2025年1月11日
コロナが収束して海外渡航が許されるようになってから3年間、動物や鳥を見る目的の旅行は、安全性も考えてオーストラリアにしている。驚くことに、生活圏の近くで多様な動物や鳥を見ることができる。また、実際に行かないとわからないほど実に多様性は高い。今日紹介する論文が対象にしているのはカンガルーやワラビーと、オナガキンセイチョウだが、写真に示すように種として白いワラビーが生息しているなどとは、見るまで全く想像していなかった。
今日紹介する最初の論文はダーウィンにある北部準州博物館からの論文で、65000から40000年前に多くのカンガルーやワラビーが絶滅した原因が気候変動ではないことを示唆する研究で、1月10日の Science に掲載された。タイトルは「Dietary breadth in kangaroos facilitated resilience to Quaternary climatic variations(カンガルーの食の幅が第4紀以降の気候変動への抵抗力を高めた)」だ。
90%の動物が絶滅した65000-40000年前というと、ちょうどオーストラリアにホモサピエンスが進出してきた時代になる。従って、絶滅に人間が関わるという考えは当然存在するが、気候変動が激しかった時期で、それが絶滅に繋がったと考える人も多い。
オーストラリアの場合、カンガルーに絞ってこのときの絶滅原因を調べることができる。この研究では食事の面からこれに迫ろうとしている。現在のカンガルーは草を食べており、気候変動で草原がなくなると絶滅する可能性はある。この研究では、化石の歯に残る傷跡から、鮮新世のカンガルー化石の歯を丹念に調べ、灌木も含めて従来考えられてきたより様々な植物を食べていたことを突き止めている。従って、特定の餌に依存していたために気候変動に弱かったという結論は正しくないと結論している。これを裏返すと、人類によって多くのカンガルーやワラビーが絶滅に追いやられたと考えるのが妥当なようだ。
もう一編の米国自然史博物館からの論文は、写真に示したオナガキンセイチョウの嘴の色の多様性についの研究で、12月号の Current Biology に掲載された。タイトルは「Spread of yellow-bill-color alleles favored by selection in the long-tailed finch hybrid system(オナガキンセイチョウの黄色い嘴を形成する遺伝子は自然選択で広がった)」だ。
一昨年、ダーウィンを起点に北オーストラリアを1週間楽しんだが、そのとき見たオナガキンセイチョウは写真に示すように嘴は黄色く、これが普通だと思っていた。しかし、この論文を読んでダーウィンを境に東では嘴が赤いことを知った。
この研究ではこの差が生まれる原因を調べ、赤い色の元になるカロチノイドを酸化できないために、黄色い嘴になったことを明らかにする。しかし、酵素が欠損したわけではなく、網膜には赤いカロチノイドが存在する。従って、嘴の色に関わる遺伝子が変化したと考えられる。
その遺伝子を調べると、決して単一の遺伝子で説明できるものではなく、CYPJ19 というノンコーディング RNA、酸化酵素の転写を調節する因子、これらの遺伝子をさらに調節している遺伝子、など少なくとも4種類の遺伝子が関わっていることがわかる。すなわち一つのフェノタイプに関わる遺伝子同士のエピスターシスガ起こっている。そしてこれらの変化はほぼ10万年前に起こって、黄色と赤の嘴を持つ2種類のオナガキンセイチョウができた。ただ、黄色の嘴がなぜか生存可能性が高く、5000年ほど前から境界領域では黄色を決める遺伝子の導入が進み、オレンジ色の嘴が多く見られるようになっている。実験室レベルでは特にペアリングに差がないことから、選択要因を調べることは、自然選択を理解する上で格好の材料になっている。
まだまだオーストラリアは広いので、是非機会を見つけて自然を楽しみたい。
2025年1月10日
リンパ管はないとされてきた脳内にも老廃物を洗い流すための現在では Glymphatics と呼ばれるシステムが存在することは、このブログを始めたばかりの2013年10月に初めて知った(https://aasj.jp/news/watch/608 )。その後 Glymphatics についての研究は着実に進展しており、特に眠りと Glymphatics の活動との関わりについて研究が進んでいる。
今日紹介するデンマーク・コペンハーゲン大学からの論文は、Glymphatics の流れを調節する因子として青班核から周期的に分泌されるノルエピネフリンが重要な役割を演じていることを示した面白い研究で、1月8日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Norepinephrine-mediated slow vasomotion drives glymphatic clearance during sleep(ノルエピネフリンに媒介されるゆっくりとして血管運動が睡眠中の Glymphatic の脳外排出を促す)」だ。
