補体成分C4が統合失調症に関わるというタイトルを見て、受けを狙ったちょっと怪しい論文ではないかと最初は疑った。しかし、もともと補体や組織適合性抗原が集まっているMHC領域と統合失調症の関連がゲノム検査から示唆されていたようで、最近ではC4の調節領域の変異が統合失調症に関わることまでわかっていたようだ。ただ、この領域は遺伝子解析が難しく、関連は疑われてもどの遺伝子が関わるのかピンポイントで特定することが難しかった。この研究では既に幾つかの証拠が上がっているC4に焦点を当て、多くの転写産物を発現する複雑な遺伝子領域の詳しいゲノム解析ができる方法を開発し、確かにC4領域が関連していることを確認した後、大規模データの検索を行い、統合失調症のリスクを高めるC4遺伝子の特徴を明らかにしている。これまでの一塩基多型の研究はここで終わるのだが、この研究ではC4の脳での発現、さらにマウスを用いた機能実験を行っている。
長い話を短くしてまとめると、統合失調症ではCA4型分子の脳、特に海馬での発現が上昇している。細胞レベルで調べるとC4は神経で発現してシナプスに濃縮される。そして、C4遺伝子が欠損したマウスではシナプスの再構築が著しく低下し、シナプスが剪定されずに残ってしまうことを発見している。すなわち、免疫反応と同じでC4は神経でも刺激に応じて活性化される補体反応を誘導し、必要の無くなったシナプスを剪定し、神経回路の再構成に関わるっていることになる。逆に統合失調症の脳では皮質の灰白質が減少し、シナプス結合が減少するが、神経細胞数は変化しないことが知られている。今回の発見によって、統合失調症の神経症状の少なくとも一部を、遺伝的にC4のシナプスでの発現が上昇することで、シナプス結合が剪定されやすくなり、結果として神経の結合性が低下することが背景にあると説明することができる。面白い論文だった。 しかし免疫系と神経系の関わりで思い出されるのがアメリカの神経科学の大御所シャッツたちが報告した、胎児神経発生にクラス1組織適合抗原が関わっているという発見だ(Neuron. 2009, 64: 40–45. )。発見当時は話題になったが、その後この話はあまり聞かない。しかし、もしC4がシナプス剪定を通した結合性再構成に関わるとなると、シャッツたちの話も新しい観点から再検討されるような気がする。
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