1月12日  tRNAを切断するCRISPR/Casの発見(1月7日 Nature オンライン掲載論文)
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1月12日 tRNAを切断するCRISPR/Casの発見(1月7日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月12日
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久しぶりに CRISPR/Cas についての論文を取り上げることにした。この領域の研究は今もアクティブで多くの論文が発表されているが、中心は臨床応用へ進んでいる。昨年には一人の酵素欠損患者さんを、誕生直後の遺伝子診断から lipid nanoparticle を用いた CRISPR/Cas 遺伝子導入で治療するという、究極のテーラーメイド医療が可能なことを示した画期的な論文が発表されている(N engl j med 392;22,2025)。また prime editor のような様々な操作が可能なシステムの開発も進んでいる。しかし、なんとなく新しさを感じることが出来なくて、この分野の紹介がおろそかになっていた。

今日紹介するドイツ・ヴュルツブルグにあるヘルムホルツ感染研究所からの論文は、なんとtRNAを特異標的として切断するCasが存在することを発見した研究で、1月7日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「RNA-triggered Cas12a3 cleaves tRNA tails to execute bacterial immunity(RNAにより活性化される Cas12a3 は tRNA の 3’tail を切断してバクテリアの免疫に関わる)」だ。

CRISPR はバクテリアのウイルスやプラスミドに対する免疫システムだが、備わっている核酸切断酵素は二本鎖DNA が標的になっている。しかし一本鎖DNAやRNAを切断できる Cas12 や Cas13 も存在し、様々な仕組で外来遺伝子に対応しているのがわかる。この研究ではDNAとRNAを切断するCas12ファミリーの系統樹の比較からDNA切断に必要な部位が存在しない分子に着目し、Cas12a3 と名付け、その標的の検索を始めている。

実験の詳細は全て省くが、Cas12a3 は

  • CRISPRシステムとしてウイルスに対する免疫システムとして働いている。
  • RNAは切断するが、一本鎖DNAは全く切断しない。
  • 標的はウイルスゲノムやmRNAではなく、ホストのtRNAで、3’tailに存在するACC配列を切り離す。

ことがわかった。即ち、侵入者を対象にするのではなく、侵入者の増殖を止めるために、自分のtRNAを切断して翻訳を止める。即ち、自己犠牲の下にウイルスの伝搬を防ぐシステムと言える。

元々バクテリアには、トキシン / アンチトキシン系と呼ばれる、ファージ感染により活性化されてtRNAを分解するシステムが存在し、tRNAのアンチコドンを認識してウイルスが必要とするtRNAをより選択的に分解することで、ウイルス増殖を抑えるシステムが存在している。ただ、これと比べると、Cas12a3 は選択性がなく、ほとんどのtRNAを標的にする。

クライオ電顕を使って様々な条件での Cas12a3 構造解析を行い、この分子がまずガイドRNAとの結合による構造変化の結果、tRNAをテール側からくわえ込んで ACCAtail を切断、そのtRNAは結果 Cas12a3 から離れるが、ACCAtail はそのまま残り、新しいtRNAを呼び込みやすくしていることを明らかにする。

tRNAを切断するCasが発見されただけでも面白いのだが、最後に応用として、この特異性を切断特異性の異なるCas13と組み合わせることで、3種類のRNA基質を標識として用いることが出来、3種類の異なるRNAの存在を同時に検出することが出来る、マルチプレックスなRNA検出系の開発が可能なことを示している。即ち、3種類のCasとそれぞれに対するRNA基質が共存する試験系が構築でき、ガイドさえ選べば例えばインフルエンザ、Covid-19、そしてRSウイルスを同時に検出することが可能になることを示している。

遺伝子編集もそうだが、CRISPRは臨床検査も大きく変化させていることがよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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