9月2日 tRNA由来のRNAフラグメントがオートファジーを介して腎臓を守る(8月28日号 Science掲載論文)
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9月2日 tRNA由来のRNAフラグメントがオートファジーを介して腎臓を守る(8月28日号 Science掲載論文)

2025年9月2日
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現役を退いてから分野を問わず論文を読んでいるにもかかわらず、全く考えたこともなかった現象を扱っている論文にしばしば出会う。まだまだ修行が足りないと思うと同時に、新しい経験がつきない生命科学の深さを実感している。

今日紹介するハーバード大学からの論文はその典型で、tRNAの一つが切断されてできたフラグメントがオートファジーを促進して腎臓の細胞を守るという話は、私にとって全て新しい経験だった。タイトルは「A hypoxia-responsive tRNA-derived small RNA confers renal protection through RNA autophagy(低酸素に反応して合成されるtRNA由来small RNAはRNAオートファジーを介して腎臓を守る)」で、8月28日号 Science に掲載された。

まず知らなかったことの第一は、tRNAから多くのsmall RNAが作られ、様々な生理過程を調節しているという事実だ。確かに我々は何百というtRNAを持っており、これらは様々な分解酵素にさらされていることから、何千というsmall RNAができるが、全て分解されていくだけだと思っていた。

この研究では腎臓細胞を低酸素状態にさらしたとき、tRNAの一つtRNA-Asp-GTC-2が切断されてできるtDRが強く上昇する事にまず注目している。そして、これが低酸素により誘導されるRNA切断酵素の発現上昇の結果である事を確認する。

次に、こうして合成されるtDRを培養細胞に加えるとオートファジーの誘導が高まると同時に、オートファゴゾームのターンオーバーが抑えられ、結果オートファジー機能が高まる。即ち低酸素ストレスに対する細胞の生存戦略の一端を担っていることがわかる。逆にtDRをアンチセンスRNAで阻害するとオートファジーの形成が抑制されることも確認している。

実際の腎臓でのtDRの機能を調べるため、尿管を結紮して腎臓障害を誘導する実験系で、tDRのアンチセンスRNAを静脈注射すると、組織学的に腎障害が高まり、炎症や繊維化が高まることがわかった。

逆に、虚血・再灌流による腎障害モデルでtDRをポリマーとともに注射する方法で腎臓に届けると、腎障害が抑えられ、炎症や繊維化も強く抑制できる。すなわち、tDRはストレスにより合成され、オートファジーを誘導することで腎臓を守っていることがわかる。

あとはこれが起こるメカニズムを詳しく解析している。私にも初めての話が多くわかりにくいと思うので、tDRの生成以降を箇条書きでまとめておく。

  1. tDRはシュードウリジン合成酵素PUS7と結合する。シュードウリジンというとコロナワクチンで使われたウリジンだが、私たちの身体で産生されるとは知らなかった。しかし、RNAを安定化させる方法として身体の中でも機能している。
  2. この結合にはtDRがとる4G構造(以下の記事を参照:https://aasj.jp/news/watch/25430 )が必要で、これによりPUS7の機能が阻害される。
  3. PUS7は細胞内に多量に存在するヒストンをコードするRNAをシュードウリジン化して安定化させているが、tDRによりPUS7の機能が抑えられるとヒストンmRNAが不安定化し、分解したフラグメントがオートファジーを誘導する。
  4. 腎機能が低下している人では、tDRのレベルが高く、一方ヒストンmRNAのレベルが低い。

以上が結果で、思いもかけない方法でオートファジーが活性化され、腎臓細胞を守っているという話だ。ここまでわかると、腎臓を保護する新しい方法が開発できるかもしれない。

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タンパク質デザインモデル開発競争(8月27日 Nature オンライン掲載論文)

2025年9月1日
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新しい機能的タンパク質のデザイン研究は、長らくDavid Baker氏 のグループが牽引してきた。彼らの研究は目的が明確で、非専門家にも理解しやすいのが特徴である。代表例として、RFdiffusionを用いて物理学的制約から立体構造を生成し、その構造をProteinMPNNで配列化し、さらにAlphaFoldで評価して合成につなげる、という一連の流れが挙げられる。

Baker研は大規模言語モデル (LLM) 以前から、進化で得られた配列を物理化学的制約と結びつける方向でモデル開発を進めてきた。一方、MetaのESM-3はマスク学習で進化的コンテクストを抽出し、自然言語による機能・構造記述も統合して、ひとつのモデルで目的に応じた配列を直接設計できる点が特徴的だ。

この「進化コンテクスト」の利用に関しては、相同タンパク質を比較する Evoformer を基盤にしたAlphaFold2が本家といえる。その発展版であるAlphaFold2 multimerは、複数の配列を同時に解析でき、Google DeepMindにより開発された。

