5月27日 学習効率を上げるためには褒美を一度に多く与えるのが良い(5月21日 Science 掲載論文)
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5月27日 学習効率を上げるためには褒美を一度に多く与えるのが良い(5月21日 Science 掲載論文)

2026年5月27日
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AIの進展もあって、強化学習のメカニズムについての研究の注目度は一段と高くなっている。私自身専門ではないが、強化学習の研究を読むことは多い。強化学習実験のキーは、学習に際して褒美を与えることで、学習効率、学習意欲、そして記憶の固定が促進されるが、辺縁系を中心にこの促進効果に関わる回路を特定する研究に発展している。しかしこの論文を読むまで、褒美の量と与え方の違いの重要性に思い至ることはなかった。

今日紹介するハワードヒューズ医学研究所の Janelia Research Campus からの論文は、学習は少量の褒美を与えて試行を繰り返させることで強化されるとする先入観を、褒美の量や与え方を変化させる強化学習実験を行って再検討した研究で、5月21日 Science に掲載された。タイトルは「Reward magnitude determines reinforcement learning efficiency(褒美の大きさが強化学習の効率を高める)」だ。

この研究ではまず隠れた標的を見つけると褒美が与えられる強化学習システムを用いて、通常褒美として使われている喉の渇いたマウスに対する5μlの水の代わりに20倍の100μlを与えたときに学習効率は変化するか、を調べている。考えてみると、褒美の大きい方が頑張るのが普通だと思うが、これまでの実験がそれを無視して行われていたのはおもしろい。

結果は予想通りで、学習過程を学習率、学習結果の記憶固定、そしてやる気の維持に分けて調べると、最初に多くの褒美を上げた方が全てで促進が見られる。これは、障害を避けてレバーを動かすテストや、国際的に意志決定を学ぶ実験で標準になっているテストでも、全て同じように効率を高めることができる。おもしろいのは、褒美の総量が問題ではなく、少ない回数でも一度に大きな褒美が得られることが重要になる。

強化学習なので、行動の背景にあると考えられるドーパミン神経興奮を調べると、大きい褒美ほど興奮の強さが強く、しかも興奮が長続きする。その結果得られる強いドーパミン分泌が、学習の様々なプロセスを強化すると考えられる。

これを確かめるため、通常の少ない褒美トライアルで、腹側被蓋野を刺激してドーパミン分泌の量を調節すると、強い持続的な刺激を加えたときに大きな褒美を与えたときの起こる強化学習効率の促進が可能であることを示している。

学習に必要な過程への影響で見ると、学習を繰り返すうちに起こってくるやる気の喪失 (disengagementのこと)が、大きな褒美を与えるといつまでも真剣にトライアルを続け、やる気が維持されるのがおもしろい(というか身につまされる)。また、セッションを超えて学習記憶を固定化する過程への作用が弱いのは、辺縁系と海馬とのつながりを弱さの反映かもしれない。もちろんいいことばかりではない。条件付けと刺激が間隔を置いて与えられるパブロフ型連合学習実験の場合、次のトライアルの褒美に対する神経反応が鈍化してしまう。

以上が結果で、一般的には褒美は一度にたくさん与えるのがいいという、極めて納得のいく結果になっている。論文を読んでみると、神経回路や神経細胞の詳細はあまり気にせず、神経科学は最小限に抑えている。おそらく元は心理学畑の研究者ではないだろうか。しかし、だからこそより行動に近いところで素朴な疑問を発することができる。おそらくこのようなデータこそAIへの利用もしやすいのではと推察する。

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5月26日 ドーパミン刺激によるエピジェネティック変化が妊娠・出産・哺育経験の脳を形作る(5月20日 Natureオンライン掲載論文)

2026年5月26日
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妊娠、出産、哺育を経験することで脳に大きな変化が起こることは間違いがない。なんと言っても長期にわたるホルモン環境の変化は、脳の様々な遺伝子発現に急性だけでなく、エピジェネティックコードの書き換えを介した変化を誘導する。これが母の経験として、その後の子育ての成功率を高める。

今日紹介するマウントサイナイ医科大学からの論文は、母親としての経験にホルモンだけでなく、ドーパミン・エピジェネティックコードの書き換えが貢献していることを示した研究で、5月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dopamine drives persistent remodelling of the maternal brain(ドーパミンは母親の脳の持続的リモデリングを促進する)」だ。

このグループの研究は以前にも紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/12774)、研究の対象はヒストンのドーパミン修飾による遺伝子発現の変化で、以前紹介した論文ではコカイン中毒により腹側被蓋で発現するヒストンのドーパミン化の低下が中毒からの離脱を妨げるという研究だった。従って、この研究では妊娠、出産、哺育経験の脳変化が対象になっているが、最初からヒストンのドーパミン化に落とせる過程を探索する過程で、妊娠を対象にすることになったと言える。いずれにせよ、長期にわたる変化は確かにコカイン中毒に匹敵するかもしれない。

