カテゴリ:論文ウォッチ
3月9日:怒りと心臓発作(3月3日発行European Heart Journal掲載論文)
2014年3月9日
私が期待していた若手が怒っている最中にくも膜下出血を起こしたと言う知らせを聞いて驚いた。気持ちが塞ぐ。しかし、怒りから心臓発作を起こしたり、脳出血が起こると言う話は医師としても納得できる。特に交感神経を介して心拍数や血圧が上がり、血管の抵抗も増す。しかしこれは医師の先入観で、実際怒りは心臓発作の危険因子かどうか科学的検討が必要だ。などと考えていたら、3月3日号のEuropean Heart Journalにドンピシャの論文を見つけた。ハーバード大学のベスイスラエル病院のグループの研究で「Outbursts of anger as a trigger of acute cardiovascular events: a systematic review and meta-analysis (怒りの爆発は急性の心臓発作の引き金になる:体系的再調査とメタ解析)」がタイトルだ。タイトルからわかるように、この病院で研究を行った訳ではなく、これまでの論文を集めて再調査し、新たに分析したのが今回の研究だ。実際には1966年以来このテーマについて発表された5000を超す論文の抄録を読み、その中から科学的に研究が行われていると判断した論文を9編選び出し、そのデータを再解析している。この怒りの程度を評価する点数制の指標があり、Onset Anger Scoreと呼ばれているが、結果は予想通りで、選んだ全ての論文で怒りを爆発させた後2時間に心筋梗塞を含む急性冠動脈症状約4倍、狭心症などがやはり4倍程度、そして脳内動脈瘤破裂が6倍、また不整脈が2−3倍上昇すると言う結果だ。怒りを爆発させたら2時間は安静にする事を怒りっぽい人は心すべきだろう。私自身今回の研究から学んだもう一つの事は、大量の論文が記録されている現在は、素朴な疑問でもそれを科学的に調べる方法があると言う事で、この様なメタ解析なら私たちのシンクタンク活動の一環として十分出来ると思った。
3月7日:遺伝子ノックアウトによるAIDS治療 (3月6日号The New England Journal of Medicine掲載論文)
2014年3月7日
細胞の遺伝子操作の中でも、持って生まれた遺伝子を改変するのは最もハードルが高い。しかし最近になって、ここでも紹介して来たCRISPRを始め、ハードルを低くする方法が開発されて来た。その中の一つがZincFingerNuclease(ZFN)と言う酵素を使う方法で、基礎研究では広く利用されている。今日紹介する論文は、この方法をAIDSの根治に使えないかを試みるペンシルバニア大学などの第一相の臨床研究で、3月6日号のThe New England Journal of Medicineに報告された。タイトルは「Gene editing of CCR5 in autologous CD4 T cells of persons infected with HIV (HIV感染自己CD4 T細胞のCCR5遺伝子改変)」だ。どうして遺伝子改変でエイズが治せるのか?HIVはCD4T細胞の発現するCCR5という受容体を通って細胞内に侵入する。エイズになりにくい方の遺伝子解析から、この分子をコードする遺伝子に32塩基対の欠損があるとエイズビールスが侵入しにくい事がわかっている。また、ベルリンのエイズ患者さんが白血病にかかった際、この突然変異を持ったドナーから骨髄移植を受けてエイズがなおってしまったと言う例が報告されている。このため、骨髄幹細胞の遺伝子を改変して患者さんを治そうとする方向の研究がこのZFNを用いて進んでおり、2010年7月号のNature Biotechnlogyに報告されていた。そして今回、骨髄幹細胞ではなく患者さん自身のCD4T細胞のCCR5分子をエイズ抵抗性にする欠損を遺伝子に導入し、もう一度患者さんに戻すと言う臨床治験が行われた。12人の患者さんに遺伝子改変された自己細胞を一回だけ注入し、その後の経過を2群にわけて、1群は経過を見るだけ、もう1群はエイズ薬を途中で止めてビールスが上がってくるかどうかを調べている。