9月27日 ニキビダニの居候戦略(10月11日号 Immunity 掲載論文)
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9月27日 ニキビダニの居候戦略(10月11日号 Immunity 掲載論文)

2022年9月27日
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自分自身の育ってきた時代と比べ、清潔が当たり前になった現在の日本にどのぐらい分布しているのかは把握していないが、体長が0.2mmという小さなニキビダニが毛根に常在する人は珍しくなく、通常は何もしないのだが、免疫が低下したりすると、ひどいニキビになることが知られている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文はニキビダニの感染と自然免疫系の相互作用を調べた研究で、10月11日 Immunity に掲載される。タイトルは「Innate type 2 immunity controls hair follicle commensalism by Demodex mites(ニキビダニの毛根内での常在性を2型自然免疫が調節している)」だ。

ニキビダニの感染による炎症誘導と、自然免疫系の皮膚自体への効果が、あまり整理せずにそのまま示されるので、解りにくい論文だが、イエダニのように毛根に過適応してしまった生物とホストの関係の複雑性がよくわかる。

ヒトだけでなく、ニキビダニはマウスにも存在し、SPF 飼育環境ではほとんど存在しないが、たまにおそらくヒトから感染することがあり、特に免疫系をノックアウトしたマウスを飼育している場合、毛根で増殖し、炎症を起こすことが知られていた。

この研究では、IL4 受容体、IL13/IL4 など2型免疫に関わるサイトカインシグナルが欠損したマウス毛根でニキビダニが増殖し、それとともにT細胞の浸潤、及び自然免疫に関わる ILC2 が増加することを発見する。すなわち、2型免疫サイトカインが存在することで、ニキビダニの増殖が抑えられ、バランスの取れた常在性が実現している。

次にニキビダニの増殖と、浸潤細胞との関係を調べる目的で、リンパ球分化が起こらない Rag2 ノックアウトマウス及び、ICL2も欠損する Rag2 及び IL2γR がノックアウトされたマウスを比べると、Rag2 ノックアウトだけでは感染増強は強くないが、両方ノックアウトされると強い感染が起こることがわかった。すなわち、リンパ球の浸潤より、ILC2 の浸潤が感染を抑えていることが明らかになった。

以上のことから、ILC2 が産生するサイトカイン、特に IL13が 低下すると、ニキビダニの増殖を抑制できないことがわかる。そこで、2型サイトカインがニキビダニの増殖を抑える仕組みを探ったところ、キラーのように直接ニキビダニを殺すのではなく、2型サイトカインが毛根幹細胞の増殖を抑えることで、皮膚のバリア機能、及び修復機能が低下し、その結果毛根上部のニキビダニが毛根全体に拡がって生息し、炎症を起こすと結論している。

実際、ニキビダニとは無関係に、2型サイトカインは皮膚のバリア機能や毛根の再生を維持する過程に関わることも示している。

以上、ニキビダニと人間の関係は、片利共生と呼ばれるタイプで、ニキビダニにとって毛根以外での生存はあり得ないが、それ自身は人間に何の役にも立たない共生関係になる。はっきり言えば、ニキビダニは姿を現さない居候に徹することで人間と共生関係を続けられてきたのだが、そのためにあえて自分自身が増えすぎないよう、ホストの免疫系にお願いして、毛根にあるドアを閉めてもらって、自分を狭い空間に閉じこめている。この複雑なメカニズムを知ると、グロテスクなやつだが、なんとけなげなダニなんだろうと、愛着がわいてくる。

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9月26日 GoT(Genotyping of transcriptomics)を用いた血液クローン増殖の解析(9月22日 Nature Genetics オンライン掲載論文)

2022年9月26日
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正常に見えても、高齢者の血液の中に、ガンで見られる体細胞突然変異が入ったために、完全に正常な細胞より少し増殖性が高くなって、PCR などでクローン性増殖が頻発することがわかってきた。恐ろしいことに、このクローン増殖の程度は、強くその後の余命と関わっている。これまでの研究で、様々な遺伝子がクローナル増殖に関わることがわかっているが、中でも DNA メチル化に関わる DNMT3A や TET の変異の頻度が高い。

これまで、これらの遺伝子変異とクローン増殖の関係は変異を誘導したモデル動物を用いた研究が中心だったが、Genotyping of transcriptomics (GoT) と呼ばれる方法が2019年に報告され、変異を持つ細胞を single cell level で特定して、他の single cell データと統合することが可能になり、人間の血液を用いて変異による細胞学的変化を特定できるようになった。

