2月5日 腸内での浸透圧変化を正確にモニターする細菌の開発(1月28日 Cell オンライン掲載論文)
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2月5日 腸内での浸透圧変化を正確にモニターする細菌の開発(1月28日 Cell オンライン掲載論文)

2026年2月5日
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腸内細菌叢の最近の研究動向を見ていると、細菌叢操作開発研究が大きなトレンドになっている気がする。これまでの操作というと、いわゆるプロバイオとよばれる自然から分離したビフィズス菌や乳酸菌などを摂取する経験的方法が中心だった。従って、細菌性下痢の治療にヨーグルトが処方されることはない。これに対して現在進んでいる細菌叢操作は、遺伝子改変した細菌を摂取させる、あるいは腸内の特定の細菌を狙って腸内で遺伝子操作する方法の開発で、導入する遺伝子により目的と効果を調整する、いわゆる合成生物学領域になる。

今日紹介するカナダ British Columbia大学からの論文は、腸内細菌叢の中でも数の多い Bacteroides を遺伝子操作して、浸透圧を感知する遺伝子発現系を開発した研究で、1月28日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A Bacteroides synthetic biology toolkit to build an in vivo malabsorption biosensor(腸での吸収不全のバイオセンサー目的のための Bacteroides 合成生物学ツールキット)」だ。

遺伝子発現回路を組み上げて思い通りの性能を持たせるためには、その生物での遺伝子発現についての深い知識とともに可能な回路を設計して試すことをいとわないオタク的性格が必要だと思う。この研究のほとんどは凝った回路設計に費やされている。

目的はタイトルにあるように吸収不全を早期に診断するバクテリアの開発だ。これまで遺伝子操作するバクテリアとしては、研究の進んだ大腸菌などが使われてきたが、接種後腸内に居つく確率が低いのが問題だった。そこで、最近操作に必要な様々なツールが揃ってきた Bacteroides をこの研究では操作対象にしている。実験を見ていると遺伝子導入から改変までかなり操作環境が整っていると言え、利用が拡大すると予想できる。

次に、吸収不全を診断するために、これによって起こる浸透圧変化を特異的に検出できる遺伝子発現回路を開発している。まずプロモーターがオンになると、標識遺伝子発現を抑制する回路がオンになるという二重回路を用いて、多くの合成プロモーターをスクリーニングし、安定で強いプロモータライブラリーを作成している。この研究ではその中の一つを用いているが、今後はツールとして利用できるライブラリーになる。

次はプロモータアッセー系を用いて、Bacteroides の持つストレス反応性のプロモータの中から、浸透圧に反応するプロモーターを試験管内培養を用いて選び出している。そしてこの中から、無菌マウスに摂取させる、その後PEGを摂取させて水を枯渇させ浸透圧変化を起こすマウス実験系で、腸内での浸透圧変化に反応するプロモーターを選んでいる。

ここからが凝り性の面目躍如といえる実験が続き、まずこの回路を Bacteroides のどの部分に入れると安定に性能を発揮するかを、相同組み換えで様々なゲノム領域に導入して調べている。バクテリアでは哺乳動物のような領域特異性はあまりないと思っていたが、実際には結構変化があり、この検討の重要性がわかる。

最後に、浸透圧への感度を上げるために、プロモーターが活性化されて抑制因子が発現したとき、この作用を競合する部位を同じ回路に組み込むことで、最終的に浸透圧の変化に正確で高いダイナミックレンジで可逆的に反応する遺伝子発現回路を完成させている。

最後にこの回路で蛍光タンパク質が発現する Bacteroides を、既に細菌叢が存在するマウスに摂取させ、急な浸透圧変化が腸内で起こったとき、それを検出できるか調べ、550mOsm / kgから650mOsm / kgへの変化により蛍光強度が50倍近く上昇するセンサーが完成したことを示している。また、腸内に摂取させるPEGの量を1%−7%へと変化させるときも、発現が濃度に比例して上昇する感度の高いセンサーであることを示している。

以上が結果で、現在のところGFP発現しか見ていないが、今後この回路をより治療的な遺伝子発現に用いることで、腸内環境に応じて様々な分子が分泌して細菌叢操作が可能になるのではと期待する。

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2月4日 AlphaGenome登場 (1月28日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月4日
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Deepmindを中心にGoogleの様々な研究所から発表されてきた生命科学に関する生成AIモデルの代表は2024年のノーベル賞を受賞したAlphaFoldだが、このブログでもいくつか紹介したように、実際には実に多くのモデルが発表されており、眺めてみるとゲノムを含むあらゆる情報を統合する明確な方向性が見え、医学医療が大きく変革させる流れを作ろうとしているのがわかる(主なものを表にまとめてみた)。

AIの独占禁止が重要な課題になっているが、これらが全てGoogleにつながっているのかと思うと、どうしていいのかわからなくなるほどだ。

そしてこの表に、ゲノムの意味を知るためのもう一つ大きなモデル、AlphaGenome が Google DeepMind から1月28日 Nature に発表された。タイトルは「Advancing regulatory variant effect prediction with AlphaGenome(遺伝子調節変異の効果を推測のための先進モデルAlphaGenome)」だ。

私たち世代は、ゲノム解読が進み、配列ベースで遺伝子発現調節を調べる様々なテクノロジーが進むのを驚きとともに体験した。おそらく今の研究者がノーザンブロッティングを使うことは組織学以外にはないだろう。RNAseq、ChipSeq、Atac-seq など考えてみると全て機能をゲノムへと集約させるために開発されている。AlphaGenomeではヒトやマウスで蓄積されたこれらのデータを学習させて、ゲノムの違いから生成される機能変化を予測する統合モデルを目指している。