妊娠、妊娠+哺育、など様々な母親としての経験を再現したマウスを作成し、哺育までの全ての経験を経たマウス(REマウス)の脳での遺伝子発現の違いを丁寧に調べている。そして、最も大きな変化が記憶に関わる海馬で見られること、変化する遺伝子の多くはエストロゲン受容体をはじめとする転写因子の下流に存在することを確認した上で、ドーパミンに関わる遺伝子発現も大きく変化することを突き止める。

おそらくドーパミンの影響が最もはっきりする、REマウスでの変化を調べ、REマウスの一連の経験の中で、哺育過程で子供から一定期間隔離するストレスがREマウスの経験を帳消しにし、この時ドーパミンにより誘導される変化が強く影響されることを明らかにしている。即ち、哺育過程のストレスによるドーパミン刺激が、REマウスの母親としての経験を帳消しにし、そのとき海馬での遺伝子変化が持続的に変化することを確かめる。

まさにこのグループの土俵に対象を引っ張ってきた感じがする。そして、持続的に発現が変化する遺伝子のヒストンを調べて、REの経験によりドーパミン化したヒストンのレベルが低下するが、ストレスはこのレベルを上昇させることを明らかにする。また、人間の脳でも、出産経験によりドーパミン化ヒストンのレベルが低下することも確認している。

以上の結果は、妊娠・出産・哺育経験の時期には海馬へのドーパミン分泌が抑えられ、持続的エピソード記憶増強の環境が形成されることになる。これを確かめるため、妊娠経験のないマウスでの海馬のドーパミン分泌を光遺伝学的に抑える実験を行い、妊娠経験と同じレベルのエピソード記憶能力を持続させられることを示している。

最後にこの効果が海馬神経でのヒストンドーパミン化の結果である事を示す目的で、ドーパミン化されるグルタミンをアラニンに変えてドーパミン化を阻害するヒストンを海馬神経で発現させる実験を行い、この操作によりRE経験がストレスで打ち消されるのを防げることを明らかにしている。

以上が結果で、ドーパミンを受ける神経でもヒストンのドーパミン化が進むというのはわかりにくいと思うが、このグループはドーパミンの取り込みによりこのような現象が起こるとしている。そのうえで、ドーパミン刺激とヒストンのドーパミン化を調べるための実験系として、妊娠・出産・哺育経験を突き止めたのがこの研究のハイライトで、あとは最もクリアな系でこれを証明している。

Geminiで調べると確かにパーキンソン病患者さんの黒質でヒストンのドーパミン化が低下している論文もあるようなので、今後も注視していきたい分野だ。

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5月25日 超音波でパーキンソン病の症状を改善する(5月20日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年5月25日
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パーキンソン病 (PD) の治療はドーパミン神経の回復だが、特徴的な運動障害を改善するために、深部刺激や磁場による刺激などが利用されてきた。

今日紹介するトロント大学からの論文は、なんと超音波刺激でもPDの運動症状を改善できる可能性を示した研究で、5月20日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Transcranial ultrasound stimulation of motor networks in Parkinson’s disease informed by local field potential dynamics(パーキンソン病の運動回路の経頭蓋超音波刺激の影響を局所電場電位活動を指標に調べる)」だ。

PDの運動回路の特徴的変化は波長が14−30Hzという覚醒時に起こる脳波が高まることで、これをリラックスさせることが重要だと考えられている。このため、深部刺激でもβ波の上昇を感知して刺激により抑制することが行われる。

この研究では2カ所の音源から超音波を特定の領域に集中させる方法により同じ効果が得られないかを、視床下核に設置した局所電場電位を記録できる深部刺激用の電極で記録して調べている。超音波はガンにも利用されるほど細胞障害性を持っており、まず安全性の徹底的解析から行っている。最終的に、自覚的にも、MRI 等を用いた検査でも、温度上昇は安全範囲にとどまり、組織障害は見られず、自覚的にも問題がないことを確認している。

その上で、運動回路として淡蒼球内接、M1運動野、そして後部皮質を標的に、超音波照射を行い、深部電極で記録される視床下核の電場電位を記録している。結果は明確で、後部皮質、あるいは淡蒼球内接への照射は、逆にβ波を高めることがあっても抑えることはない。一方、M1運動野の照射は、視床下核のβ波を抑えることができている。この効果は指を動かす運動中では低下する。即ち、運動にはβ波の抑制が必要で、これによって照射の効果が打ち消されていると考えられる。

最後にPDの症状が照射により軽減されるかどうかについて、ビデオを見せて専門家に判断させる方法で調べている。結果はβ波の抑制効果と同じで、M1運動野を照射したときのみ、症状改善効果が得られている。

