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8月7日:医師の視点と看護師の視点(Aesthetic Surgery Journal及びJournal of Advanced Nursingオンライン版掲載論文)

2015年8月7日
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私が研修医の頃、たまに脳外科の長い手術でラジカセから音楽が鳴っているのを見たことがあるが、手術場で音楽がかかっているのは稀だったと思う。臨床から離れて40年近くになるが、現在は様変わりのようだ。英国では72%、インドで53%、イスラエルで63%の手術場に音楽が流れているようだ。しかし昨年12月British Medical Journalに手術中の音楽に高い効果があるのではというコメントが書かれてから、現在も様々な議論が続いているようだ。それを受けてか、音楽を聞きながらの手術についてより科学的な検証を試みた論文が2編発表されているので紹介しておこう。一報目は形成外科の雑誌Aesthetic Surgery Journalオンライン版に掲載されたテキサス大学からの「Prospective randomized study of the effect of music on the efficiency of surgical closures(外科縫合の効率に及ぼす音楽の影響についての前向き無作為化研究)」という論文で、好きな音楽を聴く、聴かないを無作為化してレジデントに豚の皮を縫合させ、その時の速さと質を測った研究だ。結果は、好きな音楽を聴いた方が有意に縫合速度が早く、仕上げも優れているという結果だ。もう一編の論文は看護師さんの雑誌Journal of Advanced Nursingオンライン版に掲載されたロンドン大学からの「Music and communication in the operating theatre(手術場での音楽と意思疎通)」という論文で、20回の手術をビデオに納め、音楽を聞いていた手術で術者と看護師のやり取りが侵されていないか会話記録を調べた研究だ。解析により明らかになったのは、術者の支持に対する聞き直しの頻度を調べると、音楽がかかっている場合1.7%、かかっていない場合0.3%で、その実例も録音結果と一緒に示されており、実際看護師のイラついた会話も記録されている。まあ、術者の好きな音楽を聞かされる看護師さんの身になれば充分納得できる結果だ。両方の論文とも、手術室の音楽を科学的に検証しようとした点では重要だろう。両方正しいとすると、結論は音楽があると単純な作業の効率は上がるが、手術場でのスタッフとのコミュニケーションは侵されるという結果だ。手術は個人の能力が強く反映される。また、個人の能力には生活習慣が大きく影響している。手術の指揮をとる人間を優先すると、術者がすべてを決めるというのは正しいように思うが、一方手術がチームプレーであるなら、やはりある程度個人の自由は制限されてもいいだろう。結局のところは、信頼関係があるかどうかが第一で、やはりこの問題の科学的解決は難しいように思う。
カテゴリ:論文ウォッチ
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