9月19日 天山回路は古代から多くの人種が交流する場所だった(9月17日 Science 掲載論文)
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9月19日 天山回路は古代から多くの人種が交流する場所だった(9月17日 Science 掲載論文)

2026年9月19日
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奈良の古寺で出会う仏像の顔や衣装に異国の面影が見られるのは、仏像をまつる文化がガンダーラからシルクロードを経て中国へ、そしてそれが日本にもたらされたからだ。この西と東を結ぶのがシルクロードの天山回路で、日本人にも馴染みが深い。例えばだれもが知っている孫悟空の玄奘三蔵が命がけでたどったのがこの回路で、古代から多くの民族が交流していたと考えられる。

今日紹介する中国吉林大学からの論文は、この天山回路を形成するウイグル自治区にある東天山に散在する青銅器時代から鉄器時代の遺跡から出土した人骨のDNA解析研究で、青銅器時代からこの領域で多くの民族が交流していたことがわかる論文だ。タイトルは「Ancient DNA unveils distinctive ancestries in the Bronze and Iron Ages of East Tianshan(古代DNAは青銅器時代、鉄器時代の東天山で暮らしていた他とは違う先祖を明らかにした)」だ。

この研究では東天山11カ所の遺跡から135人の古代ゲノムを解析し、これまで解析されたゲノムと比較している。得られた135人のゲノムを現代の様々な民族の遺伝子マップに重ねると、天山回路の西と東の民族のちょうど間にクラスターを形成し、既に特別な民族を形成していることがわかる。

遺伝子構成を定量すると、東アジアゲノムと西ユーラシアとが合わさったゲノムだが、量的には東アジアゲノムが主要構成成分になっている。即ち、東アジアのゲノムの上に、西ユーラシアを中心に様々なゲノムが交雑して形成されていることがわかる。重要なことは、このゲノム構成が遺物に見られる生活様式や文化の東西交流と相関していることで、今後より詳しい交流史をゲノムから探ることが可能になると期待できる。

青銅器時代の東天山の特徴は、コアになるゲノムとは離れたゲノムが同時に存在している点で、この地域での交流が、異なる民族がゆっくり融合したというより、東アジアゲノムの上に、様々なゲノムが一過性に流入していることがわかる。

そしてこの地域での青銅器時代から鉄器時代にかけての変遷を調べると、コアとなる構造は変わっていないが、東西のゲノムの流入が進み多様化していることが明らかになった。即ち、東西交流の要衝としてのこの地域の重要性が増していく様子がゲノムからわかる。

以上が結果で、より詳しい生活様式などについての考古学と合わせて紹介されるようになると、もっとおもしろい話になると思う。特に言語に関しては、インドヨーロッパ語、チュルク語、中国語など全く別系統が交わった領域と言えるので、新しいシルクロード研究がゲノムとともに始まっていることがよくわかる論文だ。

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9月18日 腫瘍を広く認識できるγδT細胞(9月16日 Nature オンライン掲載論文)

2026年9月18日
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チェックポイント治療やガンのネオ抗原ワクチンなど、現在ガンの免疫療法の主役として考えられているのはαβT細胞受容体 (TcR) を発現したT細胞だ。しかし、以前紹介したようにトリプルネガティブ乳ガンの場合Vδ1を発現するγδT細胞がガン局所に存在すると予後が良いという報告は(https://aasj.jp/news/watch/11533)、γδT細胞もガン免疫に関わっていることを示している。

今日紹介するトロントのマーガレット女王ガンセンターからの論文は、骨髄腫に対するADCを用いる新しい治療を受けている患者さんで予後と相関するリンパ球を探索し、様々なガンに反応するγδT細胞がガン組織に存在すると予後が良くなることを明らかにし、このγδT細胞の特質を調べた研究で、9月16日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Identification of broadly tumour-reactive γδ TCRs from multiple myeloma(広い範囲の腫瘍に反応するγδT細胞受容体を多発性骨髄腫で特定した)」だ。

多発性骨髄腫 (MM) には様々な薬剤が開発されているが、最新の方法はMMに特異的な抗体に微小管形成阻害剤を結合させたADC、Belamaf を用いる治療で、この研究ではこの治療に反応した患者さんと反応しなかった患者さんの違いを探る中で、血中に流れてきたDNAを調べる検査、 (cell free DNA検査) δTcR遺伝子が高い患者さんの予後が良いことを発見する。

ADCによる治療は直接MMを殺す方法だが、抗体薬でもあるのでγδT細胞が治療を助けている可能性を考え、MMが増殖している骨髄細胞の single cell 解析から、γδT細胞の中でもキラー活性を示すGZMB陽性細胞が治療効果と相関することを発見する。

