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8月1日:全ゲノムレベルで個人間の遺伝子発現の違いを調べる(7月21日号Cell System掲載論文)

2015年8月1日
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Cell Pressがまたまた新しい雑誌を発行することになった。Cell Systemsと言うタイトルで、いわゆるSystembiology全般を扱うための雑誌だろう。ただ、わが国でSystembiologyというと圧倒的に生物の行動を力学的数理処理により予想することが中心になっているが、7月29日の最初の雑誌に掲載された多くの論文が、全ゲノムレベルの情報処理を扱っており、生物をシステムとして全体的に眺める研究なら全て扱うように思える。しかし、CellとNatureによる寡占体制が急速に進んでいることを強く認識した。  さて、せっかくの第一号ということで、一つ論文を選ぼうと眺めたところ、一番興味を引いたのが今日紹介するスタンフォード大学からの研究で、個人間の遺伝子発現の違いを全ゲノムレベルで調べる研究で、タイトルは「Individuality and variation of personal regulomes in primary human T cells(T細胞のゲノムレベルの遺伝子発現状況の個人間の変異)」だ。例えば、全身性の自己免疫病は女性の方に多いが、なぜこの差が生まれるのかは遺伝子の配列の違いより遺伝子の発現調節の差によるところが多い。もちろん病気のリスクが個人個人で異なる原因の多くもそうだ。ただ、塩基配列の明らかな違いとして現れる差と違って、この発現量調節に関わるゲノムの差を特定するのは難しい。遺伝子発現はゲノム配列を反映していても、その発現は細胞ごとに異なる。エピゲノム研究が進んで、遺伝子発現の状態を調べることが各細胞で可能になってきたが、技術的にもコスト的にもハードルは高く、気軽に使えない。特に必要な細胞数を患者さんから集めるのも一苦労になる。この問題を解決するATAC-seqと呼ばれる方法を開発したのがこのグループで、これにより500−50000個の細胞があれば、現在活動可能になっている全遺伝子領域をマップすることを可能にした。原理は、タンパクの結合していない裸のDNA部位に選択的に挿入されるトランスポゾンを使っている。核を抽出してこれをトランスポゾン反応を支持する溶液に浮かべ、そこに遺伝子シークエンスに用いるプライマー配列を挿入したトランスポゾンを感染させる。すると、染色体の裸のDNA部分にトランスポゾンが飛び込み、これによりゲノム全領域の中で染色体の開いた場所を標識することができる。この標識はシークエンスプライマーになっているので、この標識部位をシークエンスるだけで、開いた染色体、すなわち転写が活性化されている場所とその頻度を調べることができる。大変よくできたシステムで、多くの研究室で使われるようになるのではと予感がする。研究ではこの方法を用いて、T細胞での遺伝子発現の男女差について焦点を当てた研究を行っている。この研究から、 1) X染色体不活化(http://aasj.jp/news/watch/3802参照)の際、同じ染色体にありながら不活化を免れる遺伝子の特定、 2)女性特異的に染色体が開いている場所の多くが、インターフェロンなど免疫エフェクターの転写に関わること、 3)このような部位の多くは一分子多形探索研究で様々な自己免疫病に関わるSNPとして特定されている領域と重なること。 4)試験管内でのT細胞活性化の経過をこの方法で追いかけて、病気と比較することができること。 などが示されている。論文では、それぞれの結論を他の方法と比べる膨大な実験を行っているが、それを割愛してもこの新しい方法が極めて優れた検出法であることがよくわかると思う。おそらくキット化され、臨床研究にも利用は拡大し、これまで特定が難しかったなんとなく家族に多いと言った病気リスクについての理解に大きく貢献すると思う。しかし、いい論文を軒並みさらっていくCell Pressの寡占体制は当分揺らぐようには思えない。
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