今日紹介するフランスストラスブール大学からの論文は、まさにこの問題を解決しようと、オキシトシンと同じ作用を持つ、ペプチドとは違う化合物を開発した研究でJournal of Medical Chemistryに掲載された。タイトルは「LIT-001, the First Nonpeptide Oxytocin Receptor Agonist that Improves Social Interaction in a Mouse Model of Autism (世界初のペプチドとは異なるオキシトシン受容体刺激剤LIT-0001はマウスの自閉症モデルで社会性を改善する)」だ。
この研究では、オキシトシン受容体がバソプレシン受容体と構造的に似ていることに注目し、これらの受容体に結合できる化学構造としてのベンゾイル・ベンズアゼピンを骨格とする化合物から始めて、様々な合成を繰り返し、バソプレシン受容体、オキシトシン受容体を発現させた細胞でのシグナル伝達を指標に検討を繰り返し、最終的に化合物57、LIT-0001を合成している。
開発に興味ある人にとっては、合成有機化学としてのLOT-0001までの試行過程が最も面白いのだと思う。また、この薬剤を起点にさらに磨きをかける場合も、これに至るまでの過程は大きな情報と言える。」しかし、私たち合成化学についての素人にとっては、最後に示される化合物の性質が最も重要で、それだけを紹介する。
まず3種類のバソプレシン受容体、およびオキシトシン受容体をそれぞれ発現した細胞を用い、これら受容体のシグナル伝達経路、カルシウム遊離やβアレスチンの受容体へのリクルートを指標にLIT0001を調べると、オキシトシン受容体への作用はオキシトシンと比べて1オーダー低いが、特異性はLT-0001の方が優れていることがわかった、
その上で、オピオイド受容体が欠損することで社会性が失われるモデルマウスに投与すると、10mg/kgで社会性を回復させられることがわかった。
この結果から、全身投与で、脳のオキシトシン受容体を効果的に刺激してくれる薬剤の開発への道が開いたことは明らかで、これまでのオキシトシンの効果を考えると、ぜひ早期にさらなる至適化が行われ、治験が行われる事を期待する。欧米ではASDは60−70人に一人発症すると言われており、医療だけでなく、ビジネスとしても大ヒットにつながる可能性を秘めている。
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