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8月15日:新生児糖尿病の遺伝子検査の重要性(7月29日号The Lancet掲載論文)
2015年8月15日
生後6ヶ月までに糖尿病と診断される場合、1型糖尿病と区別して新生児糖尿病と呼ばれている。診断基準も明確で診断を間違うことはない。ただ、明確な遺伝的原因があることが多く、また原因遺伝子により多様な病態を示すため、症状に基づいて診断をつけるだけでなく、原因遺伝子まで特定することが重要になる。我が国で遺伝子検査がどれだけ普及しているのか現状について把握していないが、今日紹介する英国エクセター大学医学部からの論文は、この病気は診断がついた後できるだけ早く遺伝子検査を行うことの重要性を明確に示した論文で、7月29日号のThe Lancetに掲載された。タイトルは「The effect of early, comprehensive genomic testing on clinical care in neonatal diabetes: international cohort study (新生児糖尿病の診療には早期で徹底的ゲノム検査が必要だ:国際コホート研究)」だ。研究では79カ国の新生児糖尿病と診断された1020人の乳児の細胞をエクスター大学に送付し、原因として特定されている21種類の遺伝子と、6番染色体の特定領域のメチル化解析を行っている。この1次検査で診断がつかなかった場合は、おそらくゲノムキャプチャー法を用いていると思うが、原因としての可能性が示唆されている全ての遺伝子の配列決定を行っている。結果だが、この方法で実に82%の患者さんの原因遺伝子を特定できている。将来エクソームや全ゲノムシークエンスが用いられるようになればさらに診断率は上がるだろう。重要なのは、親族関係のある夫婦の子供と、親族関係のない夫婦の子供を比べると、原因遺伝子が大きく違っていることだ。例えばこの病気でもっとも頻度の高いK-ATPチャンネルの変異は、親族婚では比率が大きく落ち、逆に非親族婚では極めて稀な翻訳開始因子ELF2AKのホモ変異が大きく増加している。遺伝子がわかったところで結局は同じと思われるかもしれないが、遺伝子が特定できると、適切な治療方針を決めることができる。メチル化異常やK-ATPチャンネル異常の一部のように治癒できる場合もある。あるいはインシュリンから経口糖尿剤へ移行する可能性の予測もできる。さらに重要なことは、原因遺伝子によっては他の症状が発生することも多く、例えばEIF2AK遺伝子変異では糖尿発症後数年して筋肉症状などが現れWolcott-Rallison症候群と診断されるが、これを前もって予測することができる。示されたデータを見ると、かなり詳細な経過予測が可能になっていることがわかる。施設の能力の関係で、2000年にこの研究がスタートした時は診断までに平均4年かかっていたが、現在では3ヶ月以内で診断がつくようになっている。その上で、早期遺伝子診断を行うことの重要性を論文では強調している。現在なら同じ検査は多くの国で可能になっているはずで、原因遺伝子特定までの時間はもっと短縮されているだろう。新生児から乳幼児期は発達にとって極めて重要な時期だ。この病気については、症状により診断がつけば良いと済ますのではなく、原因遺伝子特定を診断の原則とするよう我が国でも体制を整えて欲しいと切に願う。