結果は以上で、実際には詳しい脳波成分を解析したりしているが、ほとんど割愛してエッセンスだけを紹介した。超音波はメカノセンサーを介して神経刺激をすると考えられているが、深部刺激のように急性効果というより、全体の回路の特性を変化させて効果が得られている可能性が高い。と言うのも、照射後50分効果が持続している。その意味で、急性の深部刺激を保管する目的にはおもしろい治療になる可能性がある。何よりも磁場を用いる方法と比べると、簡便で導入しやすい。しかし危険性も伴うので、今後超音波の脳への照射の安全性をさらに高める必要があると思う。その上で、β波上昇が見られるアルツハイマー病など他の病気の治療にも使えるかもしれない。

この論文を読んでいて気になったのが、M1領域のみ効果がある点だ。実際には3.5cmの深さに刺激標的が設定されている。最近紹介した北京大学からの論文でも、脳皮質の運動野の間にある皮質皮質下回路の脳幹との過剰結合を磁場照射で抑えると症状抑制が得られることを示していた(https://aasj.jp/news/watch/28297)。とすると、この超音波の標的になったのは皮質皮質下回路である可能性もある。この可能性も視野に研究を進めてほしい。

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5月24日 太古の真核生物は酸素を必要としたか(5月20日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月24日
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2日間、AIの話題が続いたので、今日は全く異なる分野、10億年以上前の生物についての超古生物学に関するカナダ・McGill大学と米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校からの論文を紹介することにした。タイトルは「Early fossil eukaryotes were benthic aerobes(初期の真核生物化石から酸素を必要とする底生生物である事がわかる)」だ。

地球は酸素を合成するシアノバクテリアの誕生で24億年から20億年に酸素の存在する環境へと変化する。これと呼応して20億年ほど前に真核生物が誕生したとされている。何故真核生物誕生時期がわかるのか?というと、まず単細胞でも化石化されると、細胞の構造痕跡がのこっており、真核細胞か原核細胞かを判断することができる。まず大型の細胞化石はほぼ真核生物と言え、さらに表面の複雑性や、核を含む細胞内器官の痕跡を特定することで、真核生物かどうかを判断している。もちろん遺伝子を調べることはできないが、ステランと呼ばれる脂質を中心とするステロール解析からも、真核生物と判断できる。

この研究で問われたのは、真核生物(おそらくミトコンドリアを備えている)は早い時期から酸素を必要としたのか?、すなわち20億年以降急速に進んだ真核生物の多様化や複雑化に酸素呼吸は必要だったか?だ。さらに、形態的真核生物化石の特定と、真核生物のステロールによる化学的特定(10億年前)までに、10億年近いギャップがある点も説明しようとしている。

この目的のために、17億年から13億年までのミクロ化石が集積している北オーストラリアの堆積盆地をボーリングし、地質学的酸素環境と真核生物化石の相関を調べている。発掘した環境について、酸素環境だったか、それとも還元環境だったかをまず明らかにし、そこに存在する化石の種類を調べている。素人が驚くのは、細胞レベルの化石がきちっと分類されていることだが、示された写真を見ても、地層の中からよくまあ特定できるなと、科学的蓄積の豊かさに驚く。

結果は予想通りで、酸素の少ない環境からも真核生物は検出されるが、圧倒的多数の真核生物化石は酸素環境から見つかる。これらは生物の死骸が堆積している底で棲息する底生生物だが、酸素の存在する岸に近い領域にのみ見つかることから、17−13億年前の真核生物は、現在のような水に浮かんで棲息するプランクトンは存在しないことが示唆された。この結果から、基本的に13億年以上前の真核生物のほとんどは酸素環境で化石化したため、その過程でステロールが酸素のために残らなかったのではと考えている。そして岸辺の酸素環境の中で進化する過程で、プランクトン型の真核生物が生まれると、これらは海を漂うことで、深い酸素のない海の底に沈殿することが出来、結果真核生物化学マーカーであるステロールを保持した化石が出来たと考えられる。

以上が結果で、古生物学と言っても極めて専門性の高い、おそらく研究者も少ない領域だと思う。それでもAI時代に、この小さな研究領域が、多くの研究者を魅了するのも科学の素晴らしい特徴と言える。

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5月23日 GPCR標的タンパク質デザイン:Baker研の総合力(5月20日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月23日
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我が国でも成長戦略の一環として実験室に AI Agent を導入する AI for Scientist プロジェクトの公募が始まっているようだが、プロジェクトの成功は昨日の論文からもわかるように、いくつかの明確な標的分子を決めて、これを操作する化合物やペプチドの特定をベンチマークにすることだと思う。昨日紹介した既に論文までになっている世界の進展状況を考えると、立ち後れた我が国の研究は、創薬候補特定コンペとして設定し、広い範囲の研究者がその目的のために組織され、コンペに勝ったグループだけにお金が行くぐらいの思い切りが必要だと思う。いずれにせよ進展を注視していきたいと考えている。

