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5月18日:腸内細菌叢の形成過程(5月13日号Cell Host & Microbe誌掲載論文)

2015年5月18日
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腸内細菌叢が自己の一部であることがわかってくると、赤ちゃんから成人するまで菌叢の形成過程、及びそれに影響を及ぼす要因について当然知りたくなる。実際、先進国から未開のアマゾンで暮らす現地人に至るまで、様々な年齢の腸内細菌叢が比べられているし、最近紹介したように、腸内細菌叢の多様性が早く成立することが食物アレルギー発症に重大な影響を及ぼすことを示す論文も発表されている(http://aasj.jp/news/watch/3037)。しかし、これらの論文は通常膨大になる腸内細菌叢のデータを、一般にもわかりやすく詳しく解説しているとは到底言えない。その点で今日紹介するスウェーデン・ヨテボリ大学と北京ゲノム研究所からの論文は素人にもわかりやすくデータが解説されている。タイトルは「Dynamics and stabilization of the human gut microbiome during first year of life (生後1年間の腸管細菌叢の動態と安定化)」だ。オーサーの貢献度に関する記述から見るとヨテボリ大学がコホートを企画し、遺伝子の解読と解析は北京ゲノム研究所が行ったのだろう。腸内細菌叢のプロジェクトにいち早く取り組んで解析技術を磨いてきた北京ゲノム研究所の躍進が感じられる。研究では、98人の新生児について、生後1週間まで、4ヶ月、そして12ヶ月目の便の細菌叢のリボゾームRNA配列を調べて解析を行っている。同じ検査を母親にも行うとともに、母乳だけ、人工栄養だけ、両者の混合で育てたのか、抗生物質の投与はあったのかを記録している。もちろんデータ自体は膨大で、解説がないと理解できない。逆に言うと理解は生データより、おのずと解説に誘導されてしまうが、以下のようにまとめることができる。  まず生まれてすぐ形成される細菌叢は正常分娩と帝王切開による分娩で大きく異なる。これは最初の細菌叢が母親の皮膚や口内細菌に由来するが、帝王切開の場合周りの環境に存在する細菌を取り込みやすいことを示している。さらに、抗生物質に耐性の細菌はもうこの時期から検出される。ただ、幼児期に抗生物質投与を行ったから、耐性菌が増大することはなく、あまり神経質になることはない。次に、こうして生まれた最初の細菌叢は母親の細菌叢と大きく異なっているが、4ヶ月、12ヶ月と徐々に母親に近づく。すなわち、腸内細菌叢の多様性が増大し、スウェーデン人が一般的に持つ型の細菌叢へと収束していく。ただ、12ヶ月ではまだはっきりと母親とは違っている。これは、母乳栄養に対応して形成されたビフィズス菌や乳酸菌優勢の細菌叢が持続することと、アミノ酸やビタミンを供給する細菌叢のネットワーク完成に時間がかかるためだと推察している。この腸内細菌叢の成長に母乳による栄養か、人工栄養かは大きな影響を持ち、母乳で育てるほうが細菌叢の多様性が大きい。最後に、離乳を果たし固形物を食べるようになって初めて、セルロースなどを分解する細菌叢が成長することなどが示されている。このようなデータは、今後介入的な研究を行うための重要な基礎になる。その上で、理想の離乳食や、人工栄養を目指した科学的研究が進むのだろう。まだまだ我が国の取り組みは遅いが、人種や生活環境の影響が大きいことを考えると、重点項目として独自に推進する必要があるだろう。
カテゴリ:論文ウォッチ
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