次に骨髄中のγδT細胞からTcR遺伝子のレパートリーを解析、それぞれのγδの組み合わせをT細胞株に導入して、MMや様々なガン細胞に対する反応を調べるという大変な実験を行っている。これにより治療に反応した患者さんには、MMに直接反応するキラーγδT細胞が存在し、その細胞が発現するγδTcRはMMには反応しても正常細胞には反応しないことを確認している。おもしろいのは、これらγδTcRはMMだけでなくいくつかの腫瘍細胞に反応するので、ガン共通の何らかの抗原に反応している可能性がある。

こうして得られた多くのTcR反応性のデータを機械学習(ランダムフォレスト)で仕分けできるようにした簡単なモデルを作成し、患者さんの骨髄中のγδTcRから治療効果と相関するレパートリーを特定出来るようにしている。

この方法で得られる治療効果を反映する( γδ TcR:Rγδ) を発現するT細胞を骨髄で調べると、多くはGZMB陽性のキラー細胞であることが確認され、治療効果の一つのマーカーとして利用できる。また、治療に反応した患者さんではこのTcRを持つT細胞がクローン増殖していることも確認できている。そしてクローン増殖を指標に病気の再発を比べると、50%progression free survival で 8ヶ月 vs 40ヶ月 と大きな違いが見られる。

最後にではRγδTcRが認識する抗原を探索し、なんとHLAの一つHLA-C(ほぼ全てのHLA-Cタイプに反応できる)ことを発見する。しかし、HLA-Cは正常細胞にも発現していることからγδT細胞がMMや腫瘍だけに反応するという結果と矛盾する。このメカニズムを探り、γδT細胞が発現する KIR3DL1 が正常細胞の HLA-A や B上の Bw4 エピトープと結合し、キラー活性を抑えていると結論している。

結果は以上で、骨髄という特殊な臓器で増殖するMMに限った話だと思うが、γδT細胞による腫瘍免疫を、最終的に抗原とTcRレベルまで突き止めたのはおもしろいと思う。しかし、最後に抗原がHLA-Cと特定された結果、逆に多くの問題が残されてしまったように感じる。なぜ Belamaf の効果を反映するのか、Bw4エピトープのない患者さんは最初からγδTは関与できないのか、これらの問題が解決されると、ひょっとしたらおもしろい免疫治療が生まれるかもしれない。

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9月17日 不思議なワクチン効果についての2編の論文(9月10日 Nature Medicine オンライン掲載論文他)

2026年9月17日
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帯状疱疹を予防するワクチンがアルツハイマー病の発症を予防するという報告は大きな話題になったが、同じようにワクチン本来の機能とは無関係な病気とワクチンの相関を調べる研究が増えてきている気がする。そこで今日は、最近目にした2報のワクチン論文を紹介することにする。

最初は8月26日 Nature Medicine にオンライン掲載された、帯状疱疹に対する生ワクチンと、ウイルス表面タンパク質を組み換え技術で作成した shingrix ワクチンの心臓病予防効果を比較したオックスフォード大学からの研究で、8月24日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Recombinant shingles vaccination and the risk of cardiovascular events(組み換え shingles ワクチンと心血管イベントリスク)」だ。

ワクチンが本来の予防対象疾患とは無関係な病気に効果があることを調べることは簡単でない。と言うのも、ワクチン摂取を受けようと思う人は当然健康に気を配っていると考えられ、接種を受けない人と単純に比較することは難しいことが常に指摘されてきた。これに対し、この論文は帯状疱疹の生ワクチンと shingrix を比較することで、ワクチン肯定派と否定派の比較にまつわる問題を回避している。

これが可能になった理由は、英国の帯状疱疹ワクチンは国により提供されており、2017年に生ワクチンから shingrix に変換されたことで、帯状疱疹ワクチンを受けたと登録されている全員が、2017年以前は生ワクチン、それ以降は shingrix を接種されている。この自然の実験を利用して、生ワクチンと shingrix で心不全、虚血性心疾患、そして脳卒中の発症率を7年間追跡している。

結果は、どちらの心疾患もワクチン接種後の最初の3.5年間は発症リスクがオッズ比で0.85程度まで低下している。一方、脳卒中ではそのような傾向は見られない。また、ワクチン接種後3.5年以上経過すると、ワクチンの効果は見られなくなることがわかった。

結果は以上で、3万人以上の調査から帯状疱疹の予防効果が高い shingrix は生ワクチンと比べて、帯状疱疹どころか虚血性心臓血管疾患の予防効果まであること、またこの効果はワクチン接種後3年程度しか続かないことがわかった。