繰り返すが、「役に立つ」製剤の設計が出来るかが鍵になるが、これにはドライからウェットまで多くの分野の研究を集める総合力が必要になる。その典型が2024年ノーベル化学賞受賞者の一人 David Baker さんの研究室で、大きな創薬企業に匹敵するぐらいの「役に立ちそうな」製剤を開発してきた。今週アップロードされた Nature には Baker 研からの論文が3報も発表されていた。2報は、ウイルス粒子のような大きなケージタンパク質の設計で、残りはGPCR結合タンパク質設計についての論文になる。特にGPCR論文は目標を実現する総合力が重要であることを明確に示す論文なので、今回取り上げることにした。タイトルは「De novo design of miniproteins targeting GPCRs(GPCRを標的にするミニタンパク質の新規デザイン)」で、5月20日 Nature にオンライン掲載された。

我々は800種類以上のGPCRを使っており、半分以上は臭い、フェロモン、味覚受容体だが、3−400種類のホルモンや神経伝達因子受容体もこのグループで、このブログで最近紹介する機会が多いGLP-1/GIP受容体もこのグループに属している。そのため、GPCRを特異的に刺激したり抑制したりする分子の探索は創薬の重要な領域になっている。ただ、GPCRのリガンド結合部位が浅いことや、結合により形態変化が大きいなど様々な問題があった。実際、GLP-1/GIPRアゴニストも天然のペプチドを操作して開発された。

Baker 研でもおそらく重要ターゲットとしてデザイン研究を進めていたと思う。ただ、これまで報告されてきた標的分子と異なり、開発されたタンパクデザインツールだけではうまくいかなかったのではと推察する。しかし目標は明確なので、RFdiffusion といったデザインモデルにこだわることなく、これまでの研究蓄積の生かせる方法へと舵を切って、11種類のGPCRに結合するミニタンパク質が設計できることを示したのがこの論文になる。

RFdiffusion を開発する前、Baker さんは短いペプチドを組み合わせてデザインする研究を行っていた(https://aasj.jp/news/watch/14170)。今回新たに導入した方法は、最初から全ペプチドを設計するのではなく、バックボーンとなる5ペプチドライブラリーからスタートして、RDdiffusion を使う方法で、これにより設計する数を大幅に減らすことができる。ただ、GPCRの構造上の問題から、候補を100個以下に絞るのは難しい。そこで、一万種類程度の遺伝子ライブラリーを作成して、GPCRに対して通常の結合や機能を指標とするスクリーニングを行っている。この時、この分野の専門家を動員しているようで、論文には多くの研究室が共著者として名を連ねている。

まず、痒みに関わる受容体 (MRGPRX1) を刺激するペプチド及び痛みに関わるニューロキニン受容体の抑制ペプチドを設計し、最終的にクライオ電顕でデザインした通りにペプチドがはまり込んでいることを確認している。

他にも、ケモカイン受容体CXCR4、最近最も注目されているGLP-1R、GIPRを含む4種類のGPCRについても、同じ方法で候補を設計し、これまで一般に行われているスクリーニングを組み合わせると、阻害活性を持つペプチドを得ることが出来ることを示している。

それぞれの生理活性については試験管での機能を指標にした評価以外には示されていないが、唯一CXCR4の結合を阻害するペプチドについてその機能を調べている。これまで阪大の長澤さんたちが示してきたように、この阻害ペプチドを皮下注射するだけで、血液幹細胞が骨髄ニッチを離れて末梢血に流れてくることから、期待通りの生理活性も十分なることがわかる。

以上が結果で、設計された個々のペプチドについての紹介は全て省いたが、設計と実際が一致するかについては丹念な検討がなされている。即ちデザインだけにこだわることはない。AI Agent と同じで、創薬などの開発をより効率化できればいいので、AI for Scientist プロジェクトでもこのような研究を指標に、選んでほしいと思う。

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5月22日 AI Agent は実験現場を変えるか(5月19日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月22日
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Natureでは日本時間の木曜日に新しい論文がオンライン掲載される。驚いたのは今週の発表された生物系論文の中に7報近くのAI 論文が含まれていたことで、3報は Baker 研からのタンパクデザイン、1報はマウスのボディーマッピング AI、そして実験室での AI Agent 関連の論文が3報も含まれていた。まさに時代の変わり目にいることを感じている。今日、明日と学生さんや研究者に話をする機会があるので、この感覚を是非伝えたいと改めて感じている。

