7月30日 セラミドと糖尿病(7月26日号 Science掲載論文)
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7月30日 セラミドと糖尿病(7月26日号 Science掲載論文)

2019年7月30日
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一般の人にとってセラミドとは、皮膚のケラチン層に存在して、保湿や皮膚のバリアー機能に欠かせない分子として理解されていると思う。実際保湿効果をうたう化粧品には必ず添加されている。

ところが臨床現場では最近になって、セラミドの血中レベルを糖尿病のインシュリン抵抗性や脂肪肝のマーカーとして用いる動きが出てきた。今日紹介するユタ大学からの論文はセラミド代謝がインシュリン抵抗性による肥満などの原因になっていることを示し、治療標的DES1分子を特定した研究で7月26日号のScienceに掲載された。タイトルは「Targeting a ceramide double bond improves insulin resistance and hepatic steatosis (セラミドの2重結合を標的にすることでインシュリン抵抗性と脂肪肝を改善できる)」だ。

セラミドの代謝には2つの重要なdihydroceramide desaturase(DES)と呼ばれる酵素があり、ジヒドロセラミドをセラミドへと転換している。このグループはこの反応によりセラミドレベルが高まると、肝臓や脂肪細胞で脂肪蓄積が高まるスイッチが入り、インシュリン抵抗性が高まることを、示してきた。

今回の研究では、このセラミドへの転換を促すDES1が肥満や糖尿病を改善する標的になるかどうかを調べるのが目的だ。

脂肪に様々な活性があることは知っていたが、セラミドを細胞に加えると脂肪蓄積のマスター遺伝子Srebs1が活性化されるとは全く予想だにしなかった。とすると、セラミドの血中レベルを下げることでインシュリン抵抗性が解消し、肥満が治るはずだ。この最も近道がジヒドロセラミドをセラミドに転換するDES1の活性を下げることだ。ただ、ジヒドロセラミドもセラミドと同じ効果があれば、この戦略は使えない。

この研究ではまず、大人になってから全身でDES1の転写を低下させるコンディショナルノックアウトを用い、DES1の活性が低下するとインシュリン抵抗性が改善し、肥満が治ることを確認する。すなわち、セラミドの量を減らせば代謝を改善させられる。

つぎに、脂肪細胞、肝臓細胞選択的にDES1遺伝子をノックアウトする実験を行い、どちらもインシュリン抵抗性が改善され、血中のインシュリン濃度が下がり、脂肪酸のレベルも低下することを確認している。

最後により治療可能性を追求するため、アンチセンスRNAをくみこんだ

アデノウイルスの効果を調べ、量に応じて大きな効果があることを示している。

結果は以上で、インシュリン抵抗性を誘導するのはセラミドで、慈悲泥セラミドではないこと、今後DES1を標的にすることでこの状態を改善できることを示した、少なくとも私にとっては新鮮な研究だった。

カテゴリ:論文ウォッチ