次のフランス・ソルボンヌ大学からの論文はコロナ禍の最中免疫チェックポイント治療 (ICI) を受けたガン患者さんが Covid-19 ワクチンを受けた時、原因を問わない死亡率や、ガンによる死亡率に対する影響を調べた研究で、9月10日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「COVID-19 vaccination around immune checkpoint inhibitor start and survival in a nationwide cohort of patients with cancer(免疫チェックポイント治療前後の Covid-19 ワクチンのガン患者さんの生存に関する影響)」だ。

全てフランス国立医療システムデータベースの記録からデータを抜き出して調べた研究で、まず ICI を受けたガン患者さん95000人の中から、ICI 治療開始100日前後に Covid-19 ワクチンを接種された人を選び出し、2年間原因を問わない死亡率と、直接ガンに起因する死亡率を算定している。

まず死亡率だが、ICI の適応になるガン患者さんなので、2年目で半数が亡くなっている。ただ、原因を問わない死亡率で見ると、追跡の最初から最後までワクチン接種を受けた人の方が10%程度だが死亡率が低い。当然 Covid-19 の影響もあるので、Covid-19 感染とは関係ない死亡率を抜き出して調べても、10%程度の死亡率の低下を認めることができる。また、ガンが直接原因と考えられる死亡率もほんの少しだが低下している。

ICI 開始の前でも後でも効果が見られるが、ワクチン接種と ICI 開始の時期が離れれば離れるほど、影響は低下する。即ち、クチンを接種して2-3ヶ月は死亡率を低下させる効果がある。

同じデータベースから肺炎球菌ワクチンや、他のワクチンについても同じように調べているが、他のワクチンでも同じような傾向が見られることから、抗原特異的な反応ではないことがわかる。

以上が結果で、最近の免疫性の強いワクチンを注射すると、ガンの免疫も一定程度高められるという結果だ。逆に、mRNA ワクチン接種がガン患者さんに悪影響があるという可能性は統計的に払拭できている点も重要だと思う。

両方の論文とも、メカニズムはわかっていない。Shingrix とアルツハイマー病だとまだウイルス感染を防ぐと言うメカニズムも考えられるが、今回相関が調べられた疾患は感染症とは無関係なので、おそらくワクチンのアジュバント効果などが関わっていると思われるが、そのためには免疫状態を丹念に調べる必要がある。重要なのはワクチンの効果など、国の健康データベースが整備されておれば統計的な調査を行える点で、ワクチン賛成、反対と対立する前に、どちらも科学を重視するならデータベースの前に座ってデータを見ながら話し合えば済むことだと思う。ただ、科学自体を否定するようなトランプ政権には何を提案しても無駄だろう。

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9月16日 骨粗鬆症を骨髄ストローマ細胞移植で治療する(9月11日 Cell オンライン掲載論文)

2026年9月16日
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私事から始める。留学から帰って京大の桂研で実験を始めたときから、私の妻・里美と二人三脚で研究を続けてきた。もちろん最初は研究費にも困る状態なので、里美は身分なしの無休で働いてくれた。実はこの状態は熊大、京大の教授を経て神戸理研を設立するまで続き、里美が正式に有給のメンバーになったのは神戸理研がスタートしてからになる。このボランティア時代に、里美はB細胞の分化を支えるST2ストローマ細胞の樹立から、様々なハイブリドーマまで、その後の研究の柱になる材料を樹立し、そのほとんどは今も世界中で使われている。

里美が最初に造ったのがマウス抗体λ鎖に対するモノクローナル抗体だが、次に樹立したのが1988年の論文で胎児肝からのB細胞分化を試験管内で再現するのに使った骨髄由来ST2ストローマ細胞株だった。その後B細胞分化については分子機構がわかってストローマ細胞を使うことはなくなったが、ST2は1989年昭和大学の須田先生によって試験管内の骨形成のモデル細胞になることをが報告されてから、今も骨形成試験管内モデルとして使われている。

少し前置きが長くなったが、今日紹介するスペインムルシア大学からの論文は、骨粗鬆症の患者さんの骨髄からST2と同じように間葉系幹細胞を樹立して、これを静脈注射することで患者さんの骨形成を高めて骨粗鬆症を治療するための第一相臨床治験研究で、9月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Glycocalyx-edited mesenchymal stem/stromal cell therapy in advanced osteoporosis(細胞表面糖鎖を編集した間葉系幹細胞/ストローマ細胞による進行した骨粗鬆症の治療)」だ。

骨髄由来のストローマ細胞が骨芽細胞として使えるなら細胞治療にも使えるのではと様々な試みがなされたが成功しなかった。その最大の理由は細胞を全身の骨に供給することが出来なかったためで、間葉系幹細胞を用いる治験は今も1500も登録されているのに、骨形成促進を目的とした治験はこの研究だけという有様だ。

