今日紹介するノルウェー・ベルゲン大学からの論文は、人類が残した中では最も古いと考えられる絵というか、模様というか、ともかく間違いなく人の手によると考えられる描写を発見した研究で9月20日号のNatureに掲載された。タイトルは「An abstract drawing from the 73,000-year-old levels at Blombos Cave, South Africa(南アフリカBlombos洞窟の73000前の層から発見された抽象的線描)」だ。
この研究は、基本的には黄土で線が描かれた石片出土したという話で、この分野に興味がなければ、なるほどで終わる簡単な話だ。しかし、藤村事件と同じで、この分野の人にとっては大変な発見になる。というのも、それがどのような図であれ、人間が意図して描いたと思われる線描はこれまでたかだか4−5万年前の遺跡でしか見つかっていないからだ。確かに、イスラエルカフゼでは絵を描くのに使われたと考えられる黄土が10万年前の地層から見つかっているが、はっきり描かれたことがわかる図形は今回の石片が最も古く、これが興奮を呼んでいる。
さて、発掘された場所は、南アフリカケープタウンから300Km離れたブロンボスにある洞窟で、同時に出土する槍の穂先などから中石器時代であることがわかる。また、装飾品としてのビーズも出土している。アフリカはホモ・サピエンスが、ネアンデルタール人やデニソーワ人と交雑することなく進化したゆりかごで、ヨーロッパでの発見とは全く違う意味を持つ。
さて、絵が描かれると思われる石片については様々な考証を行い、黄土でできた線が、意図をもって人間が描いた線描で、実際にはもう少し大きな図形の一部が石片として残ったと結論している。そして、同じ洞窟から同じように黄土で描かれた線描の石片が約10万年前の地層からも発見されており、今後時間とともに、人間の絵心の変化についても検証できるのではと期待される。
最後に、では絵を描くという行為が考古学者の興奮を呼ぶのかという点だが、私たちが対象をシンボル化して考えるsymbolic thought能力が、言葉の獲得へとつながる最も重要なステップだと考える人が多いからだ。確かに、この能力は絵だけではなく、ビーズのような装飾品や石器の精巧さにでも表現されるが、やはり意図して何かが描かれるという行為はもっともわかりやすい。今、アフリカでのホモサピエンス形成過程を求めた発掘が続く。最も古いものでは30万年前に遡れれるようなので、今後も絵心を通して人類進化の跡を発見するための努力が続くと期待できる。次はどこまで古い絵心の跡が出てくるのだろう?
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