この研究では自由に動き回れるマウス脳にノルエピネフリンセンサー、血管でのアルブミンのセンサー、脳波計,そして筋電計を設置して睡眠中の変化を調べ、ノルエピネフリンの分泌量と血管径が逆比例することを確認している。すなわち、ノルエピネフリンにより血管が収縮して血流量が減るというサーキットができている。さらに光遺伝学的に青班核を刺激する実験で、青班核がノルエピネフリンのソースで、この結果血管の収縮が起こることを確認している。
この実験に、脳室内注入した蛍光ラベルデキストランで脳脊髄液 CSF の流れを調べる検査を重ね合わせると、CSF は見事に血管の収縮と逆の相関を示し、ノルエピネフリンが分泌され血管が収縮すると CSF の流れが上昇するという関係にあることを明らかにしている。
CSF の変化が血管により誘導されていることを直接示すため、光遺伝学的に血管の収縮を誘導する実験を行い、血管の収縮によって直接 CSF の流れが上昇し、デキストランの脳からのクリアランスが上昇することを明らかにしている。
ただ CSF 流量が上がるように見えても、実際の老廃物のクリアランスを反映しているかわからない。そこで、脳室に放射線トレーサーの除去率を調べ、最終的なクリアランスと相関するのがノンレム睡眠中に短時間脳波上で覚醒する回数と強く相関していることがわかった。すなわちノンレム睡眠中にノルエピネフリンの分泌が起こるとそこで脳波が覚醒状態を示すことから、覚醒自体が問題ではなく、ノンレム睡眠という状態でノルエピネフリンが分泌されること自体が重要で、これにより血管の収縮、拡張を制御して CSF のポンプとして使っていることがわかる。
最後に、GABA 作動性受容体を活性化する睡眠剤の影響を調べると、睡眠誘導という点では極めて効果が高いにもかかわらずノルエピネフリンの分泌が全く消失し、その結果 Glymphatic の機能が発揮できないことも示している。
以上が結果で、睡眠中も青班核が周期的にノルエピネフリンを分泌することで Glymphatic の機能を維持していることを示し、臨床的にも重要な研究だと思う。特に、睡眠導入剤については、Glymphatic への影響のない薬剤のリストがほしい。この機能が低下している高齢者やアルツハイマー病患者さんでは配慮が必要な気がする。
2025年1月9日
グリオブラストーマは膵臓ガンと並んで治療が困難なガンだ。ただ他のガンと比べると Glioblastoma Multiforme (GBM) と呼ばれるだけあって極めて多様な形態を示し、遺伝子検査が可能になった今では腫瘍内のゲノム多様性は大きいことが知られている。
今日紹介するカナダ・トロント大学からの論文は、マウス GBM モデルを用いて、ガン発生の初期からガン細胞の多様性を追跡した研究で、1月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Gliomagenesis mimics an injury response orchestrated by neural crest-like cells(グリオブラストーマの発生は神経堤様細胞が参加する損傷反応に似ている)」だ。
初期の GBM の研究が難しいため、発生過程はほとんどわかっていない。そこで、p53 と Pten 、2種類のガン抑制遺伝子を任意の時間に神経細胞からノックアウトする GBM モデルを用いて、発ガンスイッチを入れてから定期的に脳を MRI で検査し、早いステージからガン発生を検出する努力を行い、初期、中期、後期と異なる時期の GBM 組織や細胞を採取することに成功している。
Single cell RNA sequencing により GBM は少なくとも6種類以上の異なる細胞に分類でき、それぞれはさらに増殖の有無で分けることができる。要するに最初の段階から様々な細胞腫からできており、それぞれが増殖している。
ただ、初期段階から追跡できたことで、後期にはほとんど存在しない神経堤細胞を特徴付ける遺伝子を発現するガン細胞が、初期から中期に大きな割合を占め、その後急速に低下することが明らかになった。また、これと平行して初期から中期にかけて、間葉系の幹細胞といえる細胞腫が増殖していることがわかった。ガン抑制遺伝子をノックアウトする同じCre組み替え酵素で神経細胞をマーキングしているので、脳内の間葉系幹細胞 (MSC) も神経由来と考えられる。
一方後期で最も増殖しているのは神経幹細胞様の遺伝子発現を示しているが、由来を追跡すると神経堤細胞様の細胞に起原があり、この細胞が増殖を続けるうちに様々な変異を蓄積して神経幹細胞様の前駆細胞へと変化すると考えられた。
本来成熟脳には存在せず初期段階で出てくる神経堤様細胞と MSC の出現を正常脳で誘導する条件を調べると、脳に損傷を受けたとき、同じような細胞が現れることが明らかになった。すなわち、GBM 発生初期過程で脳組織が何らかの損傷を受けて、これが多能性を持つ神経堤様細胞とそれを支持する MSC の増殖を誘導する可能性が示唆された。