では何故このグループが治験まで進んだのか。それは試験管内でストローマ細胞を樹立してから、生きたまま糖鎖の一つフコースを細胞膜上のCD44に結合させる方法を確立したからだ。治験までの研究で、これによりストローマ細胞が糖鎖を使って骨髄内にホーミングし、さらに骨形成が進む領域にまで達してそこで骨形成に参加することが明らかにされていた。

この研究では10人のこれまで骨粗鬆症のために何度も骨折を繰り返してきた中高年女性をリクルートし、この患者さんの骨髄液60ccからストローマ細胞を確立、さらにフコースの転化を行い、患者さんにKg当たり100−200万個の細胞を移植している。

その後何と6年以上観察を続け、第一相試験なのでまず安全性を確認、その上で効果を確かめている。まず安全性については、6年間腫瘍が発生したりということは全くなく、ほとんど何も起こっていない。一方効果は素晴らしく、それまで骨折を繰り返していた患者さんも、一例をのぞいてはほとんど骨折を経験しなくなっている。そして、投与を受けてすぐから痛みはほとんど見られなくなっている。

これに加えて、骨のバイオプシーを用いて骨形成を調べると、明確な骨形成の促進を認めることができる。また骨の代謝の指標となる1型コラーゲンの血中濃度などを調べると、多くの患者さんで様々な時期ではあるが代謝が明らかに上昇していることがわかる。

実際には、RANKLやスクレロスチンに対するモノクローナル抗体や、副甲状腺ホルモンアナログなどの治療が行われており、一人一人の症状やデータ解釈を丹念に行っているが割愛する。私の印象になるが、十分細胞治療として使えると思う。骨粗鬆症にたいしては様々な薬剤が開発されている。従って、症例を選ぶことが重要だとは思うが、ST2が今も実験で使われているとすると、さらに治験が拡大することを望んでいる。

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9月15日 脾臓のMRI画像から冠動脈疾患を見る(9月9日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年9月15日
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マウスを使った免疫実験で使うのは圧倒的に脾臓だった。リンパ節も使うが、得られるリンパ球の数や、ピンセットでつまむだけで取り出せる簡便さなどから、脾臓に勝る臓器はなかった。ところが、白血病などの血液疾患等をのぞくと、脾臓を病気の指標として使うということは短い臨床経験だがほとんどなかった。また、論文を読んでいても、動脈硬化の患者さんの脾臓がどうなっているかなどが言及されていた論文の記憶はない。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、脾臓のMRI画像を純粋に画像学的に比較する方法を開発して、こうして得られる脾臓の特徴から脾臓を冠動脈疾患と相関させられることを明らかにしたおもしろい論文で、9月9日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Machine learning–driven spleen imaging and genomics uncover a splenic connection to coronary artery disease(機械学習による脾臓イメージングとゲノミックスから冠動脈疾患と脾臓の関係が明らかになる)」だ。

研究では冠動脈疾患を脾臓イメージングから見直すことを目的にしているが、脾臓のMRI画像を数値化して比較する方法の確立がこの研究のハイライトで、今後多くの病気で同じように調べることができる。

この研究ではUKバイオバンクのデータを使って脾臓画像と様々な健康データを相関させている。驚くのはUKバイオバンクで4万例以上の腹部MRI画像が記録されていることで、UKバイオバンクが世界の頂点にある理由がよくわかる。

脾臓画像の処理だが、200例の脾臓画像を学習させ、これにより脾臓の区域を抽出した上で RyRadiomics と呼ばれる既存の画像解析方法で107種類の特徴量を計算している。もう少し具体的に示すために、GPTに画像解析と、この論文で使われている重要な5つの指標をまとめさせた図を示しておく。生成AIの実力がわかると思う。

当然血液病や自己免疫病を同じように調べるとどの特徴が大きく変化するかなど、さらに明確に結果が得られるはずだと思う。ただ、この研究では一般の病気にも脾臓指標を使うために、動脈硬化や冠動脈疾患と脾臓画像を相関させている。

まず冠動脈疾患と強く相関するBMIとの相関を見ると、上の図で4番のGLRLM等が強く相関を示す。もちろん相関が見られない指標も数多くあるので、脾臓の特徴量自体、異なる生物学的過程を反映していることがわかる。

これを冠動脈疾患のリスクと相関させると、上の図のエネルギーが高いとリスクが低く、4番のGLRLMが高いとリスクが高くなる。

このように脾臓の指標により、一つの病気の様々な側面を抽出できることを示すため、最後に冠動脈疾患と相関することが知られている200以上の遺伝子多型について、それぞれの脾臓指標との相関を調べている。

結果は、多くの冠動脈リスク多型が脾臓の様々な特徴と相関し、同じ多型が脾臓のある特徴形成に寄与していることを明らかにしている。相関する一個一個の遺伝子の詳細は全て割愛するが、上の図の4番GLRBMは血管形成に関わる遺伝子と相関している。他にもマクロファージの形成など、だれが考えても動脈硬化と脾臓に関わると思われる遺伝子も上がってくる。