今日紹介するコーネル大学からの論文は GoT を開発したグループが、この方法を用いて、DNMT3A変異による細胞学的変化を解析した論文で、9月22日 Nature Genetics にオンライン掲載された。タイトルは「Single-cell multi-omics of human clonal hematopoiesis reveals that DNMT3A R882 mutations perturb early progenitor states through selective hypomethylation(人間のクローン造血の単一細胞マルチオミックス形跡は、DNMT3A R882変異が未熟な前駆細胞を選択的低メチル化誘導により阻害することを明らかにした。)」だ。

Gotは2019年に発表されているのに全くキャッチできていなかった。これはバーコードを付加して single cell RNAsequencing 様サンプルを作成した後、次にプライマーを代えて機能の知りたい突然変異を持つ遺伝子を PCR 増幅して、single cell RNA データとともに、特定の遺伝子の突然変異を正確に特定して重ね合わせることが出来る技術で、かなり役に立ちそうな気がする。

この方法で、DNMT3aのR882変異を持つクローン増殖を示す血液を用いて、R882の作用を調べたのがこの研究だ。ただ、末梢血の分化しきった細胞では機能を調べるのが難しいので、患者さんに GCF を投与し、未熟細胞を末梢へと誘導した後の血液を使っている。

この結果、

  • 調べたケースでは、DNMT3a 変異は多能性幹細胞で既に起こっており、分化した細胞へと受け継がれている。
  • DNMT3a の変異があると、分化が白血球、巨核球へとバイアスがかかることが明らかになった。すなわち、メチル化の変化によりこの系統への分化が起こりやすくなっている。
  • 変異により、Myc とその標的遺伝子の発現変化を中心に、多くの遺伝子発現の変化が起こる。
  • DNAメチル化を single cell level で調べる方法に、single cell RNA seq と GoT を組みあわせ、ポリコム遺伝子を中心に選択的低メチル化が誘導され、これが転写に影響することが明らかになった。
  • DNMT3a 変異は CpGpT 配列のメチル化を低下させる。この配列は、MycやHIF などガン化に重要な遺伝子の結合配列に存在し、このメチル化が低下することが、これらの分子による増殖促進に関わる。

今日の論文紹介は、基本的に GoT についてなので、この程度の紹介で十分だろう。体細胞突然変異による前がん状態からガンまでの過程を追いかけるかなり有望な方法になるように思う。Single cell RNAseqは様々な副産物を生んでいる。

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9月25日 Williams 症候群の音程感知能力の神経生物学(9月23日 Cell オンライン掲載論文)

2022年9月25日
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ウイリアムズ症候群に関しては、自閉症の科学28(https://aasj.jp/news/autism-science/11104) 及び2019年4月の論文ウォッチ(https://aasj.jp/news/watch/10085)、さらには言語発生について述べた長い文章(https://aasj.jp/news/lifescience-current/10954)の中でも紹介しているので詳しいことはそちらを参照して欲しい。ざくっと説明すると、7番染色体の21遺伝子を含む大きな領域が片方の染色体から欠損した結果起こる発達障害だ。ただ、発達障害と言っても社会性は極めて高く、自閉症の正反対の性質を示す。言い換えると、他人への警戒がない。その結果、単語を音として吸収する能力が高く、言語の修復が社会性とリンクしていることがよくわかる。また、いくつかの研究で、ウイリアムズ症候群(WS)の子供達が高い比率で絶対音階を獲得できることが示されており、このピッチを聞き分ける能力も、単語を吸収する能力と関係していると考えられている。事実、WSでは皮質が退縮しているが、聴覚野は正常の大きさを保っている。

今日紹介する St.Jude 子供病院からの論文は、WSモデルマウスを用いて聴覚、特にピッチを区別する能力についての神経生理学を丹念に重ね、背景にある分子メカニスムを解析した力作で9月23日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Innate frequency-discrimination hyperacuity in Williams-Beuren syndrome mice(ウイリアムズ・ボイレン症候群モデルマウスの音の振幅を認識する内因的な高い能力)」だ。

学ぶところの多い論文だ。まず、マウスでピッチの感知力をどう評価するかについてだが、16.4Hzのバックグラウンドに、少しだけ振幅を変化させた音を重ね、その後で大きな音で脅かすという実験を行っている。すなわち、他の音が聞こえてくるとこれは何か違うぞと感じて身構えるため、大きな音に対する驚きが減る。ただ、バックグラウンドと同じ振幅の音では、変化を感じないので身構えない。これを使うと、バックグラウンドとの振幅の違いを認識できているかどうかがわかる。結果は、WSマウスでは、振幅が数%違うだけで完全に認識される。すなわち、元々ピッチを区別する能力が高いことが明らかになった。

後は、聴覚神経に電極を刺しシナプス活動を記録し、WSマウスでは抑制性神経の活動が高く、その結果シナプス活性が低下していること、そしてこの抑制性神経活動を低下させることでピッチ認識能力が正常マウスレベルに低下することを明らかにしている。

