カテゴリ:論文ウォッチ
5月26日:ニュージーランドのキウィはどこから来たのか?(5月23日Science誌掲載論文)
2014年5月26日
一つの種の中に生じる多様性が最終的に異なる種として分離する要因として、地理的隔離があることは広く認められている。例えば湖が火山活動で分断され交流が無くなり、新しい種が生まれるという話はよく聞く。この地理的分離が大きなスケールで起こったのが大陸移動で、ゴンドワナと呼ばれる一つの大陸が地球表面のプレートの移動により分かれ、現在の形になったと考えられる。この大規模な変化により、多くの地上動物が隔離され独自種の進化が加速したと考えられている。一方飛行の可能な鳥は地質的分離の影響は受けにくい。ただ南半球には現在もアフリカ産のダチョウを筆頭に様々な跳べない鳥が存在する。オーストラリアのヒクイドリとエミュ、南米のレアなどだ。大型の走鳥類だけではない。中でもニュージーランドにしかいないキウィは小型走鳥類の代表だ。実はニュージーランドには絶滅した大型の走鳥類がいた。それが1400年代に絶滅したモアだ。キウィとモアのサイズは大きく異なるが、形態学上の類似から、ニュージーランドに隔離された共通の祖先から進化を遂げたと考えられて来た。言ってみれば、観察上少々矛盾があっても、「走鳥類は飛べないためにそれぞれの大陸で独自進化したはずだ」という通説の方が正しいとして説明されて来た。しかし遺伝子配列の比較による系統解析が始まると、走鳥類進化の過程は簡単ではないことがわかって来た。最近モアの化石DNAが調べられ、驚くべきことに南米にいる飛ぶことが出来るシギダチョウに近いことが明らかになった。今日紹介する論文は絶滅種の骨に残るDNAを解読することでさらにこの問題に迫ろうとしたオーストラリアからの研究で、5月23日号のScienceに掲載された。タイトルは「AncientDNA reveals elephant birds and kiwi are sister taxa and clarifies ratite bird evolution(古代DNAの解読により、キウィとエレファントバードが同じ分類群に属することが明らかになり、走鳥類の進化が明らかになった)」だ。これまでDNA研究から得られなかったマダガスカルの絶滅種エレファントバードの骨からDNAを回収して配列決定を行い、走鳥類の系統樹をほぼ完成させたことがこの仕事のポイントだ。驚いたことに、マダガスカル島に隔離されていたエレファントバードに最も近い走鳥類は、地理的に近いアフリカのダチョウではなく、キウィだったと言うのが結果だ。モアが南米のシギダチョウに近いと言う研究と合わせて考えると、走鳥類が大陸移動により隔離された先祖が、それぞれの大陸で独自の進化を遂げたとするこれまでの考えには大きな変更が必要だ。この論文では、エレファントバードとキウィの祖先は飛ぶことが出来、広い範囲に分布した。ただ、その後陸上の天敵がいないと言った状況から走鳥類へ進化したと言うシナリオを提案している。古代のDNAが歴史記録として新しい歴史を語り始めていることを実感させる論文だ。