7月9日:すい臓ガンの免疫治療効果を高める薬剤の開発(7月3日号Science Translational Medicine掲載論文)
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7月9日:すい臓ガンの免疫治療効果を高める薬剤の開発(7月3日号Science Translational Medicine掲載論文)

2019年7月9日
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このブログでもすでに60編近い膵臓ガンについての論文を紹介したように、膵臓癌は今も医学に立ちはだかる大きなハードルだ。これらの論文のなかには、ある程度有望な治療法の開発も含まれているが、なかなか完治というところまで至る治療法は動物モデルでも難しく、特に画期的新薬として世にでるまでには至った治療薬はまだないとおもう。

その意味で今日紹介するワシントン大学からの論文は全く新しい発想の治療薬の開発で期待が持てる印象を持った。タイトルは「Agonism of CD11b reprograms innate immunity to sensitize pancreatic cancer to immunotherapies (CD11b分子を活性化する作動薬は自然免疫システムをプログラムし直し、膵臓ガンの免疫治療感受性を高める)」だ。

膵臓ガンは、間質に強い繊維化と白血球の浸潤が特徴で、これが抗がん剤やキラーT細胞の浸潤を妨げて、ガン治療を難しくしていると考えられてきた。したがって、ガンの間質は膵臓ガン制御の重要な標的になっている。この研究の著者らは、膵臓ガン間質に浸潤する白血球がCD11bを認識できるインテグリンを発現していることに注目し、この分子を活性化することで血管への接着を促進し、ガンへの浸潤を抑制することで、ガンの間質制御を通した治療が可能ではないかと着想した。そして、経口摂取可能な低分子化合物ADH-503を開発した。

この研究では、まずADH-503投与により、様々な膵臓ガンモデルの間質への白血球浸潤が抑えられ、その結果間質でのコラーゲン産生が低下するとともに、自然免疫系が免疫誘導型へとリプログラムされ、結果としてガンに対するキラーT細胞が誘導されることを確認している。

あとは、実際のガン治療の状況を作って、ADH-503の効果を確かめることになる。結果をまとめると、

  • ADH-503単独ではガン自体への作用はないが、間質の変化を通してガンの増殖を抑制することができる。
  • ジェムシタビンとパクリタクセルの組み合わせで行う膵臓ガン治療にADH-503を組み合わせると、完治はしないが生存期間を倍に伸ばすことができる。また、放射線照射と組み合わせても、強い腫瘍抑制が可能になる。
  • 抗PD-1抗体と組み合わせると、ガンを完全に抑制できる。また抗41BB抗体を用いたT細胞活性化治療でも、同じ様に完治を誘導できる。

で、要するに免疫反応を強く誘導することが可能になり、チェックポイント治療はT細胞刺激治療と組み合わせると、ほぼ完璧な腫瘍抑制がかのうになると結論している。

使う量も60mg/kgと大量で、薬剤としてはまだまだ最適化できると思うが、インテグリンを刺激するという逆転の発想が、これまで難しかった膵臓ガンの免疫治療が可能になることを予感させる面白い仕事だった。

カテゴリ:論文ウォッチ