この実験系では、発ガンのスイッチは p53 と Pten 遺伝子がノックウとされることなので、それぞれの遺伝子ノックアウトと脳の損傷との関係を調べると、Pten 遺伝子がノックアウトされることで組織損傷が誘導されることがわかった。
以上に基づいて発ガン過程を考えると、まず p53 により発ガンのスイッチが入り、Pten ノックアウトにより脳損傷が誘導されると、神経堤様細胞、そしてそこから MSC が誘導され増殖を始める。それぞれは増殖の助け合いセットを形成して増殖を続けながら、神経堤様細胞は様々な系列へ分化して多様性を形成する。この過程で、遺伝子コピーの増幅や欠損が起こり、ゲノムでも多様化するが、その結果神経幹細胞様のガンが最も大きなポピュレーションとして勃興し、神経堤様細胞数は低下する。
このシナリオを確かめるため、最後に人間の GBM 手術サンプル組織上で網羅的に遺伝子発現を調べる Visium 法を用いて調べ、神経堤様細胞を含むマウスで見られた種類が存在することを確認している。また、腫瘍を形成するクローンを特定し、同じクローンが様々なタイプの細胞を形成していることを明らかにしている。
以上が結果で、MRI で初期のガンを特定するという一手間で、GBM の多様性の基盤が明らかにできている。治療のヒントまでは出てこないが、初期であれば MSC による腫瘍増殖のサポート分子をブロックしてガンを抑制する可能性はある。
2025年1月8日
エボラウイルスの電子顕微鏡 (EM) 写真を見たことがあるだろうか。国立感染症研究所のホームページに掲載されているので(https://idsc.niid.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_32/32_04.jpg )是非ご覧いただきたいが、ひもが絡まったような驚くべき形をしている。これはウイルス粒子がいくつかのユニットタンパク質が束状に集まって紐構造を作るためで、最終的には900nmぐらいの長さに揃っている。
この特異な構造が感染後1日で形成されるが、今日紹介するドイツ ハイデルベルグ大学からの論文は感染後ウイルスが形成される過程を丹念に追いかけた研究で、12月31日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nucleocapsid assembly drives Ebola viral factory maturation and dispersion(ヌクレオカプシドの組み立てがエボラウイルス工場の成熟と分散を主導する)」だ。
Covid-19 で多くの研究者がウイルス研究に参加したおかげで、細胞内でウイルス粒子(ヌクレオカプシド:NC )が形成される過程で、ウイルスの拡散やタンパク質が濃縮した相分離体が形成され、これがウイルス工場として材料を集め組み立てる工場として働くことがわかってきた。
この研究では、細胞内の分子のクライオ電顕など形態学的解析方法を駆使して、相分離体の形成から NC の形成までを丹念に追いかけている。感染後初期から NC ができるまでが詳しく示されているが、詳細は省いてウイルスができるまでの結論だけをまとめることにする。
まず感染によりウイルスRNA が細胞質に侵入すると、ウイルスのポリメラーゼで複製が起こり、RNA が複製されると同時に、ホストのリボゾームを用いてウイルスがコードするタンパク質の合成が始まる。こうしてできたウイルス構成成分は細胞内で相分離体を形成し始める。この相分離体はほとんどの細胞成分からは分離されているが、形成には中間径フィラメント・ビメンチンを必要としている。また、リボゾームは周りに存在して分子を供給する。このように、部品を細胞から調達するウイルス工場が相分離体として独立し、拡大する。
ウイルス粒子成分が集まると、自然に NC の形成が始まるが、最初は構成成分が繋がったらせん構造として現れる。この構造は様々な大きさを持っているが、RNA を中心に核タンパク質と外郭タンパク質のユニットが集まった束構造を形成し、最終的に RNA を含んだ900nmのウイルスが組み立てられる。
細胞工場として働く相分離体は効率よく構成成分が集まれるよう粘性が低いが、束状の NC の形成が始まると、急速に粘性を消失し、工場としての機能が消失し、球状の相分離体は消失する。これによりウイルスの NC は細胞内の様々なシステムと相互作用が可能になるが、特にウイルスの NP40 を介してアクチンと結合することで、ウイルスは細胞膜へと輸送され、さらにアクチンの再構成を介して細胞外にバッディングする。
以上が結果で、ウイルス工場が相分離体として形成され、ウイルスの組み立てを効率化するとともに、組み立て終わるまで隔離していること、そして相分離体を自然に解消することで、細胞膜への移動を可能にするアクチンとの結合が始まることなど、ウイルスの見事な戦略を教えてくれる素晴らしい論文だ。おそらく、工場をうまく攻めることで、エボラ完全制圧も可能になると思う。
