1月4日 血液のクローン性増殖を防ぐ遺伝子の発見(1月1日 Science 掲載論文)
AASJホームページ > 2026年 > 1月 > 4日

1月4日 血液のクローン性増殖を防ぐ遺伝子の発見(1月1日 Science 掲載論文)

2026年1月4日
SNSシェア

血液幹細胞の一部が普通より少し高い増殖能を獲得すると、クローン性造血という状態が発生する。白血病のように、他の正常クローンを完全に圧迫するほどではないが、この状態に他の遺伝的あるいはエピジェネティックな変化が付け加わると、骨髄異形成症候群や白血病へと発展する。クローン性造血を誘導する遺伝子変異も研究が進んでおり、JAK2のように直接増殖に関わる変異もあるが、DNMT3a、TET2、ASXL1のようなエピジェネティック過程、即ち結果として様々な遺伝子の発現を変化させる変異によるケースが多い。

今日紹介するハーバード大学とスローンケッタリングガン研究所からの論文は、UKバイオバンクの大規模データを用いて、クローン性造血を抑制する一塩基変異 (SNP) を特定し、クローン性造血を抑えるメカニズムをヒト血液幹細胞を用いて示した研究で、クローン性増殖を考える上でも重要な研究だ。タイトルは「Inherited resilience to clonal hematopoiesis by modifying stem cell RNA regulation(クローン性造血に対する遺伝的耐性は幹細胞のRNA調節を変化させることで達成できる)」だ。

UKバイオバンク及び Geisinger health study に登録された人たちの中から5万人のクローン性増殖を示す人を特定し、発生率と相関する遺伝子座をゲノムチップで探索し、17番染色体のSNP、rs17834140を特定する。このSNPを持っていると、原因となる変異を問わずクローン性増殖を抑えることができる。

このSNPが存在するゲノム領域を調べると、MSI2遺伝子のイントロン領域にあることがわかり、クロマチンはオープンで血液幹細胞の転写に関わる様々な遺伝子が結合するエンハンサー領域であることがわかった。そしてこのSNPではGATA2結合が低下することも明らかになった。これはドンピシャの当たりで、MSI2 (Musashi-2) は慶応の岡野さんが若い時代にショウジョウバエで発見した幹細胞維持に関わることが知られているRNA結合タンパク質で、白血病のリスク遺伝子として知られていることから、クローン性造血と相関したことは納得できる。

MSI2ノックアウトマウスは筋肉、骨、生殖細胞の発達低下が見られるが、正常に生まれてくる。逆に、この研究の結果と同じで、欠損マウスは白血病にかかりにくいことが知られている。

人間の臍帯血幹細胞を用いてMSI2をノックアウトすると、幹細胞の自己再生が低下するが、完全に消失するわけではない。またSNPに相当するエンハンサー領域だけノックアウトすると、自己再生の低下の程度はずっと緩やかになり、2割程度の低下で終わる。

この研究ではこの遺伝子が過剰発現したヒト血液幹細胞と、MSIノックアウトやエンハンサーノックアウトで変化するRNAを調べ、MSI2結合RNAにより強く調節を受けている208種類のRNAを特定し、これらの多くが協調して血液幹細胞の自己再生を助けるネットワークを形成していることを明らかにしている。即ち、MSI2のエンハンサー機能異常により、このネットワーク全体の活性が少し低下することが、クローン造血を抑えていることを示唆している。

これを証明するため、ASXL1変異を導入したヒト幹細胞を作成し、これにMSI2ノックアウト、あるいはエンハンサーノックアウトを組み合わせる実験で、クローン性造血を強く抑えることを示している。また、ヒトでの実際の効果を確かめるため、クローン増殖が認められたヒトの5年後の状態を調べると、このSNPを持つ人ではクローン性造血の進展がほとんど見られないことも確認している。最後にマウスモデルも作成して、同じ結果が見られることを示している。

以上が結果で、自己再生を少し低下させることで正常の造血は維持したままクローン性造血を減らせること、また血液細胞の自己再生がRNAレベルの調節でマイルドに調節されていることが明らかになり、今後クローン性造血だけでなく、白血病発生を理解するにも重要な貢献だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
2026年1月
« 12月  
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031