カテゴリ:論文ウォッチ
5月21日:アメリカ原住民のルーツ,遺伝子か骨格か?(5月16日号Science掲載論文)
2014年5月21日
考古学ほどゲノム解読技術により大きな変革を遂げた学問分野はないかもしれない。今日紹介する論文はその例だ。南・北アメリカに住んでいた原住民は、シベリアから氷河期にベーリング海を渡って移動して来たとされている。最近北アメリカで発見された1.2−1.4万年前の化石から得られるDNAの解析はこの説を完全に支持している。とは言っても、中南米に住むアメリカ原住民の写真を見ると、いわゆるアメリカインデアンと言われる人達より、アフリカ、南アジア、ポリネシアなどとの共通性の方が強いように思える。事実、骨格の比較からアメリカ原住民は少なくとも2つの異なる祖先に由来するのではと言う説が出されていた。しかし、中南米原住民の祖先の化石DNAがないため、明確な答えを得ることが出来ていなかった。この問題に答えたのがアメリカ、メキシコの考古学チームが5月16日号のScience誌に発表した論文で、タイトルは「Late Pleistocene human skeleton and mtDNA link paleoamericans and modern native americans (更新世後期の人間の骨とミトコンドリアDNAは古代アメリカ人とアメリカ原住民の関係を明らかにした)」だ。おそらく中南米での化石DNA研究が進まなかった原因は、保存状態のいい骨の化石が入手できなかった事によると思われる。ところがこのグループはユカタン半島Hoyo Negroの水で満たされた洞窟から、歯も完全に揃った15−16歳女性の完全骨格を発見した。アイソトープを使った年代測定では1.2万年前の祖先で、現在の中南米原住民と古代アメリカ人をつなぐ貴重な資料だ。保存状態は極めて良く、DNAも残っており、骨格とゲノムとの相関を調べることがついに可能になった。結果は明確で、骨格は現代の中南米原住民を代表するが、DNAの配列はこれまで北アメリカで発見されていたDNA配列と同じで、中南米原住民の祖先もベーリング海を渡って来た同じ系統に属することが明らかになった。この結果は、これまで考古学の中心であった骨格の形態比較に全幅の信頼を置くことは難しいことを示した。逆に、骨格などは1万年もあれば如何様にも変化できると言うことだ。実際、ピグミーもマサイ族も先祖は同じだろう(文献的に確かめたわけではないが)。今後全ゲノムが明らかになることで、骨格の変化につながった遺伝子変異も明らかになるかもしれない。3月にスペインで行われたこの分野のシンポジウムのタイトルが「From bone to DNA」だったが、なるほどと納得する。