今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はSTRが不安定になるのは、染色体構造上の位置に関わると当たりをつけてTADの境界に存在するSTRが選択的に増大することを示した研究で9月20日号のCellに掲載された。タイトルは「Disease-Associated Short Tandem Repeats Co-localize with Chromatin Domain Boundaries(病気の原因になる短い繰り返し配列は染色体のドメイン間の境界に位置する)だ。
おそらく著者らは染色体の折りたたみ領域TADの境界にこれらのSTRがあると最初から決めていたのだろう、ES細胞についての染色体の立体構造解析と病気と関係する26種類のSTRを対応させ、期待通り11種類がTADの境界に接して、また残りも染色体構造がまとまった小さなドメインの境界の近くに存在することを確認する。
次に、TAD自体は細胞分化とともに変化するので、ES以外の細胞株の染色体構造解析と照らし合わせると、病気に関わるSTRの近くの境界は、細胞の系統にかかわらずTADの境界として細胞系列を問わず働いている。またこのSTRの不安定性で病気が起こりやすいヒトの脳組織についてクロマチンドメイン解析を行ってみると、ほとんどの病気にかかわるSTRがやはり神経細胞でのTAD境界に存在する。
ではなぜ境界近くのSTRが不安定化するのかだが、この場所に染色体の折りたたみを決めるCTCFの結合が集中するCpGアイランドが存在し、しかも普通のCpGアイランドと異なり、抑制型のヒストンの結合が低下している場所である事を発見する。すなわちこのような境界はもともと不安定で、それに近接してたまたま存在したSTRがさらに不安定化を高め、境界を変化させることで、STRのリピート数が増え、転写が変化する可能性を示唆している。しかし残念ながら、STRの不安定化の正確なメカニズムについては今後の研究が必要になる。
これを示すため、FragileX患者さんを材料に、FragileX遺伝子とTADの関係を調べると、リピートが増えることで本来のTADから隣接するTADに支配が移り、境界に存在するCTCFの結合が消失し、発現が抑制されることを示している。これらの結果から、STRとCpGアイランド、そしてCTCFの結合のバランスが、STRの不安定化に関わることは見て取れるが、ハンチントンなど転写の話ではないSTRが関わる病気も多いので、今後他の疾患についての詳しい解析が必要だと思う。
基本的には病気に関わるSTRがTAD境界に近接していることを確認したことが、この研究の全てだと思う。
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