次に面白かったのは、ピッチの認識の差がどうして生まれるのかについての神経科学的検討だ。このために、聴覚野の個々の神経活動を記録しながら、その反応パターンがピッチの変化にどう関わっているのか、機械学習によって調べている。そして、機械学習させたデコーダーにより、脳がどのピッチを聞いているのかを正確に予測できるかを調べ、ピッチを感じるための条件を探っている。この結果、細胞のアンサンブルと言うより、細胞がどの程度長く反応しているかが重要な指標となることを明らかにしている。なるほどと納得する。

後は、抑制神経の過興奮の分子機構について、欠損部分に存在する21種類の遺伝子の中から、以前認知機能に関わると紹介した Gtf2i の発現量が低下することが、様々な電位作動性のチャンネルへの影響を持つ Vipr1 遺伝子の発現低下を誘導し、これが聴覚野の抑制性神経の興奮を高めていることを明らかにする。

事実、正常マウスで Vipr1 を抑えると、WSマウスと同じようなピッチ感知能力が生まれる。残念ながら、Vipr1 のリガンド自体は皮質にかなりあるようで抑制実験が出来ないため、正常マウスがピッチを獲得できるようになるかどうかは調べられていない。

WS の一つの症状だが、生理学から分子生物学まで徹底的に調べた力作で、人間の WS の聴覚能力についてよく説明できている。実際、人間でも WS では Vipr1 の発現は低下しているようだ。

WS とともに、私たちがピッチをどう区別しているのかもよくわかった。音は脳で聞くと言うが、聴力の落ちてきた私にとっても、なんとか脳を鍛えて音楽を聴くことの重要性がよくわかった。

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9月24日 ハンチントン病の新しい治療可能性(9月23日 Science 掲載論文)

2022年9月24日
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ハンチントン病(HD)は、ハンチンティン(HTT)遺伝子に挿入された長い CAG リピートにより、HTT が細胞内に蓄積し、変性を誘導することで起こる神経疾患だと考えられている。発症は遅く、中年期とされているので、HTT の蓄積を抑えることが治療の方向性と考えられてきた。

これに対し、今日紹介するフランス・グルノーブル大学からの論文は、変異型 HTT は蓄積とは別に発生期の神経ネットワーク形成異常に関わり、これを乳児期に治療することで発症そのものを抑えられる可能性を示した画期的研究で、9月23日号の Science に掲載された。タイトルは「Treating early postnatal circuit defect delays Huntington’s disease onset and pathology in mice(生後早期にハンチントン病の回路異常を治療することで発症を抑えられる)」だ。

この研究の全てはまだマウスを用いた実験段階なので、実際に人間へ応用できるかはさらに研究が必要だ。ただ、この研究では変異型 HTT は蓄積前でも、発生期の回路形成に何らかの役割があると考え、生後すぐから脳皮質の神経活動を詳しく調べている。

結果は読み通りで、生後1週間までは、脳細胞のグルタミン作動性シナプス活動が正常と比べ抑制されていることを観察している。また電流に対する興奮反応で見ると、最初は低下しているが、生後4−6日で正常より反応が高まることもわかった。これらの異常は成長とともに正常化するので見落とされる。また、HTT をノックアウトしたマウスでも同じような生後の神経活動の低下が見られるので、発生時回路形成では変異型 HTT も機能不全を持ち、この結果回路形成の異常が発生すると言える。

さらに、細胞学的にもこの変化を対応させることが出来る。すなわち、神経細胞の樹状突起の成熟がつよく抑えられ、正常化するのに3週間もかかることがわかる。

以上の生理学的解析から、生後のグルタミン酸作動性シナプスの機能を高めるために、生まれてから1週間 Ampakine を1日2回投与する実験を行っている。Ampakine は当然正常マウスのシナプス活性を高めてしまうため、様々な異常を引き起こす。一方、HD モデルマウスでは、この処理により、例えば乳児期の起き上がりテストでは無処置の正常マウスのレベルに改善する。

また、成長後様々な時期に運動機能や作業記憶をテストすると、無処置の正常マウスレベルに改善していることを確認している。これに対応して、シナプスの活動や脳構造を8ヶ月齢マウスで調べると、やはり正常に近いこともわかった。

結果は以上で、生後グルタミン作動性シナプスの活動が低下している時に、薬剤で高めることで、その後持続する回路正常化が実現し、その結果時間をおいて起こってくる HD の発症を抑える可能性が示された。

Ampakine は正常児に使えない薬剤なので、この結果を応用するには様々なハードルが待ち受けていると思うが、HD を単純にポリグルタミンの毒性だけで終わらせないことの重要性がよくわかった。