要するに、冠動脈疾患は様々な要因で形成されるが、その中には脾臓の変化に関わる多くの独立した遺伝要因が存在し、それらをMRIによる脾臓画像の分析により明らかに出来ることを示すことに成功している。脾臓という免疫以外の領域で無視されてきた臓器の臨床的意義を見事によみがえらせたおもしろい研究だと思う。

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9月14日 PD-1によるT細胞シグナル抑制の全く新しいメカニズム(9月10日 Science 掲載論文)

2026年9月14日
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PD-1についての論文は昨年で34,258編発表されているが、T細胞刺激を抑えるシグナルメカニズムについての論文はほとんど見かけない。と言うのも、PD-1は SHP-1、SHP-2 などの脱リン酸化酵素をリクルートして、T細胞刺激に必要なシグナル分子のリン酸化を抑えることで、T細胞の刺激を抑えるという仮説がほぼコンセンサスとして広く受け入れられているからだ。ところが全く知らなかったが、SHIP1、2 を両方T細胞からノックアウトしても、PD-1による免疫抑制は正常に動くという論文が発表されていたようだ。

今日紹介する米国ジェネンテック社からの論文は、PD-1がT細胞を抑制するメカニズムついて、LATと呼ばれるT細胞シグナル分子と直接結合して、細胞膜上でのLATの動きを制限することで、下流へのシグナル伝達を抑えていることを示した研究で、9月10日 Science に掲載された。タイトルは「Unphosphorylated tyrosines mediate PD-1 inhibition of T cell signaling condensate formation(PD-1のリン酸化されていないチロシンがT細胞シグナルの相分離体を介して、相分離体形成によるT細胞シグナルを抑制する)」だ。

T細胞抗原受容体 (TcR) 刺激により活性化される経路の中で、細胞膜に存在する分子LATをリン酸化し、GRB2やSOS1がリクルートされるシグナル経路が知られているが、タイトルにあるように活性化されたLATが相分離体を形成することがシグナル分子のリクルートに重要であることがわかってきた。この研究ではPD-1にも相分離体に酸化するIDR領域があることに着目し、PD-1の標的はLATが形成する相分離体ではないかという仮説に沿って実験を行っている。

LATに蛍光をラベルして刺激後に出来る相分離体が見えるようにし、この細胞にPD-1を抗体で抑制すると期待通り相分離体形成を抑えることができる。そして、この作用は従来考えられていたように、PD-1の ITIM、ITSM と呼ばれる領域のリン酸化は全く必要無いことを明らかにした。

後は細胞膜上の過程を試験管内の人工膜上で再現する系を作成し、リン酸化されたLATにGRB2/SOS1がリクルートされ相分離体を形成する過程でのPD-1の作用を調べている。すると、GRB2/SOS1を加える前にLATとPD-1が結合すると、GRB2/SOS1がリクルートされた相分離体が出来なくなることを確認している。即ち、細胞膜上の過程を試験管内に移すことに成功した。さらに、表面プラズモン共鳴法を用いることで、この時の反応をリアルタイムで計測できるようにしている。これにより、4分子のPD-1がLATに結合すると完全にLATの相分離体形成が抑制されることを明らかにしている。

さらに、蛍光標識した分子の蛍光をブリーチして回復を調べ膜上の分子の動きを調べる実験系で、PD-1が結合するとLATの膜上での拡散性が低下することでGRB2/SOS1との結合が阻害されることを示している。

後は詳しく、PD-1分子のどの領域がLATとの結合に関わるかを調べているが割愛していいだろう。最後に、同じメカニズムが他の免疫チェックポイント分子にも当てはまるかを調べている。CTLA4の細胞内ドメインはLAT総分離帯の形成には影響ないが、LG3、 FcγR の細胞質は、LATの細胞膜上での拡散を阻害し、相分離体形成を抑えることを明らかにしている。

結果は以上で、これほど臨床で利用されている分子の作用機序でも、刷新されてしまうことがあるのかという驚きだが、この結果PD-1とLAG3を同じシグナル上に位置づけられるのは、今後の免疫治療法開発にとっては重要だと思う。

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9月13日 大脳皮質で徐波睡眠を維持する介在神経(9月9日 Nature オンライン掲載論文)

2026年9月13日
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一昨日、深い睡眠時に現れる長い周期の脳波 slow wave を聴覚から操作する方法を紹介したとき、slow wave 自体が誘導されるメカニズムについてはいつか論文を紹介したいと述べたが、Nature にこれにふさわしい論文がアルバート・アインシュタイン医科大学から発表されていたので紹介することにする。タイトルは「Neocortical long-range inhibition promotes cortical synchrony and sleep(新皮質の大きな領域を抑制するメカニズムが皮質の同期と眠りを促進する)」だ。