基本的には表にも挙げた GoogleDeepmind によって開発された Enformer モデルと目的は同じだが、最も大きな違いは Enformer が100Kb前後のゲノムを入力していたのに対して、AlphaGenome は1Mbという大きな領域を入力して1塩基単位で比較できるようにしている点だ。この1Mbと言う大きな領域を一つのセンテンスとして扱うのは Arc研究所と NVIDIA が開発している Evo と同じで、畳み込みにより一塩基レベルで1Mbという大きな領域を比較出来るようにして、この1Mbについて、これまでの研究が蓄積してきたRNA-seq、Atac-seq、CAGE、 Chip-seq、Splice-site、更にはHiCのようなゲノム領域内の相互作用まで学習させている。

当然このモデルで予測されるのはゲノムの配列がどの細胞でどのように働いているかで、異なる細胞の発現データとして得られた5930ヒトゲノム配列と、1128マウスゲノム配列として学習されている。わかりやすく言うと、大きなDNA配列をB細胞で見たらどうか、グリア細胞で見たらどうかという見方が学習され、予測できるようにしている。従って、各細胞レベルで見ると、Atac-seq として読まれた部分だけでなく、読まれなかったクロマチンが閉じている部分は、文章の中でマスクされた単語と同じで、マスクされているということ自体が情報になっている。従って、各細胞種は系統樹のような形でアウトプットされてくる。

例えばFig6では、T細胞白血病のTAL1発現領域の変異を予測させる課題を行っているが、発現に関わる様々なモダリティーが合わさった細胞即ちT細胞白血病から、それぞれのモダリティーのアウトプットが異なる様々な細胞が系統樹のように示されてくる。その結果、特定のゲノム変異が白血病に関わること、また肝臓ガン(HepG2細胞)ではこの配列の読まれ方が全く異なることもわかる。

畳み込みとTransformerをアーキテクチャーとして持つ他のモデル、Enformer や Borzoi だけでなく、発現量、エンハンサー活性、クロマチン構造と言ったそれぞれの機能を調べるモデルと予測機能を比較しているが、ほぼ完勝(差は大きくないが)で、一つの配列から異なる細胞種での多くの情報をかなり予測できるようになっていることがわかる。また Zero shot で全く新しい配列を与えてスプライシングを予測させるタスクでも、かなり使えることがわかる。

このような高い性能が AlphaGenome で可能になった背景を調べるため、機能を落として同じ予想課題を行わせる実験を行い、1Mbのように長いDNA配列を学習させること、そして一度に様々なモダリティーを学習させることで予測効率が高まることも示している。

以上が結果で、今後自分が対応している患者さんのゲノムからどこまで診断上の重要な情報が得られるのか、それぞれの研究者が例えば病気リスクのGWAS解析の結果を AlphaGenome で調べることで、AlphaFold のように重要なツールになっていくのだと思う。

もう現役ではない私がこのような作業に関わることはない。それでもこの論文を読んで大きな興奮に襲われたのは、2024年にこのブログで紹介した同じく畳み込みとTransformerをアーキテクチャーとして使っているEvoモデル(https://aasj.jp/news/watch/25610)を念頭に読んでみたからだ。どちらも1MbのDNA入力を畳み込みで比較できるモデルだが、Evo1、Evo2は地球上の種の持つDNAをそのまま学習して、新しい配列をデザインすることを目的としている。即ち進化そのもので発生したコンテクストを学び新しいコンテクストを生成することを目的にしている。一方AlphaGenomeは同じDNA入力について、ゲノム解読以来の研究データを学習させ、新しい研究データを生成することを目指している。即ち人智によるゲノム理解を学習させている。とすると、この二つが統合される方向に行くのは自然の成り行きで、例えばEvo2にデザインされたイントロン配列をインプットして、新しい人工配列を生成させ、その意味をAlphaGenomeで調べることができるようになる。逆にAlphaGenomeで理解できている配列をEvo2にインプットしてよく似た機能を保つ新しい配列を生成できる。生物学が神の領域に近づくとよく言われるのはデザインが可能になったときだが、進化というデザインをコンピュータ上で新たに生成することが出来る時代がきたと思うと、これを目の当たりに出来た興奮は冷めない。

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2月3日 ペットショップのマウスは新生児のアレルギーを左右する環境問題を解く鍵になる(1月28日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月3日
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昨年12月17日、気になる臨床研究と題して少し変わった臨床研究を3題紹介したが、その中で米国の農家の子供と都会の子供を比較して、農家の子供がアナフィラキシーになりにくい原因を探ったロチェスター大学からのコホート研究を紹介した(https://aasj.jp/news/watch/27990)。この研究によると、農家の子供はアナフィラキシーを起こす抗原に対するトレランスを獲得しているわけではなく、逆に外来抗原に対するtype I型の免疫反応メモリーを早くから確立し、特にIgG4抗体反応が誘導されるため、IgEの反応を抑制していると結論していた。研究自体は全く現象論的で、メカニズムは全く調べられていないが、人間の子供でメカニズムまで調べる難しさを考えると、現象だけでも十分面白いと Science Translational Medicine に採択されたのだろう。

今日紹介するイエール大学からの論文は、農家の子供と同じ現象をマウスで再現できる可能性を示した面白い研究で、1月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Environmentally driven immune imprinting protects against allergy(環境によるアレルギーを防ぐ免疫インプリンティング)」だ。