ただ AlphaFold2系は、進化で生じた配列の情報を利用できる利点がある反面、新しい配列を設計する際に既存のタンパク質から離れにくいという制約があった。そこで開発されたのが、hallucinationと呼ばれる手法である。これは、自然界に存在しないランダムな配列を入力し、不正確な構造をあえて生成させることで、全く新しい配列を探索・最適化する方法だ。この戦略をAlphaFold2 multimerと組み合わせることで、拡散モデルに頼らずとも効率よくタンパク質を設計できる可能性が開かれている。

この方向性を典型的に示したのが、スイス・ローザンヌ工科大学とMITによる研究である。論文タイトルは「One-shot design of functional protein binders with BindCraft (機能的蛋白質バインダーをワンショットで作成できるBindCraft) 」で8月27日 Nature にオンライン掲載された。

BindCraftは、標的タンパク質の特定領域に結合するペプチドをワンショットで設計することを目的としている。その手順は次の通りだ。

  1. AlphaFold2 multimerにhallucinationを誘発する入力を与え、設計候補を生成。
  2. 出力を評価し、バックプロパゲーションで改良。
  3. 最終的に得られた候補をProteinMPNNで配列化。
  4. AlphaFold2で再度構造を予測し、条件を満たすか検証。

この過程を一つのフレームワークに統合してBindCraftと名付けている。

そして実に様々なタンパク質を標的としてこのモデルの評価を行っている。

最初に免疫チェックポイント治療の標的PD-1に対するペプチド設計について詳述している。53種類のペプチドを設計し、そのうち13種類が実際に結合することを確認。歩留まりは極めて高く、最も強いペプチドはKd = 615 nMという有意な結合親和性を示した。

これ以外にも、インターフェロンα受容体、CD45、Claudin1 など複数の分子に対して設計が行われ、μM以下の親和性を持つ成功率は20〜80%という驚異的な成果を挙げている。

さらにいくつか面白い例を紹介すると、1)Claudin1 へのトキシン結合を阻害し、上皮破壊を防ぐペプチド、2)中心小体を構成する分子の機能領域を特定、3)CRISPR-Cas酵素の機能阻害ペプチド、4)AAVベクターにHER2やPD-L1特異性を付与、5)ダニ抗原に結合し、IgEとの競合を通じてアレルギー反応を抑制、など一つの論文に収めきるにはもったいないぐらいの例が示されている。それだけ効率が高いということだ。これらの例から、BindCraftは「欲しい機能を狙い撃ちで設計できる」汎用性を示している。

このようにBindCraftは、hallucinationを利用してAlphaFold2 multimerの制約を乗り越え、高効率で機能的ペプチドを設計できる新しい枠組みを、アカデミアから提案できることを示している。実際Google DeepMindやBaker研のみならず、欧米・アジアの研究機関も加わり、タンパク質デザインは真の国際競争時代に入っている。

残念ながら、日本からはこの分野で目立った成果があまり見えてこない。しかし、生命科学とAI は両輪で進化していく最重要領域であり、各分野の知識とアイデアを生かせる余地は大きい。若手研究者がこの分野で挑戦できる環境を整備することが、今まさに求められている。

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8月31日 妊娠時のストレスは胎児マスト細胞を介して湿疹を誘導する(8月27日 Nature オンライン掲載論文)

2025年8月31日
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昨日に続いて少し変わった炎症性変化の論文を紹介する。

臨床的観察として妊娠中に母親がストレスにさらされると子供に湿疹が出やすい、という論文が発表されている(例:Letourneau, N. L. et al.、Allergy Asthma Clin. Immunol. 13, 26 (2017).)。今日紹介するフランス・ツールーズ大学からの論文はマウスモデルでこの原因を探った研究で、臨床観察を動物に投影して調べる典型的研究と言える。タイトルは「Maternal stress triggers early-life eczema through fetal mast cell programming(母親のストレスは胎児マスト細胞のプログラムを通して子供時代の湿疹を誘導する)」だ。

この研究では、妊娠13-18日にかけて一日3回マウスを狭いチューブに閉じ込め強い光に30分さらすというストレスをかけている。すると、まず水分の蒸発をブロックする機能が低下し、IL-9、 IL-7、CXCL9の皮膚での発現が上昇し、さらに皮膚の機械的刺激に対して神経学的にも極めて感受性が高くなり、またその結果皮膚の強い炎症が起こるようになる。即ち、ストレスにさらされた母親から生まれた子供に湿疹が出るという現象をマウスで再現出来た。

