1月6日 脳へ移行できる酵素を用いたライソゾーム病治療(1月1日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)
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1月6日 脳へ移行できる酵素を用いたライソゾーム病治療(1月1日号 The New England Journal of Medicine 掲載論文)

2026年1月6日
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ライソゾーム病はムコ多糖症とも称され、ライソゾーム内に存在するグリコサミノグリカンを分解する酵素の欠損により起こり、分解できなかった物質が全身に沈着し、様々な臓器障害を起こす。欠損する酵素によって様々なタイプに分かれ、発見した人の名前がついている。現在可能な治療法は酵素補充療法で、リソゾームに選択的に取り込まれる酵素を投与することで、リソゾーム内の酵素活性を復活させることができる理にかなった極めて有効な方法だ。

しかしながら、リソゾーム病の多くは脳でもムコ多糖類蓄積が起こり神経を強く傷害するが、酵素は脳内に移行しないために、身体症状は改善しても中枢神経系には届かず、神経症状を改善することは出来ない。この問題を解決するためには、脳に遺伝子を導入する遺伝子治療と、脳血管関門を通れるように改変した酵素の開発が行われている。

今日紹介するノースカロライナ大学からの論文は、X染色体上にコードされている iduronate-2-sulfatase酵素の欠損を原因とするリソゾーム病・ハンター症候群に、トランスフェリン受容体結合ドメインを付加した酵素を静脈注射することで脳内へ移行できるようにした薬剤:tividenofusp alfa の第1/2相治験の報告で、1月1日 The New England Journal of Medicine に掲載された。タイトルは「An Intravenous Brain-Penetrant Enzyme Therapy for Mucopolysaccharidosis II(脳に移行する酵素を静脈注射するムコ多糖類症IIの治療)」だ。

tividenofusp alfa は、iduronate-2-sulfase (IDS) にヒト免疫グロブリンFcを結合させ、このFc部分にトランスフェリン受容体結合部位と、リソゾームに取り込まれる糖修飾を加えて合成されており、相物実験で中枢に取り込まれて神経細胞、アストロサイト、そしてミクログリアに取り込まれて、リソゾームの酵素活性を回復させることが確認されている。

これを最終的に43人の患者さん(平均年齢5歳)を対象に、様々な量を投与する治験を行っている。第1/2相治験なので、最も重要なポイントは安全性の確認になる。実際には5年投与し続けて経過を見ており、最終的に41人が治療を続けていることから、様々な副作用はなんとかマネージできることを示している。

最も頻度が高く深刻な副作用は、投与した酵素に対するアナフィラキシーで、既に酵素補充療法を受けた経験のある患者さんでは高い頻度で起こる。ただ、予想可能でステロイドをあらかじめ投与するなど対策を打っておけば、ほとんどの患者さんで治療を5年間継続できる。また、死亡例は観察されていない。

もう一つ予想できる副作用がトランスフェリン受容体をトランスフェリンと競合する結果、鉄の取り込みを抑え、鉄欠乏性貧血が生じることで、特に治療開始11週目までに25%の患者さんで貧血が起こる。

次は効果だが、全身だけでなく脳内の酵素活性が回復できたことが、脳脊髄液中の Heparan Sulfate が90%減少することからわかる。また、神経障害を示すニューロフィラメント分子の量も大幅に減少する。

この結果、適応行動、認知を調べる様々なスコアが改善し、また聴力の改善も見られることが明らかになり、確かに脳内で働くことが確認された。

結果は以上で、現役の頃開発が進んでいた脳血管関門を通す技術が実現しつつあることをがよくわかった。、幸い懸念された貧血やアナフィラキシーもマネージできそうなので、今後例えば抗アミロイド抗体など様々な分子を脳内に移行させる方法として定着できるのではと期待する。

(追記:愛知ガンセンターの堀尾先生から指摘を受けて、ほぼ同じ薬剤が日本のJCRにより開発され、日本では発売されていることを知りました。JCRは芦屋にある会社で、個人的にも以前は一緒に読書会をしたりしており、またBBBを通る独自のテクノロジーで抗体治療などに取り組んでいるのは知っていたのですが、IDSの脳内移行薬剤を開発していたのは知りませんでした。もしほとんど同じ結果なら、この論文がNEJMに採択されるのは少しフェアでない気がします。)

カテゴリ:論文ウォッチ
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