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4月3日:シマウマの縞は何のため?(Nature communicationオンライン版掲載)

2014年4月3日
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「お母さん、どうしてシマウマには縞があるの?」 「多分ライオンから身をまもるためじゃない?」 と言うのは動物園を訪れた親子の定番の会話だ。しかし子供のために(?)この質問にまじめに取り組んでいる研究グループがいるのを知って驚いた。これはカリフォルニア大学デービス校のグループで、先日Nature communicationsオンライン版に掲載された。タイトルは「The function of zebra stripes(シマウマの縞の機能)」だ。研究では、地球上の様々な野生種の馬を比べ、縞の存在と、ライオン、ハイエナ、温度、森林様態、そしてアブ及びツェツェバエの活動などとの相関を調べている。結果は予想を覆し、1−2の例外を除いて、アブの活動期間やツェツェバエの存在と縞の存在が最も相関があったと言う結果だ。事実シマウマの分布は、アブの活動期間の長さやツェツェバエの分布と重なる。また血液を吸っているハエのいる確率は縞がある馬の近くのハエほど低いというデータも示している。更にシマウマは馬の中では毛が短いらしい。この様なデータからこのグループの出した答えは、「あのね、シマウマは毛が短いでしょう。だからアブやハエに血液を吸われやすいのよ。代わりにアブやハエが嫌う縞を持って血を吸われにくくしているの」になる。しかしアブやハエに血を吸われることがそんなに問題なのだろうか。論文にはこの点についての引用論文が示されており、それによるとアメリカで牛がアブにさされて一日に失う血液はなんと200-500ccに達するそうだ。実際、殺虫剤を散布することで牛の体重は2ヶ月で40ポンド増えるらしい。アブ恐るべし。
カテゴリ:論文ウォッチ

4月2日:突然変異を元に戻す(3月31日発行Nature Biotechnology掲載論文)

2014年4月2日
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一般的に遺伝子治療と言うと、機能が低下している遺伝子を様々なベクターを使って外から補ってやる治療だ。この場合、自分の遺伝子に起こった変異が治るわけではない。これを可能にするには、ゲノム遺伝子の編集を効率よく行うための技術が必要だ。ここでも紹介して来たように、CRISPRと呼ばれる技術が生まれて、ゲノム遺伝子の編集も可能ではないかと皆が思うようになった。これをいち早く示したのが今日紹介する論文で、アメリカMITとハーバード大学から3月31日付けのNature Biotechnologyに掲載された。「Genome editing with Cas9 in adult mice corrects a disease mutation and phenotype(Cas9を用いたゲノム編集で大人のマウスの突然変異を治し症状を改善させる)」がタイトルだ。内容は全くタイトル通りで、Cas9遺伝子と、標的遺伝子へCas9を導入するのためのRNAを組み込んだベクターを作成し、このベクターを、遺伝子編集するための小さなDNA断片とともに静脈注射するだけだ。この方法では、肝臓細胞の1/250で遺伝子編集が狙い通り起こり、この細胞が増殖して変異細胞を置き換える事で、マウスの体重は減らず組織学的にも正常肝細胞が増えている事が確認されたと言う結果だ。CRISPRのおかげで夢がどんどん実現している実感がある。今の所肝臓以外の臓器でも効率よくゲノム編集が起こるかは不明で、人への応用のために克服すべき事は多いが、持って生まれた突然変異を治す時代が来るのは時間の問題だと感じる。今の所は肝臓だけだとしても、肝臓で働く遺伝子に突然変異を持って生まれてくる子供も多く、開発を加速して欲しいと期待する
カテゴリ:論文ウォッチ

4月1日:抗がん剤のさじ加減(Natureオンライン版記事)

2014年4月1日
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昨日は抗がん剤耐性の乳がんについての研究を紹介し、標的は同じでも異なる薬剤を使うと耐性を克服できる可能性があると期待を述べた。今日は同じ薬でも使い方で耐性を克服できるかもしれないと言う可能性を示す論文を紹介する。オランダがん研究所の研究で、論文はNatureオンライン版に掲載されている。「Reversible and adaptive resistance to BRAF(V600E) inhibition in melanoma(BRAF経路を抑制した時の悪性黒色種の耐性は可逆的で適応的だ)」がタイトルだ。研究はわかりやすい。このページでこれまで何回か紹介して来たように、悪性黒色腫の約半分がBRAF遺伝子の特定の突然変異が原因で発生する。従ってBRAFやそのシグナル経路に対する薬剤がよく効く。しかし薬剤を続けていると他のシグナル経路が活性化され薬剤が効かなくなる。悪性黒色種の場合細胞表面にEGFRやPDGFRなどの増殖因子受容体が出てくる場合が耐性獲得の最も多い原因である事が知られている。なぜ抗がん剤治療でこのような別のシグナル経路が現れてくるのかを明らかにするのがこの研究の目的だ。この反応に働く遺伝子をしらみつぶしにあたり、遺伝子の発現を誘導するSox10分子が抗がん剤治療により活性化され、これがもう一つのTGF-βシグナル経路を介して薬剤耐性の原因となる増殖因子受容体の出現を促している事を突き止めた。ただこのEGFR分子の発現は新しい遺伝的変化が起こる結果ではなく、がん細胞の薬剤に対する反応で、薬剤を中止するとEGFR やSox10の発現はがんから消えると言う事が明らかになった事が重要だ。この結果に基づきこのグループは、がんの標的治療を少し休む「休日」をもうければがんの薬剤耐性を克服して同じ薬をより長く使えるのではと提案している。がん治療にさじ加減大事だと教えてくれる面白い研究だ。
カテゴリ:論文ウォッチ
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