カテゴリ:論文ウォッチ
5月18日:血中乳がん細胞数と予後(The Journal of National Cancer Institute5月号掲載論文)
2014年5月18日
壊れたがん細胞から血中に遊離してくるDNAを診断に用いる研究についてはこれまでも紹介した。実はがん細胞自体がそのまま血中に流れている場合も知られている。転移がんだ。血液転移は血液にがん細胞が遊離されることにより始まると考えられるため、転移がんの診断に血中のがん細胞を検出する検査の有効性は既に確立されている。また血中を流れるがん細胞を高感度に検出する機器がアメリカで開発され、我が国でも導入が始まっている。この機器は血中のがん細胞を補足することに機能を絞って開発された優れた機械だ。今日紹介する論文はこのCellTracksと呼ばれる機械を使って乳がんと診断され治療が始まる前の血中を流れる乳がん細胞の数と再発率などを検討したミュンヘン大学の研究だ。タイトルは「Circulating tumor cells predict survival in early average to high risk breast cancer patients(血中の主要細胞の存在を元に早期の一般的がんからリスクの高いがん患者の生存予後を予想できる)」だ。研究では2000人余りの患者さんの参加を得て、診断直後に採取した血液に存在するがん細胞をCellTracksを用いて検出し、その後3年経過を観察している。驚くことに、初期のがんも含め、乳がんと診断された時点で実に21%の患者さんの血液からがん細胞が検出される。その後の検査でリンパ節転移の見つかった患者さんほど血中にがん細胞が見つかる確率は高い。しかし他の臨床検査結果との相関は低く、がんの性質に関わらず大体同じ頻度で陽性になる。次に経過を観察し血中のがん細胞が陽性の場合と陰性の場合の再発率、生存率などを調べると、陽性の場合の予後は明らかに良くない。また、単位血液あたりのがん細胞の数が多いほど予後が悪い。このことから、この検査はがんの予後を予測する指標になり、血中のがんが陽性の患者さんでは、再発の可能性を常に頭に置いて経過を観察することが重要であることがわかる。面白いのは、手術前の補助化学療法によって血中のがんが消えたり、あるいは逆に出現する場合があるが、この様な変化は予後に相関しないことだ。おそらく化学療法はがん細胞の血中への遊離を促進するが、化学療法の結果、血中のがん細胞はある程度無害化されているのだろう。これまでCellTacks検査は転移がんで応用が進んで来た。今回、最初の乳がん診断時の予後の指標として有効であることが示され、CellTracksの利用の拡大が予想される。問題は、初診時の血中がん陽性の患者さんの治療方針がまだ明らかでない点だ。優れた検査法を生かすための治療法の研究が急がれる。しかし抹消血でがんを診断する様々な方法の開発が急速に進展していることを実感する。