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9月23日 サッケード運動補正の複雑さ(9月14日 Nature オンライン掲載論文)

2022年9月23日
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私たちの目は常にせわしなく動いている。人間のように中心窩に中心視野が固定される場合は、視野を無意識に様々なポイントに向けて全体を合成することが必要だが、中心窩のない動物でもサッケードは起こることから、視覚の統合に重要な働きを持つと考えられている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、サッカードによる視覚認識調節回路を明らかにした研究で、なんとなく自己と外界の認識についての私の妄想をかき立ててくれた。三浦さんが筆頭著者とコレスポンデンスになっているので、ほぼ一人で研究が行われたと想像するが、複雑な現象を整理する神経科学者の能力にはいつも感心する。タイトルは「Distinguishing externally from saccade-induced motion in visual cortex(サッケードにより起こる視覚野の運動を外から区別する)」だ。

サッケードの研究は、目の動きと脳の反応を同時に記録する必要がある。この研究ではまず、自由に動いているマウスについて、これを記録して、サッケードとはどのような動きで、それが視覚野の神経活動にどう関わっているか調べている。驚くことに、マウスの頭に小型カメラを装着し、視覚野にクラスター電極を装着し、これを実現している。

この結果、サッケードは縦横斜め様々な方向に起こっていること、それぞれの神経反応は、サッケードの方向にリンクしていること、そして10ms前から反応が始まり、運動後にピークに達した後、興奮が続くという共通のパターンを持つことを明らかにしている。

次に同じ動物の頭を固定し、サッケードを調べると、ほとんど水平方向のサッケードに限局されるが、固定しないマウスとほとんど同じパターンの反応を示すことを確認している。

次に、サッケードに対する反応を、視覚的に像がずれることによる反応と、像のずれとは別に、目の運動から来る反応に分離を試みている。この時、頭を固定したマウスに水平に動く縞模様を見せて、サッカードと同じような動きを誘導したときの反応と、縞のない灰色の画面を見せたときの反応を比べるなど、工夫に満ちている(専門外なので、この工夫がオリジナルかどうかは判断できないが)。

これに加えて、目に神経遮断剤を注射して、完全に視覚による像のずれを感じなくなったマウスの反応を比べ、最終的にサッケードに対する一次視覚野の反応が、像のずれによる視覚的刺激と、視覚とは全く関係のない目の運動に関わる刺激に分離できることを明らかにしている。

こうしてサッケードの二つのルートを明らかにした上で、視覚野へのインプットルートを調べ、視床枕から視覚野へのインプットが、視覚非依存的で、目の運動の方向性にリンクしたサッケード運動に対する視覚野の反応を決めていることを明らかにしている。

サッケードは、目が動いて像がずれるのに、イメージがずれないサッケード抑制と関連して研究されてきた。当然この研究も、この問題を理解する上で大きな貢献をしている。特に視覚のずれを、さらに運動と統合させて、ずれるイメージを抑制して安定なイメージを浮き上がらせるという考えは、説得力がある。

ただ私自身としては、この論文を読んで、デビットヒュームが、いくら頑張っても自分の脳を認識できないことは、自己など存在しないと結論していることを思い出した。確かに、自分の脳は感じられない。しかし、自分の脳は常に自己性を身体から確認している。私たちの認識が視覚に大きく依存しているとすると、サッケードは自己を脳に伝える重要な仕組みである様に思う。ヒュームやデカルトを超えた自己の姿が脳科学にはある。

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9月22日 腸内細菌叢のエコロジー:2,モデル細菌叢をデザインする(9月15日 Cell オンライン掲載論文)

2022年9月22日
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昨日紹介した様に、私たちの腸内に形成された細菌叢は、便移植のような多様な細菌叢移植ですら外からの細菌を簡単に受け入れない安定性を保っている。このことを裏返せば、一つの細菌の効果を調べるためには、無菌動物にそれぞれの細菌を移植するノトビオティック実験が必要になる。

逆に、乳酸菌やビフィズス菌でも、健康な細菌叢に割って入るのは簡単でなく、ヨーグルトの効果について軽々に結論することがいかに困難かがわかる。とは言え、今後正しく菌を用いるプロバイオティックスの効果を調べる意味では、再現可能な複雑さを保った人工細菌叢を移植した動物を用いて、移植した細菌がその中で増殖、効果を示すかどうかを調べる実験系が必要になる。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、私たちの腸内細菌叢の機能をほぼ再現するためにはどの程度の複雑性を持つ細菌叢をデザインすればいいのか調べた研究で、9月15日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Design, construction, and in vivo augmentation of a complex gut microbiome(複雑な腸内細菌叢をデザインし、構成し、体内で増強する)」だ。

