人間の視覚を対象として、視覚認識と、MRIで捉えた脳の興奮を対応させる研究だ。このような研究の成否はどのような課題を設計するかにかかっている。この研究もこの課題が全てだ。文章だけで表現するのは大変なので、今日は図を作ったので、それを使って課題を説明しよう。被験者に実像Aと実像Bを短いインタバルで場所を変えて与える。2枚の絵を見て円の中の格子の向きから回転しながら移動していることを想像するはずだ。このとき右回り、左回りのどちらかを想像するよう命令すると、右回りを想像するときは縦縞の虚像、左回りを想像するときは横縞の虚像が形成されるはずだと著者らは睨んだ。後は、回転の方向を想像しながら2枚の実像を見せたとき、中間の像も含めて実像を単独に見せた場合のV1の活動を比べ、実際には見ていない虚像がV1の特定の興奮として記録できるかを調べている。難しいことを全て省いて結論を言うと、網膜から直接投射されているV1領域で実像と実像の間を虚像で埋めることで動きを再構築していることが明らかになった。納得の話だが、面白いのは全く実像を見せず、像の回転と移動を思い出す場合は、実像とともに虚像を結ぶときに興奮した領域が全く興奮しないという結果だ。すなわち、虚像は実像があって初めて視覚の統合に役に立っているという結果だ。 V1に障害を持つイタリアの患者さんから始まった虚像についての研究が今も脈々と続いていることがよくわかった。今後も注目して、今書いている本にも使っていきたい。
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