今日まず紹介したいのは AI サイエンティストについての研究を行っている Future House と Edison Scientific の研究者による論文で、いわゆる AI Agent の実験室への導入について研究している。タイトルは「A multi-agent system for automating scientific discovery(複数のエージェントによる科学的発見の自動化)」で、5月19日 Nature にオンライン掲載されている。同じ号に Google の研究者が Gemini をベースにした実験アイデアの生成について、「Accelerating scientific discovery with Co-Scientist (Co-Scientistを用いて科学的発見を加速する)」も発表されているが、素人目ながら Future House の研究がより具体的で包括的なのでそちらを紹介する。

AI の発展はGPTやジェミニといった汎用モデルの開発だけではなく、実に様々な分野で多くの特異的モデルが開発されている。特に生命科学では、文献検索からアイデア生成、さらに実験の計画からデータのまとめ、解釈、そして論文作成まで、多くのモデルが開発されている。従って、必要なモデルを集めて、目的に対する答えを探る AI Agent の開発が重要になる。隠居暮らしの私は研究現場で使うことはないが、Claude と Open AI を組み合わせた AI Agent の力には驚いており、実験室で使うのは当然の流れだと思う。

この研究では、研究の目的をインプットすると、まず文献検索から様々な可能性を生成する PaperQ2 をベースにしたモデルに、これまでの研究に基づく実験の可能性を生成させ、提案された可能性をもう一度文献から深く検討し直して、優先順位や実験の方法について提案させ、それに基づいて実験を行った後、JupyterNote をベースにしたモデルを用いてデータをまとめて解析し、次の実験へつなげる3種類のモデルを使った AI Agent を設計している。ポイントは、完全自動実験システムではなく、それぞれのモデルをつなぐのは人間で、AI Agent から出てきたアイデアや解析を、もう一度吟味し直して最終結論を得るようにしている。その意味では、我々が他の目的で用いている AI Agent と同じで、わかりやすい。

このような研究で最も重要なのはわかりやすい例を示すことで、この研究では加齢黄斑変性症 (dAMD) の新しい治療方法開発を目的としてこの AI Agent の実力を示している。

まず、dAMD の治療薬の候補を文献サーチで探させると、151論文から10種類の化合物の候補がリストされ、一つ一つについて深く調べさせて蓋然性をランキングすると、トップランクとして網膜色素上皮の貪食能を高める薬剤が効きそうだと答えが返ってくる。そこで、このアイデアの蓋然性を再度評価させるとともに、現存の薬剤から使えるものをリストするよう指令を出すと、最終的に30種類の薬剤と、それぞれについての詳しい解説が出てくる。さらには言語モデルを用いて可能性のランク付けすら出来る。この結果、4種類の単剤と、1種類の合剤が色素上皮の貪食を上昇させるという最終提案が出る。

次にこの提案を実験に移すときの実験プロトコルも、この AI Agent から指示される。ここでは、Flow cytometer や single cell RNA sequencing や iPS細胞由来の色素細胞を使うように指示が出るが、これについては人間の方で、細胞株と通常の RNA sequencing を用いた方法に変えて解析を行い、その結果は一般に使われている Jupyter Notebook をベースにしたモデルで解析させ、最も効果がある薬剤としてROCK阻害剤Y-27632が最終候補として示される。

最終候補の評価のための実験も提案させることが出来、この場合提案通り実験を行い、アクチンフィラメントの再構成に関わる分子、オートファジーなどに関わる分子とともに、ApoE の受容体ABCA1の発現上昇という新しい発見までつながっている。

最後にY-27632に類似の効果を持つ薬剤を検索させ、なんと我が国発の緑内障治療薬ripasudil がリストされ、色素細胞の一時培養に加えた実験を行うと、ripasudil が Y-27632 を凌駕するという結論が出、ripasudil が治験候補と結論づけられる。

以上が結果で、今皆さんが AI Agent を使っておられるのと同じように、人間の仕事をより効率化し、しかも考えていなかった新しい発見まで可能になることを示しており、より実験室に馴染むAIの利用が提案されたと思う。おもしろいのは、PaperQ2 などのモデルを OpenAI に変えると、ROCK阻害剤が提案されなかった点で、何が最も効率的なのかについてはまだまだ人間が決める必要がありそうだ。

Googleからの論文と比較したとき、Future House の論文がわかりやすいのは、要するに目的をはっきりさせ、具体例でAI Agentの力を示したことだが、今自分が現役ならどうすればいいのかと考えてみると、大変な時代だということもよくわかる。