クリーンな環境で育つ都会の子供に対応するのは実験室のマウスで、specific pathogen free (SPF) マウスと呼ばれている。このマウスを汚い環境で成育させれば農家の子供に近いマウスを得られる可能性はあるが、実験室で汚い環境を作るのは言うほど簡単ではない。それなら、マウスをペットショップから買ってきたらいいのではと着想し、これが見事に当たったのがこの研究の全てだ。ペットショップのマウスは純系ではないので、SPFで非純系マウスを作成し、ペットショップで育ったマウスと比較している。

アナフィラキシーを誘導するアジュバントを用いて新生児期のマウスを免疫すると、驚くなかれペットショップマウスでは全くアナフィラキシーは起きない。活性化マスト細胞を用いてアナフィラキシー反応だけを誘導すると、どちらのマウスでもショックが起こるので、血管などの反応性では決してなく、ペットショップマウスはアナフィラキシーにつながるIgE反応が起こらないことがわかる。着想がズバリ当たったといえる。

農家の子供と同じで、用いた卵白アルブミン (OVA)に対する免疫反応が起こっていないわけではなく、IgG1、IgG2反応は強く起こっている。これ以上の追求はほとんど出来ていないが、著者らはこの結果から、IgGがIgEと抗原を競合することでアナフィラキシーが起こらない(=即ち農家の子供と同じようなメカニズムが働いている)と結論している。

ではペットショップマウスでOVAに対する免疫は新生児期にどのように成立するのか?人間の場合、外界や腸内細菌からの交叉抗原によって免役されている可能性が示唆されている。これを確かめるため、様々な鳥類のOVA由来のペプチドを作成し、OVAで免疫前と免疫後の抗体の反応性を調べると、SPFマウスは免疫前ではほとんどペプチドに対する反応が見られないが、免役すると様々なペプチドに対して反応する抗体ができていることがわかる。驚くことに、ペットショップマウスでは免疫前から様々なペプチドに対する抗体が存在することから、ペットショップの環境では新生児期にOVAと交叉する抗原にさらされている可能性が高い。

SPFで誘導したニワトリOVAに対するモノクローナル抗体を用いてペプチドに対する反応性を調べると、モノクローナル抗体なのに様々なペプチドに反応し、しかも反応の強いペプチドのほとんどはニワトリOVAと完全に一致しない。逆から見ると、様々な環境抗原によりOVAに対する抗体が形成される可能性が強く示唆されたことになる。

T細胞についても調べており、ペットショップマウスでは免疫しなくても、OVAやKLHといった抗原に対する反応を強く示し、これも交叉抗原により獲得免疫が刺激され、OVAやKLH等に対するT細胞免疫が誘導されることで、交叉性の抗体産生がHelpされることを示している。一方で、アナフィラキシーを誘導する強い免疫法で新生児を免疫すると、ペットショップマウスでも強いアナフィラキシー免疫を誘導できることを示し、新生児期抗原の刺激され方がアナフィラキシーを防げるかどうかを決めていることを示している。一方で、SPFマウスでもアジュバントを変えて強いtype I反応を誘導すると、アレルギーは防げる。まとめると、ペットショップマウスは、よくわからないメカニズムで新生児期に様々な交叉性抗原に対するType I免疫反応を誘導するよう条件付けられていることになる。

最後に、ピーナツなどの食物抗原を用いて、交叉反応性抗原がペットショップマウスでトレランスを誘導して、IgE産生刺激自体も弱めることを示しているが、Tregを調べたわけではなく、読んでいる我々を混乱させるだけで終わっている。

このように後半の実験は、現象論に現象論を重ねる研究スタイルで、例えばTreg誘導や反応性リンパ球のより詳しい解析が全く行われていない点で、問題が多い論文だと感じた。しかし、ペットショップマウスでアナフィラキシーが抑えられているという事実は疑いのない事実だと思う。すなわち、マウスで農家の子供の免疫系を再現できたことがこの研究の全てだと思う。

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2月2日 ガンの免疫チェックポイント治療に便細菌叢移植は間違いなく役に立つ(1月28日 Nature オンライン掲載論文)

2026年2月2日
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このブログで何回も紹介したように、腸内細菌叢が全身の免疫の調節機構として働き、この違いがガンのPD-1抗体などを用いるチェックポイントの行方を作用する一要因であることは多くの人が認めるところとなっている。そこで、健康人やチェックポイント治療が効果を示したケースから便を貰って、その細菌叢をカプセルに詰め、チェックポイント治療を受けようとしている患者さんに経口的に服用させる治験が我が国を始め各国で進んでおり、このブログでも2021年2月に紹介した(https://aasj.jp/news/watch/14946)。従って研究自体は珍しくないが、今週アップデートされた Nature Medicine にはなんと3報も論文が同時に紹介されていたので、詳細は飛ばして気になる点だけをまとめてみることにした。論文のタイトルは以下cut&pasteで並べておく。

最初の2編はカナダからの論文で、モントリオール大学、ウェスタン大学と責任著者は異なるが、健康人からの細菌叢をカプセルに入れ凍結した LND101 と名付けられた同じカプセルを用いている。3番目はイタリア サクロクオーレ カトリック大学からの論文で、チェックポイント治療を受けて長期間再発がなかった患者さんの便を、同じようにカプセル化し経口投与させている。

最初の論文は第二相治験で、対象は進行した非小細胞性肺ガン (NSCLC) でPD-1抗体単独治療を受ける患者さんと、進行した転移メラノーマで、PD-1とCTLA-4両方の抗体による治療を受ける患者さんだ。

後の2編の論文はいずれも進行腎臓ガン患者さんが対象だが、カナダの第一相治験はPD-1とCTLA-4両方の併用、イタリアの第二相治験はPD-1抗体単独治療に対する便移植の効果を調べている。

