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6月14日:αシヌクレイン症(Natureオンライン版掲載論文)

2015年6月14日
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αシヌクレインという言葉は耳慣れないと思うが、痴呆やパーキンソン病の一部をαシヌクレインの蓄積による病気として総合的に捉えようとする考えだ。この考えを支える最も大きな根拠は、この神経変性病の脳組織に共通して見られるレビー小体と呼ばれる構造で、この構造の主成分がαシヌクレインだ。恐ろしいことに最近の研究で、この分子はプリオンに似て、中枢神経系内で神経細胞間で伝播するだけでなく、消化管などから吸収されて脳内に到達できることも示唆されている。今日紹介するベルギー・ルーヴェン大学からの研究は、精製したαシヌクレイン蛋白を使って、脳内でのレビー小体形成と、神経障害をラットの脳で再現する研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「α-synuclein strains cause distinct synucleinopathies after local and systemic administration(αシヌクレインの局所及び全身投与によりはっきりと異なるシヌクレイン症が起こる)」だ。このグループの売りは、大腸菌に作らせたαシヌクレイン蛋白を試験管内で様々に重合させて、数個の蛋白が重合したオリゴマーから繊維状結晶、さらにはリボン状の結晶まで別々に作成する技術で、これにより初めて特定の構造を持つαシヌクレインがプリオンのように他のシヌクレインを組織化してレビー小体を形成させる能力があるかを調べることが可能になる。神経細胞間の伝播能力について、脳内局所に投与したシヌクレインがどこまで広がるかを調べている。直感的にわかるように、繊維状、リボン状の大きな結晶は注射した場所に留まるが、オリゴマーは高い伝播性を有することが分かった。一方、アデノウイルスベクターで発現させたαシヌクレインをレビー小体へと組織化する能力は大きな結晶を注射した場合で起こる。従って、伝播したオリゴマーはそのまま病気を引き起こすのではなく、局所でさらに大きな結晶を形成する必要があることがわかる。一方神経細胞障害性で調べると、大きな結晶でも精製αシヌクレインの脳内投与だけでは細胞変性は強くならない。細胞死にはアデノウイルスベクターでシヌクレイン遺伝子を発現させることが必要で、細胞自らシヌクレインを生産することが必要だ。さらに、ここにシヌクレインの大きな結晶を注射すると細胞死が亢進することから、神経細胞内でシヌクレインの生産が高まり、そこの結晶化したシヌクレインが核を提供することで、細胞死が進むことがわかった。次に、細胞死が起こる前の神経細胞の興奮性を試験管内で調べると、今度はオリゴマーだけでも興奮性が低下する。従って、オリゴマーが伝播することで、神経細胞の機能低下が誘導され、その後大きな結晶を核としてシヌクレインが蓄積することでレビー小体が形成され、変性が進むというシナリオだ。最後に血中に投与したシヌクレイン重合体が脳に蓄積するかを調べ、オリゴマーからリボン型まで、全ての結晶が脳血管関門を越えることがわかり、プリオンと同じようにシヌクレインの摂取でもこの病気が起こる可能性があることが分かった。これは極めて恐ろしい事実で、患者さんの失望を誘うのではないかと心配する。しかし、プリオン研究と同じで、この過程が明らかにならないと研究は進まない。おそらくこのようなシヌクレインの性質を抑える治療法を見つけるには時間がかかることだろう。それでも、完全に精製したタンパク質を投与して病気を誘導し、さらに細胞死に至る前の機能異常を調べる実験系ができたことは大きい。期待して見守ろう。
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