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5月21日 肺ガン免疫の鍵、3次免疫組織形成の神経支配(5月19日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月21日
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現役の頃、マウスの腸のリンパ組織パイエル版の発生を調べていたとき、発生中の腸管でパイエル版形成の場所決めをするシグナルは何だろうかとよく議論していた。今日紹介する論文にも出てくるように、リンパ組織 (LT) は、LT inducer (LTi) 名付けた血液系の細胞と、LT organizer (LTo) と名付けた間質系の細胞の相互作用により形成されるが、最初のスイッチが入る場所は結局わからなかったが、神経発生との相関を検討したらと議論した覚えがある。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺ガンの免疫に強く関わると考えられている3次リンパ組織 (TLC) の形成を感覚神経が強く抑制していることを示す研究で、5月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nociceptive innervation limits tertiary lymphoid structures to promote lung cancer(侵害受容神経は3次リンパ組織構造を制限し肺ガンを促進する)」だ。

自律神経がガンを助ける可能性については古くから研究されており、このブログでも取り上げてきた(https://aasj.jp/news/watch/2080)。実際、ガン治療目的の迷走神経切除まで検討されている。この研究は K-ras 変異と p53 変異を導入した肺ガン発生モデルでガンに対する神経支配を調べることから始めている。通常肺の感覚神経は気管周囲に投射しており、末梢の方は少ないが、ガンの周りには明確な神経支配の増強が見られる。この神経で発現が上昇している遺伝子を調べると、神経機能に関わるチャンネルのような分子にとどまらず、TLS 形成に関わることが知られている ケモカイン CSCL13 も強く発現している。

次に神経支配とガン増殖の関係を調べるため、肺を支配する感覚神経だけがジフテリアトキシンで除去できる実験系及び特異的に化学的に刺激する実験系を作成している。結果は明瞭で、感覚神経を除去するとガンの増殖は抑えられ、逆に刺激を強めるとガンの増殖が促進される。即ち、ガン増殖を肺の感覚神経が助けている。

神経から分泌されるカルシトニン関連ペプチド (CGRP) などの分子は試験管内でのガン自体の増殖にほとんど影響がない。特に免疫系への影響を調べたところ、神経除去で TLS の形成が増強されることを発見する。ここまで来ると、後は細胞レベルの解析を深めて、神経細胞、CGRP分泌からTLS形成までの役者を一つづつ追求することになる。詳細は省略して結果だけをまとめると次のようになる。

ガンにより感覚神経投射が誘導されるメカニズムは明確ではないが、ガン周辺に感覚神経が投射すると、様々な組織刺激を受けて CGRP を分泌する。CGPR 受容体機能に必須の補助タンパク質 Ramp1 は LTi の働きをする M1マクロファージ に強く発現しているので、神経支配によって LTi の機能が抑えられ、TLS を抑制していることになる。わざわざ神経を投射して免疫を抑えるというのは不思議に思うが、感染などで異常な免疫反応を抑制するために進化してきたシステムかもしれない。いずれにせよ、人間の肺ガンデータベースを調べると、カルシトニン遺伝子の発現とガン組織での T細胞 や B細胞 の浸潤は反比例しているので、間違いではなさそうだ。

最後に、タバコの影響についても調べており、神経に対しては CGRP 産生を促進することから、ガンの発生を助ける方向に働くこと、しかし神経支配を取り除いた後は、炎症刺激因子として TLS 形成にポジティブに働くことを示している。

以上が結果で、少なくとも肺ガンでガン局所で CGRP をブロックすることでガン免疫を高めることが出来るかもしれない。我々がリンパ組織の研究を始め、LTi や LTo を定義し始めた頃、研究していたのは我々も含めて4-5グループほどだったが、組織化された炎症と言う概念がここまで広がるとは予想できなかった。

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5月20日 妊娠期から授乳期の腸内変化(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月20日
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論文を読んだとき、今までどうしてこんなことがわかっていなかったのかと思うことがよくある。これは我々の Attention にどうしてもバイアスがかかっており、見落としていたことに原因があると思う。

今日紹介するプリンストン大学からの論文もそんな例で、妊娠期から授乳期に小腸上部で好酸球の集積が起こり、これが腸管の粘液分泌を高めるリモデリングに関わり、感染から母親を守るという話で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Eosinophils drive intestinal remodelling and innate defence in reproduction(好酸球は腸管のリモデリングを誘導し生殖期間中の自然免疫に関わる)」だ。

この研究のハイライトは、妊娠後12日目、そして授乳開始後12日目の小腸を調べて、これまでに知られていた腸の長さや絨毛の拡大や、免疫サイトカインの減少などの変化に加えて、好酸球が他の白血球と比べても著明に増加しているという発見だ。これまで同じような研究は行われていたと思うが、好酸球はどうだろうという attention がないと見落とす可能性はある。一方、single cell RNA sequencing もかなり行われているように思うが、このようなバイアスのない方法でも気づかれてこなかったこと自体に驚いている。