数は25人づつと少数だが、無作為化してプラシーボを用いた対照治験を行ったのが3番目の論文で、結果は progress free survival (PFS) がプラシーボ群9ヶ月に対して、便移植群24ヶ月と圧倒的な差が生まれている。また overall survival (OS) では、12ヶ月までほとんど差がないが、18ヶ月以降便移植のグループは36ヶ月まで生存しているのに、プラシーボ群ではコンスタントに死亡者が増えていっている。一方、カナダの2論文はいずれも対照を置かない観察研究になるが、客観的な改善が見られる率が NSCLC で80%。メラノーマで75%、腎臓ガンでは50%だが、2例でガンの消失を見ている。以上の結果を総合すると、細菌叢のドナーを選べば間違いなく便移植はチェックポイント治療を増強すると結論できる。

次に副作用だが、PD-1単独治療に便移植を組み合わせた治験では、カナダ、イタリアを問わず深刻な副作用はほとんど見られない。ところが、PD-1とCTLA-4の両方を併用したカナダの治験では、治療開始早期から20%にひどい下痢や腸炎が起こり、15%で心筋炎が発生、6割の患者さんに免疫抑制のステロイド治療が必要になっている。以上の結果から、PD-1 / CTLA-4抗体併用の場合は便移植は避けた方がいいという結果になる。

それぞれの研究では、便移植後の細菌叢について得られたゲノム配列全体の解析が行われているが、PD-1 / CTLA-4併用療法で発生した重症の心筋炎の場合、ドナー由来の様々な Prevotella種や Segatella copri が腸内で増えており、それと相関して血中のCD4T細胞が増殖していることがわかった。即ち、便移植を受けた腸内環境でドナー由来の Prevotella や Segatella copri が増殖しやすくなっていた場合、PD-1単独治療では問題ないが、PD-1 / CTLA-4併用療法の場合心筋炎などの重症副作用が出やすいという結果になる。

いずれにせよ、全ての研究で便移植がホストの細菌叢をリプログラム出来るという点で一致しており、例えば細菌の多様性は移植後上昇する。しかし、治療効果をポジティブに後押ししていることが特定できる菌は、イタリアの治験で2種類特定できているが、カナダの治験では明確に特定できない。一方で、いずれの研究でも、効果と逆相関する菌を特定するのには成功している。例えば、肺ガンとメラノーマのチェックポイント治療の場合、Enterocloster citroniae, E. lavalensis and Clostridium innocuum などが消失することは、治療効果と明確に相関する。即ち、便移植で細菌叢のバランスを変え、免疫抑制に関わる菌を消失させられるかが成功の鍵になっている。

以上が結果で、細菌叢との相関のためにはまだまだ詳しい検討が必要だが、便移植は間違いなくホストの細菌叢をリプログラムして、ガンのチェックポイント治療に大きな貢献が出来ることは明らかになったと言える。

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2月1日 AlloとXenoの予想外の違い(1月28日号  Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年2月1日
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2000年に始まった再生医学のミレニアムプロジェクトの目標の一つは、自己免疫反応によってインシュリンを分泌するβ細胞が欠損した1型糖尿病の患者さんに、多能性幹細胞から誘導した膵島細胞を移植して機能を回復させるというテーマだった。他の目標と比べると、競争相手も多く、必要な細胞数も多いため、最も難しい目標だと思っていたが、昨年京大のCiRAと京大病院が既に臨床治験を行っていると聞き、うれしい限りだ。ミレニアムプロジェクトの生みの親とも言える京大元総長の井村先生は、現在95歳で全く歳を感じさせないほどお元気で、この前京大芝蘭会館で一緒に昼食をとりながら、坂口さんや山中さんを擁した京大再生研設立を手始めに、ミレニアムプロジェクト、そして今回ノーベル化学賞の北川さんを擁したWPIプロジェクト発足と続いた様々な事業の話で盛り上がったが、特に再生医学が当時期待した以上の進展を見せてくれていることを喜んでおられた。

この京大の膵島移植で用いられたのが、ハイドロゲルファイバーに出来た膵島を閉じ込めて、他家由来の膵島でも免疫反応を誘導できないように隔離する方法だが、免疫隔離法については様々な方法が開発されている。

しかし、隔離できたから長期間安全にインシュリンを作ってくれると期待するのは早いようだ。今日紹介するMITからの論文は、隔離に使われるゲルに対する異物反応を抑え長期に細胞機能を維持できるシステムを開発したところ、Allo=他家の細胞はこの方法で長期間維持できるのに、Xeno=他種になると隔離していても強い免疫反応が起こることを示し、細胞を免疫から隔離する方法はまだまだ完全でないことを示した研究で、1月28日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Crystallized colony-stimulating factor-1 receptor inhibitor protects immunoisolated allo but not xeno transplants in primates(CSF-1受容体の結晶化した阻害剤は免疫隔離した他家細胞は守れるが他種になると守れない)」だ。

この研究では、サルiPS細胞由来膵島をハイドロゲルに閉じ込めて、膵島を破壊したサル(人間で言うとAlloになる)の腹腔内網囊に移植したとき、最初の50-60日目にはなんとか血中グルコースをコントロールできていても、100日たつとほとんど膵島の機能を果たさないことを示し、ハイドロゲルが必ずしも万能でないことを示している。この原因を探るために、1年後にゲルを取り出して中の細胞を調べると、案の定ゲル内の細胞はほとんど死んでいる。この失敗の原因は免疫隔離の失敗ではなく、ゲルに対する異物反応によりゲル内への様々な分子供給が滞るためであることを明らかにする。

