1月25日 血小板による炎症増強の新機構(1月22日号Science掲載論文)
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1月25日 血小板による炎症増強の新機構(1月22日号Science掲載論文)

2026年1月25日
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コロナパンデミックで脚光を浴びたのが感染の重症化の問題で、サイトカインストームや炎症と血小板や凝固異常について多くの研究が行われ、個人的にも知識を新たにすることが出来た。おおよそのシナリオは、サイトカインによる強い炎症がおこると血小板が活性化、凝固系の異常による血管内皮障害と微小血栓、それによる出血傾向などが急速に進んで死に至るというものだ。

このように血小板の活性化が病態の中心にあるが、これまで知られていたのとは全く異なる血小板活性化様態があり、これが重症化に最も大きな影響を持つのではないかとする興味深い研究がドイツビュルツブルグ大学から1月22日号Scienceに発表された。タイトルは「Platelet-derived integrin- and tetraspanin-enriched tethers exacerbate severe inflammation(血小板由来のインテグリンとテトラスパミン分子が濃縮された紐状突起が重症炎症を促進する)」だ。

この研究はCovid-19で重症化した患者さんの末梢血標本を子細に眺め、血小板から長い紐状が飛び出していることに気づいたことに始まっている。最近では医師はほとんど血液像を眺めることはなくなり、検査室からの結果だけに依存するようになっているが、新しい発見は観察からしか生まれないことの重要な教訓だと思う。同じ紐上突起は敗血症患者さんにも見られる

さらに面白いことに、血小板から飛びだしている長いひもにはαIIbβ3インテグリンと、CD9トランスパミン(4回膜貫通型のシグナル分子)が集まっており、他のインテグリンや血小板表面分子は見られない。

αIIbβ3に対する抗体を加える実験から、この不思議な分布はαIIbβ3とCD9が急速に膜状を移動して、血小板から飛びだしている紐状突起に移動するが、他の分子は同じような移動が起こらないことに起因する。そして、遺伝子ノックアウトや阻害実験から、この紐状突起形成はこれまで知られている血小板活性化とは別の機構で起こっていることが明らかになった。

次に体内でこの反応を誘導するため、αIIbβ3抗体をマウスに投与すると、血小板の肝臓や脾臓への集積が起こり、血中から血小板が消失する。そして、臓器に蓄積した血小板では紐状突起の形成が見られる。この時血小板がマクロファージに取り込まれないようにすると血小板は血液に戻るが、驚くことにこの血小板から紐状突起物とともにαIIbβ3やCD9分子が消えている。即ち、臓器にαIIbβ3やCD9が濃縮した紐状突起物が残されることになる。この結果、血小板数は戻っても血小板機能が抑制されているため、出血傾向は維持される。

すなわち、炎症部位のフィブリンやvWFによりαIIbβ3が刺激されると血小板の紐状突起物形成が誘導され、この突起物が炎症部位のマクロファージや白血球、更にはvWF因子を発現する血管内皮に接着し、血小板本体がちぎれた後もその場に残り、場合によっては相手側の細胞膜と統合されることを示している。しかも残ったαIIbβ3を発現する紐状突起は炎症を促進し、血管の微小血栓を誘導することになる。実際重症の炎症では、患者さんの白血球には、このような紐状突起が接着しているのを見ることができる。そして、血小板でαIIbβ3の発現が低下する(即ち紐状突起物を形成してαIIbβ3を組織に残す)ほど、炎症の重症度が高まることも臨床例で確認している。

以上が主な結果で、血小板が飛び道具を出して、インテグリンを炎症部位に残すことで、炎症を増強するという全く新しい血小板活性化過程が明らかになった。正常では、炎症センサーとして働く血小板がそのまま残ると血栓ができてしまうので、紐状突起物だけを残して炎症を高めるのだと推察するが(本当かどうかはわからない)、重症化し始めると調節がきかずにとんでもないことになることがわかる。Covid-19と血小板や凝固系の関係がさらによく理解できた。

カテゴリ:論文ウォッチ
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