次にこの原因を探るために、神経過敏の原因として末梢感覚神経を詳しく調べ、機械刺激に関わる神経の密度が高まり、機能的にも刺激されやすくなっていることがわかった。

次に、炎症に関わる血液系細胞についても single cell RNA sequencing を用いて詳しく調べ、ストレスにより遺伝子発現状態が大きく変化するのがマスト細胞だけであることがわかった。しかも、マスト細胞が存在しないWマウスでは、母親のストレスでも炎症は生じないことがわかった。この結果は、胎児のマスト細胞が母親のストレスでプログラムが活性型へと変化し、湿疹の原因になっていることがわかった。

新生児期のマスト細胞のほとんどは胎児期の卵黄嚢に由来し、ゆっくりと骨髄由来マスト細胞に置き換わっていることが知られている。従って、母親のストレスが胎児のマスト細胞に影響を及ぼしていると考えられる。そこで胎児期のマスト細胞を調べると、ストレスのかかっていない母親内の胎児と比べて、強く活性化し、脱顆粒が起こっていることがわかる。このマスト細胞のクロマチン状態を Atac-seq で調べると、コントロールマスト細胞と比べ開いているクロマチンが多い。従って、どの遺伝子と特定はできないが、エピジェネティックな変化がストレスで誘導され、活性化型に変化したマスト細胞が皮膚へ移動することで、幼児期の湿疹の起こりやすい状態が形成されることになる。この状態は24週目を過ぎると消失するので、骨髄由来マスト細胞に置き換わるにつれ、湿疹は改善することになる。

最後に胎児皮膚でマスト細胞を活性化している要因についても調べて、ストレスにより母親のコルチコステロイドレベルが上昇することが活性化を誘導していること、コルチコステロイド合成に関わる酵素をストレスがかかった時期に投与すると、生まれてからの湿疹はできないことを示している。

以上が結果で、マウスモデルではあるが胎児造血で作られる血液は母親のストレスで活性が変化する可能性を示した点は重要だと思う。というのも、同じように胎児造血で作られる血液細胞のもう一つがミクログリアで、もし同じように活性化型になっているとしたら、胎児から新生児期の神経発生異常に関わる可能性はある。

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8月30日 視覚的に感染の危険性を察知するだけで自然免疫が活性化される(7月28日 Nature Neuroscience オンライン掲載論文)

2025年8月30日
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自律神経系は免疫細胞からの様々なサイトカインに反応し脳へシグナルを送るが、脳も視床下部-下垂体-副腎皮質からのホルモンを通して免疫系にシグナルを送る。そしてこの回路自体は、他の様々な刺激と繋がっており、我々が感じる内的・外的刺激の全てはこの回路に連なっているので、脳や免疫系からこの回路に関わる介入が起こっても驚くことではないと理解している。

とはいえ、今日紹介するジュネーブ大学とローザンヌ大学から7月28日 Nature Neuroscience にオンライン発表された感染している人が近づいてくるだけで私たちの自然免疫系が高まるという論文を目にして驚いてしまった。タイトルは「Neural anticipation of virtual infection triggers an immune response(仮想的な感染を神経的に予測することで免疫反応にスウィッチが入る)」だ。

この研究を理解するためには、1990年イタリアパルマ大学 Rizzolatti らが提唱した peripersonal space (PPS) の概念を知ることが必要だ。PPSは脳で感じる我々の身体に直接関わる環境との境界といえる。このような拡大した身体表象を持っていることは、身体そのものの感覚=タッチ感覚が、接近してくる物体の視覚により影響される事で測定できるとされている。実際、急速に物体が近づくのを見ると、タッチ感覚の反応が早くなる。このタッチ感覚に影響する視覚的距離をPPSと定義している。

この研究では、このPPSが普通の顔、あるいは怒っている顔が接近するときと比べると、明らかに病原体に感染していると思える顔が近づいてくる時は遠い距離まで拡大していること発見している。即ち同じ反応が感染した顔だと遠いところから始まり、感染危険性があると我々のPPSが拡大することを示している。コロナの頃のディスタンスの感覚と考えてもらえればいい。

ここまでならなるほどで終わるのだが、この研究はPPSを図る実験後90分に採血をして、免疫系を調べている。コントロールとして、実際のインフルエンザワクチンを注射した場合も加えている。明確に差が出るのが自然免疫に関わるILCの数で、怒った顔が近づいてきても少しは上昇するのだが、感染した顔が近づいてくると、インフルエンザワクチン注射と同じぐらい上昇する。また活性化されたILCで特にはっきりした差が見られる。

この結果が研究のハイライトで、あとは脳のどの領域がこの反応に関わるかを調べている。脳のネットワークには注意を向ける Salient network が存在するが、これに感染症により刺激が高まったPPSネットワークが加わり、そこから下垂体への回路の活性が高まっていることを明らかにしている。