異物反応は最初マクロファージにより引き金が引かれるので、マクロファージの活性化に関わるCSF-1受容体をブロックすることで、ハイドロゲルに対する異物反応を抑えられるのではないかと考えた。しかしCSF-1受容体阻害剤を投与し続けることは問題が多い。そこでCSF-1受容体阻害剤GW2580をまず結晶化して化合物がゆっくり放出されるようにし、この小さな結晶をゲルの中に膵島細胞と一緒に閉じ込め、膵島を破壊したサル網囊に移植した。すると今度は、ほぼ一年近く血中グルコースを正常に保ち、正常に機能することがわかった。1年後にゲルを取り出すと、ゲルに対する異物反応は抑えられており、阻害剤結晶も2%程度残存していること、そして閉じ込めた細胞の75%以上が生き残ってインシュリンを分泌していることがわかった。以上の結果、ゲル内のCSF-1受容体阻害剤結晶は、1年ぐらいは保持され異物反応を防いでくれることがわかる。京大ではハイドロゲルの線維が使われているが、もしこのような物理的方法で異物反応が防げるとしたら期待できる。いずれにせよ、ハイドロゲルを用いたAllo膵島移植の今後の課題が生体の異物反応抑制である事がよくわかる。

次に、免疫隔離と異物反応抑制が実現すれば、Xeno=即ち異なる種の膵島でも移植出来るかを調べている。このため、実際に患者さんに利用されたヒト膵島細胞をCSF-1受容体阻害剤結晶と一緒にハイドロゲルに閉じ込め、サルの網囊に移植している。ところが期待に反して、全くうまく働かない。1ヶ月後にゲルを取り出そうとすると基質化しており、組織から外れてこない。即ち同じゲルで異物反応を抑えているのに強い組織反応が起こって、中の細胞が死滅していることがわかった。

遺伝子発現や組織学的に調べると、自然免疫反応に加えて、CD4T細胞やBリンパ球の強い浸潤が起こっており、遺伝子発現のタイプから抗原に対する免疫反応が起こっていることがわかった。残念ながら、反応している抗原などについては全く解析できていないので、何故ゲル内の細胞が免疫反応を誘導するのかについては明らかでない。Xeno細胞からかなり強い抗原がゲル外に分泌されるのではと考察しているが、説得力はない。

以上、免疫隔離法を利用するときの異物反応の重要性と対処方法の開発は重要な貢献だが、明らかになったXenoとAlloの差は免疫学的には全く新しい課題として解いていく必要がある。

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1月31日 パーキンソン病の始まりは脳か腸か?(1月28日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月31日
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ずいぶん昔になるが、盲腸を切除した人ではパーキンソン病 (PD) のリスクが低下していることを発見し、PDの原因である異常シヌクレインが盲腸で合成されていることを示す論文を紹介したことがある(https://aasj.jp/news/watch/9180)。この仮説がどこまで受け入れられているのか定かではないが、PDの始まりが脳か腸かについてはPDでもホットな領域として研究が続いている。

今日紹介する University College London からの論文は、盲腸とは違って主に十二指腸の筋層に存在するマクロファージが異常シヌクレインの産生元と言うだけでなく、PDの炎症を腸から脳へと伝搬する役割も持ったヤバい細胞である事を示した研究で、1月28日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Intestinal macrophages modulate synucleinopathy along the gut–brain axis(腸内マクロファージはシヌクレン症を腸から脳への軸を介して変化させる)」だ。

この研究は動物実験を通して腸から脳への PD の伝搬可能性を確かめることにある。そのために、凝集しやすい変異をもつ αシヌクレインを神経やT細胞で発現し、典型的 PD 脳症状を発症するマウスを用いて、腸と脳でシヌクレインの蓄積を調べている。すると、筋層にあるマクロファージ (ME-MC) で早くから異常シヌクレインの蓄積が見られることを発見する。またその結果、マクロファージに取り囲まれた筋層の神経節の機能が阻害され、便通が低下することもわかった。即ち、神経由来の異常シヌクレインをマクロファージが取り込んで、神経異常を起こしていることになる。また異常シヌクレインを取り込むことで、オートファジーが亢進し、ME-MC も活性化される。

驚くのは ME-MC がシヌクレインを取り込むことで、神経から神経へとプリオンのように伝搬活性を持つ異常シヌクレインへと転換されるという結果で、PD の起源が ME-MC である可能性が強く示唆される。ただしこの変化は筋層の ME-MC だけで、腸管のマクロファージには全く見られない。

次は腸から脳へ異常シヌクレインが伝播するかを調べるため、神経間で伝搬する活性のあるヒトPD由来シヌクレイン線維を直接十二指腸に注入すると、早くから筋層の神経節に異常シヌクレインが蓄積し、その結果便通が低下する。そして3ヶ月目には脳幹にも異常シヌクレインが現れる。以上の結果から、十二指腸で形成される、あるいは吸収された異常シヌクレインは、脳内へと伝播することがわかる。

PD のほとんどは遺伝性が明確ではなく、誰がなってもおかしくない。これを孤発性と称しているが、腸管内のマクロファージが異常シヌクレインを外界の刺激や、あるいは何らかの間違いで作るとすると、孤発性の発症過程も理解できる可能性がある。

ここまででも十分面白いのだが、この研究では異常シヌクレインを取り込んだ ME-MC が MHC を強く発現してT細胞を刺激し、そのT細胞が脳へと移動することを、腸局所での凝ったT細胞ラベリング実験によって証明している。そして、T細胞抗原受容体のシークエンシング解析から、おそらく腸と脳内で同じ抗原に対する免疫性炎症を誘導して PD の神経細胞死を助長する可能性を示唆している。しかし、T細胞の役割を明確にする実験は行われていない。