我々の腸内に存在する細菌の種類はおそらく1000種類に達するのではと思う。これらが複雑に絡み合って、外来細菌の侵入を許さない細菌叢を形成しているのだが、実際には何種類の細菌があれば、機能的に安定した細菌叢が実現するのか、よくわからない。結果、善玉菌とか悪玉菌とか、ここの細菌と細菌叢をごちゃ混ぜにした説明が横行することになる。

この研究では、まずデータベースからほとんどの人に存在することが確認される約100種類の細菌からスタートして、これを無菌動物に移植、その安定性を便移植での細菌の置き換わりを指標に調べ、必要とあれば100種類に新しい細菌種を加えて、もっと安定な細菌叢をデザインするという方法をとっている。

まず、100種類の細菌全てを一つの培地で培養すると、ほぼ全てが維持されるが、頻度は多い種類で数10%、少ない物では10万分の1まで大きく変化する。すなわち、菌同士の相互作用を通して、それぞれ一定の比率に落ち着く。勿論、一つのアミノ酸を培地から抜くだけで、一部の細菌の頻度は大きく変化するが、システインのような大きな影響のあるアミノ酸を除くと、それでも全体としては恒常性が維持される。

次にこの人工細菌叢を無菌マウスに移植し8週間待つと、さらに頻度はばらつくが、ほぼ全ての細菌が維持される。すなわち、体内でも同じ状態を保つ人工細菌叢が形成されたことになる。

このマウスに、今度は正常人の便を移植し、人工細菌叢構成種以外の細菌がどの程度増えてくるのかを調べると、なんと100種類でも外部からの異なる細菌の侵入を防ぐ性質を持つ細菌叢が形成されている。しかし、おおよそ10%程度は、外来の細菌が増殖することから、100種類で形成させた細菌叢にもまだ空白のニッチが存在し、そこに他の細菌が入り込む余地があることを示している。

そこで新しく増えた種類の中から22種類の細菌を選び、100種類に加えたバージョン2細菌叢を形成させて無菌マウスに移植すると、さらに外来の菌を受け入れない人工細菌叢が形成される。

このバージョン2を移植されたマウスと、便中の全ての細菌を移植したマウスを比べると、免疫細胞や代謝状態でほとんど差はなく、人工細菌叢でも機能的には自然の細菌叢に匹敵すると言える。

最後に、病原性大腸菌が侵入したときの防御力についても調べ、増殖を100倍以上抑える力があることを示している。これは重要で、人工細菌叢なので、一部の細菌だけを欠損させることは自由に行える。その結果、大腸菌の抵抗性に関わる主要な菌を特定することにも成功している。 以上が結果で、私は細菌叢の複雑性の意味を問うための重要な一歩が示されたと思う。今後は、これまで評価が難しかったプロバイオやプレバイオの実験も、客観性と再現性がさらに備わってくるように思う

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9月21日 腸内細菌叢のエコロジー:1、便移植のダイナミックス(9月15日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2022年9月21日
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腸内細菌叢研究が大きく飛躍したのは、次世代シークエンサーを用いて存在する細菌の種類を原理的には完璧にとられられる様になったからだ。最初、複雑な中にも特定の法則を抽出できるのではと研究が進んだが、結局存在する細菌の種類を決めるだけでは、なかなか決定的なことが言えないことがわかってきた。その結果、複雑な細菌叢の中でも重要な働きをしている細菌を特定して、その機能を深く追求する研究が、最も関心を引く分野になってきている。

それでも細菌叢の構成を決める法則性についての研究も続いている。というのも、例えば食品として摂取する細菌の動態を知る意味では、この方向の研究は欠かせない。そこで、最近発表されたこの方向性の研究を今日から2回に分けて紹介する。最初はドイツ ハイデルベルグにあるヨーロッパ分子生物学研究所からの論文で、便移植により導入された細菌叢とホストの細菌叢のダイナミックスを追いかけることで、細菌叢成立の法則を探った研究で、9月15日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Drivers and determinants of strain dynamics following fecal microbiota transplantation(便移植後の細菌種のダイナミックスを決めるドライバーと要因)」だ。

私のような素人にとって、移植した細菌に印がついていないのに、本当にホストとドナーの細菌叢のダイナミズムを把握できるのか、今も理解できているわけではないが、移植前のレシピエントとドナーの細菌叢を把握しておけば、統計学的には可能なようだ。いずれにせよ、膨大なデータで、図が複雑すぎて、本文のガイドがないと全く理解できないという状態なので、面白いと思った点を箇条書きにする。

