今日紹介するこの分野の開拓者Doudnaさんの論文は通常用いられるCas9とは酵素活性が異なるCas12を研究する中で、これをウイルスなどの特異的遺伝子の高速・高感度検出に使えることを示した研究で4月27日号のScienceに掲載された。タイトルは「CRISPR-Cas12a target binding unleashes indiscriminate single stranded DNase activity(CRISPR-Cas12aの標的への結合は非特異的一本鎖DNA分解酵素活性を解き放つ)」だ。
crRNAとDNAが結合した時、多くのCasでは、それを認識して例えばDNAを切断するなど、一つの機能を発揮する。これに対し、同じようにDNAをカットしたあと、これにより変化したcrRNAの構造をスイッチとして使って、全く新しい機能を発揮する2重機能をもつCasの存在が、の2016年,やはりこの分野の開拓者Charpentierさんたちのグループが発見していた。
今日紹介するDoudnaさんたちの研究では、Lachnospiraceaeという細菌種から新しいCas12aと呼ぶ新しいCasを精製し、その酵素活性を試験管内で調べるうちに、この分子がcrRNAが結合した標的DNAを切断するだけでなく、同じ反応系に存在する全ての一本鎖DNAを完全に分解してしまうことに気づく。しかも、この一本鎖DNAは標的と全く関係なくても分解されることがわかった。
生化学実験から、このCas12aがcrRNAとDNAの結合を認識して標的にカットを入れてcrRNAが変化するとカットされた基質がスイッチになって、全ての一本鎖DNAを分解する酵素活性が新たに誘導されることがわかった。2重鎖DNAが標的の場合、この活性化にはPAM配列と正確なcrRNAと標的の一致が必要だが、一本鎖DNAを標的にする場合は、DNAとcrRNAが結合しておれば十分なことが明らかになった。即ち、新しい酵素活性の誘導自体は、crRNAと標的一本鎖DNAが結合して居れば良いが、2重鎖DNAが標的の場合はcrRNAがCas12aを活性化できるよう変化する必要があり、そのためには配列特異性とPAMを介した特異的標的DNAのカットが必要になる。極めて精巧な酵素だとつくづく感心する。
そして最後に、このcrRNAと標的DNAで活性化できる一本鎖DNAを分解する活性は他のバクテリアのCas12aにも存在することを確認している。
以上から、Cas12aが持つ無関係の一本鎖DNAを分解してしまう活性を、crRNAと標的DNAの特異的結合により制御できることがわかる。そこで、この特性を利用するとウイルスなど外来のDNAの高感度の検出法が開発できると着想して、ヘルペスウイルスを例に、これが実現可能であることを示している。
詳細は述べないが、方法は以下のようなものだ。先ず生化学的検討から明らかになった、ウイルスに対する至適なガイドRNAを合成する。次に、ウイルスDNAを増幅して、そこにガイドRNA とCas12aを加える。ガイドに一致するウイルス配列があると、特異的にCas12aの一本鎖DNAに対する分解酵素活性のスイッチが入る。ここに、切断されると蛍光を発するようにした一本鎖DNAを加えておくと、反応液が蛍光を発するという段取りだ。これを用いて、微量なヘルペスウイルスを極めて高い特異性で検出できることを示して論文を締めている。
Doudnaさんの論文と同時に、もう2編、同じ趣旨の論文が同じScience に掲載されており、この分野でいまも熾烈な競争が繰り広げられているのがわかる。ただ、検査法の開発だけでなく、Cas12aの生化学がわかりやすく示されているのは、さすが本家のDoudnaさんと言っていいだろう。
しかし、crRNA と標的核酸の結合を検出する共通性の上に、これほど多様な機能を生み出している進化にはただただ驚くだけだ。
カテゴリ:論文ウォッチ