2025年1月7日
性染色体以外の染色体は常染色体と呼ばれ、基本的には2本ずつ存在している。教科書的には、両方の常染色体上の遺伝子は同じように発現すると考える。しかし、何らかのきっかけで片方の染色体だけから遺伝子発現が見られることがあり、これを monoallelic (単一対立遺伝子性) 遺伝子発現と呼んでいる。Monoallelic 遺伝子発現 (MGE) が起こると細胞レベルの遺伝形式が複雑になり、片方に遺伝子異常がある場合その表現が複雑になる。
今日紹介するコロンビア大学からの論文は、免疫不全に関わる突然変異を MGE の視点で見直した研究で、驚く結果ではないが臨床的には重要な研究と言える。タイトルは「Monoallelic expression can govern penetrance of inborn errors of immunity(Monoallelicな遺伝子発現が遺伝的免疫疾患の浸透率を決めている)」だ。
このグループは長く遺伝性の免疫不全の診療と研究に関わっていた。その中で、遺伝子変異がはっきりしているのに症状の出方に個人差が多いことを 、MGE の視点で説明できるのではと着想した。そこで、正常ボランティアから T細胞のクローンを樹立し、ゲノムと RNAを 比較することで MGE を検出する系を確立し、MGR がどのぐらいの頻度で起こっているのかをまず調べている。
その結果、4−5%の遺伝子で MGE が見られることから、MGE が決して希な現象でないこと、さらに遺伝的免疫不全に関わる遺伝子でその頻度が高いことを確認している。
当然 MGE はエピジェネティックな機構で起こると考えられるので、ヒストン修飾や DNA メチル化に関わる遺伝子をT細胞クローンで抑制したとき、MGE が変化するかを調べ、ヒストンの H3K27 メチル化に関わる JMJD3 及び DNA メチル化の維持に関わる DNMT1 が遺伝子発現のバイアスを変化させるケースがあることを示し、おそらく様々なエピジェネティックな機構で MGE が起こることを明らかにしている。
後は、このグループの臨床例から MGE が以下に病気の表現系を複雑にしているかを調べている。実際、MGE が起こる免疫に関わる遺伝子リストを見て驚くのは、JAK1、HOD2、STAT1 といった免疫シグナルに関わる遺伝子が含まれている点だ。
この研究では PLCγ2、JAK1、STAT1 遺伝子変異の症例について考察している。
まず同じ PLCγ2 変異を片方の染色体に持っている患者さんの B細胞を調べ、抗体の量が多い患者さんでは B細胞が正常遺伝子を使っている率が高く、逆に抗体量の少ない患者さんでは、突然変異を持つ染色体からの遺伝子発現が高いことを確認している。
このような差が生まれやすいのは特に gain of function (GOF) と呼ばれるドミナントタイプの変異で、例えば JAK1-GOF 変異では自己免疫やアトピーになる。そこで、おなじ JAK1-GOF 変異を持つ患者さんで発症している人とほとんど正常の人を比べると、病気が出ない人は正常遺伝子の方が選択的に発現している一方、症状のある人では MGE はなく両方の染色体から遺伝子が発現していた。
同じように、STAT1-GOF 変異ではカンジダ症など免疫不全が起こるが、変異遺伝子を持つのに発症していないケースでは、正常遺伝子の選択的発現が起こっている。
以上が主な結果で、遺伝子診断で異常が見られても発症しないケースが高い頻度で存在することを示している。また、このような症例は PCR で診断が可能なので、ゲノムだけでなく、RNA も調べることで臨床に生かしていけることを示している。言われてみると当然の結果だが、臨床では忘れがちな問題をクローズアップさせた実践的な研究だと思う。
2025年1月6日
研究側にいると、遺伝性の希少疾患の治療法開発が加速しているように感じる。実際 CRISPR/Cas を用いる遺伝子編集の臨床治験成功の論文を目にするようになったし、ClinicalTrial Gov. でも100近い治験が進んでいる。さらに、遺伝子疾患を遺伝子治療ではなく薬剤で治療する試みも進んでいる。なんと言っても昨年の一押しは FOP 患者さんで新しい異所性の骨形成を完全に抑制する内服薬の開発についての論文だが(https://aasj.jp/news/watch/24563 )、他の遺伝子疾患でも薬剤探索が進んでいる。
今日紹介するイェール大学からの論文は、滑脳症と呼ばれる脳の皮質が肥厚して脳のしわ(脳回)ができなくなる病気を、現在うつ病の治療薬として治験が行われている内服薬で治療できる可能性を示した研究で、1月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dysregulation of mTOR signalling is a converging mechanism in lissencephaly(mTOR シグナル異常は滑脳症共通のメカニズム)」だ。