レム睡眠も、ノンレム睡眠も脳幹の睡眠誘導細胞によりスイッチが入るアクティブな過程であることが知られており、このブログでも何度も紹介してきた。しかし、このシグナルを受けて持続的に皮質全体の興奮を slow wave に同期させるためには、皮質内に存在する神経細胞も必要だ。例えば一昨日の論文で、slow wave が強まると脳全体の血流量が低下するが、これには介在神経由来のNOが関わっていることが知られている。このような皮質活動を slow wave に同期させる細胞として、ソマトスタチン (Sst) を発現する介在神経が、slow wave 睡眠時に活動することから注目されてきたが、Sst 発現介在神経は多様で、slow wave に関わる細胞をピンポイントで調べることはできていなかった。

この研究ではこれまでの結果から、Sst細胞中に存在する chonrolectin (Chodl) を発現する細胞がNO合成能があることがわかっており、この研究ではこの細胞に絞って slow wave との関係を調べている。Sst陽性介在神経の中からこの細胞だけを特定するため、2種類の組み換え酵素を使って、2種類の標識を発現させている。即ち両方の標識が発現している細胞を Sst-Chodl陽性細胞と特定できる。これにより細胞を蛍光ラベルすると、他の介在神経と比べてかなり広い範囲に神経投射を行っていることがわかり、皮質全体の同期に適した細胞であることが示唆された。

次にこの細胞の活動をカルシウムイメージングで調べると、slow wave 睡眠中に活動が高まることを確認し、予想が正しいことを裏付けている。

この細胞を特異的に光遺伝学を用いて刺激すると、皮質全層でネットワークの同期を誘導出来る。さらに、ノンレム睡眠中だけでなく、レム睡眠中に刺激すると同期を誘導出来る。また、強くはないが覚醒中でも一定の効果がある。重要なのは刺激した領域だけでなく、ミリ単位の領域にある興奮神経をGABA依存性に抑制することで同期させられることで、少ない細胞数で皮質全体をカバーするネットワークが存在して、全体の同期を可能にしていることが確認されている。

これまでの実験は、主に一次視覚野の Sst-Chodl神経の刺激による、近い領域の皮質の反応を中心に調べられているが、最後にこの回路を刺激することで slow wave 睡眠を誘導出来るか調べるため、Sst-Chodl神経全体を薬剤で刺激できるように改変して薬剤投与を行い行動を調べている。

結果は期待通りで、刺激剤を投与すると slow wave 睡眠が上昇し、覚醒状態が減る。一方レム睡眠も同じように上昇する。この効果は、マウスが活動しているフェーズでより強く認められる。

以上が結果で、このネットワークを刺激するだけで slow wave 睡眠が誘導出来ることから、これが皮質を同期させるエフェクター回路として機能していることが示された。ただ、研究は始まったばかりで、この回路を抜き出して研究できるようになったことで、興奮刺激レベルの同期のメカニズムの解析も進むと期待できる。

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9月12日 見え始めたデニソワ人の生活様式(9月9日 Nature オンライン掲載論文)

2026年9月12日
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シベリア、アルタイ山脈にあるデニソワ洞窟で発見された指の骨のDNA解析から存在が確認されたデニソーワ人については、最近急速に研究が進展しはじめた。これについては1年前最近のデニソーワ人研究について紹介したYouTubeを見ていただきたい(https://www.youtube.com/watch?v=ufKszL_o1SI)。ただ、この時点でも、チベット高原を中心にしたデニソーワ人の分布や、頭蓋から見られる解剖学的構造などが明らかになったが、生活を示す研究は、チベット高原の Baishiya 洞窟からでた動物の骨の加工の様子から、ヤギを中心に狩猟生活していたという以外は、生活の様子がわからなかった。

これに対し、今回発表された一つは蘭州大学を中心としたグループ及び北京の中国科学アカデミーを中心としたグループによる2編の論文は、石器とともに発見された一部ではあるが腕の橈骨を含むデニソーワ人と特定された骨の解析で、ようやく生活の様子がわかり始めたことを示す重要な研究だ。タイトルは、「Ancient proteins identify various Denisovan remains from Southwest China(古代タンパク質解析により中国東南部のデニソーワ遺物を特定した)」と、「Denisovans from southwestern China and their subsistence strategies(中国東南部のデニソーワ人の発見とその生活)」だ。

この研究の重要性の一つは、デニソーワ人が中国東南部で発見されたことだ。これにより、遺伝子が特にポリネシアの人たちに多く残っているデニソーワ人とホモサピエンスの交流についての研究が一段と加速する可能性がある。

