今日は出張で朝時間がないので、読みやすい結論のはっきりした論文を取り上げる。何年か前ルーマニアをレンタカーでまわったが、もちろんドラキュラ伝説で有名なブラン城も訪れた。城郭としては普通の作りで、ヨーロッパではどこにでもある城だが、観光客の列が途絶えない賑わいようで、やはりドラキュラ伝説の後押しが大きいことを実感する。実際、周りの土産物屋はドラキュラグッズで満ち溢れているが、一歩城に入ると伝説を偲ぶためには想像力が必要で、この落差もまた面白い。今日紹介する南アラバマ大学からの論文は、ドラキュラではないが、17世紀のポーランドの村落で、バンパイアを人々がどう考えていたかを研究した面白い論文で、PlosOneに11月26日に掲載されている。タイトルは、「Apotropaic practices and the undead: a biogeochemical assessment of deviant burials in post-medieval Poland (厄除けとゾンビ:中世以後のポーランドで特別の埋葬が行われた遺骨の生物地質化学的評価)」だ。まずこの研究に参加しているのはアメリカとカナダの研究所だけで、ポーランドの研究所は参加していない。しかし、著者名を見るとGregorickaとPolcynという名前があり、アメリカ在住のポーランドゆかりの人が、故郷の研究を行っているような雰囲気だ。研究ではポーランドのDrawskoという村のお墓の調査で見つかった6体の魔除けが行われた遺体が、よそ者なのか、それとも村落の構成員なのかが調べられている。論文によると、東欧のバンパイアは、外部から来て村人を襲うと考えられていたよそ者と、死に切れずに悪霊になてしまった村民の霊が屍体を生き返らせたバンパイアに別れるようだ。ポーランドの民話は後者の方で、多くの霊は霊界をさまようだけだが、一部の霊はバンパイアとして屍体を生き返らせ災いをもたらすように描いている。では誰の霊がバンパイアになるのか?よそ者なのか?ノートルダムのせむし男のようなハンディキャップを持った人たちか?これを調べるにはこれまで文献を当たる以外になく、誰が悪霊とみなされたのかの基準についてはよくわかっていなかったようだ。今回、多くの屍体の中で、首に石が置かれ、口の中にはコインを詰められた遺骨や、あるいは草刈り鎌が首に置かれた遺骨が見つかり、明らかにバンパイア封じが行われている証拠が見つかった。これを利用して、ではこの魔除けを施された遺体はどんな人だったのかを調べようとしている。まず、遺骨には特にハンディキャップはない。年齢も多様で、特徴はない。最後に、よそ者か地元の人かどうかを、ストロンチウム87とストロンチウム86の比を調べて検定している。この比は、その土地の土の成分を反映し、村で長く暮らしている村民の骨は食物からこの土地の成分を摂取するため、ほぼ土壌と同じ値を示す。すなわち、普通に埋葬された遺骨の示す値から大きく逸脱しておればよそ者の遺骨と結論できる。さて結果だが、魔除けを施された遺骨も、普通に埋葬された遺骨と同じ値を示しており、よそ者でなかった。結果はこれだけで、結論として疫病が流行する初期に最初に亡くなった人がバンパイアとして疫病を広めるのではと想像している。もちろん将来は遺骨から遺伝子も回収できるはずで、このような村落の成立をゲノムから見直すこともいつか行われるだろう。リチャード三世だけでなく、墓からもう一度歴史を調べ直す動きは今後もますます加速すると思う。次は何が出てくるか楽しみだ。
11月28日:バンパイア伝説の検証(11月26日PlosOne掲載論文)
2014年11月28日
カテゴリ:論文ウォッチ