滑脳症の原因遺伝子としては10種類以上の遺伝子が知られており、多様なメカニズムで起こる状態だと考えられているが、組織学的には神経幹細胞から発生した神経細胞が分化して移動する過程が傷害されている。
このグループは、これまで知られていなかった滑脳症の原因遺伝子として PIDD1 遺伝子を特定し、この機能を研究する目的で、PIDD1 変異患者さんから iPS細胞を作成、さらに正常 iPS細胞に PIDD1 変異を導入し、滑脳症形成過程を試験管内で調べている。
期待通り、神経オルガノイド形成初期からこの変異により脳室側に存在する幹細胞の数が増えていることがわかる。さらに時間がたつとオルガノイド最外層の Cortical Plate が肥大することを突き止める。細胞学的には神経幹細胞の増殖が高まり、分化が遅れることで起こる異常であることが特定される。
そこでこの細胞学的変化の背景を single cell RNA sequencing を用いて正常オルガノイドと比較することで調べると、一番目立つ変化として mTOR 経路の分子の発現異常が特定される。また、プロテオームの解析でも、同じように mTOR シグナルの低下による変化が最も目立つ変化として特定された。
残念ながらなぜ PIDD1 機能低下により mTOR シグナルが低下するのかについては特定されていない。しかし、他のタイプの滑脳症からiPS細胞、そして脳オルガノイドを作成し、プロテオームを調べると mTOR シグナル異常が見られることを発見している。
そこで、現在うつ病の治療薬として治験が進んでいる内服で脳特異的に作用する mTOR 活性化剤 NV-5138 を培養に加えると、PIDD1 異常だけでなく、他の原因の滑脳症 iPS細胞由来の脳オルガノイドの組織学的変化が正常化する。さらに重要なのは、オルガノイド形成50日目ですでに cortical plate 肥厚が起こってしまった後でも、この薬剤を加えると細胞の分化と移動が促進され、正常の脳構造がかなり回復する点で、生後に治療を行っても効果が得られる可能性がある。
以上が結果で、子供には使われたことはないと思うが、第一相の安全性試験はクリアされた薬剤なので、比較的早い時期に滑脳症にも適用されるのではと期待する。
2025年1月5日
免疫コントロールを唄った食品が世の中に満ちあふれ、問題なく受け入れられている一方、本当の免疫コントロールといえるワクチン反対論は不思議なほど根強く、米国では反ワクチン論者が保健福祉長官になる勢いだ。細菌による病気が理解され始めたドイツでも、感染症を細菌の病気と考えるコッホと環境や生活スタイルの問題と考える公衆衛生学のペッテンコッファーの論争が勃発し、ペッテンコッファーは勢いでペスト菌を飲んで見せた話は有名だ。
もちろん答えはどちらも正しい側面を見ており、細菌に対する抵抗力が生活スタイルや公衆衛生で維持されることは間違いないし、ペストが細菌によって起こることも自明の事実だ。このように、一つの現象をいくつかの側面に分けて説明していくのが科学だが、病原菌やガンに対する免疫で最も大きな要因を占めるのは、細菌やウイルス、あるいはガン細胞が発現している抗原に対する特異的免疫反応だ。おそらく今年も様々なワクチンのアイデアが論文として発表されると期待している。
そこで年始に当たって、ホスト免疫コントロールの変わり種を紹介する。
まず最初はマラリアに対するワクチンだ。一昨年の最も重要な医学トピックスは有効性の高いマラリアワクチンの開発で、スポロゾイトと呼ばれるステージから次のメロゾイトへ進まないように弱毒化した一種の生ワクチンを抗原に用いるワクチンが中心になっている。
今日紹介するライデン大学からの論文は、スポロゾイトを注射するのではなく、蚊の中で生成されたスポロゾイトを蚊に皮膚を刺させて感染させる方法で注入するワクチン投与法で、1月3日 Nature Medicine に掲載された。タイトルは「Single immunization with genetically attenuated Pf∆mei2 (GA2) parasites by mosquito bite in controlled human malaria infection: a placebo-controlled randomized trial(遺伝子操作で弱毒化した GA2 原虫を蚊に刺させる方法で免役することで感染を防げる:無作為化2重盲検法)」だ。
蚊の中で原虫の接合が起こりスポロゾイトが形成される。こうしてスポロゾイトを体内で増やした蚊50匹に腕を晒して一度だけ感染させ、41日目に弱毒化していないマラリア原虫に感染させ免疫の成立を確かめた。要するに人体実験が行われており、スポロゾイトを持たない蚊に刺された人は全員10日以内で感染したが、弱毒化スポロゾイトの蚊に刺されたグループで感染したのは10人中1人だけだったという結果だ。また、 スポロゾイトに対する CD4 T細胞の成立も調べた全員で確認している。