  1. 便移植は、クロストリジウム感染症や、炎症性腸疾患の治療のために行われる。そして、全例ではないがかなりの確率で効果が見られることから、移植した細菌叢でレシピエント細菌叢が置き換わることが、治療効果だと考えられてきた。たしかに、クロストリジウム感染症では、ドナーの細菌叢への置き換わりが強く見られるが、それでも置き換わりの程度と、治療効果の相関はほとんどない。他の疾患ではこのことはもっと明らかで、単純にドナーにより置き換えられるので治療効果が得られているのではない。
  2. これまで、短鎖脂肪酸合成菌の拡大が、クロストリジウム感染症や炎症性腸疾患の成功と相関するとされてきたが、今回の1500例近い解析からは全く相関は見られなかった。
  3. 400近い変数を用いて推計学的に調べると、移植後の細菌叢の構成を予測できる要因のほとんどは、移植前のレシピエントの細菌叢の構成に依存しており、ドナーの細菌叢の構成の影響はほとんどない。クロストリジウム感染症でドナーの細菌叢への置き換わりがはっきりしているのは、感染症では細菌叢が正常から大きく変異している結果と考えられる。
  4. 一般的に健康的細菌叢は、変化しにくい恒常性を持っている。これは、いくつかのバクテリア種が、外からの細菌を排除するゲートキーパーの役割をしているからだが、ドナー側の同じ細菌がホストの菌の排除に関わることはほとんどない。
  5. ドナー側の細菌では、好気性菌は元々ホストで増殖しにくい。一方、ブチル合成菌やプロピオン酸合成菌は移植成功率が高い。
  6. 細菌種どうしで、ゲートキーパー菌との相性があり、相性が悪い菌は排除されやすい。
  7. 様々な変数を加えても、便移植の結果を予測する正確性は高くない。従って、便移植の結果を予測するためには、ウイルス、カビ、あるいはホストの免疫系など、さらに多くの要素を加えた機械学習が必要。

まだまだ紹介し切れていないと思うが、要するに細菌叢の構成を調べるだけでは、便移植の最終的なエコロジーと病気の治療効果は予測できないほど、細菌叢は複雑だという話になる。明日は、この複雑性をもう少し整理した人工細菌叢で代表させる話を紹介する。

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9月20日 行動習慣とゲノムの相関(9月7日 Nature Genetics オンライン掲載論文)

2022年9月20日
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私たち人間のゲノムは、大体1000塩基に一つは配列に違いが存在し、この多型の組みあわせの違いが、個人から民族までの遺伝的違いを形作っている。この解析が可能になったおかげで、病気や様々な身体的特徴と関連することが統計学的に示される多型が現在数多くリストされている。ただ、この HP で何度も紹介しているように、それぞれの多型が、それぞれの形質にどう関わるのか特定することは簡単ではない。中でも生活習慣に関わる多型の解析には、生活習慣そのものが大きく影響し、さらに習慣もゲノムの影響を受ける可能性がある。例えば、肺がんのリスク多型の中には、喫煙が習慣性になるゲノム多型が含まれる可能性が考えられる。

今日紹介する米国マウントサイナイ医科大学と、スウェーデンウプサラ大学を中心に200近い研究機関が集まって発表した論文は、肥満や高脂血症と言ったメタボに直結する行動習慣と相関する1塩基多型(SNP)を調べた研究で、9月7日 Nature Genetics にオンライン掲載された。タイトルは「Genome-wide association analyses of physical activity and sedentary behavior provide insights into underlying mechanisms and roles in disease prevention(運動と座って動かない行動についてのゲノムワイド相関研究は行動の背景のメカニズムと病気予防に示唆を与える)」だ。

UKバイオバンクをはじめとして多くのデータが蓄積されることで、このような研究が可能になっている。この研究では、メタボに関わる習慣を調べるため、休日に強めの運動をするか(MVPA)? 休日は座ってテレビを見たりパソコンに向かっていることが多いか(LST)? 仕事中はほとんど座っているか? 通勤は車か? の4つの質問についての自己申告による答えを相関させている。

この分野に詳しくないと、行動とゲノムの相関と聞いて奇異に思われるとおもう。ただ、100万人近いデータがあると、どんな行動調査を取り上げても、相関のある SNP は出てくるものだ。実際この研究で、4つの質問に関して99の SNP がリストされている。後は、統計学的に有意かどうか、遺伝子発現パターンとの相関、他の形質との関係などを重ねて、その相関の意味を探っていくことになる。

次に、他の形質との相関を調べると、LST が低い(座っている時間が少ない)ケースや、MVPA が高い(よく運動する)ケースでは、BMI や高脂血症リスクが低いことがわかる。さらに、MVPA の高い人は、心臓病のリスクも低下している。

