7月29日 エストロゲン受容体阻害薬の作用機序の再検討(8月8日号Cell掲載論文)
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7月29日 エストロゲン受容体阻害薬の作用機序の再検討(8月8日号Cell掲載論文)

2019年7月29日
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乳がん治療の最も重要な薬剤が、エストロゲン受容体の阻害剤であることは、医師でなくてもよく知っている事実だ。しかし、抗エストロゲン薬といっても作用機序が異なることは意外と知られていない。

タモキシフェンは最初に開発された抗エストロゲン薬だが、エストロゲンと受容体の結合は阻害するが、核内で標的DNAと結合するのは阻害しない(タモキシフェン誘導による遺伝子活性化を考えて欲しい)。実際、受容体が持っているAF-1部分を介して、新たな転写が誘導されることもわかっている。そのため、完全なERの阻害剤にはならない。

この問題を解決する目的で開発されたのがFulvestrantで、受容体に結合すると受容体のユビキチン化を促し、分解するため、完全な阻害剤としてタモキシフェンより有効であるとされている。

今日紹介する創薬ベンチャーGenentechからの論文は、これまで考えられてきたこのFulvestrantの作用機序が、実際には間違っていることを証明した重要な論文で8月8日のCell に掲載される。タイトルは「Therapeutic Ligands Antagonize Estrogen Receptor Function by Impairing Its Mobility (エストロゲン受容体機能の阻害は受容体の細胞内での移動を阻害することで行われる)」だ。

この研究ではこれまで開発されたエストロゲン受容体(ER)阻害剤を集めて、まずERの分解、ERによる転写活性化、さらに乳がん細胞の増殖抑制などから、ER分解能、転写活性能の阻害効果が強い阻害剤GDC0927とGDC0810が、どんな細胞ででも強い増殖抑制を示す、分解活性の高い化合物であることを見つける。すなわちタモキシフェン型のER分解能が低い抗エストロゲン剤は、転写を完全に抑えるわけではないこと、一方転写を抑える活性の強い阻害剤は、増殖抑制効果も高いことを確認する。

これまでだと、fulvestrant型ではER分解率が高いため転写抑制効果が強いと結論して終わるが、このグループはさすが創薬ベンチャーだけあって、GDC0927ですら細胞によってはERを完全に分解するわけではないことに注目し、化合物を加えた時に染色体上でDNAと結合しているERについて調べ、予想に反しFulvestrantやGDC0927のような転写が低下する化合物でも、ERはDNAに結合していることを発見する。

しかし、fulvestrantやGDC0927は結合していてもコファクターのプロモーター部位への結合が維持されることで、染色体をオープン型に変化させないため、転写活性が低下していることを明らかにしている。 

この結果は、fulvestrantが単純にERを分解することで転写抑制していると言う考えでは説明できないので、タンパク質の新陳代謝を解析する方法を用いて調べると、核内でのERの動きが強く抑制された結果、分解が進むことを発見する。

以上のことから、抗エストロゲン剤の作用機序はリガンドごとに大きく異なり、またリガンド結合部への結合様態に応じて全く異なる効果を持つことを示している。私だけでなく、おそらく多くのプロもほとんど予想外の結果だろう。現在、Fulvestrantも含め、多くの化合物は薬剤として完全に至適化されたとは言いがたい状況で、経口投与もむずかしいものが多い。この研究は、抗エストロゲン剤の分野が奥の深い、まだまだ素晴らしい薬剤を生み出せる分野であることを示した意味で大きいと思う。多くの乳がん患者さんと一緒に期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