結果は以上で、わざわざ蚊に刺させることが注射より効果があるという話ではないが、おそらくアフリカへワクチンを運んで投与というロジスティックを考えるとこの方が良いのかもしれない。いずれにせよ一回で長期の免疫が成立するワクチンで、マラリア撲滅も夢でないかもしれない。
次の論文もオランダのガン研究所からの論文で、ガンのネオ抗原を特定して直接注射するのではなく、まず試験管内で抗原特異的な細胞を増殖させた後患者さんに戻すことで、免疫のコントロールを高めようとする試みで、1月3日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Personalized, autologous neoantigen-specific T cell therapy in metastatic melanoma: a phase 1 trial(転移メラノーマに対する個人用ガンネオ抗原特異的T細胞移植治療:第一相治験)」だ。
これまでの研究で、ガンの多様性を克服するためには、様々なガン抗原に対するT細胞を動員することが望ましい。ただ、抗原注射では多くの抗原に対する反応を誘導できるという保証はない。そこで、個人のガンゲノムからネオ抗原を特定し、40種類の短いペプチド、20種類の長いペプチドを用意した後、10ペプチドづつで患者さんのT細胞を試験管内で免疫。その後 、IL-15、 IL-7 で増幅させ、それらを全てプールして患者さんに戻すことで、ワクチンで免役した免疫リンパ球移植療法を行っている。
この方法で特に大きな副作用は出ていない。ただ、効果は思ったほど大きくないが、治療までこぎ着けた9例のうち5例は進行が抑えられ、2例はガンの大きさが抑制できている。また、期待通り多くの患者さんでネオ抗原特異的なT細胞の複数のクローンが誘導されており、コンセプトについては有効性が証明されたとしている。
最後のスタンフォード大学からの論文はペプチド設計を駆使して、特定の MHC とペプチドが結合した立体構造を認識するペプチドを設計する試みで、12月13日 Nature Biotechonology に掲載された。タイトルは「A general system for targeting MHC class IIantigen complex via a single adaptable loop(単一の調整可能なループ構造により媒介される MHC class II と抗原の複合体を標的にする普遍的システムの開発)」だ。
この研究ではクラスII MHC(MHCII)に結合し、多くのT細胞が反応できるスーパー抗原の構造解析をヒントに、ペプチドと MHCII とペプチドの結合プラットフォームを形成し、異なるペプチドが結合したときに、特異的に認識するT細胞抗原受容体を模したペプチドを設計する方法を開発している。
詳細は省くが、タンパク質の構造を予測する RosettaやAlphafold を駆使した論文で、こうしてガン抗原や病原菌抗原と結合した MHC と特異的に反応するペプチドが作れると、ADC や CAR-T などその用途は広い。まだまだ初期段階にあるが注目の技術だと思う。
2025年1月4日
昨年の創薬分野での一押しは、1日に紹介した ER と細胞膜の接点でカルシウム濃度を調節する SOCC の機能を高める化合物と Neurokinin Receptor 2 を刺激してインシュリン感受性を上げつつ食欲を抑制するペプチド薬の開発だった。特に後者の方は、インシュリン分泌を誘導する GLP-1R 刺激剤が大きな市場に成功している今、違うメカニズムの抗肥満剤として待ち望まれていた。
ただインシュリン感受性を上げるということは、細胞内でのインシュリンシグナルが高められるということなので、問題があるとすると AKT を活性化して潜んでいたガンの増殖を助けてしまう心配がある。このように、多くのガンは代謝的にリプログラムされており、代謝に働く薬剤が思いもかけない作用を示すことがある。そんな論文の例を今日は2編紹介する。
最初のカリフォルニア大学サンディエゴ孔の論文は、肝臓ガンと非アルコール性肝疾患に関わる Fructose-1,6-bisphosphate の関係を明らかにした研究で、1月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「FBP1 controls liver cancer evolution from senescent MASH hepatocytes(FBP1はMASH幹細胞から肝臓ガンの発生をコントロールしている)」だ。
シグナル伝達研究に長年関わってきた Michael Karin 研究室からの研究で、シグナルだ、代謝だといっていた時代は過去のもので、ガンを総合的に捕らえることが重要であることがよくわかる.
