今日紹介するボストン・ホワイトヘッド研究所からの論文は、古典的な再生実験を基礎に、プラナリアの再生のルールについて調べた論文で4月27日Scienceにオンライン出版された。タイトルは「Self-organization and progenitor targeting generated stable pattern in planarian regeneration(自己組織化と前駆細胞の標的への誘導によりプラナリアが安定したパターンを再生する)」だ。
最近の研究をあまりフォローしていないためか、久しぶりに古典的再生研究に再会した気分になる論文だ。プラナリアでは脳も含めてほとんどの細胞が常に幹細胞から新陳代謝している。この定常的な細胞の動きは、すでに存在する体のパターンで制御されているが、体の一部を切ってしまうと、このパターンが狂う。この狂いが新陳代謝とは異なる、再生現象を生み出すことになる。この研究の売りは、目という小さな領域の再生と、頭を切り離したり、体の側面を全部切り離したりする大きな再生実験を組み合わせることで、幹細胞が適切な箇所に移動して臓器を作り直すルールがよりはっきりすると着想したことだ。
例えば目をくりぬくと、正常な目と同じ高さに前駆細胞が移動してきて、目が再生する。ただ、この実験だけだと元の高さに眼になる細胞を集める分子が発現しているとして話が終わってしまう。ところが、これに頭を切り離すという操作を組み合わせると、体を再生する過程が組み合わさり、再生とともに目の細胞を供給すべき標的領域は刻々変化する。このことから、再生眼はもう一方の眼の高さにまず形成され、体の再生とともに他の目と一緒に前の方に移動するのか、あるいはもう一方の眼の位置とは関係なく、体全体の再生ルールに従って新たに作られるかの2つの可能性が考えられる。
この研究では、実際に頭を切り離すと、元の眼の位置よりも前方に再生眼ができることを示し、場所決めが体の体制の影響があることを確認する。しかし、眼の一部を残して置くと、それが核となって元々の眼のあった場所に完全な眼ができることから、眼の細胞の組織的集合も重要な働きをすることも確認する。すなわち、体の体制に従って移動しながらある程度の細胞数が集まると、そこに再生眼ができるというシナリオに到達する。実際には、これまでの研究で前駆細胞を標識する分子マーカーや、この場所決めに関わる分子の可能性について、長い研究による知識が蓄積しているおかげで、実験結果の解釈は確実に容易になっている。要するに、
あとはオペレーションの規則が理解できると、自由自在に切断部分とその時間を変化させて、眼の高さを変えたり、目の数を思い通りに増やしたり、自由自在に眼の再生を操作できることになり、実際論文では、驚くほど様々なパターンの目の再生が起こった個体の眼の写真を示してくれている。
実際の実験の詳細はこれぐらいにして、これらの結果から考えられた臓器再生のルールを以下のようにまとめることができる。
1)一定数の前駆細胞が集まると自己組織化的に眼の形成が起こる領域が形成される
2)前駆細胞の集合と眼への分化を支持するフィールド(TAZ)が形成される、
3)TAZの中に前駆細胞が集まると、そこに自己組織化の核ができ、その場所に眼が形成されるTZになる。
4)TAZはWntとそれを阻害する分子の量できまる。
このルールさえ心得ておけば、再生の場所や数を人為的に決めることができるという結論になる。
ここまで、古典的実験といったが、同じグループはやはりScienceに単一細胞のmRNA発現を調べる最先端の研究も行なっている、高い実力を持ったグループだ。今後、古典的手法と先端手法を組み合わせて、プラナリア研究を新しい段階に引き上げるのではと期待している。
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