カテゴリ:論文ウォッチ
5月10日アデニンメチル化2(5月7日Cell 掲載論文)
2015年5月10日
昨日に続き、今日紹介するのはアデニンメチル化の機能をショウジョウバエやミドリムシで調べた研究だ。まずショウジョウバエでの機能を調べた中国科学アカデミーからの論文から紹介する。タイトルは「N5-methyladenine DNA modification in Drosophila(ショウジョウバエでのN6デニンメチル化だ)」。この研究もショウジョウバエDNAのメチル化はシトシンメチル化ではなくアデニンメチル化が中心で、発生段階でダイナミックに変化することの確認から始めている。次にメチル化に関わる分子を探し、それまでCG2083と呼ばれた分子が脱メチル化酵素の役割を持つことを突き止めた。また脱メチル化酵素は発生が進むと急上昇し、10時間を過ぎると急下降することから、発生過程で正確に調節されている分子であることがわかった。次にCRISPR/Cas9を使ってこの遺伝子をノックアウトし、それを量や構造を変えた遺伝子でレスキューする実験や、あるいはこの分子を強制発現させる実験から、脱メチル化酵素の発現量を正確にコントロールすることが、発生の進展に必須であることを示している。最後に生殖細胞の発生過程での脱メチル化酵素の機能を調べ、脱メチル化酵素の卵子での発現は低レベルだが、卵子形成を促進する効果があり、この促進効果に脱メチル化によるトランスポゾンの発現を誘導が関わっているところまで突き止めた。もともとシトシンのメチル化が哺乳動物ではトランスポゾンの抑制に重要な働きをしていることと比べると、アデニンメチル化はトランスポゾンの発現調節に関わっているが、シトシンメチル化とは逆で、転写を促進しているという発見は、両方の形式を持つ細菌から真核生物への進化で何が起こったのか重要な課題が生まれたと思う。この間をつなぐ研究と言えるのがシカゴ大学からのミドリムシのアデニンメチル化の論文でタイトルは「N6-methyldeoxyadenosine marks active transcription start sites in chlamydomonas (N6メチル化アデニンはクラミドモナスの転写活性化の開始部位を標識している)」だ。ミドリムシでのアデニンメチル化はこれまでも研究されており、昼と夜でメチル化の量が変化し、細胞の増殖に関わることが知られていた。この研究は、メチル化部位、メチル化の量などを正確に調べるための様々な方法を開発し、ゲノム全体にわたってメチル化のパターンを調べている。結果、メチル化は転写開始部位の前後500bpに集中していること、ApT部位でメチル化が起こるがこれを誘導するモチーフは複数あること、そしてDNAの基本単位であるヌクレオソームの間のリンカー部位に集中していることを明らかにした。以上のことから、ミドリムシのメチル化アデニンはヌクレオソーム単位を標識し、これによって転写開始を促進しているのではないかと結論している。今回紹介した線虫やショウジョウバエでも同じようなパターンがあるのか、それとも異なっているのか、確認が進んでいるだろう。面白いのはミドリムシには細菌と同じでシトシンメチル化も共存し、遺伝子発現の抑制に関わっていることだ。ミドリムシは多細胞体制へと移行する直前を代表しているので、その後の多細胞体制を比べていくことでアデニンメチル化が中心になる多細胞体制がどう進化したのかが明らかになると期待できる。なかなか興味ある分野が開けてきたと思う。