ここまでわかると、あとは本当に視床下部、下垂体、副腎皮質回路が活性化してILCを刺激することになるが、これを確認するため、様々なサイトカインのデータを学習させたAIを用いて、感染者を見ることによるPPSに関する強い刺激が、ILCに関わるサイトカインと相関するかを調べ、明確な正の相関が存在することを明らかにしている。

結果は以上で、要するに感染者を見ただけで、自分の身体範囲を拡大して身を守るだけでなく、無意識のうちに免疫系まで刺激しているという驚くべき結果だ。ワクチンを打つ前に、感染者の話を聞かせるのも面白いかもしれない。

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8月29日 フランス革命を疫学視点で分析する(8月27日 Nature オンライン掲載論文)

2025年8月29日
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学生時代と違って、よほどのことが無いとフランス革命まで調べようという気にならないが、昨日アップデートされた Nature に、フランス革命を扱っているミラノ大学とパリ第8大学からの論文で、革命をフランス全土に拡大する力になったとされている The Great Fear についての研究があったので、早速紹介することにした。タイトルは「Epidemiology models explain rumour spreading during France’s Great Fear of 1789(1789年フランスで起こった大恐怖時の噂の広がりについての疫学モデル)」だ。

まず The Great Fear について紹介するとパリでのバスティーユ襲撃の後、7月20日に領主がならず者を雇って村を襲うという噂が広がり、農民が武装し自警団を形成するとともに、領主を襲い封建的権利についての文書を焼却する運動が3週間の間にフランス各地に広がった歴史的事実をさしている。即ち、パリでの革命に呼応してはいても独立に広がり革命をフランス全土に拡大する役割を果たし、事実国民会議で封建制度の廃止が決まるとこの動きは収まった。

この研究では The Great Fear を克明に調べた本、 Lefebvre 著 “The Great Fear of 1789: Rural Panic in Revolutionary France” に記載されている資料を基に、パリ全土641カ所の様々な都市や村ごとに噂が到達した正確な日時、それに反応した武装化や領主襲撃についてプロットし、まず噂とそれに対する反応の広がりについて解析している。

面白いのは決してパリから全土に広がったわけではない点だ。最も早い20日の時点で武装化などを始めた地点は、Nante 地域、続いて Maine 地域、そして Champagne 地域と離れており、それぞれ独立の起点になったと考えられる。

そしてこの起点から順番に主に南へと広がっていく経路をたどることができ、これらは起点からの噂や情報の広がりに応じて発展しており、実際道路や川を沿って広がっている。これをもう少し数値化して拡大速度を調べると、一日に平均27kmであり、このことからも3つの起点は独立である確率が高い。実際、情報を伝えるという目的なら馬車や馬が使えるが、これを使えば当時で110−160km 離れた場所に伝えられることから、各起点が独立して始めた運動であることがわかる。

もちろんそれぞれの起点は7月14日のバスティーユの襲撃情報に基づいて、領主などが反革命運動を始めると考えたと思われる。このドライビングフォースについて、疫学で使われる手法を取り入れて、運動が伝搬した町や村について調べると、

  1. 人口が多い町ほど噂に反応して行動を起こした。
  2. 土地の所有について領主が権利書を一括管理している村ほど行動を起こした。
  3. 住民の知識レベルが高いほど行動を起こした。
  4. 収入が多いほど行動を起こした。
  5. そのときの小麦の値段が高いほど行動を起こした。

などのパターンが見えてくる。即ち、革命についての知識があり、領主を襲えば権利書を焼ける可能性が高い、しかも噂が広がりやすい人口を持つ地域で起こっていることがわかる。

噂を一種の病原体として、疫学的モデルを立てることができ、20日から始まった噂が、7月30日にはピークに達し、それから5日で下火になる過程を完全にモデル化できる。

最後に Soissonnais での情報の広がりを分析した Ramsay らのデータを疫学モデルで再解析し、半分が正式な文書による情報拡散で、残りが噂による広がりであることもわかった。

以上が結果で、疫学モデルを適用しなくとも、これまでの文献をしっかり調べる歴史学でかなりのところまでカバーできると思うが、このような現象が多く集まると、おそらく現代のSNSによる情報拡散に至るまで大きなヒントになると思う。噂を感染症にオーバーラップさせ疫学を利用するというアイデアがこの研究のハイライトで、この突飛な発想に脱帽。

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8月28日 ミトコンドリアと痛み(8月26日 Cell オンライン掲載論文)