最後に、CSF-1 受容体へのモノクローナル抗体とCCR2へのモノクローナル抗体を用いて ME-MC を比較的選択的に除去することが出来ることを示し、PD由来シヌクレイン線維を十二指腸に注射する実験で、ME-MC が除去されていると、PD病理が抑えられ、さらにT細胞の病変部位への浸潤も抑えられる事を示している。

以上が結果で、ME-MC が異常シヌクレインを形成して脳へと伝搬することと、腸内で抗原特異的炎症誘導T細胞を誘導して脳へと移行させる、2つの経路で PD 発症の主役になっていると結論している。ME-MC を抑制する方法が人間でも利用できると、意外なPD治療薬が誕生することになるが、さてどうなるか?もう少し様子を見たい。

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1月30日 強力な発ガン遺伝子として知られる転写因子MYCはRNAにも結合してRNA分解を促進する(1月22日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月30日
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このブログで何回も紹介してきたMYCは、様々な遺伝子の強力な転写の核として働き、ガン征圧にとっても最も重要な標的分子だが、エンハンサーに結合して転写を調節する以外の機能があるとは想像だにしなかった。

今日紹介するドイツビュルツブルグ大学からの論文は、同じMYCがRNAにも結合し転写が止まったRNAを分解して自然免疫の誘導を抑え、ガンを守る働きがあることを示す極めて面白い研究で、1月22日 Cell に掲載された。タイトルは「MYC binding to nascent RNA suppresses innate immune signaling by R-loop-derived RNA-DNA hybrids(MYCの転写されたばかりのRNAへの結合は、RNA-DNAループ形成による自然免疫刺激を抑制する)」だ。

1月25日に血液の観察からスタートした血小板の新しい活性化機構について紹介した論文もビュルツブルグ大学からだったが(https://aasj.jp/news/watch/28201)、ドイツが地方大学も高いレベルが維持できているのは学ぶ必要があると思う。

この研究以前にもMYCがRNAに結合していることは知られていたようで、この研究ではタンパク質とRNAを結合させた後、MYCに結合しているRNAを詳しく調べ、染色体にまだ結合している出来たばかりのRNAで、このRNAの合成が止まったりするストレスでDNAからRNAに移行して、特にイントロン部分に結合することを生化学的に明らかにしている。

RNAに結合したMYCはDNAに結合する時のMYC/MAXのような二量体ではなく、いくつも集まってRNAに結合しており、このMYCに結合しているタンパク質を調べると、MYCがハブとなってRNA分解する様々な分子が複合体を作っていることがわかる。

この研究のハイライトは、このような生化学的結果に基づき、多重化が出来ないためRNA結合が出来なくなったMYC変異分子を作成したことで、これによりMYCのRNA結合の生理的機能を明らかにすることが可能になった。

膵臓ガン細胞株の内因性MYCを抑えて、正常型MYCあるいはRNAに結合できない変異MYC (mMYC) を発現させると、細胞の増殖は特に変化がなく、転写因子としてのMYCは機能していることがわかる。しかし、これをマウスに移植すると、mMYCを発現したガン細胞の増殖は強く抑制されることがわかった。即ち、増殖は問題ないがホストの免疫機能を誘導して増殖が抑えられる。

このメカニズムを探ると、mMYCではNFkBやインターフェロンシグナル等の自然免疫経路の抑制が起こらない。すなわちmMYCでRNA分解ができないと、自然免疫を調節するTBK1が活性化されたままになり、NfkBやインターフェロン経路が抑制できないためであることがわかった。

最後に核酸を感知するTLR3と核酸の結合を調べることで、mMYCはRNA自体の結合よりはRNAとDNAがペアリングした2重鎖の結合を阻害していることがわかった。すなわち、RNAループに結合して分解することで、TLR3を刺激するRNA-DNAハイブリッドの形成を阻害し、自然免疫を免れていることがわかった。

以上が結果で、MYCのRNA結合から始めて、自然免疫抑制機能まで、面白く納得のシナリオが生まれている。ビュルツブルグは実家のあった大津市と姉妹都市だが、この規模の都市にある大学からトップジャーナルに相次いで論文が採択される高い研究力が示されていることは、科学立国を目指す我が国も、この高い研究力を支える政策面を学ぶ必要があると思う。

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1月29日 保育園で形作られる腸内細菌叢(1月21日 Nature オンライン掲載論文)

2026年1月29日
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人間の様々な集団について調べた腸内細菌叢の研究を読むと、人間の言語によく似ているなといつも思う。我々は言語を話す能力を持って生まれてくるが、言語自体は一生をかけて人とのつながりの中で学習し、自分の脳内に言語空間を形成する。とは言え、言語は我々の脳内の言語空間に閉じ込められるわけではなく、自分が発する言葉として社会に投げられる。そこで、他の構成員から投げられた言葉とともに、個人とは独立した大きな言語空間が形成される。それぞれは相互に作用し合い、刻々変化する。そして、流行語や優れた文章に見られるように、言語空間を形成するユニットは、個人から個人、個人から社会、社会から個人へと不断に行き来する。

言語と同じで細菌叢も、最初は両親兄弟など家族を中心に、その後個人が経験する様々な社会から獲得され、個人の細菌叢として発達する。もちろん細菌叢が維持される社会の場所があるわけではないが、多くの人がコミュニケーションを通して影響力のある細菌叢が形成され、これは地域や民族により異なる。

少し前置きが長くなったが、細菌叢の個人と社会のコミュニケーションによる発達や変化について研究をしたのが今日紹介するイタリア・トレノ大学からの論文で、1月21日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Baby-to-baby strain transmission shapes the developing gut microbiome(子供から子供の系統の移行が発達中の腸内細菌叢を形成する)」だ。

