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5月20日:嚢胞性線維症の薬剤治療(5月18日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2015年5月20日
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我が国でもギリアド社のC型肝炎治療薬の薬価が決まり、新聞にも大きく報じられている。我が国での薬価が1錠6万円という点ばかりが取り上げられているようだが、私はこの会社から続々生まれるC型肝炎治療薬の論文を読むといつも、標的の分子構造とメカニズムを基礎に行う分子創薬の勝利の象徴だと感じる。今日紹介するオーストラリアを中心とする国際治験コンソーシアムからの嚢胞性線維症の薬剤治療に関する論文にも、同じような感覚を抱いた。タイトルは「Lumacaftor-Ivacaftor in patients with systic fibrosis homozygous for phe508del CFTR(CFTR分子のphe508欠損突然変異による嚢胞性線維症にたいするLumacaftor-Ivacaftor治療効果)」だ。いうまでもなく嚢胞性線維症はCFTRと呼ばれるナトリウムチャンネルの突然変異が原因になっている。分子が完全に喪失する場合は、遺伝子治療の対象として現在開発が進んでいる。一方、この病気の半分は508番目のフェニルアラニンが欠損するタイプで、細胞内でのタンパクの処理がうまくいかず分子が表面に出てこない。ベルテックスというベンチャー企業は、この遺伝子異常を化学化合物で治療できないかチャレンジを続け、分子の細胞膜上への発現を促進する薬Lumacaftorと、このチャンネル閾値を下げるIvacaftorという薬剤の開発にこぎつけていた。それぞれ単独薬剤の治験は否定的な結果だったが、作用機序が異なるということでこれまで両剤併用の治験を始め第2相まで進んでいた。この研究は約1000人を対象にした第三相治験で、完全に無作為二重盲検法を用いて両剤併用と偽薬が比較されている。投薬は、Lumacaftorが1日1回、Ivacaftorが1日2回で、24週連続投与が行われた。結果は期待通りで、投与後2週間で肺機能が改善し始め、一秒率で5%ぐらいの改善が24週間続いている。また、この病気の最大の問題は繰り返す気管支炎症だが、この発症を一定程度抑えることができ、抗生物質の点滴が必要なレベルの炎症を半減させるのに成功したという結果だ。副作用については、肝機能検査での異常や、呼吸困難発作などが確かに起こるが、9割異常の患者さんは治療を最後まで続けることができている。これらの結果は、遺伝子の変異による疾患でも、メカニズムを明らかにすれば化合物で治療が可能な場合があることを見事に示したと思う。ただ、薬は続ける必要があり、副作用なしにもっと長期の治療が可能かなどまだまだ課題は残っていると思う。一方、この病気に対しては遺伝子治療の開発も進んでいる。おそらく、これらを合わせて初めて、患者さんの納得のいく治療が可能になるのではないだろうか。いずれにせよ、20世紀後半に始まった、メカニズムを明らかにして創薬につなげるベンチャー企業ブームが米国では収穫期に入っていることを示す論文だった。
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