研究対象になった FBP1 は、通常グルコース代謝でできてきた F6P に働いてピルビン酸への経路を媒介する。通常果糖の代謝には関わらないが、フルクトースをリン酸化するヘキソキナーゼが存在すると、F6P を直接精製してグルコース代謝を大きく変化させる。これが非アルコール性肝疾患(MASH)に果糖の過剰摂取が関わるとされる要因だが、原因はともかく MASH では FBP-1 が上昇している。一方、肝臓ガンは MASH で代謝異常を示す細胞から発生するにもかかわらず、FBP-1 が低下している。詳細は省くが、Karin はこの一見矛盾する現象を詳しく調べ、最終的に次のような結論を得ている。
MASH では代謝異常で DNA 損傷が発生し、これが刺激となって FBP-1 と p53 が誘導される。P53 は細胞老化の誘導因子で、これに加えて FBP-1 も AKT 抑制することで細胞老化を促進し、MASH が肝硬変へと進む重要な要因になる。
このとき、FBP-1 のプロモーターのメチル化が起こって、FBP-1 発現を抑制できた細胞が AKT が再度活性化してしまい、細胞老化から解放されてガン化にまっしぐらに進む。
以上のように、FBP-1 のようにグルコース代謝の核とも言える酵素が、MASH では病気の進行に関わり、逆にガン抑制遺伝子として働くという事実は、ガンと代謝の複雑な関係を示している。
もう一編は中国中山大学からの論文で、グルタミン酸と αケトグルタル酸の間のてんかんを媒介する酵素GPT-1 が大腸ガンの抑制因子として働いていることを示した研究で、1月1日号の Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Glutamic-pyruvic transaminase 1 deficiency–mediated metabolic reprogramming facilitates colorectal adenoma-carcinoma progression(グルタミンピルビン酸トランスアミナーゼ1 の欠乏は代謝をプログラムし直し大腸直腸ガンの進展を助ける)」だ。
GPT は通常肝機能検査に使われるが、GPT-1 は上皮に発現しており血中に漏れることはほとんどなく、グルコース新生とアミノ酸代謝をつなぐ重要な酵素だ。この重要な酵素が大腸直腸ガンで欠損しやすいことに興味を持ち、発ガンとのメカニズムを探っている。
GPT-1 を大腸直腸ガンに導入すると、増殖が抑制されるが、この原因を探るとまず αケトグルタル酸が細胞内に蓄積していることを発見する。すなわち、ピルビン酸とグルタミン酸から αケトグルタル酸が多く作られていることが、増殖抑制に関わっている。
αケトグルタル酸は、エピジェネティックス、βカテニン安定性などを介して大腸直腸ガンの増殖に関わる Wnt シグナルを抑制することが知られているが、GPT-1 を導入したガン細胞でも Wnt シグナルが低下している。ただ、これに加えて GPT-1 は葉酸合成に関わる MTHFD1L と結合して葉酸の合成を低下させる。
以上の2つの経路を介して GPT-1 はガン増殖を抑制する。そして、GPT-1 に結合する既存の化合物ポリウモシドを投与すると、大腸直腸ガンの増殖を抑制できる。
詳細は省いたが結果は以上で、両方の論文から、ガンは増殖のために代謝システムをプログラムし直していることが多く、これを理解することはガンのアキレス腱を知ることになり、治療可能性を高められることは間違いない。今年も、このような治療可能性を示す論文を紹介していきたい。
2025年1月3日
論文ウォッチとタイトルをつけてこの HP に掲載した記事は今日で4121に上る。まる10年以上書き続けてきたことになる。続ける過程で最も印象に残るのは、ドイツ・マックスプランク人類進化学研究室から始まった古代ゲノムの解析で、ネアンデルタール人やデニソーワ人のゲノムが私たちホモサピエンスの形成に大きく関わるという驚きだった。
ただ、あれから10年経って、古代ゲノムの対象が様々な記録も存在している歴史学の領域に移ってきたように感じる。直感的には時代が近くなると骨も多く採取でき、例えば民族の移動の解析もより容易になると考えてしまうが、実際にはそうでない。現在、他の人類との交雑やあるいは現生人類でも民族間のゲノム混合割合を調べる方法として f-statistics が使われる。例えば日本人を縄文、弥生、古墳時代のゲノムの混合として定義する方法だ。しかし、これだと逆に関西の一族が九州に移動して新しい集団を形成したと言った詳細な歴史を調べることができない。というのも、縄文、弥生をベースにする f-statistics では両者を区別することが難しいからだ。
今日紹介する英国クリック研究所と理研数理創造プログラムからの研究は、個々のゲノムの系統関係を推定した後 f-statistics を計算することで統計学的精度を10倍近く高められるという発見に基づいて Twigstats と呼ばれる解析方法を開発し、これを用いて主に中世ヨーロッパの民族の移動を詳細に調べた研究で、1月1日 Nature にオンライン掲載された。筆頭著者の Leo Speidel さんは現在は理研数理創造プログラムに所属しているようなので、日本のゲノム解析にも是非参加していってほしいと思う。
さて、中世ヨーロッパを調べるときのベースの民族として、鉄器時代のゲノムからスカンジナビア、英国、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、ハンガリー、スロバキア、そしてイタリア地区のゲノムをレファレンスとして解析に用いている。
