少し遅れたが、今年最初のジャーナルクラブは2月6日午後7時から開催する。タイトルは「アルツハイマー病治療開発の現状」にして、アルツハイマー病 (AD) 治療とて急速に実現可能性が高まってきたTauに対するモノクローナル抗体療法の総説が昨年暮れ Cell に掲載されていたので、この総説論文を中心に、最近面白いと思ったAD治療標的についての研究を紹介しようと思っている。例によって直接参加したい方は、連絡してほしい。
このとき是非取り上げたいと思っているのが、今日紹介する中国北京大学からの論文で、胆嚢や膵臓に働くコレシストキニン (CK) がなんと海馬でも働いていて、神経に発現している受容体B (CCKBR) を刺激すると、認知機能が改善するだけでなくアミロイドプラークなど病理まで改善することを明らかにし、さらにこれを刺激する薬剤まで開発した研究で、1月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Elucidating pathway-selective biased CCKBR agonism for Alzheimer’s disease treatment(アルツハイマー病治療のためのシグナル経路特異的CCKBRアゴニストを解明する)」だ。
脳内でCKは様々な場所に発現しているが、アミロイド蓄積が始まる嗅内皮質 (EC) で強く発現していることをヒントに、著者らはアミロイド蓄積が早期に起こるモデルマウスECでのCK発現を調べ、90%も低下していることを確認する。この低下自体が認知機能低下の原因かどうかを調べるため、CCKBRノックアウトマウスを用いてこのシグナルがないと認知機能が低下することを確認している。だとすると、アミロイドによる認知機能低下をCCKBR刺激によって改善できる可能性がでてくる。
ただ CCKBR刺激ペプチドCCK8は脳内に到達できないので、このシグナルの効果を神経細胞にアミロイドを加えて細胞死を誘導する培養実験系を用いて測定し、CCK8がこの効果を抑制できることを明らかにしている。さらに試験管内での刺激系を用いてCCK8刺激によるCCKBRシグナルが3種類のGタンパク質を介して伝達されることも確認する。その上でCCKBR刺激でADの認知機能が改善するかどうかは、脳にも到達する化合物を開発して調べるという大変な道を選んでいる。
CCKBR刺激薬開発の方向性としては、刺激剤として使われているCCK8ペプチドのうちの4ペプチド核として、これを有機化学的に改善して脳に到達する化合物をデザインする方法を選んでいる。このために構造解析を中心として、様々な実験が行われているが、なかなか高い力量を感じさせる。具体的には、CCK8とCCKBR、そして下流のGタンパク質の構造をクライオ電顕で詳しく調べ、それに基づいて骨格とする4ペプチドをスタートラインとして、CCKBRアゴニストとしての効果、脳への浸透などを至適化する改変を行い、最終的に4ペプチドにロイシンの異性体を加えた3r1と硫化メチオニンを加えたz44やLyz-866を開発している。どちらもCKKBR刺激アゴニストとして働くが、3r1はGaqを、z44やLyz-866はGaiを選択的に活性化する。
こうして出来た脳へ移行する化合物を用いてアミロイド蓄積マウスモデルを治療すると、Gaqを選択的に刺激する3r1が、認知機能改善だけでなくアミロイドプラーク形成やリン酸化Tsuの合成まで抑制できることがわかった。
最後にこの効果のメカニズムについて、CCKBR下流のGaqが活性化されると、Plbc4上昇、これに続くADAM10の上昇が誘導され、ADAM10によりアミロイド前駆体が無毒な形で切断されることにより、病因性のアミロイド形成を抑制することを示している。
最終的にCCKBR刺激からADAM10までの経路が解明できているわけではないが、ADAM10が上昇してアミロイドが無毒型へと切断されるメカニズムは新しい経路として期待できる。CKはもちろん消化管に対する作用が予想されるが、Gaq選択的アゴニストでこの副作用が軽減されるとしたら期待の薬剤になる可能性はある。さて、副作用にないAD治療薬として世に出せるか?