かなり特異的な集積で、小腸を上部、中部、下部に分けて調べなおすと、上部に最も強く集積し、妊娠中より授乳中に最も高い集積が見られる。ただ、この原因については明確でない。妊娠中に腸管は大きな変化を示すので、腸管側の変化と相関させる実験を行っている。期待通り、特に授乳期に比率で見るとLGR5陽性の幹細胞の比率が低下し、粘液産生のゴブレット細胞の比率が上昇している。授乳期の腸間のオルガノイド培養で見ても、コントロールと比べてゴブレット細胞の数が増えている。

この変化が好酸球の集積によるのか、逆に好酸球の集積が腸内のゴブレット細胞上昇によるのかを調べる目的で、好酸球の移動を抑制する CCR3 に対する抗体でマウスを処理すると、好酸球の集積がなくなるとともに、ゴブレット細胞の比率の上昇も止まる。この傾向をオルガノイド培養でも確認できる。従って、好酸球の集積がゴブレット細胞の分化を後押ししていると結論できるが、メカニズムについては示されていない。

ゴブレット細胞が増えることは、小腸での粘液産生が増えるということで、上皮をバクテリアから守っている可能性がある。そこで様々な細菌を経口摂取させ、腸内での細菌の増殖を調べると、増殖が半分ぐらいに抑えられている。さらにチフス菌のような致死的な細菌を感染させる実験では、明らかにホストの生存を助けることが出来ることから、好酸球、ゴブレット細胞、粘液分泌というサイクルが確かに腸内での病原菌増殖を抑える働きがある。そして、好酸球集積をCCR3抗体でブロックすると、感染防御も消失する。

最後にこの防御効果がどの程度持続するかを調べ、授乳を終えた後12週目で検討すると、他の血球の状態はほぼ妊娠前に戻るが、好酸球集積とゴブレット細胞比率の上昇などは12週目でも持続し、この結果チフス菌の腸内での増殖を抑えることが出来ることを示している。ただ、獲得免疫については変化はない。

以上が結果で、ほとんどが現象論的な古典的な研究と言えるが、通常寄生虫感染で起こる好酸球集積が妊娠で起こり、母親を守るという面白さで採択されたと思う。今後、妊娠した人と妊娠していない人で、腸内感染の頻度を調べるとおもしろいかもしれない。

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5月19日 新しいシナプス操作法の開発(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月19日
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AI のニューラルネットは、ネットワークのハブの伝達度が変化するよう重みづけることで成立している。神経系ではこの重み付けは化学シナプス接合で行われており、分子生物学的、生化学的、生理学的、形態学的な変化を伴う極めて複雑な過程を必要としている。AI ニューラルネットのことを知れば知るほど、神経系の化学シナプスでの重み付け機構がよく出来ていることを実感する。これほど複雑な化学シナプスは6億年前に進化してきたと考えられているが、細胞の興奮を他の細胞に伝えるためのより単純な機構はずっと以前から進化している。最も重要なのがギャップジャンクション (GJ) を介する興奮伝達機構で、2つの細胞が結合して様々なサイズの分子の移行を可能にするシステムだ。例えば心臓の筋肉は GJ を形成することで興奮が広がる。神経系でもいくつかの系で GJ を興奮伝達に使っていることが知られており、電気シナプスと呼ばれている。

今日紹介する米国 Duke大学からの論文は、GJ を形成するコネキシン分子を操作して2種類のコネキシンが選択的に結合して GJ を形成。それを通って一方向に電流が流れる電気シナプスを開発し、これにより動物の神経接合を操作できることを明らかにしたおもしろい研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Long-term editing of brain circuits using an engineered electrical synapse(電気シナプス操作により脳回路を長期にわたって操作する)」だ。

コネキシン (Cx) が結合して GJ が起こることはわかっているが、通常同じコネキシン同士で GJ を作るため、特異的な電気結合を可能にするCx分子ペアを設計するのは簡単ではない。この研究では、電気シナプスを形成することがわかっている Cx36 のホモログ Cx34.7 と Cx35 が、アメリカに棲息する White Perch に発現していることを突き止め、この組み合わせが存在するときだけ電気シナプスが形成されるよう様々な遺伝子編集を行い、最終的にそれぞれ単独では決して電気シナプスを形成せず、両方が合わさったときだけ電気シナプスが形成できる Cx34M と Cx35M のデザインに成功している。実際にはこの過程がこの研究のハイライトだが、詳細は割愛した。

この電気シナプスを通常の神経回路に加えることで、神経細胞レベル、行動レベルの変化を誘導出来るか調べるために、まず線虫の温度志向性を使って実験している。線虫は温度志向性はないが、一定の温度と餌を会わせて条件付けると、温度志向性が生まれる。この現象に関わる温度センサーAFDとその刺激を受ける介在神経AYそれぞれに Cx34M、Cx35M を発現させ、教育後の温度志向性を調べると、センサー細胞の興奮が直接介在神経に伝わって、高い温度への移動を始めることを確認している。一方で、同じ Cx 同士では全く電気シナプスは出来ない。即ち期待通り、特定のサーキットに電気シナプスを加えることが可能になった。