これは第一相試験なので、先ず安全性が大事だ。一人の患者さんで、細胞注入後の急性反応が見られたものの、これまでエイズが悪くなったり副作用が出たと言う事はなく、この治療は安全に行う事が可能だ。さらに、注入した遺伝子改変細胞の末梢血中の数は最初の1週間をピークに減るが、CD4T細胞全体は維持されている。さらに、大腸からサンプルを取って調べると、注入した遺伝子改変細胞が腸管の粘膜層に定着している事も明らかになった。残念ながらほとんどの患者さんで抗エイズ薬を止めると血中のビールスの上昇が見られ、治療自体を更に工夫する必要がある事も明らかになった。ただ大きな光は、この遺伝子改変で両方の染色体でCCR5遺伝子に32塩基対の欠損を導入できた1例の患者さんでは、治療を止めてもビールスの上昇が見られない事がわかった点だ。もし遺伝子改変の効率を上げる事が出来れば根治も可能である事を示していると思う。例えばiPS技術を使えば自由に遺伝子を改変する事が可能だ。その上でCD4T細胞を調整して注射する事も将来は可能だろう。エイズの根治が視野に入って来た画期的な研究ではないかと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
3月6日 子宮移植(Fertility and Sterilityオンライン版掲載論文)
2014年3月6日
子宮が原因の不妊はこれまで治療法がなかった。そのため、養子やある場合には代理母に頼る事になるが、後者は我が国では原則禁止されており、あるタレントが外国の代理母を利用したと大騒ぎになった。スウェーデンでも代理母は禁止らしい。ではどうするか?これを解決する医学側の答えとして子宮移植の可能性を示したのが今日紹介する論文だ。スウェーデン・ヨテボリ、スペイン・バレンシア、オーストラリア・ゴールドコースト、そしてアメリカ・フロリダの国際チームの研究でFertility and Sterility誌オンライン版に掲載された。「The first clinical uterus transplantation tiral:a six-month report(最初の子宮移植臨床治験:6ヶ月目のレポート)」がタイトルだ。この論文を読むと、これまでも1例報告的には子宮移植の報告が出ており、2013年にはトルコのグループが子宮移植後妊娠にまで至った(出産には至っていない)ケースが報告されているらしい。それに対してこの研究は小動物、大動物、サルと10年を超す動物実験を経てプロトコルを作成し、臨床研究として登録した治験だ。ゴールは子宮移植後、人工受精卵を着床させ、出産に至るかにセットしている。従って今回のレポートは途中経過になる。驚くのは、生体移植が適していると言う動物実験の結果に従って、脳死移植ではなくボランティアから子宮を摘出して使っている点だ。論文の随所に、倫理的・科学的妥当性についての記述がある。私も知らなかったが、アメリカでの腎移植の4割は生体腎移植らしい。また、移植後免疫抑制剤を服用している母親から生まれた子供は既に15,000人を超しているようだ。やはり生体肝移植のような命の危険があるわけではない不妊治療にボランティアとは言え生体から取り出した一個しかない子宮を使う事に大きな懸念が示される事は覚悟しているようだ。これら施設全体で、2012年から9例の手術を行い、6ヶ月時点で7例の子宮が生着、生理も正常にあると言う結果だ。生着を促進するためドナーからの子宮摘出には特別の注意を払っているようで、摘出手術に10−13時間をかけているのに対し、ホストへの移植手術は4−6時間で終わっている。術後1年から1年半で人工受精胚の移植が最初から計画されている事から、実際に移植された子宮が妊娠に耐えるかどうかはもうすぐわかるだろう。新聞も大騒ぎになるかもしれない。
実を言うと2年前ある財団の研究助成の審査をしていたとき、某大学産科の若手研究者がサルを使って移植子宮での妊娠可能性を調べている研究を提案しているのを読んで、ここまで研究が行われているのかと驚いたが、実際にはもっと進んでいた事を思い知らされた。1年ほどして出産が可能だと言う結果が出た時、日本ではどう受け取られるのだろう。もう少し待ってみよう。
