7月31日 自閉症スペクトラムを簡単に、早期に診断する(米国アカデミー起用オンライン版掲載論文)
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7月31日 自閉症スペクトラムを簡単に、早期に診断する(米国アカデミー起用オンライン版掲載論文)

2019年7月31日
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自閉症スペクトラム(ASD)に対しては、現在着実に様々な治療手段の開発が進んでいると思う。ただ、脳発達から考えると、できるだけ早く診断して、脳の自由度の高い時期から治療を始める方が望ましい。従って、治療方法の開発とともに、早期診断方法の開発も重要な課題になる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は覚醒時のコリン作動性の神経の興奮が振動していることを利用して1−2歳からASDの診断が可能になることを示した研究で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載された。タイトルは「Deep learning of spontaneous arousal fluctuations detects early cholinergic defects across neurodevelopmental mouse models and patients (自発的におこる覚醒時の変動を深層学習させることで、神経発達異常を示すマウスや人のコリン作動性システムの異常を検出する)」だ。

私たちが覚醒状態を維持しているときコリン作動性の神経興奮は振動していることが知られている。これは瞳孔の大きさの変化や、心拍数の変化として見られ、外からの刺激に迅速に対応するための準備と考えられている。著者らは、この心原生の振動の違いをASDの診断に使えないかと考えた。

ASDの多発するBTBRマウス、MECP2遺伝子の欠損したレット症候群モデル、そしてCDKL5欠損マウスの3種類のASDモデルを用いて、自由回転するボールの上で覚醒状態を保っているマウスの瞳孔サイズの変化を調べ、正常と比べるとASDモデルマウスでは変動幅が大きいことを発見する。

次にレット症候群モデルでまだ行動学的異常が見られない生後2ヶ月までのマウスでも、瞳孔サイズの変動の異常が同じように見られること、そしてコリン作動性の異常をMECP2発現神経で正常化させると、振動も正常化することを確認した後、この変化を検出してASDと診断できるAIプログラムを完成させている。

次に同じ機械学習を用いて、幼児の心拍数の変動をコリン作動性神経興奮振動指標として学習させ、ASDを早期に診断できないか調べ、レット症候群では1−2歳の段階で8割以上の子供を診断できることを示している。

この研究では、人間についてはレット症候群だけだしか調べていないが、検査は簡単なのでできるだけ多くの遺伝的ASDのケースにまず試して、他の遺伝子が原因のASDも同じように早期診断が可能か確認してほしいと思う。次に、家族にASDが見られるハイリスクグループを用いた研究を行えば、ほぼ可能性は確かめられるだろう。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