何度も書いたと思うが、論文を読んでいると本当にいろんな研究が行われていると感心する。今日紹介するカリフォルニア大学サンタクルス校からの論文は、イルカやアザラシに装着できる心電計を開発して、潜水行動中の心機能を調べている。タイトルは「Exercise at depth alters bradycardia and incidence of cardiac anomalyes in deep diving marine mammans(深海に潜水できる哺乳類が深海で運動をすると、徐脈状態が乱れ、不整脈に陥る)」だ。このような論文を読むと少し物知りになる。例えば、ラッコはたかだか数メーターしか潜れず、息をせずに潜れる時間も数分しかないのに対して、もぐりのチャンピオンはアカボウクジラで、最高3000メーター、2時間の潜水が可能だという。こんな生態も含めて哺乳動物の潜水行動を調べるべく、このグループは心電図、ヒレの運動、潜水深度を同時に測定する機器を開発し、これをイルカやウェッデルアザラシに装着し、連続記録を行っている。結果は物知りと褒められるネタが多い。まず、深く潜るほど徐脈になる。自分の潜水経験とはずいぶん違うが、熟練した人はそうらしい。これは水圧で副交感神経が刺激されるためで、私たちが普通に海で潜る深度の話ではない。もちろん、ここで手足をバタバタさせると心拍数は上昇する。このため、潜る時はほとんどヒレを動かさずスライドするように潜るようだ。ただ、深く潜るのは餌をとるためでもある。当然ヒレを動かす必要にかられる。この結果、心拍数は上がったり下がったりを一定の範囲で繰り返す。この運動は交感神経を刺激し、心拍数をあげている結果だ。とすると、時によって水圧などによる副交感神経が高まった条件で、拮抗する交感神経も刺激するという危険な状況が生じる。実際、深く潜ったイルカやアザラシが急にヒレを動かしたりすると、なんと8割近くの確率で期外収縮が出てくる。話はこれだけだ。結論としては、海に生活するようになった哺乳動物は、確かに嗅覚受容体を全て捨てるなどの進化を遂げているが、この問題は未だ解決できておらず、危険と隣り合わせで餌を深海で漁っているようだ。とすると、深海で彼らを驚かすようなことをすると、死に至ることもあると注意すべきだろう。トライアスロン競技中の死亡事故の90%は低水温の水泳で起こるようだ。人間の事故を防ぐ意味でも、彼らの研究は重要なようだ(と理由を書いている)。私が一番気になるのはこの研究を支援する助成金がどこから出ているかだ。調べると案の定アメリカ海軍だった。あとはノーコメント。
1月18日:アザラシやイルカの不整脈(Nature Communicationsオンライン版掲載)
2015年1月18日
カテゴリ:論文ウォッチ