なるほどと思うが、この相関は、行動が先か、身体的性質が先かが問題になる。これについてはどちらが原因かを調べるソフトがあるようで、例えば BMI と LST で言うと両者が密接に関わる以上に、白黒をつけることは難しいが、傾向としては今回リストされた SNP はまず LST と相関し、その結果として BMI が来ると結論している。

行動に関わる遺伝子なので、当然脳神経系に関わる遺伝子を想像するが、単純ではないようだ。勿論ドーパミン神経に関わる遺伝子と MVPA との相関、ご褒美回路に関わる遺伝子、さらには網膜や視覚野に関わる遺伝子などがリストされ、なるほどと思えるが、面白いことに APOE や αアクチンのような、脳とは無関係の遺伝子がリストされてきたため、この2種類の多型についてさらに詳しく調べている。

まずアルツハイマー病との相関が知られている APOE の SNP、rs439538がCで、LSTが低いことは有意の相関が存在する。なぜ座らずに活動的な形質とアルツハイマーリスクが一致するかはわからないが、本当なら面白い。

さらに、休日の活動性と相関する αアクチンの多型はコーディング領域にあるため、さらに詳しく調べ、なんと行動的なヒトはアクチンの構造がフレキシブルで、運動によるアクチンのストレスが少ないことを示している。これが本当だとすると、筋肉の機能に合わせて活動性が上昇することになり、よく出来た話だ。

以上、この結果だけで何か結論するのは早い気がするが、行動とゲノムというかけ離れた領域を結びつける地道な研究が今後も重要だ。

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9月19日 自立生命を細胞由来成分から再構成する(9月14日 Nature オンライン掲載論文)

2022年9月19日
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引退してからは、生物が存在しなかった地球に生命が誕生する Abiogenesis 過程や、全く新しいコミュニケーション手段としての言語の誕生過程など、創発と呼ばれるプロセスを自分なりに理解したいと思い、論文や本を集中的に勉強し、自分なりに納得いく説明ができるようになった。そればかりか、いくつかの大学ではこれらのテーマについて講義をする機会があり、若い人たちとこの問題について意見交流を続けている。

しかし、この分野の文献を漁り始めた10年前と比べると、Abiogenesis や言語誕生に関する研究は注目度も高くなり、多くのトップジャーナルに掲載されるようになった。当然のことながらこの大きな問題へのアプローチは多岐にわたっており、どれが Abiogenesis 研究に関連するかなど判断は難しい。

比較的歴史のある Abiogenesis 研究の一つの方向は、生物を一度解体して、再構成するアプローチで、例えばマイコプラズマのゲノムを入れ替えるといった研究もこれに入る。

おそらくこの中でも中心は、生物過程を人工的に合成した細胞様のコアセルベートの中で再構成する分野だと思うが、複雑な生命維持システムを閉じ込めること自体が難しい課題として立ちはだかる。今日紹介する英国ブリストル大学からの論文は、創意の溢れる方法で、バクテリアを解体して得られる様々な生命維持システムをコアセルベートの中に閉じ込めることに成功した画期的研究で、9月14日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Living material assembly of bacteriogenic protocells(バクテリア合成に向けた原子細胞に生命分子を集める)」だ。

生命分子をバクテリアから集める実験は、細胞を一度完全に溶かして構成分子のみにするところからスタートするが、これを細胞レベルの限られた空間で実現できないと、分子が分散して、機能再構成は不可能になる。すなわち、勝負はこの問題の解決する方法に尽きるが、この研究ではコアセルベートの中に前もって生きた細菌を取り込んだ後、そこで細菌を分解して成分を閉じ込める方法を開発して、この課題を克服している。言ってみれば、普通の逆の方向性で細胞成分をコアセルベートに閉じ込めるのに成功している。

説明すると、diallyldimethylammonium chloride と ATP からできたカプセルを用いて、大腸菌のコロニーと、緑膿菌のコロニーを同時に混合すると、不思議なことに、大腸菌はコアセルベートの内部に緑膿菌が外部に分離したコアセルベートを30%ぐらいの確率で得ることができる。

このカプセルを、今度はライソゾームや細胞膜に穴を開けるメリチンなどで処理し、最後に低浸透圧にさらすことで、生きた細胞を完全に分解すると、膜は緑膿菌から、細胞質は主に大腸菌に由来する分子を持つ、独立したコアセルベートが完成する。

この中には大腸菌と同じ分子が一定程度含まれているので、様々な酵素活性を細胞質内で検出できる。しかし基本的にはほとんどの分子が均質に分布した分子スープ状態になっている。

この中の核酸を凝集させて核のような構造を取らせるため、このグループはなんと相分離技術を用いている。すなわち、ヒストンと CM-デキストランを加えると、核酸が相分離して凝集した核構造を作ることができる。

