細菌、酵母、植物の多くにはLOV(light oxgen or voltage)ドメインを持った分子が数多く見つかる。このドメインはフラビンを光センサーとして使って、構造を変化させ、同じ分子の他のドメインの機能を活性化させ、様々な機能に関わる。LOV自体も多様で、光によって開いたり、回転したり、2量体を作ったり様々な構造変化を起こすことができる。茎が太陽の方向に伸びたり、ひまわりが太陽を向く動きを見るだけで、光を必要とする植物が様々な戦略を発展させているのがわかるが、LOVドメインはその重要な一員だ。このドメインを動物で使うことができると、新しい細胞操作法を開発できると期待されていたが、今日紹介するオランダ・ユトレヒト大学からの論文はLOVを細胞内のオルガネラ輸送に利用できないか調べた研究で、Natureオンライン版に掲載されている。タイトルは、「Optogenetic control of organelle transport and positioning(オルガネラの細胞内輸送や位置決めを光遺伝学的に調節する)」だ。この研究では、光が当たるとLOV分子が開いて、他のドメイン(ePDZ)と結合するようになる分子の組み合わせを使っている。この研究ではペルオキソゾームやミトコンドリアなどのオルガネラの輸送や位置決めの調節に焦点を絞っている。このために、オルガネラの膜状に発現している分子にLOVを組み込んだキメラ遺伝子と、LOVが開くとそれに結合するePDZを細胞内の動きを担うモーター分子等と結合させたキメラ遺伝子を細胞内導入する。この細胞に光を当てると、LOVが開いてePDZに結合することで、オルガネラに任意のモーター分子や、逆に動きを止める分子を結合させることができる。この方法を使うと、例えば特定のオルガネラを細胞内骨格の微小管を沿わせて細胞の中心に移動させたり、外部に移動させたり、あるいは特定の場所に停止させたりすることができる。この研究ではこれが実際に細胞の中で可能であることを様々なオルガネラ・アンカータンパクとモータータンパクを組み合わせて示している。例えば光を当てた場所だけで、ペルオキソゾームが細胞の辺縁へ、あるいは中心へと動かせるビデオは見るだけで興奮する。また、光による分子変化は可逆的なので、光をon/offすることで、オルガネラを動かしたり止めたりできることも示している。また、神経軸索の伸長に重要な働きをすることがわかっていたRAB11が成長している先端でだけ働いていることを、先端だけで光を当てる実験で証明して、これまではっきりしなかった問題の解決に役立つことまで丁寧に示してくれている。他にも、ミトコンドリアを神経軸索の任意の場所に移動させる実験なども行い、著者たちが子供のようにはしゃいでいるのを感じる。要するに、これまでほとんど不可能だった、分子やオルガネラの細胞内での位置を調節することが可能になったこと、この技術が細胞生物学に大きな可能性を開いたことははっきりわかる。チャンネルロドプシンを使った光遺伝学が神経生物学を変えているのを見れば、このテクノロジーの大きな未来を予測することは簡単だ。どんなエキサイティングな話がこの方法を使って示されるのか、ワクワクする。しかし、細菌のCRISPR、藻類のチャンネルロドプシン、そして細菌や植物のLOVと、動物以外から道具を借りた方法の広がりはすごい。こんな時代になると、狭い知識しかない研究者はどんどん淘汰されてしまう。私はもう現役を退いているが、圧倒されるほどの新しいテクノロジーに直面して、本当に興奮できるのだろうか。実際は置いてきぼりを食って大変だと思うのではないだろうか。例えば、このようなテクノロジーがほとんどリアルタイムで若い人に手に入るような組織を考えたらどうだろうか。金をかけて導入競争をして、有力研究者だけが勝利するという構造は無くなるはずだ。
1月11日:光を細胞内の力に転換する(Natureオンライン版掲載論文)
2015年1月11日
カテゴリ:論文ウォッチ