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9月29日パーキンソン病の神経死を誘導するαシヌクレイン重合阻害剤の開発(Cell Chemical Biology 12月号掲載予定論文)

2018年9月29日
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パーキンソン病では黒質のドーパミン産生神経細胞が変性するが、この時細胞内には特徴的なレビー小体と呼ばれる細胞内構造が形成される。レビー小体の分子成分を調べた研究から、これが140アミノ酸の大きさのαシヌクレイン(αSN)からできていることが分かり、パーキンソン病の細胞変性にαシヌクレインの重合と、それが完全に繊維状の構造として固定する前の前駆構造(αSO)が細胞膜やミトコンドリア、そして小胞体の膜に突き刺さって細胞を障害すると考えられている。従って、αSNの合成を阻害し、またαSOの毒性を落とすことで、パーキンソン病の進行を止めることができると期待される。

今日紹介するデンマーク・ Aarhus大学からの論文は、αSNを標的にしたパーキンソン病の進行を止める薬剤の開発で、Cell Chemical Biologyの12月号に掲載予定だ。タイトルは「Potent a-Synuclein Aggregation Inhibitors, Identified by High-Throughput Screening, Mainly Target the Monomeric State (ハイスループットスクリーニングで探索したαシヌクレイン重合阻害剤はモノマー型を標的にする)」だ。

αSNの重合阻害剤の開発はもちろんこれまでも試みられて、薬剤としては使用できるところまでには至らなかったが、いくつか化合物も開発されている。ただ、薬剤として開発するためには、多くの化合物をスクリーニングし、多くのリード化合物を特定し、その構造をもとに薬剤として最適化する必要がある。このためには、重合過程を短い時間で検出するアッセイ系が必要になる。著者らは、αSNのN末端に異なる化合物を結合させ、両方がαSN重合時に近接したとき蛍光を発するFRETという方法を用いて、70万種類以上の化合物のスクリーニングを行うことに成功し、重合阻害剤の候補58種類を特定している。

その後、化合物として望ましい幾つかの性質を合わせた指標を用いて、58種類の化合物を評価し、トップ9種類について、重合阻害活性、さらにオリゴマー、αSOの毒性の抑制活性などを調べ、最終的に薬剤のリード候補として著者らがクラスIIIと呼ぶ、全てスルフォンアミドを骨格として持つ化合物を6種類特定している。こうして得られた化合物は重合化を抑えるとともに、αSOの脂肪膜への結合を抑え、また細胞毒性を弱める活性を持っている。

次に、作用機序を調べ、これらの化合物はαSNの特異的部位に結合して阻害するというより、分子と非特異的にコーティングして重合を阻害し、またその結果αSOの毒性を弱めることが明らかになった。

このスクリーニングでは同時に、重合を高める化合物も特定することができている。共にベンゾオキサゾールを骨格に持っており、今後重合過程をより詳しく解析するのに役立つと思われる。

以上、重合阻害やαSOの毒性阻害活性を持つ薬剤を開発できる可能性はよくわかったが、結局上がってきた化合物が非特異的な一種のコーティング剤だったというのは少し残念だ。というのも、おそらく使用のためには高い濃度が必要になる。また薬剤としての開発を進めるにしても、まだまだ長い過程が必要だと思う。しかし、重合を高める化合物も含めて、それぞれの活性に介入できる化合物が共通の構造を持つことの発見は、今後至適化と呼ばれる過程を進めていくためには重要な情報になっているはずだ。この構造を見て、私たち素人には思いもよらないイメージが頭の中でくるくる回り出している有機化学者が世界には何人もいることは間違いない。
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