雲南省にある扁蝠洞は地層学的に様々な情報が豊富な場所で、8万年から10万年にかけての地層から、仮想の17万年前の地層で骨と石器が見つかっており、当時の人類の生活を知ることの出来る格好の発掘現場になる。ただ、多くは骨や歯の断片なので、まずどの人類がこの洞窟で10万年近く棲息してきたのか調べる必要がある。最初の論文では、出土した64000もの哺乳動物の骨の中から、まず形態学的に人類と思われるものを最終的には22個選び、質量分析器による骨や歯に残るタンパク質解析を行っている。DNAが回収できないとき、コラーゲンなどのタンパク質の配列から種を同定できるが、今回参加しているグループは世界の中でもトップクラスの実力を示してきており、この結果今回発見された洞窟は、長期にわたってデニソーワ人が使ってきたことを明らかにしている。

さらに、今回デニソーワ人からも四肢の骨格の一つ橈骨が見つかり、これについて形態学的な比較も行い、現生人類とネアンデルタールの間に位置し、構造的には現生人類と直立原人に近いことを示している。ただ、この解析については今後さらに多くの骨格を調べる必要がある。

以上のように、まずこの洞窟の住人がデニソーワ人と特定されたので、もう一編の論文では、同時に出土した動物の骨、地層に残る当時の気候や環境、そして石器について解析が行われている。

有孔虫に残る酸素同位元素の違いから気候を判断する海洋酸素同位元素ステージから、解析されたデニソーワ人は地球が冷えた時代にこの洞窟に棲息していたことがわかる。周りの環境はほとんどが針葉樹林に囲まれているが、しかしさすがに南方で、様々な動物の骨が見つかっている。

また、調理などの加工の跡から推察される食用として用いられた動物は、バッファローなどの牛類、鹿類、更にはヤギやサイまで見つかっている。北のデニソーワ人洞窟ではヤギが中心だったことを考えると多様だ。また石器時代の古代人遺跡で見られる骨髄を取り出していた後も見られる。

そしてこの研究のハイライトは、石器が数多く見つかっている点で、石器を切り出すコアと呼ばれる部分から、切り出した石片、そして廃棄された破片まで数多く見つかっている。即ち、この洞窟で石器が作られていた。ただ、石器の様式としてはこれまで分類されているような例えばネアンデルタール人の Levallois テクノロジーの様式というより、環境に合わせたフレキシブルな方法が使われていたようだ。特に、切り出した石器をさらに加工するリタッチと呼ばれる過程が高々1回ぐらいしか行われていない。ただ、石器については他の領域や時代で比べる必要がある。

以上、かなりすっ飛ばして紹介したが、デニソーワ人が現生人類と交流したと考えられる南方で、現生人類が来るずっと以前からデニソーワ人が存在し、狩猟生活を行っていた遺跡の発見は大きい。事実中国全土にはまだどの人類が棲息していたのか特定できていない遺跡が数多くある事を考えると、まだまだおもしろい発見が続くと期待できる。

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9月11日 音で脳脊髄液流を促進する(9月9日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年9月11日
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睡眠中に脳波を調べると、深い眠りを意味するノンレム睡眠中に波数が 1Hz 以下の slow wave を検出できる。このような同期メカニズムについての論文も紹介したいと思うが、この同期により感覚インプットが遮断され、安定した眠りを保障するメカニズムと考えられている。

最近この slow wave を、位相を合わせた pink noise 聴覚刺激 (closed loop acoustic stimulation:CLAS) によって高め、記憶の固定化を促進できるという研究が発表され、既に closed loop acoustic stimulation を標榜する製品まで売られている。また記憶の固定化に加えて、slow wave 睡眠が脳の老廃物を流してくれる脳脊髄液流を促進することがわかり、脳の変性疾患予防に closed loop stimulation が使えるのではと期待されている。ただ、本当に睡眠中に pink noise を聞かせてCLAS刺激を行って脳脊髄液流が促進することを直接示した研究はない。

今日、紹介するMITからの論文は、脳波計で脳波を fMRI で脳脊髄液流をモニターしながらCLAS刺激を行い、うまく位相が合うと、確かに脳脊髄瘤が促進されることを人間で示した研究で、9月9日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Closed-loop auditory stimulation in phase with slow waves during sleep enhances cerebrospinal fluid flow in humans(睡眠中に slow wave と相を合わせた閉鎖聴覚刺激を入れると脳脊髄液流が人間で促進する)」だ。

目的はシンプルだが、大変な実験だ。まず、脳波計で睡眠中の slow wave を拾って、それに同期させて聴覚刺激を行う必要がある。そして、その効果をまず slow wave の強さ (amplitude) の上昇として検出する必要がある。さらにこの研究では fMRI 画像で第4脳室の水の変化として捉えている。私のような素人には、fMRIと脳波計を同時に使いながら、しかも fMRIのような大音響の中で被検者が寝られるという実験自体が驚きだが、プロの世界ではなんとかなる様だ。