次はマウス海馬全体に Cx34M が発現し、介在神経のみ Cx35M が発現するよう操作している。両方が別々の細胞に存在しないと GJ は形成されないので、この方法で錐体神経から介在神経へと電気シナプスができる。すると海馬の高振幅θ波の同調が強く誘導されること、これが錐体神経刺激が直接介在神経の興奮の同調の結果である事を確認している。その上で、このマウスの行動について調べると、社会性が上昇し、新しいものを求める行動が促進されることを示している。

最後にストレスに関わる辺縁系と視床の比較的長距離回路をこの方法で操作できるか調べている。辺縁系に Cx34M、視床に Cx35M を発現させ、最終的に神経同士のシナプスに GJ が形成されるか調べ、軸索移動に時間がかかるものの10日程度でそれぞれの分子がシナプスで GJ を形成することを確認している。またこの結果、単一細胞同士の神経興奮が少しの間隔を置いて伝達できることを確認している。そして、このマウスでストレスへの適応を調べると、電気シナプスで結合を増強した場合のみ、適応力が上昇することを示している。

結果は以上で、2種類の分子がないとGJが形成できないCxの組み合わせを開発し、新しい定常的な神経調節システムを開発した優れた研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月18日 細胞が電気を感じるメカニズム(5月12日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月18日
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あまり気にしたことはなかったが、我々の白血球は様々な物質勾配に沿った移動、ケモタクシスを行うが、電場に対しても反応することが知られていたようだ。電流をビリビリと感じるのは感覚神経の voltage gated channel によると思うが、同じメカニズムは白血球には存在しないだろうし、また反応の時間スケールも全く異なる。

今日紹介するコロラド大学とワシントン大学からの論文は。これまで TMEM154 として知られていた細胞膜分子が、細胞表面で電場を感じてケモタクシスの方向性を決めていることを示した研究で、5月13日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Galvanin (TMEM154) is an electric-field sensor for directed cell migration(Galvanin ( TMEM154 は電場のセンサーとして移動の方向性を決める) )だ。

この研究ではヒト白血球株が弱い電場を書けたときにフィルターを通って細胞が移動する培養系で、CRISPR/CAS ノックアウトスクリーニングを行い、この過程に関わる分子を探索している。もちろん細胞の動きは多くの分子で維持されているので、多くの分子の欠損は移動を抑えるが、電場に最も反応していると考えられた細胞膜タンパク質 TMEM154 を、電場のセンサー候補として取り上げている。

この分子にGFPを結合させて細胞局在をビデオで調べると、電場をかけた2分ぐらいから細胞の陽極側に局在するようになる。そして、この分子が欠損すると、細胞の陰極側への移動が強く抑制されることがわかった。この結果から電気を感じるという意味で Galvanin と名前を付けている。Galvanin は白血球だけでなく、T細胞にも発現しており、T細胞の電場に沿った移動にも関わること、更にはゼブラフィッシュ胚の基底上皮の電場に沿った移動にも関わることを示している。そして、この分子を発現していない細胞株に遺伝子導入するだけで MDCK の様な上皮細胞も電場に沿った移動が出来ることを示している。即ち、どの細胞でも電場センサーとして働いている。

メカニズムだが、Galvanin の細胞外ドメインにはマイナスチャージの糖鎖で強く修飾されており、糖鎖修飾がなくなると電場の感知が消失する。また、細胞外ドメインを他のマイナスチャージ分子に置き換えても、電場に反応する様になる。以上の結果から、細胞膜上での電場に沿った分子移動が起こり、これが細胞の極性を電場に会わせて形成し、移動方向を決めている。

細胞内ドメインを除去した分子を発現させ電場を書けると、Galvanin 自体の陽極側への移動は起こるが、陰極への細胞の移動は起こらなくなる。以上のことから、Galvanin は強くマイナスにチャージしていることから、電場により細胞膜上で電気泳動が起こって陽極側に引き寄せられる。その結果、細胞内ドメインと相互作用していた分子も一緒に引き寄せられ、極性のある細胞骨格調節が起こる結果、電場に沿った移動が起こるというシナリオになる。

普通ならこの分子をノックアウトするのに全く触れられていないので気になって調べると、マウスでは発生や生存には影響がないようだが、ほとんど研究が行われていない。一方で、ヒツジの肺炎に関わるウイルスの受容体として機能することから、研究が行われている。従って、新しい目でこの分子の生体内の機能を調べていく必要があるだろう。これにより初めて電場のセンサーを我々がどれほど必要としているのかもわかると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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