カテゴリ:論文ウォッチ
3月5日:中世の歯石の史跡(2月23日Nature genetics掲載論文)
2014年3月5日
普通は中世の「史跡」だろうが、今日紹介するのはタイトル通り中世の「歯石」の話だ。これまでゲノム情報が歴史記述を変革しつつあることを紹介して来た。当然ヒトゲノムに関わる話が中心だが、博物館の標本に残っているコレラ菌のゲノムも歴史を理解するためには重要な資料となることも紹介した。さて、今日はドイツのダルハイムと言う町にある修道院に眠っている中世の人骨の顎骨に残る歯石内に保持されていたタンパク質やDNAを解析したチューリッヒ大学の仕事で、2月23日発行のNature Geneticsに発表された。「え!歯石!」と叫んでしまった面白い仕事だ。タイトルは「Pathogens and host immunity in the ancient human oral cavity (古代人の口内に見られる病原菌と宿主の免疫)」だ。歯石は付着したら削る物だと思っているが、昔はほとんど放置されていた。歯石は決してカルシウムがただ沈着しただけではない。歯肉周囲の歯石は特に炎症から発展してくるため、口内細菌、宿主の様々な細胞、更には食物の残さが混じった戦跡だ。そこにリン酸カルシウムが蓄積する事で、逆に内部の生物由来の有機物を守ると言う、考古学者に取っては理想的な材料なのだ。火山灰で覆われて保存されたポンペイの遺跡を思い出す。この論文でも歯石には死後腐敗過程で侵入してくる細菌などの混入が極めて少ない事が示されている。研究では歯石に残っている全てのDNAの配列決定を種を問わず、ともかく全て読んで、どのような生物が中に存在するかを調べている。同時に残っているたんぱく質も質量分析機を使って調べ、当時の口内で起こっている事を推定している。950−1200年に埋葬されたと推定される骨の中から、明らかに中程度から高度の歯肉炎があったと推定できる骨を選びそこから歯石を得る事で、口内で起こっていた細菌とホストの戦いの有様を再構成しようとする研究だ。示されたデータは豊富で紹介するにはこの紙面では到底足りないが、面白い点だけつまみ食いしてみよう。先ず、歯石中に含まれる99.3%は細菌由来で、ホストの細胞由来の物は0.5%。うまく調べれば抗体やT細胞受容体の遺伝子も調べられる量だ。そして残りのほとんどが食事に由来しており、食生活もある程度推察できる。驚くべき事に、2000を超す異なる生物由来のDNAが認められ、人間が細菌と共生していた事がわかる。とは言え、ほぼ9割近くのDNAが大体100種類程度の口内細菌に由来しており、種類も現代人とあまり変わらないようだ。一種類だけ現代人には存在しない菌もあるようだが、しかしその意味は不明だ。その中で虫歯や歯周病の重要な原因と思われる細菌を探索すると、現代人と基本的には変わらない。私たちが長年ほぼ同じ細菌に悩まされて来た事がわかる。研究では更にタンパク質の解析も行っており、実際に感染現場で細菌から分泌された分子や、それに対する宿主側の反応の一端も捉えている。現在のように口内衛生が行き届いていない時、私たちはどのように細菌に対応して来たのか、更に詳しい解析が進む事を期待したい。幸い読んだ配列を集めて当時の人達の口内衛生を侵していた細菌の全ゲノムを再構築できる量のDNAが歯石内に存在する事も示している。中世の細菌と現在の細菌との比較から多くの事が学べるはずだ。この仕事はおそらくスタートラインで、今後歯石を用いた解析が進むと考えられる。ゲノム解析という自然科学が歴史という人文科学と一体化し始めている事を実感する。「歯石」が「史跡」になる瞬間だ。21世紀ゲノム文明の幕開けを示す論文だとおもう。
カテゴリ:論文ウォッチ
3月9日午後1時からリケジョ養成講座をニコニコ動画で始めます
2014年3月3日