ポーランド、スロベニアなど南東ヨーロッパ、ドイツを中心とした中央ヨーロッパ、イタリア、英国、スカンジナビアから発見された中世時代のゲノムを Twigstats で調べると、イタリアを除くほとんどの地域ではっきりする傾向として、スカンジナビアのゲノムの流入がはっきりしている点だ。
面白いのは、海でつながっている英国やポーランドなどの東ヨーロッパへは、スカンジナビアゲノムが直接流入している。一方、ゲルマン民族の大移動として知られるドイツ・フランスを含む中央ヨーロッパでは、スカンジナビアの影響は少ない。しかし、南スカンジナビアとオーバーラップする Baiuvarii と呼ばれる現在の北ドイツ民族が南に拡大している点で、これがゲルマン民族の移動として我々が習った移動に当たるように思う。
実際ドイツと陸続きのスロバキアでは、中世に Baiuvarii のゲノムの割合が急速に増加しているし、イタリアでもスカンジナビアの影響はほとんどないが、Baiuvarii を基点とするゲルマン民族の影響を受けて、ゲノムでは中央ヨーロッパ型に変化している。ここからわかるのは、イギリス、東ヨーロッパにはおそらく海を介してスカンジナビアのバイキングの移動、そして北ドイツ Longobald や Bauvarii を基点とするゲルマンの移動が中世を形作っているのがわかる。
スカンジナビアといっても広い。また、調べていくとスカンジナビア以外の民族ゲノムの流入も認められる。例えばノルウェーはほとんどヨーロッパ中央からの流入はないが、英国からの流入が見られる。一方、スウェーデンは中央、東ヨーロッパ、英国からの流入が見られる。デンマークはもっと中央ヨーロッパとの交流が強く不思議なことに英国からのゲノム流入はない。
以上が主な結果で、この背景にある戦いや民族融合の様式の歴史があるはずで、今後この移動線を歴史にまとめ上げるのことが必要になる。いずれにせよ、この分野ほど文理融合が必要なことはない。実際、各国の博物館の遺物だけではなかなか興味がわかなかった私も、ゲノム史を知るようになってからは、けっこう足繁く通うようになった。今年も新しい歴史の背景が続々明らかになると期待する。
2025年1月2日
生命科学でも AI が話題の中心になっているが、2025年には人間の脳と AI を比較する研究が一段と進むような予感がする。特に、比較によって AI では難しいことを見つけ出し、新しいアルゴリズムに生かす研究は、我々の脳についても理解が深まると同時に新しいAIの設計につながる。
今日紹介する米国スクリップス研究所からの論文は、脳に学ぶことの重要性を示した研究の典型で、11月18日 米国アカデミー紀要 にオンライン掲載された。タイトルは「Identification of movie encoding neurons enables movie recognition AI(脳の動画エンコーディング方法の特定は動画を認識する AI を可能にする)」だ。
現在の AI の動画認識能力には問題が多いようだ。おそらく大きくて早いコンピュータで計算量をこなせば原理的には動画も認識できると思うが、普通のコンピュータでは難しい。例えば刑事ドラマで今でも監視カメラの映像を粘り強い刑事が徹夜で調べると言ったシーンはこのことを物語っていることになる。
まずこの研究の結論から述べると、動画をエンコードして一つの表象を作成する過程を全てオタマジャクシの視覚系に任せ、それを読み取って学習させた AI と一般的なカメラ画像を学習した AI とで、ペンテトラゾール添加によりシャーレの中のオタマジャクシの泳ぎが変化するのを動画から認識できるか調べている。同じように300回動画を学習させて、薬剤濃度を区別できるか調べると、オタマジャクシの脳を用いた方が的中率が他の AI モデルより高いことを示している。
この研究で読み取っているのは視蓋と呼ばれる、網膜から投射を受け二次元的マップを形成する視蓋の神経活動を多数の神経細胞の興奮として記録し、視覚系本来のアルゴリズムにより視蓋野に形成される表象を使っている
すなわち、神経回路の処理を受けたあと視蓋に表象される神経興奮パターンは、連続した写真画像を読み取る AI より動画認識能力に優れていることになり、視蓋野で行われている処理を理解することで、なぜ脳の方が優れているのかがわかる。
この研究は、オタマジャクシの視蓋野での神経活動を、まず単純な対象が現れ消えていく短い過程を記録して、処理方法を解析している。対象を見るとき、網膜には対象が明るくなった時に反応する ON 型と、暗くなったときに興奮する OFF 型の神経が存在し、これが視蓋野に投射されている。この研究では、この2種類のシグナルの変化が実際には回転などの動きの認識に関わり、また OFF 型の神経が変化の終わりで正確に興奮することで、動きの認識の重点対象を回りから区別して認識している。
このように特に OFF 型のシグナルを光の変化だけでなく、対象物の変化を捉えるのに使っているのに利用していることが、動画認識を可能にしており、おそらく一般的な AI にはこのアルゴリズムが存在しない。
On/Off 型神経からもわかるように我々の視覚は網膜ですでに因数分解が行われており、これが視蓋野の神経興奮として現れる。この点については、京大医学部時代に親しく交流があった中西先生の On/Off 神経の発見など長い研究の歴史があるが、これを動画認識の点から再検討し、さらに現在の AI と比較したのがこの研究の面白さだ。またオタマジャクシを用いたのも面白い。
このように、AI と比べて我々の脳を知る研究は今後もどんどん発展すると思う。この研究の筆頭著者は平本さんという日本人の研究者で、この分野を是非牽引していってほしい。