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第19回未承認薬等検討会議 (厚労省)

2014年5月8日
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4月22日に掲題「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」が開催され、昨年8月1日~12月27日に募集した「第3回開発要望(第1期)」(なお、今回から随時受け付けが加味され、短期間に集中的に応募を求めた第1~2回開発要望とは募集方法が変えられた。)の応募結果が報告された。

今回は約40の学会や団体から80件の要望と、募集期間の長期化にも拘らず、これまでの開発要望募集に比べて数分の一と大幅に減少している。この内、未承認薬8件と適応外薬2件の計10件については、今回から導入された「優先的に取り扱う対象」とされている。この数字を同検討会議は「未承認薬の問題が解消してきたことが実感できる」と評価しているが、応募対象薬物に対する厳しい条件から、条件を満たす候補薬物は世界を見渡しても見つけにくくなっており、そのとおりなのであろう。

いわゆる「ドラッグラグ」の解消を目的にした、過去5年間の厚労省と未承認薬等検討会議の尽力の成果であるが、「開発の必要性あり」とされたそれぞれ候補薬物の評価書の詳細、精緻、的確な内容とその後の開発と承認の結果を見ると、各難病治療の第一人者や開発経験者による審査体制の構築・確立も大いなる成果に挙げられる。

一方、我が国にも治療方法や治療剤が全くない数千種の稀少難病と数百万人のそれらの患者が存在するが、乏しい国内に対して欧米にはこれら稀少難病に対する新しい原理や機作に基づく候補化合物や稀少薬指定され治験中の薬物が多数存在し、バイオベンチャー各社において活発に開発が進められているものの、海外で既登録が要件とされこれら物質の応募は門前払いされるため、本未承認薬等検討会議で審理されることはない。今回構築された世界に誇りうる高度な当該審査とフォロー体制をもってすれば、他国でのデータ、審査と承認を要件とする現在の未承認薬等検討会議での採択条件を緩和し、開発中の稀少難病治療用薬物に対しても我が国独自の基準と能力で審理・判断して選択し、「開発の必要性あり」との決定も十分できるものと思われ、またこの決定を拠り所に開発に踏み出すベンチャー企業が現れるのを期待できる。

小児の稀少難病は、殆どが進行性であり、治療方法もなく日々悪化をおそれて生活し介護されている。遺伝性の疾病であることが多く、人種や環境に関係なく等しく一定の確立で発症して、国内のみならず世界中の難病患者と家族が治療薬の出現を熱望している。遺伝性疾患であることは、ゲノム創薬や分子標的薬など最新の創薬手法に馴染むとされ、創薬研究や薬効評価の対象の一端に何れかの稀少難病も加えられることを切望する。アベノミクスで成長戦略を担う日本版NIHにおけるテーマとしても取り上げて欲しい。因みにここ数年に出現した国内の新薬ブロックバスターは稀少難病治療薬で占めており、世界的にもブロックバスターのかなりが稀少難病治療薬である。

この機会に参考資料として、 以下に厚労省が発表した第1回~第3回未承認薬等検討会議での検討結果と進捗の纏めを引用します:

(1)第1回未承認薬等検討会議(募集期間:2009.6.18~8.17)。応募374件、評価186件、開発要決定(未承認薬57件:適応外薬129件)。

開発・承認状況:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000035155.pdf

(2)第2回未承認薬等検討会議(募集期間:2011.8.2~9.30)。応募290件、評価140件、開発要決定(未承認薬20件:適応外薬60件)。開発・承認状況:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000044392.pdf

(3)第3回未承認薬等検討会議(募集期間(第1期):2013.8.1~12.27)。応募80件。募集結果:

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000044388.pdf    (田中邦大)

5月8日:自閉症の遺伝性に関する大規模調査研究(5月7日号アメリカ医師会雑誌(JAMA)掲載)

2014年5月8日
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このコーナーでも何度か自閉症の遺伝子研究について紹介して来た。ただ遺伝子研究の結果を正確に解釈するためには、発生・成長過程での環境要因をしっかり調べる必要がある。また治療のヒントを得るためには環境要因の分析が欠かせない。当然これまでも家族内での発生や、一卵性双生児間の一致率など様々な調査が報告されている。一卵性双生児の一致率を調べたある調査では90%と言う数字も示されており、自閉症の発症に一定の遺伝子の組み合わせが関わる事は間違いがない。今日紹介する論文は、自閉症の遺伝性や環境要因の寄与を調べるため自閉症児の家族内発生を調べたスウェーデンの調査研究で、5月7日JAMA誌に掲載された。タイトルは「the familial risk of autism(自閉症の家族リスク)」だ。この論文によると、これまでに行われた自閉症の家族内発生調査としては最大規模の調査で、1982年から2006年までに生まれた約350万人の子供について、2009年時点で自閉症スペクトラム障害及び自閉症と診断が確定している約32,000人の患者さんの家族についての調査を行っている(ここではまとめて全て自閉症と記した)。しかしこれまで指摘されているように1%近い発生率は高く、重点的取り組みが必要な病気である事が理解される。さて調査では一卵性双生児、2卵性双生児、両親が同じ兄弟、母親が同じ兄弟、父親が同じ兄弟、従兄弟の中に自閉症児がいる場合、自閉症が発症する頻度を調べている。結果は予想通りで10万人が一年間に発症する率に換算すると、それぞれ153.0, 8.2, 10.3, 3.3, 2.9, 2.0になっている。この数字からわかるのは、遺伝子の共有率が下がるほど発症率が低下しており、遺伝的要因は明らかだ。例えば両親が同じ場合は、2卵生双生児同士も、兄弟同士も遺伝子の一致率は同じだ。8.2 vs 10.3という発症率はこの結果と合致する。これらの結果を元に遺伝子を共有している場合の遺伝率を計算し直すと、自閉症で約50%になる。以前の一卵性双生児についての研究は一致率が90%から40%までふれていたが、今回の大規模調査の結果は低い方の結果を支持する物だ。この50%と言う数字を、「50%も遺伝性があるのか」ととるか「50%しか遺伝性がない」ととるかで気持ちは大きく異なる。これまでの自閉症遺伝子の研究から、自閉症発症には何百もの遺伝子が関わっている事が知られている。このため遺伝的な変化を正常化させる事は不可能に近い。とすると、自閉症発症を早く予測して適切な治療で発症させないことが対策の中心になる。その時、50%しか遺伝性がないという結果は重要だ。即ち、環境要因で十分発症を止める可能性がある事を示している。残念ながら今日紹介した研究ではどのような環境の差があるのかについては詳しい解析はなされていない。しかしこの研究に参加した子供と家族は登録され詳しい解析が可能だ。同時に、ゲノムを調べる事で、従来の自閉症遺伝子についての結果を更に深く理解する事が可能になる。このようにゲノムの21世紀だが、ゲノム以外の正確な情報をどれほど集められるかがゲノムを様々な性質に結びつけるための鍵だ。ゲノムも含めた人間についての情報の統合が今世紀初頭の大きなトレンドになっている事を確信する。
カテゴリ:論文ウォッチ
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