小保方論文が発表された時、論文の徹底解説に続いて、理系を目指す3人の女子高校生にSTAP細胞の解説を行う準備をしていました。しかし、STAPは科学とは離れた所でで大騒ぎの有様です。このためSTAPではなく、リプログラミングとiPSについて解説したいと思っています。リケジョ養成講座ですが、男女を問わず多くの高校生に見ていただきたいと思います。この後も、がんやゲノムなどこのホームページで取り上げた話題を高校生と考えて行きますので期待して下さい。
カテゴリ:活動記録
3月3日 日経記事、白血球など作る遺伝子を発見 京大 白血病・がん治療へ道(Natureオンライン版掲載)
2014年3月3日
幹細胞研究にとって、幹細胞を支える環境側の細胞(ニッチと言う)は最も重要な課題だが、どの幹細胞系でも研究の進展は遅い。そのため少し頭のいい人が気のきいたアイデアを出すと、多くの研究者がそこに流れる流行が生まれてしまう。しかし、本当に科学的な厳しさがないと流行は流行で終わりいい雑誌に論文は出るだろうが、ほとんど残らない。そんな中で、時間をじっくりかけて独自の証拠を積み重ねて研究を進めるプロの仕事は重要だ。骨髄で血液産生を支えるニッチ細胞についても状況は同じで、私から見て結局は概念先行で長続きしないなと思える仕事が本当に多い。そんな中、今日、日経が紹介した京大再生研の長沢さんはニッチ研究を支える数少ないプロだ。私事になるが、私は長沢さんが阪大の大学院のときから知っている。岸本忠三先生のラボで大学院を始めた長沢さんは、岸本研のメインの仕事ではなく、岸本先生を説得して造血幹細胞のニッチ機能に関わる分子を研究する許可を得た。この研究材料として、当時私たちが樹立していた造血を支持する細胞株に白羽の矢をたてリクエストして来たのを覚えている。人一倍のがんばりで、現在CXCL12として知られるケモカインを発見し、その後も他の問題には見向きもせず、大学院時代に掲げた目標、造血幹細胞ニッチを明らかにするために研究を続けている。一段一段研究を進め(その間多くの論文をコンスタントに発表している)、そして生まれたのが今日紹介する研究でNatureのオンライン版に掲載された。タイトルは、「Foxc1 is a critical regulator of hematopoietic stem/progenitor cell niche formation」(Foxc1は造血幹細胞・前駆細胞のニッチ形成に必須の調節分子)だ。長沢さんは大学院時代に発見したCXCL12が造血細胞のニッチ細胞に特異的な分子である事を多くの証拠を重ねて示して来た。この仕事ではCXCL12を発現している彼がCAR細胞と読んでいるニッチ細胞と、それ以外の脂肪細胞や骨になる骨芽細胞の遺伝子を比べ、Foxc1遺伝子がCAR細胞に強く出ている事を発見し、この分子が造血幹細胞のニッチ形成に関わるかどうかを検討した。期待通り、この遺伝子の機能をCAR細胞を含む間質細胞で発現できなくすると、造血が低下し、幹細胞だけでなく様々な前駆細胞の産生が押さえられる。一方、造血を支持する細胞にこの分子を発現させると、CXCL12やSCFなど幹細胞の増殖に関わる分子の発現が亢進すると言う結果だ。またマウスの遺伝子操作を駆使して、Foxc1が間質細胞の脂肪細胞への分化を抑制する事で、CAR細胞へ誘導する事も明らかにした。もちろんこの分子が完全に無くなっても、かなりの数の造血幹細胞がまだ骨髄には残っているようだ。従って、ニッチの全貌が明らかになるにはまだまだ時間がかかりそうだが、造血細胞ニッチに関する研究の中では、最もオーソドックスで重要な研究だと思う。今回の結果を見た気のきいた研究者達も、今後は間違いなくFoxc1を念頭において仕事をするだろう。ようやく骨髄の造血細胞ニッチも全貌が明らかになるのではと言う確かな感触を得る事が出来た。更に、論文に書かれているように白血病や再生不良性貧血を理解する重要な手がかりになる事は間違いない。素晴らしい仕事だ。さて報道だが、この仕事が血液自体ではなく、それを支持するニッチ細胞に関する研究である事が全く表現されていない。やはり、ある程度内容を理解してポイントを紹介できる能力が記者にも求められていると思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