研究では、生後1年目から同じ保育園に預けられた43人の新生児を、生後1年の家庭内での育児期間に1回、その後保育園に預けられている間に40回程度(途中2回の休みにそれぞれ1回)便を採取して、細菌叢の全遺伝子解析を行っている。これと平行して、保育園の先生、母親父親、そして兄弟についても数回の細菌叢ゲノム解析を行い、それぞれの子供が家庭から保育園という社会で育っていく中で、細菌叢が社会の他のメンバーの細菌叢とどのように相互作用していくかを調べている。

細菌叢とコミュニティーの研究はこれまでも数多く行われてきている。しかし同じ保育園での子供同士を比べる研究は面白いアイデアで、これまで行われていない。さらに、細菌が個人間を伝搬する過程を正確に調べるため、細菌叢から得られる全ゲノムを解読し、これまで特定されない201種を含むトータル512種の系統関係を明らかにし、これを用いて細菌の個体間の伝搬の様子をレトロスペクティブに追跡出来るようにしている。これまでの研究が属レベルを区別する16rRNA シークエンスで行われてきたのを考えると、この徹底性がこの研究の特徴だ。

まず言語と同じで、新生児の細菌叢の種類は少なく、大人も子供も一人一人存在する種類が異なっている。不思議なのは、この方法で比較すると、これまで言われていたような出産時の抗生物質使用、帝王切開などの差は、細菌種の多様性に大きくは影響しない。また、兄弟がいる方が種類が多様化するので、発達時に多くのメンバーとコミュニケーションがあるほど細菌種が増える。

共有されている種の比率から、子供の細菌叢を形成する過程で細菌種の個体間のやりとりを特定できる。この結果、兄弟の影響と同じで、保育園で新しい子供同士のコミュニケーションを続けることが、家族以上に細菌叢の発達に大きく寄与することがわかった。

研究では、一つの細菌種が同じ保育所の子供たちに伝搬する過程を追跡して、これらの発達が人間観での細菌種の伝搬によることも、証明している。そして、このやりとりの中から、伝搬性の強い細菌を特定することにも成功している。伝搬性の高い細菌は、好気環境に強く、また逆境で休眠できる種と言える。この中で、保育園で子供同士で伝搬しやすい細菌種の代表はビフィズス菌で、このことを知る前から、我々が経験的にプロバイオとして利用しているのもおもしろい。

子供の言語吸収能力が早いのと同じで、抗生物質で一度壊れた細菌叢の回復力は子供が圧倒的に早く、多くは新しく他の人間から導入している。一方大人になると、他の人間から細菌種を獲得することは少なく、元々持っていた細菌叢が増えてくるのを待つことになる。英語を子供の時に習うほど良いというのに似ている。

私たちの時代は共稼ぎは珍しく、幼稚園まではほとんど家族と近所の子供と過ごした。しかし今は多くの子供が保育園を経験する。この研究では細菌叢の健康への影響は示していないが、1歳児保育の有り無しで子供の将来の健康を比べることは重要なテーマになると思う。

自分で面白いと思った点を強調して紹介してしまったが、この研究を読んで、細菌叢の発達は言語の発達と同じという確信を強くした。

カテゴリ:論文ウォッチ

1月28日 アルツハイマー病治療の新しい標的(1月22日 Cell オンライン掲載論文)

2026年1月28日
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少し遅れたが、今年最初のジャーナルクラブは2月6日午後7時から開催する。タイトルは「アルツハイマー病治療開発の現状」にして、アルツハイマー病 (AD) 治療とて急速に実現可能性が高まってきたTauに対するモノクローナル抗体療法の総説が昨年暮れ Cell に掲載されていたので、この総説論文を中心に、最近面白いと思ったAD治療標的についての研究を紹介しようと思っている。例によって直接参加したい方は、連絡してほしい。

このとき是非取り上げたいと思っているのが、今日紹介する中国北京大学からの論文で、胆嚢や膵臓に働くコレシストキニン (CK) がなんと海馬でも働いていて、神経に発現している受容体B (CCKBR) を刺激すると、認知機能が改善するだけでなくアミロイドプラークなど病理まで改善することを明らかにし、さらにこれを刺激する薬剤まで開発した研究で、1月22日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Elucidating pathway-selective biased CCKBR agonism for Alzheimer’s disease treatment(アルツハイマー病治療のためのシグナル経路特異的CCKBRアゴニストを解明する)」だ。

脳内でCKは様々な場所に発現しているが、アミロイド蓄積が始まる嗅内皮質 (EC) で強く発現していることをヒントに、著者らはアミロイド蓄積が早期に起こるモデルマウスECでのCK発現を調べ、90%も低下していることを確認する。この低下自体が認知機能低下の原因かどうかを調べるため、CCKBRノックアウトマウスを用いてこのシグナルがないと認知機能が低下することを確認している。だとすると、アミロイドによる認知機能低下をCCKBR刺激によって改善できる可能性がでてくる。

ただ CCKBR刺激ペプチドCCK8は脳内に到達できないので、このシグナルの効果を神経細胞にアミロイドを加えて細胞死を誘導する培養実験系を用いて測定し、CCK8がこの効果を抑制できることを明らかにしている。さらに試験管内での刺激系を用いてCCK8刺激によるCCKBRシグナルが3種類のGタンパク質を介して伝達されることも確認する。その上でCCKBR刺激でADの認知機能が改善するかどうかは、脳にも到達する化合物を開発して調べるという大変な道を選んでいる。