2025年8月28日
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先週松本音楽祭に出かけたときかなり広範囲の帯状疱疹がでて、松本市の皮膚科を受診、アメナメビルを処方してもらって、皮疹の拡大は収まっている。この時の痛みはおそらくTRPV1受容体陽性の感覚神経の過興奮が原因だと思うが、TRPV1は有名な唐辛子成分カプサイシンだけでなく、熱、炎症物質など様々なシグナルに反応してしつこい痛みを誘導する厄介者だ。末梢にはこのような興奮刺激が数多く存在するが、TRPV1神経は比較的過興奮に強く、言い換えれば頑丈なアラームセンサーを持っている。しかし、TRPV1を強く刺激すると、神経は死んでしまう。これを利用してヘルペス後の神経痛の治療も開発されている。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、TRPV1刺激で誘導される過興奮による細胞死をミトコンドリアの活性がチューニングするという面白い研究で、自分の帯状疱疹のことを考えながら興味深く読んだ。タイトルは「Mitochondrial activity tunes nociceptor resilience to excitotoxicity(ミトコンドリア活性が痛覚受容器を調整して興奮毒性への抵抗性を誘導する)」だ。

研究では培養細胞にTRPV1を発現させカプサイシンで刺激したときの細胞死に関わる分子について、CRISPRシステムで包括的にノックアウトする方法を用いて探索している。カプサイシン処理後生き残った細胞にはこのシグナルに関わる遺伝子が消失していることになる。

当然のことながらTRPV1がノックアウトされると生き残ることから、このスクリーニング系が有効であることがわかる。こうしてリストされたTRPV1刺激による興奮死に関わる分子の中で著者らが注目したのがミトコンドリアの電子伝達系を形成する分子で、単独でノックアウトする実験や、阻害剤を加える実験を繰り返し、ミトコンドリアの電子伝達系を抑えるとかTRPV1依存的細胞の興奮死が防げることを発見する。

通常、神経細胞でミトコンドリアの電子伝達系が抑えられると、それ自身で細胞死が誘導されるぐらいで、これが逆に細胞死を防ぐという事実は全く予想外の結果だったと思う。

ミトコンドリア電子伝達系の機能はATP合成だが、ATPの分解などはこの現象を説明しないことがわかった。

グルタミン刺激による細胞死などカルシウムの細胞内流入が重要な役割を演じているが、ミトコンドリアの呼吸伝達系がNAD産生を通して関わっていることから、カルシウムがTRPV1刺激による興奮死の一端を説明できることが確認される。

しかし、ピルビン酸を直接加えてこの経路をスキップしても、TRPV1刺激は興奮死を誘導することができる。この原因を探ると、もう一つのミトコンドリア機能である活性酸素の産生がTRPV1で誘導されることがわかった。即ち、呼吸伝達系を抑制することでTRPV1刺激による活性酸素産生が阻害され、細胞死が抑えられる事を明らかにしている。

以上が結果だが、末梢神経のようにいつも刺激にさらされている場合、すぐに興奮細胞死が起こってしまったのでは困ったことになる。実際には他の神経細胞と比べると、TRPV1陽性細胞は呼吸伝達系に関わる分子の発現が低く、その結果正常細胞の生存は低い電子伝達系で維持できるようになっていて、そのおかげで末梢の様々な神経にさらされても、簡単に細胞死が起こらないようにできていることを明らかにしている。

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8月27日 Gene Meltingによる転写の維持(8月25日 Cell オンライン掲載論文)

2025年8月27日
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Gene meltingというと古い世代は二本鎖が熱で解離して一本鎖になることを考えてしまうが、2021年、ドイツ ベルリンにあるマックスデルブリュックセンターのグループはこの言葉に新しい定義を与えた。神経細胞の分化に伴う大きな転写調節の変化を正確に捉えるため、分化各段階の核を取り出して領域間の結合性を調べる方法で、分化に伴いTADと呼ぶ区切り(https://aasj.jp/news/watch/3533 参照)が維持できずに溶けたように見える現象、即ち遺伝子コンパートメントが失われリラックスすることを gene melting と名付けた。

この時から4年を経て、今日紹介する米国クリーブランドのケースウェスタン大学からの論文は、TADではなくSox6遺伝子のゲノムとの結合様態から同じように gene melting が観察できることを示した面白い研究で、8月25日号の Cell に掲載された。タイトルは「Transient gene melting governs the timing of oligodendrocyte maturation(一過性の遺伝子メルティングがオリゴデンドロサイト成熟を調節している)」だ。

研究自体はオーソドックスな淡々とした細胞分化研究と言える。iPS細胞からオリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) 、未熟オリゴデンドロサイト (IO) 、そしてミエリン合成を行う成熟オリゴデンドロサイト (MO) を誘導し、この分化を決めている転写因子を調べる目的でスーパーエンハンサーを形成している領域などについて調べ、OPCからIOではSox6がスーパーエンハンサー支配下にある重要な共通遺伝子で、MOになると発現が抑えられる事を確認する。さらに、この分化の過程で発現しSox6の転写後の調節に関わる数種類のmiRNAの発現が成熟に伴うSox6の抑制に関わることを明らかにし、Sox6のかなり複雑な発現様態が分化をコントロールすることを明らかにしている。

