1月8日 脊髄損傷修復を促進する新しい可能性(1月5日 Cell オンライン掲載論文)
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1月8日 脊髄損傷修復を促進する新しい可能性(1月5日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月8日
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神経損傷後の修復は起こりにくいと言われているが、末梢神経では修復が起こる。従って、末梢と中枢の神経を比較する研究はこれまでも行われてきた。

今日紹介する英国王立ロンドン大学からの論文は、後根神経と呼ばれる感覚神経が、末梢に投射する軸索は再生できるのに、中枢に投射する軸索が再生できないことを利用して、神経再生を支える新しい代謝経路を発見した研究で、1月5日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A glycolytic shunt via the pentose phosphate pathway is a metabolic checkpoint for nervous system sensory homeostasis and axonal regeneration(5単糖リン酸化経路を介した解糖系のシャントが感覚のホメオスターシスと軸索再生の神経システムチェックポイントとして働いている)」だ。

研究ではレーザーを当てて分子を蒸発させ質量分析を行う方法を用いて、後根神経の末梢投射軸索と中枢投射軸索を比較し、一つの重要な違いとしてペントースリン酸化経路が末梢投射軸索で強く発現している一方、中枢投射軸索では発現が弱いことを発見する。

五単糖リン酸化酵素 (PPP) はATPによるエネルギーのやりとりをスキップして、グルコースからNADPHや核酸を合成する重要な経路で、NADHやGSH合成により活性酸素の作用を抑え、またRNAやDNAの原料となるリボースを合成する働きがある。実際、末梢投射軸索では活性酸素が高いことから、末梢の軸索が刺激により常にストレスにさらされ活性酸素を発生させていることがわかる。これに対応するため、メカニカルストレスによりPPPが活性化されていることもわかった。

次にメカニカルストレスの極致と言える脊髄損傷で後根神経の代謝変化を調べ、同じように末梢投射軸索だけでPPPが活性化されることを発見する。この結果はPPP活性化が末梢投射軸索の再生能の基盤である可能性を示唆している。そこでグルコースからリン酸化リボースへの代謝経路の律速酵素トランスケトラーゼ (Tkt) 遺伝子をアデノ随伴ウイルスを用いて導入すると、活性酸素が抑えられ、核酸の合成が高まり、中枢側の軸索の再生も促進することを明らかにしている。

大事なのは、この作用は決して感覚神経にとどまらず、運動神経でも見られることがわかった。即ち、脳の運動野にTkt遺伝子を導入したあと脊髄を損傷すると、通常は切断部位から退縮する軸索が、切断部位へと軸索を伸ばしていることが観察される。

PPPは核酸の合成にも重要なので、次に核酸材料としてリボースだけを全身投与して脊髄損傷治癒を調べている。すると、Tkt遺伝子投与と同じ切断部位への軸索の投射が観察され、機能的にも回復を促進することを示している。

以上が結果で、リボース投与だけでは得られない効果も多いので、最終的にはTktを導入するという治療法が望ましいと思うが、活性酸素の抑制、リボースの合成だけでここまでの効果があるとすると、急性期の治療としては是非チャレンジする価値はあると思う。おそらくこの研究で調べられた以上の効果、例えばエピジェネティックな変化を誘導することも十分考えられる。しかし、軸索の方向性でこれほど代謝が変わっているメカニズムも是非知りたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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