率が高く、2)最初に診断されたガンで死亡する確率が低く、3)転移する確率も低いという明確なものだ。論文を読むと、同じ問題を調べた研究がこれまでも発表されているようだが、今回の様なスケールで、10種類ものガンについて同時に調べた仕事はなかったようだ。この論文の結論は、どのガンであっても、伴侶がいる方が予後がよく、また男の方が結婚の恩恵にあずかるようだ。結論には納得してしまうが、いずれにせよガン登録がしっかりしておれば、これからもいろんな事がわかる事を教えてくれる。記録できる事はしっかりと記録するという当たり前の事が我が国ではどの程度で来ているのか、調べていく必要があると思った。
ScienceNewsLineにI型糖尿病の抗CD2抗体(シプリズマブ)臨床治験の中間報告と、メドトロニクスのセンサー付きインシュリンポンプの治験の記事が掲載された。
免疫治療は http://www.sciencenewsline.com/articles/2013092318380029.html、
センサー付きポンプは、http://www.sciencenewsline.com/articles/2013092422100013.html
残念ながら、Lancet Diabetes and Endocrinologyに発表されたシプリズマブの論文は手に入らず読めていないが、記事を見る限りかなり有望そうだ。このため1年目で予定を早めて論文にしている。実際の治験は2年目をエンドポイントとしているので、期待できるのではと思う。
一方、オーストラリアで行われたセンサー付きインシュリンポンプの治験はJAMAに発表され、原文を読んだ。低血糖発作が減るかどうかを調べており、データで見る限りこれも大きな改善が見られている。
前回の記事と併せて、一度勉強会をして動画に撮る予定だ。IDMMネットワークの井上さんも参加を表明していただいているので、準備を急ぐ。
オリジナル記事は次のURLを参照してください。
http://mainichi.jp/select/news/20130924k0000e040162000c.html
HTLV-1は成人T細胞白血病を引き起こすレトロビールスで、病気の発見からウイルスの発見までほとんど日本で高月清先生を中心とする研究グループが進めた。また、今回の研究対象であるHTLV-1関連脊髄症は鹿児島大学の納光弘先生達によって発見された慢性の脊髄症で日本には3000人ぐらいの患者さんがおられることがわかっている。今回の聖マリアンナ大山野さん達の仕事は、この患者さんの脊髄液に白血球を惹きつける分子ケモカインの一つCXCL10が上昇していることを見つけ、次に試験管内の実験で、この上昇が、HTLV-1に感染したリンパ球が脳脊髄の中のアストロサイトと呼ばれる細胞に働きかけた結果である可能性を示した仕事だ。慢性神経炎症の治療として、リンパ球の脳脊髄内への移動を抑制する方法が注目されており、私たちのホームページでも京大薬学部発のフィンゴリモドという薬が多発性硬化症の特効薬として使われていることを紹介した。また、日本を始め世界中で、ケモカインやその受容体に対する抗体の効果を調べる臨床試験が行われており、対象の中には成人T細胞白血病も含まれている。とすると、この仕事も一つの治療の可能性を示す研究として考えられる。しかし、ここで述べられたメカニズムが実際に身体の中でもそうなのかはさらに検討を要する。また、場所が脳脊髄内であることも考えると、この結果が治療として確かめられるまでには時間がかかるだろう。
さて、毎日新聞の斉藤さんの記事だが、はっきり言って誇大広告的だ。論文についての紹介は、最後の部分を除いて問題はない。よくまとまっている。しかし、脊髄炎症のメカニズムについては、未だ想像段階であることがわかるよう記事にすべきだろう。そして最大の問題は最後の締めの文章で、「患者21人の血液に、CXCL10の反応を邪魔する物質を投与したところ、脊髄へ引き寄せられる免疫細胞の数が減り、炎症の慢性化を抑えることにも成功した」と書いたのは完全に間違っている。この研究での抗体の実験は全部試験管内の話で、あたかも患者さんの症状が軽減するかのような書き方をするのは戒めるべきだろう。可能性がないと言っているわけではない。ただ、本当にこの考えを治療に結びつけるには、多分長い臨床研究が必要だ。もし、この記事が他の情報に基づいて書かれたのなら、それについて明確に示すべきだろう。患者さんはいつも、明日新しい治療法が発表される可能性を待ち望んでいる。希望を示しても、混乱のないようにするのが最も重要だ。
この仕事は日経と朝日で報道された。元の記事は次のURLを参照してください。
日経:http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20130924&n…
朝日:http://www.asahi.com/national/update/0923/TKY201309230129.html
21番染色体を余分に持つダウン症では発達障害を始め様々な症状が出てくる。さらに、ガンに関しては大変特徴的な症状を示すことが知られている。不思議なことに、多くの固形ガンの発症は、正常に比べると低い。ところが、TAMと呼ばれる一過性の血液細胞の異常増殖が見られ、その中から悪性の白血病が発症する。一過性の異常増殖では、赤血球を作るのに必須のGATA1と言う遺伝子に突然変異があることはわかっていたが、なぜ染色体異常がGATA1の変異、及び一過性の細胞増殖異常へと発展するのか?そのメカニズムは?また、一過性の異常が白血病へと進むのか?理解できていないことが多い。今回の仕事は、ガンのゲノムの最近の仕事には必ず登場すると言っていい京大の小川さんと、弘前大学の伊藤さんとの共同研究で、おそらく伊藤さんチームが診ている患者さんの白血病細胞を小川さんのチームがゲノム解析した共同研究だろう。この研究により、TAM及びダウン症に併発した白血病では必ずGATA1の突然変異があること、しかし、白血病ではそれ以外に染色体同士の接着や修復に関わるコヒーシンと呼ばれる分子複合体の成分分子を中心に、突然変異が積み重なっている事がわかった。勿論今回の研究では、なぜこれらの遺伝子異常がダウン症に併発する白血病で異常に高いのか、この異常がどう白血病を引き起こすのかなどは全くわからない。また、なぜ21番の染色体を余分に持つと、GATA1突然変異が高率に起こり、TAMが起こってくるのかもわからない。これは、ゲノム解析からわかる事の限界で、病気の本当の原因を理解するためには、マウスなどの動物モデルや、今注目の患者さんからのiPSを用いた仕事が必要だろう。
この仕事は朝日新聞でも報道された。阿部記者による記事で、「ダウン症児に多い白血病、原因遺伝子発見」というものだ。見出しはほぼ同じ、内容は日経より詳しい。しかし、ゲノム解析の限界、機能研究の必要性を考えると、ゲノム解析イコール原因遺伝子発見として済まさないで、今後はもう少し分野全体を見渡す記事を書いてほしいなと感じた。さらに、小川さんは、朝日の辻記者が以前紹介したように、ダウン症との関係がないタイプの白血病のゲノムを同じ方法で解析して論文を発表している。小川さんの仕事だけを読んでも、ダウン症の白血病はずいぶん違う印象がある。21番染色体の異常と、GATA1遺伝子の異常が引き金だという特殊性があるからだろう。本当はこの特殊性が面白い。これについてもう少し突っ込んでもいいのではと感じた。例えば、前回小児、成人両方の白血病でよく見られたSETBP1の変異についての言及があってもよかった。また、GATA1の異常は全ての血液異常増殖に見つかることは既によく知られている。今回の発見と区別することが重要だ。最後に、朝日の阿部記者はGATA1遺伝子を「血小板を作る細胞でよく働く」としているが、専門家からみると違和感がある。GATA1は何より赤血球を作るのに必須の遺伝子だ。ただ要求しすぎかもしれない。