7月15日 ホモ・サピエンス出アフリカ時期の見直し?(7月10日号Nature オンライン掲載論文)
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7月15日 ホモ・サピエンス出アフリカ時期の見直し?(7月10日号Nature オンライン掲載論文)

2019年7月15日
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ネアンデルタール人と我々現生人類の先祖は7-80万年前にアフリカで分離した後、独自の進化を遂げ、40万年前にはすでにユーラシアに移動していた。一方現生人類は約30万年前には現在の形にアフリカで進化していたが、ヨーロッパへの移動は5万年前ぐらい、アラビア半島からインドルートは少し早く10万年前というのが通説だった。しかし、DNA解析の限界から、この通説は出土した骨の年代測定と形態測定、そして石器の分類によって決められてきた。ただ、素人から見るとこの形態の比較などはとても難しい。例えば質問サイトQuoraにはネアンデルタールと現生人類の復元図が示されているが(https://www.quora.com/Were-Neanderthals-smarter-or-more-advanced-than-their-Homo-sapiens-counterparts-at-their-time)、素人目にこれが現生人類のバリエーションと言われてもほとんど違和感はない。

今日紹介するドイツ・チュービンゲン大学とギリシャ・アテネ大学からの論文は、南ギリシャで発見されていた20万年前の人類の骨が現生人類のものだと結論した研究で7月10日号のNatureオンライン版に掲載された。タイトルはズバリ「Apidima Cave fossils provide earliest evidence of Homo sapiens in Eurasia (Apidima洞窟の化石はユーラシアの最も早い時期のホモ・サピエンスの証拠だ)」だ。

だいたいこのような人騒がせな化石は地質年代がはっきりしない場所から出土する。この研究で詳しく調べられた2種類の頭蓋骨化石Apidima1(A1)とApidima2(A2)が出土した洞窟は、はっきりとした地層や石器がないため、おそらく洪水などで同じ場所に沈殿してしまった骨と考えられている。したがって、年代測定は同位元素検査のみに頼ることになる。

この研究では化石を磨く時に得られる断片を用いてウラニウムの取り込まれた年代を測定し、A1は20万年前、A2は17万年前、全く別の場所で土に埋もれ、その後Apidima洞窟に流された後、15万年前にセメント化が始まったと結論している。

あとはなかなか素人ではわかりにくい形態の比較で、現生人類の化石19種類、ネアンデルタール人の化石6種類、他に中石器時代のユーラシアとアフリカの化石を数種類比較に用いて、それぞれのApidima化石がどれに近いか調べている。

方法は、化石をCTで撮影し、断片のデータから全体をコンピュータで再構成し、再構成された頭蓋の様々な計測を数値化して、集まったパラメータの結果を例えば主成分解析を用いて分類している。かなりハイテクな画像診断システムだ。

そしてこのグループは、Apidima1はホモ・サピエンスに最も近く、Apidima2はネアンデルタール人に近いと結論している。

これが本当だと、これまで現生人類のヨーロッパへの進出が5万年前後としてきた通説が覆る。実際、アラビア・インドを通る南ルートの10万年よりはるかに早い。このことから、実際にはホモ・サピエンスの出アフリカはもっと早く、ネアンデルタールのいない地域で独自に進化していたが、その後ネアンデルタールに征服されるというシナリオになる。

面白いし、ロマンもあるが、やはり形態の比較だけでの結論がどこまで確かなのか、これが最も大きな問題だろう。実際同じ化石を分析したフランスグループは、Apidima1を直立原人と結論している。誰がどうこの論争に決着をつけるのか、まだまだこの分野は熱い。

カテゴリ:論文ウォッチ