さらに難しいのは、脳波に同期させるプロセスで、脳波自体がそれほど安定なものではないし、また感覚刺激から脳の活動までは時間があるので、これら要因をクリアして位相を合わせるのは至難の業ではない。この研究では、数は少ないが脳波記録を学習したリカレント・ニューラルネットを用いて位相を合わせた刺激を入れている。

このような様々な工夫の結果、完全ではないが slow wave の様々な位相で聴覚刺激を入れることが出来、そのときに slow wave の強さ、脳脊髄液の流量、そして脳の様々な領域での血流を計測することに成功している。

結果は、slow wave の上がりはじめから、ピークのすぐ後に刺激を入れると、slow wave の強さが上昇し、特にピーク直後に合わせたときに最も高くなる。そして脳脊髄流も、同じように上昇し、やはりピーク直後に刺激を受けた時に最も強い。一方、脳のほとんどの領域で、ピーク後の刺激は血流量の減少を誘導している。

以上が結果で、刺激後20秒間ほどの間に見られる急性反応の結果だが、初めて slow waveのamplitude を高めて脳脊髄液量を高める感覚刺激が可能であることをはっきりと示した点で重要な研究だと思う。

ニューラルネットの学習などまだまだ CLAS の方法を改良することは可能で、今後は記憶だけでなく、神経変性疾患を本当に予防できる器機の開発が加速する気がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

9月10日 活性酸素の二面性(9月3日 Science 掲載論文)

2026年9月10日
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酸素が反応性の高い化合物(例えば過酸化水素)に変換したものを活性酸素と呼んでおり、一般にも馴染みの深い言葉になっている。ただ、活性酸素についての一般のイミージはほとんどネガティブな側面が強調され、健康や抗老化のために活性酸素は抑えるべきという話になってしまっている。

今日紹介する英国ケンブリッジ大学からの論文は、ガンが抗酸化分子を分泌して、自分に対する免疫反応を抑えていることを示す研究で、9月3日 Science に掲載された。タイトルは「Tumor-derived antioxidants suppress immunity by depriving T cells of reactive oxygen species(腫瘍由来の抗酸化分子がT細胞から活性酸素を奪って免疫を抑える)」だ。

ガンは免疫を抑える様々な仕組みを発現している。そのうちの PD-L1 によるキラーT細胞の抑制機構は今や一般にも知られている例だが、他の要因を探して今も研究が続いている。この研究では、ガン組織中の組織液を絞り出し、これを試験管内でT細胞に加えて反応の変化を調べるという、極めて古典的な研究がまず行われている。メラノーマを用いているが、ガンの組織液は見事にT細胞の活性化を抑える。

この組織液中の分子を探索だが、大規模な生化学研究はおそらく行っておらず、最初から抗酸化分子に焦点を当てている。と言うのも、活性酸素はT細胞の活性化を抑える脱リン酸化酵素を抑える働きがあり、T細胞の活性化に必要であることが知られているからだ。分子サイズが小さいことを確認した上で、ガン細胞から分泌される抗酸化分子を探り、最も強い発現が見られる PRDX1 が免疫を抑える因子だと突き止める。

次に、実際 PRDX1 が活性酸素を除去することでT細胞の反応を抑えていること、またこれに必要な様々な分子が組織中に存在することを確認している。重要なのは、ガンから発生する PRDX1 だけでなく、NAC のような抗酸化剤でも全く同じ効果がある点で、「何が何でも抗酸化」などと考えてしまうと、逆に免疫を抑えてガンを助ける可能性が示唆される。事実、ガンに対して活性酸素を抑える治療はほとんどうまくいっていない。

次はガンが発現する PRDX1 がどの程度ガンを助けているのかを知るため、ガン細胞から PRDX1 をノックアウトしてマウスに移植する実験を行い、免疫系がはたらいているところで PRDX1 がノックアウトされると、ガンの増殖が強く抑制されることを示している。これに対応して、ガン組織でのキラー細胞の増殖、インターフェロンの発現、キラー分子の発現などが上昇するが、制御性T細胞などにはほとんど変化が見られないことを示している。

結果は以上で、極めて古典的な実験だが、これまで見落とされていた PRDX1 をガン免疫増強の標的として特定したのは大きい。

自分のガンの遺伝子発現を見ると、確かに PRDX1 の発現は高い。元々増殖が早く活性酸素発現が高いガンなので、これに対応するために当然の結果だと思う。幸い、ガン組織の免疫反応を調べると、granzyme 等免疫反応は高いので、私のガンの場合 PRDX1は発現していてもそこまで効いていないのではと期待している。   

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