さらにここに G-アクチンを加えると、一種の細胞骨格が形成されるとともに、コアセルベートの中に水を含んだ小胞を形成させることができる。

この中でも一定の ATP 合成は短期間観察できるが、これだけでは形態などシステムの維持は難しい。そこでミトコンドリアの代わりに、生きた大腸菌をコアセルベートの中に取り込ませると、持続的 ATP が観察され、様々な分子の合成が続く。このことは、時間と共に細胞膜がしっかりして、大きな分子を通さなくなることから確認できる。

こうして順番に構造を獲得させた細胞は、48時間以内にアメーバ状のコアセルベートへと展開し、分裂はしないが細胞自体は成長し、エネルギー源の大腸菌も増え、少なくとも1週間以上形態を維持することができる。

結果は以上で、最終的には雑誌を手に取って、作りあげられた細胞の形態や構造を見てほしい。しかし、分解した分子から生命を再構築するという目的に向けて、大きな一歩になるのではとワクワクしている。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月18日 細菌、バイオフィルム、ホスト細胞の全てに働く難治性皮膚潰瘍薬(9月14日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2022年9月18日
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難治性の皮膚潰瘍は現代医学が取り組むべき重要な課題だ。今は元気にしておられるが、痛覚がないため小さな皮膚の傷が、難治性の皮膚潰瘍に発展して、外科治療のために何度も入院を余儀なくされた、脊髄損傷を持つ友人のFさんの戦いを見ていて、医学の限界をもどかしく感じる。

ひょっとしたらこの課題がかなりの程度解決できるのではないかと思わせてくれる論文が、ウェールズのカーディフ大学から報告された。タイトルは「Topical, immunomodulatory epoxy-tiglianes induce biofilm disruption and healing in acute and chronic skin wounds(局所的免疫作用を持つエポキシ・チグリアンは急性と慢性の皮膚傷害でバイオフィルムを破壊と損傷治癒を誘導する)」で、9月14日 Science Translational Medicine に掲載された。

この8月、私たちも自然を満喫したオーストラリア クィーンズランド・アサートン高原に生息する植物のエキスをスクリーニングしていた Ecobiotics 社は、野生の有袋類が嫌うFontaineaの種から、塗るだけで腫瘍の増殖を抑制できる成分、EBC-46 を発見した。現在この薬剤は、PKC 阻害活性があるとして、犬の腫瘍に対する塗り薬として認可され、使われている。

犬についての治験が進む中、EBC-46 が炎症を促進して皮膚の損傷治癒を促進するという発見が行われ、難治性の皮膚潰瘍にも利用できないか調べたのがこの研究だ。

難治性皮膚潰瘍で問題になるのは、感染と、抗生物質の効果を下げるバイオフィルムだが、この研究では、EBC-46 と、側鎖を変化させた EBC-1013 について、抗菌活性、バイオフィルムに対する作用などを調べている。最終的には、EBC-1013 を臨床応用に移すように思えるので、ここでは EBC-1013 についてのみ結果を紹介する。

EBC-1013 は、黄色ブドウ球菌を含むグラム陰性菌の細胞壁に突き刺さって、膜の機能を阻害し、一定程度の殺菌効果と、細菌の代謝変化を促す。

さらに重要なのは、損傷部位に形成されているバイオフィルムに侵入して、バイオフィルムの機能を抑制する点で、フィルム内のナノパーティクルの移動を測定する方法でこれを確かめている。

以上のように、細菌側では一定程度の殺菌効果と、バイオフィルムの機能阻害を誘導できる EBC-1013 は、損傷部位の様々な細胞にも働いて、炎症を高めると同時に、ケラチノサイトに働いて損傷治癒を高める効果があることを確かめている。

実際には、バイオフィルム障害から考えると、逆効果になると思われる白血球のアポトーシス誘導など、多彩な効果を示すため、一つ一つデミルと複雑すぎるが、全体としてみると傷を治す方向に強く引っ張る。

この効果は、牛の皮膚に焼き印を押したときの損傷治癒スピードを高めることだけでなく、糖尿病マウスでの難治性の皮膚損傷が、コントロールと比べて1ヶ月で完全に治ることからも確かめている。

以上が結果で、あまりにも多彩な効果があるため、その作用機序を特定するのは難しいが、細菌に対する直接作用、バイオフィルムに対する作用、そして損傷部位のホスト細胞に対する作用を併せ持っていることは間違いなく、これが難治性皮膚潰瘍を抑えてくれる。現在治験が進んでいるらしいが、今後は皮膚だけでなく、口腔、歯科領域にも拡がる予感がする。

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