過去記事一覧
AASJホームページ > 2015年 > 8月 > 4日

8月4日:2つのリボゾームを合体させて一つにする(Natureオンライン版掲載論文)

2015年8月4日
SNSシェア
ほとんどの細胞機能をタンパク質ベースに考えてしまう凡人にとっても、リボゾーム上でmRNAからペプチドが翻訳される過程は最も重要なはずだが、リボゾームの主体がもともと馴染みのないRNAでできているため、リボゾーム=タンパク質の工場と言ったステレオタイプな理解で済ましてしまう。そんな私から見ると、あの複雑なヘアピン構造から機能をイメージできるリボゾームRNA研究者の頭の中はほとんど奇跡に見える。その結果、リボゾームについての論文は、「まあ専門家に任せておけばいいや」と遠ざけることになる。しかし今日紹介するイリノイ大学からの論文はそんな凡人を読む気にさせるタイトルでNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Protein synthesis by ribosomes with tethered subunit(サブユニットを結合させたリボゾームでタンパクを合成する)」だ。あらゆる生物で、リボゾームが16Sと23Sの二つのサブユニットからできていることは誰でも知っている。素人の私はこの構造がmRNA を16Sで補足した後、23Sで集まったトランスファーRNAの運ぶアミノ酸をペプチドにつなぐための必然なのだろうと納得してきた。なんとこの研究ではこの2つのサブユニットを結合させて一つの遺伝子にしてしまおうというのだ。凡人の頭では、両方の機能を阻害しない長いRNAのリンカーで繋げばいいのではと思うが、もともと両方のサブユニットの端は離れ過ぎており、そんなリンカーはすぐ分解されて役に立たない。実際には大変なステップを一段一段解決してこれを実現している。まず23SRNAの機能を維持したまま、断端が16Sの断端に近づくよう設計した23S RNA を作り、これを16Sの途中に挿入することで、16S,23Sが合体した70Sリボゾームを作っている。実際にはすべて設計通りにはいかないため、rRNAを欠損させた大腸菌に導入して、十分増殖できる突然変異株を分離することで、最適化している。こうして実現した結合リボゾームが大腸菌内で分解されず、試験管内や大腸菌内でも通常のリボゾームの代わりをすることを確かめ、次いでリボゾームの合成効率を高めた変異株を分離した後、新しい系を使って新しい機能を獲得したリボゾームを作ることが可能か調べている。この課題として(私にとっては全く初めて聞く話だが)、普通のリボゾームでは翻訳が途中で止まってしまう遺伝子を使っている。詳細は省いて単純化して説明すると、できたペプチドがリボゾームに引っかかって途中で停止するのを、リボゾーム側を変化させることで防げないか調べている。その結果、これまで特定できなかった翻訳を停止させているリボゾーム側の部位を特定している。これまで、2つのサブユニットに分けることで、フレキシブルな翻訳工場ができると思い込んできたが、この先入観は覆された。今後はこのような系を利用してリボゾーム工場が様々な機能を持つよう進化させることが可能になるだろう。なんといっても、リボゾームが分かれている必要がないことがわかっただけでも驚くべきことだ。ひょっとしたら、次は70Sリボゾームを持つ生物の発見かもしれない。
カテゴリ:論文ウォッチ
2015年8月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31