ノックダウンやノックアウトを用いて遺伝子発現を止めると、成熟が進みミエリンが合成される。ただ、オリゴデンドロサイトのアイデンティティーを決定するわけではない。すなわち、Sox6はオリゴデンドロサイトの未熟性を維持する役割を演じていることがわかる。

そこでSox6に結合している遺伝子領域を免疫沈降法を用いて調べると、OPCでは細胞分化に関わる重要な遺伝子を調節しているスーパーエンハンサー内に参加し、特定の調節領域を標的に結合が見られるが、IOの段階になるとスーパーエンハンサー内での結合が外れて、それまで支配していた遺伝子全体に広がって結合することを観察する。即ち、構造化されたエンハンサー内のSox6が溶けるように遺伝子全体に広がることを観察し、これこそが gene melting だと考えた。

Atac-seq を用いてクロマチンの状態を調べると、Sox6が溶けるように広がった遺伝子領域は染色体構造が開いており、また転写マシナリーがアクセスしやすくなっていることを発見する。そして、こうしてSox6が結合する遺伝子のほとんどはオリゴデンドロサイトの分化を未熟状態に置くために必須の遺伝子である事がわかる。即ち、Sox6はIOでは未熟性を保つための遺伝子全体に結合して、クロマチンを広げて転写を維持するのに働いていることがわかる。

その後、何種類ものmiRNAが発現しSox6のmRNAを抑制し始めると、Sox6結合が解消してクロマチンが閉じ、この結果未熟性がないMOへと分化し、ミエリンを作り始める。

以上が結果で、未熟な間はミエリンを作らせずに機動性を重視するため、未熟性を維持する面白い機構として gene melting が使われていることがわかる。TADは調べていないので、マックスデルブリュックセンターが定義した gene melting と完全に一致するかはわからないが、Sox6が全体に溶けるように結合しており、そこに様々な調節領域がアクセスするとTADも溶けてしまうように見えると思う。

この研究はこれで終わらず、多発性硬化症でオリゴデンドロサイト増殖が繰り返し刺激されることで完全な成熟が止まってしまうという現象を捉え、この時Sox6を抑制してやることで成熟を誘導しミエリン合成を促進でき、病気を抑えられる可能性まで示している。また、スーパーエンハンサーとの関係で gene melting が存在するとする考えは gene melting の意義を広げると思う。

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8月26日 腸管上皮の類人猿からヒトへの進化(8月21日号 Science 掲載論文)

2025年8月26日
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様々な細胞系列へと分化できるiPS細胞は、実験的進化研究の重要な土台になる。特に古代人も含めて全ゲノムデータが揃ったおかげで、ゲノムレベルの進化を実際の細胞で確かめたい時にはほとんど必須のツールになりつつある。とはいえ、この方法は脳進化によく用いられるようになったが、他の臓器はまだまだ利用が進んでいない。

今日紹介するデューク大学、ミシガン大学、そしてバーゼル大学が共同で8月21日号 Science に発表した論文は、これを腸管上皮の進化について行った研究で、タイトルは「Recent evolution of the developing human intestine affects metabolic and barrier functions(人間の腸管の最近の進化は代謝とバリアー機能を変化させた)」だ。

以前チンパンジーとヒトの脳の大きさの違いの背景について研究した論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/26767)、方法は少しづつ違うが枠組みは同じなので参考にしてほしい。

この研究でもまずヒトの腸管上皮の単一細胞レベルの遺伝子発現から、様々な細胞の特徴的な遺伝子セットを特定し、2つの種で起こったアミノ酸変化のない変異と、アミノ酸変化のある変異の比を計算して、アミノ酸変化のある変異の多い強く選択された遺伝子をリストするとともに、それぞれの遺伝子の調節領域の変異を調べる方法を組み合わせて、調節領域のサルからヒトへの変化もリストしている。この領域特定には教師付のAIが役に立つことも示している。

次に、ヒトのiPS細胞から腸管オルガノイドを作成し、まだ未熟な部分をマウスの腎被膜下に移植する方法で成熟させる方法を開発し、これにより誘導される腸管上皮がほとんど正常と変わらないこと、そしてこの細胞を用いてsingle cellレベルの遺伝子発現テストが可能なこと、そして遺伝子調節領域、特にエンハンサー活性を蛍光遺伝子を指標に調べられることを確認している。

