その後、我が国も豊かになり、誰もがローカーボなどと炭水化物制限が健康の維持につながると信じるようになった。しかし本当かどうか、実際には20年を超える追跡調査が必要だ。今日紹介するハーバード大学からの論文は15000人に及ぶ45−64歳の人を25年も追求して炭水化物の量と死亡率を調べた研究でThe Lancetオンライン版に掲載された。タイトルは「Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis (食事での炭水化物の摂取量と死亡率:前向きコホート研究とメタアナリシス)」だ。
この調査では、1987年から1989年にかけて、約15000人の45−64歳の人たちをリクルートし、66以上の項目について面接を行い、日常の食事の内容を聞出して、炭水化物のエネルギーに占める割合を計算している。その後25年間、全部で5回にわたって対象を訪問し、生活状態を把握するとともに、毎年電話で生存確認を行っている、かなり念入りなコホート研究だと言える。調べられたのは、25年間でのカロリーのたった20%が炭水化物という人から、8割を超すグループまでハザード比をプロットしてみると、一番死亡率が低かったのが50%を炭水化物でとるグループで、あとは高くても、低くても死亡率が上昇する。とはいえ、最も死亡率が高くなるのは、炭水化物が3割以下のグループで、ハザード比が1.5近くになる。また高くても死亡率は高く、8割を炭水化物でとるグループのハザード比は1.2ほどだ。この結果は、どのような方法でも炭水化物の摂取を抑えすぎると、死亡率を高めるという結果になっている。わかりやすく計算してくれているが、50歳の人の平均余命でいうと、炭水化物の比率が30%の人が29.1歳、50−55%33.1歳、そして65%以上の人が32歳という具合だ。
このコホートから得られた結果を他の様々な国のコホート研究と比べるために、文献を調べるメタアナリシスを行っているが、広い範囲で炭水化物の比率を調べた2つのコホート研究は、このグループの結果と一致しており、低い場合も、高い場合も死亡のハザード比が高い。基本的にはどの研究も、炭水化物はほどほどが良いという結果になっている。
ただ、どんなに結果が美しくても、この結果を炭水化物のせいだけにはできない。管理されたダイエットでなく炭水化物の摂取が少ない人は、動物性の脂肪を多く取る傾向がある。実際詳しく内容をみると、その傾向は強く、また野菜やフルーツ、あるいはホールグレインなどの摂取量も低い。逆に、アジアでの研究では炭水化物の摂取量が多いほど死亡率が高く見えたのも、副食が少ないなどの食事の質を反映するように思う。何れにせよ、所得が上がると炭水化物の摂取量が低下し、これが極端になった人の健康が損なわれるというのがこの論文の結論だろう。 食や栄養についての研究は21世紀の重点課題だが、新しいコホートの仕組みが必要とされる分野だ。今後もウォッチして行きたい。
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