CCKBR刺激薬開発の方向性としては、刺激剤として使われているCCK8ペプチドのうちの4ペプチド核として、これを有機化学的に改善して脳に到達する化合物をデザインする方法を選んでいる。このために構造解析を中心として、様々な実験が行われているが、なかなか高い力量を感じさせる。具体的には、CCK8とCCKBR、そして下流のGタンパク質の構造をクライオ電顕で詳しく調べ、それに基づいて骨格とする4ペプチドをスタートラインとして、CCKBRアゴニストとしての効果、脳への浸透などを至適化する改変を行い、最終的に4ペプチドにロイシンの異性体を加えた3r1と硫化メチオニンを加えたz44やLyz-866を開発している。どちらもCKKBR刺激アゴニストとして働くが、3r1はGaqを、z44やLyz-866はGaiを選択的に活性化する。

こうして出来た脳へ移行する化合物を用いてアミロイド蓄積マウスモデルを治療すると、Gaqを選択的に刺激する3r1が、認知機能改善だけでなくアミロイドプラーク形成やリン酸化Tsuの合成まで抑制できることがわかった。

最後にこの効果のメカニズムについて、CCKBR下流のGaqが活性化されると、Plbc4上昇、これに続くADAM10の上昇が誘導され、ADAM10によりアミロイド前駆体が無毒な形で切断されることにより、病因性のアミロイド形成を抑制することを示している。

最終的にCCKBR刺激からADAM10までの経路が解明できているわけではないが、ADAM10が上昇してアミロイドが無毒型へと切断されるメカニズムは新しい経路として期待できる。CKはもちろん消化管に対する作用が予想されるが、Gaq選択的アゴニストでこの副作用が軽減されるとしたら期待の薬剤になる可能性はある。さて、副作用にないAD治療薬として世に出せるか?

カテゴリ:論文ウォッチ

1月27日 梅毒トレポネーマの歴史を探る(1月22日 Science 掲載論文)

2026年1月27日
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昨日に続いて今日も考古学の研究で、スイス ローザンヌ大学からの論文だ。コロンビアで発見された5500年前の骨から梅毒の原因菌 Treponema Pallidum ゲノムを見つけ出し、配列を解読した研究で、1月22日 Science に掲載された。タイトルは「A 5500-year-old Treponema pallidum genome from Sabana de Bogotá, Colombia(コロンビア Sabanade Bogota で発見された5500年前の Treponema pallidum ゲノム)」だ。

感染症の歴史の中でも梅毒の歴史はダイナミックだ。以前紹介したように(https://aasj.jp/news/watch/25818)南米で見つかった梅毒患者と思われる骨から分離された Treponema Pallidum のゲノム解析から、梅毒は南米コロンビア領域でおそらく動物からの感染により人間の感染症として確立し、その後コロンブス以降船乗りによりヨーロッパ、そしてアジアへと蔓延するようになったことはもう間違いがない。

とは言え18世紀でも梅毒が特定の性病として確立していたわけではない。これについては英国の外科医でドリトル先生のモデルになったとも言われる John Hunter についての実話がある。Hunter は帝王切開を初めて行った外科医としても有名だが、淋病と梅毒が同じ病気か異なる病気かを確かめるために患者の病巣を自分に移植し、最終的に淋病と梅毒にかかってしまったことがわかっている。この経験に基づき、彼は淋病は梅毒の初期症状と結論し、フランスの Ricord により正されるまでこの説が受け入れられてしまう。

要するに移植した病巣が両方の菌を持っていた可能性が高いが、自分に移植すると言う探究心には頭が下がる。Hunter は種痘を開発したジェンナーの先生にあたり、研究に当たっては「Don’t thin, try!(考える前にトライ)」という有名な言葉を残しており、ジェンナーの種痘もこの精神から生まれたと思うと納得する。

話が長くなったが、研究の内容はシンプルで、5500年前の骨から Treponema Pallidum の遺伝子配列が見つかり、断片を集めて最終的にx1.7の精度でゲノムを解読できたという話だ。以前紹介したように古代の梅毒の歴史を調べる目的には、梅毒による変形を認める骨を探し、ここから Treponema ゲノムを探すのが普通だが、この研究で見つかったのは全く正常の骨で、骨の持ち主が本当に梅毒にかかっていたのかなどいくつかの問題に答える必要があった。

いずれにせよ5500年前と確認された骨なので、これまでゲノム解析された中では最も古い Treponema になる。しかもこれまで確立しているゲノム系統樹と比べると、もう一つの系統 Treponema paraluisleporidarum に近い。ただゲノム一致性の程度を計算すると、間違いなく Treponema pallidum で、おそらく13700年ほど前にこれまで知られている系統から分岐したと結論している。

この骨が発見された領域では、梅毒に罹患していると思われる病変を持つ骨が多く発見されていることから、13700年前に分岐したと思われる T.pallidum が発見されたことは、かなり長期にわたったこの地域に梅毒が蔓延していたことになる。ただ問題は、この菌が発見された骨には梅毒の異常がみられなかったので、この菌が本当に梅毒を引き起こす病原性があるかどうかを確かめる必要がある。そのため Treponema の病原性に関わる59の遺伝子を他の系統と比べている。結論だが、遺伝子の変異や消失等が認められるものの、おそらく病原性は維持されていたとしている。

結果は以上で、5500年前の菌の病原性を証明するには、同じ病原遺伝子の再構成と感染実験が必要だが、時間はかかりそうだ。いずれにせよ、梅毒の南アメリカ起源説はもう揺るぎないように思う。こんな時代になったことを Hunter さんに是非伝えたいものだ。

カテゴリ:論文ウォッチ
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