そのあと、同じ方法でチンパンジーiPS細胞から腸管オルガノイドを誘導し、組織形態、遺伝子発現、クロマチン状態などから正常の腸管上皮に近いことを確認している。

その上で、ゲノム発現量、クロマチンの変化を調べる Atac-seq などによる解析と比較を行って、それぞれの細胞の違いを明らかにした結果、

  1. マウスも含めて比較したとき、ヒトへの進化だけで大きく変化する遺伝子が数百種類存在すること。
  2. その中で選択圧にさらされ進化してきた遺伝子が40種類ほど存在し、バリア機能や脂肪吸収に関わる遺伝子の大きな変化が見られること。

などを示すリストを作成している。

その上で、いくつかの遺伝子について特定した調節領域の変化がオルガノイド実験系で、サルからヒトへの過程での遺伝子発現進化を説明できることを示している。

例えば

  1. 乳酸を分解する酵素に関わるMCM6のヒト調節領域が長期に渡るこの遺伝子の発現維持に必須であること、またこの発現に関わる新しい調節領域の特定、
  2. 十二指腸のアイデンティティーに関わる分子PDX1が人間で強くなる発現調節領域の特定と、この領域が欠損して十二指腸アイデンティティーが抑えられると脂肪吸収が低下すること、
  3. そして insulin like growth factor シグナルに関わる分子の発現がヒトとチンパンジーの腸管の発生と機能に関わること。

などを明らかにしている。

大変な量の仕事でさすがに3つの研究室が総合で関わった感がするが、腸管の発生の進化は絶対に面白いし、細菌叢との関わり、あるいは今はやりのインクレチン遺伝子調節など、今後重要な研究分野になる気がする。

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8月25日 小細胞性肺ガンに託するサイクリンA/B標的薬の可能性(8月20日 Nature オンライン掲載論文)

2025年8月25日
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小細胞性肺ガンは肺ガンの中でも最も悪性度が高いが、Rb1とp53のガン抑制遺伝子の機能喪失変異以外に決まったガンのドライバーを特定することが難しい。ただ、Rb1機能が失われているため、サイクリンにより活性化される転写因子E2Fの活性のブレーキがきかず、これがガンの弱点になる可能性がある。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、普通ならほとんど無理と考えるサイクリンA/Bに対する薬剤を開発して、細胞周期のブレーキをさらに外すことで、元々ブレーキの効きが悪い小細胞性肺ガン殺す可能性を追求した研究で、8月20日号の Nature に掲載された。タイトルは「Targeting G1–S-checkpoint-compromised cancers with cyclin A/B RxL inhibitors(G1-S-チェックポイントに脆弱性のあるガンをサイクリンA/B RxL阻害剤で治療する)」だ。

細胞が増殖するためにはG1サイクリンだけでなく、DNA合成が進むS期の交通整理を行うサイクリンA、そしてM期への移行に必要なサイクリンBが必須で、素人目に考えるとタイトルにあるようにサイクリンA/Bを標的にするなど、副作用が強くてもってのほかと思ってしまう。

しかしプロはさすがに違う。サイクリンA/Bが他の分子と相互作用する時に結合する相手方のアミノ酸領域を標的にした経口摂取可能な環状ペプチドを開発し、小細胞性肺ガンを処理すると、かなりの数のガンがアポトーシスに陥る一方、正常細胞はほとんど影響がないことがわかった。要するに案ずるより産むが易しとはこのことだ。

しかしなぜこのような特異性が出るのかを調べる目的で、この阻害剤が効く細胞と効かない細胞を調べると、E2Fの活性化が最初から高い細胞に効果が高いことがわかる。当然Rb1が機能的に失われた小細胞性肺ガンはE2F活性が高く感受性が高い。サイクリンAは様々な過程に関わるが、E2Fをリン酸化して機能を低下させ、サイクリンB/Cdk1によるM期移行を用意する作用もある。即ち、今回開発された環状ペプチドはこの作用を抑えるため、Rb1機能欠損でE2F活性が高い細胞は、さらにサイクリンAを介するE2F活性抑制が効かず、強いストレスにさらされ細胞死に陥りやすいことがわかった。

さらに、この阻害剤を処理すると分裂期に必要な様々な分子の活性化が上昇するという、サイクリンBを標的にしたとは思えない過程が誘導され細胞死が起こることもわかった。即ち、サイクリンB阻害剤がサイクリンBの活性化を上昇させていることになる。この原因を探ると、この環状ペプチドはサイクリンBとCdk1の活性化を抑えるチェックポイント分子Myt1との結合を阻害して逆にサイクリンBの活性を高め、分裂期の転写のブレーキがきかなくなることがわかった。