3月1日:がん治療としてのオートファジー抑制(2月25日発行Journal of Clinical Investigation掲載論文)。
2014年3月1日
私たちのNPO、AASJの運営資金のほとんどは、活動を理解していただいている製薬メーカーのコンサルテーションを行う事で得ている。と言うと私の方から一方的に様々なアドバイスをしているように聞こえるが、実際には私自身がこの活動を通して学ぶ事も多い。仕事の一環として企業の研究員の人達と論文を読みながら創薬可能性について議論する会はいつも楽しみにしている。というのも、現役を辞めた後も新しい情報を仕入れる事が出来るので本当にありがたい。先週この抄読会でSさんから、オートファジーと抗がん剤抵抗性の論文を紹介され、不勉強を思い知ると同時に大変興味を持った。このコーナーでも一度解説したと思うが、オートファジーと呼ばれる現象は現東京工大の大隅先生のグループが世界にさきがけて見つけた現象だ。今や医学生物学の分野で最も大きな注目を集めている現象で、なんと今年の2月だけでも200を超える論文が発表されている。がん治療の抵抗性の一つのメカニズムとしてオートファジーが注目されている事を知ると、このフィーバーも当然の事だと納得する。新しい知識を念頭に論文を読んでいると、確かにこの問題を扱った論文は多そうだ。今日紹介するのは、悪性黒色腫のBRAF標的治療とオートファジーの関係を調べたペンシルバニア大学の研究で、2月25日発行のJournal of Clinical Investigationに掲載された。タイトルは “Targeting ER stress-induced autophagy overcomes BRAF inhibitor resistance in melanoma” (ERストレスによって誘導されるオートファジーを標的にする事で悪性黒色腫のBRAF阻害剤の抵抗性を克服できる)だ。悪性黒色腫の半分弱はBRAFと呼ばれる遺伝子の突然変異によって起こる事が知られている。この分子の活性を押さえるBRAF阻害剤、あるいはその下流のシグナル伝達経路の阻害剤が、がんに対する分子標的薬剤として用いられており、高い効果を上げている。しかし標的薬剤と言っても、薬剤抵抗性のがん細胞が残ってしまって根治を妨げる。なぜ抵抗性が獲得されるのかを調べる事で、薬剤抵抗性細胞の出現を克服できないかと言うのが今回の研究だ。研究では、最初悪性黒色腫の細胞を阻害剤で処理するとオートファジーが著明に上昇すると言う現象からスタートしている。次にBRAF阻害によりオートファジーが誘導される経路を調べ、阻害剤により先ず小胞体ストレスが起こり、この結果オートファジーが誘導される事を実験的に確定している。小胞体ストレスは糖尿病や神経死との関わりで何回か紹介したが、異常たんぱく質の小胞体での蓄積等により小胞体がストレスを受けると起こる反応で、その際オートファジーが誘導される事も知られている。この結果に基づき、オートファジーを抑制するハイドロオキシクロロキン、あるいは小胞体ストレス誘導シグナルの阻害剤をBRAF阻害剤と組み合わせると、薬剤抵抗性のがん細胞を殺せる事が示され、新しい治療法の可能性を期待させる。これだけならただの期待で終わるが、クロロキン剤は網膜への副作用のためあまり利用されなくなっているが、抗マラリア薬として開発され、腎炎や自己免疫病に使用された歴史があり、がん患者さんへ転用する事は容易な薬剤だ。このため既に悪性黒色腫の治療にハイドロオキシクロロキンを組み合わせる治験が開始されようとしていることが論文でアナウンスされている。最終結果が出るには5年はかかるだろうが、中間報告も含めて結果が待たれる。ウェッブで調べてみると、悪性黒色種だけではない。直腸がん、骨髄腫、など様々ながんについて、オートファジー抑制を抗がん剤と組み合わせる研究が始まっている。もしこれらの治験が大成功に終われば、大隅先生の株は更に急上昇する事間違いない。期待したい。
カテゴリ:論文ウォッチ