さらにこの過程を解析して、Myt1とサイクリンBの結合が阻害されることで、通常ならサイクリンBが結合しないCdk2との結合が細胞内で起こってしまい、分裂期の微小管の活性化に対するブレーキも効かなくなり、細胞死へと誘導されていくこともわかった。

細胞周期の研究はもともと複雑で、実際には複雑な実験を繰り返し以上の結果を得ているが、わかりやすく一言でまとめると、今回開発されたサイクリンA/B阻害剤は、Rb1やp53欠損のようなチェックポイントが効かない特徴を利用して、さらにS/M期のブレーキを外すことで、細胞を殺すという不思議なタイプの抗ガン剤になることがわかった

最後に患者さん由来の小細胞性肺ガンを免疫不全マウスに移植し、開発された環状ペプチドを経口摂取させると、ガンの増殖を強く抑制することを示し、臨床応用可能性を示している。

以上タイトルを見たとき必須サイクリンを標的にした薬剤とはなんと乱暴なと思ったが、最後は納得するとともに、細胞周期の知識をアップデートできた。

カテゴリ:論文ウォッチ

8月24日 胸腺びっくり動物園にp53が関与している(8月20日 Nature オンライン掲載論文)

2025年8月24日
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胸腺でT細胞が作られるとき、自己に対する抗原に対するトレランスが誘導され、自己の細胞や分子に反応するT細胞受容体 (TcR) を持つT細胞は細胞死に陥る。ではどうして胸腺上皮に多様な自己抗原が提示できるのかという問題が発生する。これを解決したのがAireと呼ばれる分子により、胸腺上皮のゲノムの関係の無い場所から転写を誘導する機構が存在し、いわば胸腺上皮に様々な組織の分子が提示されるびっくり動物園ができていることの発見だ。この驚くべき仕組みについてはこのブログでも紹介したし(https://aasj.jp/news/watch/19920、https://aasj.jp/news/watch/24110 )、Youtubeでも詳しく解説した(https://www.youtube.com/watch?v=pitYM7YqUnY&t=23s )。

Aireが働くメカニズムに関しては、最初クロマチンに直接作用して閉じたクロマチンを開いているのではと考えられたが、CAリッチな配列にストレスが働いてDNAが切断しこれを修復する過程で転写が始まることが示された(https://aasj.jp/news/watch/24110 )。

では通常閉じているクロマチンがどのように開いているのか、これについて研究したのが今日紹介するシカゴ大学からの論文で、8月20日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Thymic epithelial cells amplify epigenetic noise to promote immune tolerance(胸腺上皮はエピジェネティックなノイズを増幅し免疫トレランスを促進する)」だ。

まず single cell レベルの解析で胸腺上皮の分化過程を5種類のステージに分け、この中で第3、4段階でAireが発現していることを確認したあと、Atac-seq を用いてそれぞれのトレランス誘導のために発現する組織遺伝子との関わりで詳しく調べ、組織遺伝子の転写開始点周りのクロマチンにノイズが入って開いてしまっていることを発見する。また、これはAireを必要としないことも明らかにしている。

このクロマチンの不安定性を誘導するメカニズムについて、組織遺伝子が活性化されるとき最も変化するのが p53結合領域であることに気づき、p53がこの不安定性の原因ではないかと考えた。事実、胸腺上皮の分化では p53の発現がシステマティックに低下する。p53はゲノム安定性に関わることから、胸腺上皮細胞で p53の発現を低下させることで、クロマチンの不安定な状態を許容して組織遺伝子を発現させている可能性が考えられる。

そこで胸腺上皮細胞で p53の発現が維持されるようなマウスを作成して胸腺上皮細胞を調べると、クロマチン不安定性の指標が低下して、更にはAireによる組織遺伝子の発現が低下することがわかる。詳細は全て省いて結論を述べると、p53が直接クロマチンに働くのではなく、元々クロマチン不安定性が発生しやすい胸腺上皮の細胞死を p53が誘導するからであるとわかった。即ち、正常の胸腺上皮発生では p53発現を低下させて、このチェックポイントの閾値を下げ、通常ではあり得ない様々な組織遺伝子の発現を許容していることになる。先に紹介した Dian Mathis らの論文でも、Aireはストレスが高い遺伝子領域のDNA切断を修復する機構を利用していることがわかっており、p53が低下することはこの点でも重要だと思う。

最後に p53発現が維持されるマウスの免疫システムを調べると、期待通り組織遺伝子と出会えなかったため、Aireノックアウトと同じような自己免疫状態が発生していることを示している。

以上が結果で、胸腺上皮とトレランス誘導についての研究だが、当然 p53が失われるガンについても新しい視点を提供する重要な研究だと思う。なるべく難しい話は省略して、わかりやすく紹介したつもりだが、少し難しいかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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