5月22日 Covid-19 ワクチンの副反応2: ワクチンによる血栓症治療についての症例報告(4月20日 J. Thrombosis and Haemostasis オンライン掲載論文)
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5月22日 Covid-19 ワクチンの副反応2: ワクチンによる血栓症治療についての症例報告(4月20日 J. Thrombosis and Haemostasis オンライン掲載論文)

2021年5月22日
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アストラゼネカ社やジョンソン&ジョンソン社のアデノウイルスワクチンにより普通では見られない箇所に血栓症が見られることがわかり、現在急速にその原因の研究が続けられている。重要なことは、最初報告されたときから、全例でplatelet factor -4に対する自己抗体が存在することで、これまでHeparin induced thrombosisとして知られていたヘパリンにより、PF4が重合して、それに対して抗体ができ、血小板が活性化されるのと同じメカニズムで血栓ができることが明らかになった。

私が最後に見た論文はThe New England Journal of Medicineでの緊急総説(図)だが、これによると、ヘパリンの代わりにPF4複合体を誘導する原因物質が特定されておらず、発症の頻度は低いが、死亡率が高いことから、多くの国で使用が抑制されており、またメディアによる報道もあって、接種可能な国でも人気が低い。

これらを受けて、2日前診断と治療のためのガイドラインが国連から発表された。

診断アルゴリズムとしては、血栓を疑わせる症状が現れたときは、ワクチン接種歴を聞き、ワクチン接種後4−20日の範囲であれば、ワクチン誘導の血栓症(VIPIT)を疑い、血小板低下、D-dimer上昇、血液像正常(血小板は除く)などが揃ったらVIPITを疑い、可能ならPF4-heparinに対する抗体を調べることが推奨されている。その上で、抗体を薄めるために高濃度免疫グロブリン投与が推奨されている。

今日紹介するウイーン医科大学からの論文は、この治療が成功した症例報告で、極めて稀な症例でも、瞬時に世界中に共有され、適切な治療につながっていることを示した論文だ。症例報告だが、紹介する。タイトルは「Successful treatment of vaccine-induced prothrombotic immune thrombocytopenia (VIPIT)(ワクチンにより誘導された免疫的血小板減少症の治療成功例)」だ。

患者さんは、アストラゼネカワクチン接種後一時発熱したが、アスピリン400mgを服用して軽快、その後は日常生活を送っていたが、8日目に大きな血腫ができていることがわかり、次の日は他の場所にも血腫ができていたので大学病院の救急を訪れている。

コロナPCR陰性、D-dimerの上昇、血小板減少が確認され、「血栓を疑いCTで全身を調べているが、明瞭な血栓は認めていない。そこで、VIPITが疑われ、PF4/heparinに対する抗体を調べると、異常値を示していたのでIVIPITと確定、すぐ治療を行なっている。

当然ヘパリンは絶対に使ってはならないが、凝固を防ぐ必要があり、ダナパロイド、フィブリノーゲンの低下を補うため、フィブリノーゲン、そして濃縮免疫グロブリンを入院後1、2日(ワクチン接種後9、10日目)に投与すると、すぐにD-dimerが低下し、血小板も投与すぐから上昇を始め、1週間で完全に退院できたという症例だ。

この症例は、ガイドラインに示された診断と治療を絵に描いたようなケースで、

ワクチン接種後、4日以降に様々な症状、特に頭痛や血腫などが見られたらVIPITを疑い、すぐに抗凝固剤(絶対ヘパリンは使わない)と濃縮免疫グロブリン(プレドニンとともに投与している)を投与すれば、すぐに回復するというものだ。

以上、我が国では当分は使われないようだが、使われるようになっても用意ができて居れば恐れる必要はないことを示している。ただ、アデノウイルスワクチンは今後も利用されると思うので、この原因についてはできるだけ早く特定されることを望む。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月21日 慢性腎臓病(CKD)と細胞老化(5月19日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年5月21日
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私もそうだが、年齢とともに腎臓ではいわゆる硬化と呼ばれる状態が徐々に進行する。老化と考えていいが、この硬化が基礎にあると、様々な急性腎障害により、老化過程がさらに促進される。最近、チロシンキナーゼ阻害剤とケルセチンを組み合わせて、老化細胞を除去するselolysis治療が、腎硬化症にも効果があることが示され、また以前紹介した、東大医科研の中西さん達が開発した、画期的senolysis治療法でも腎硬化症が抑えられることが示され(https://aasj.jp/news/watch/14787)、senolysis治療は腎硬化症の希望の光になっている。

今日紹介するエジンバラ大学からの論文は、細胞死を抑えているBcl2を阻害するだけで腎臓でのsenolysis治療が可能であることを示した研究で、5月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Cellular senescence inhibits renal regeneration after injury in mice, with senolytic treatment promoting repair (マウス腎臓では細胞老化が再生を抑制するので、senolyticな治療法で再生を促すことができる)」だ。

この研究の目的は、実験的に誘導した腎硬化症で蓄積した老化細胞を、Bcl2阻害剤ABT-262で除去し治療する可能性を確かめることだったと思う。

実験としてはほとんどモデル動物での話で、ヒトについては、高齢者の腎臓で老化細胞マーカー(p16,p21など)の発現を調べ、細胞周期が抑制された老化細胞が上昇していること、そして放射線照射で一種の老化を早めたヒト近位尿細管細胞を、Bcl2など細胞死を抑える機構を抑制する薬剤ABT-263で処理すると、老化細胞だけを除去できることを示しているだけだ。あとは、これに近い状態をマウスで誘導し、ABT-263の治療効果を確かめている。

これまでsenolysisの論文を紹介してきたが、Bcl2抑制というのはエアポケットの様に抜けていた。これは、Bcl2が抑制されると、免疫機能や造血への障害が予想できるからだが、なんとこの研究ではマウスをABT-263で処理しても、ほとんど副作用はないとしている。最近、AMLの治療にもBcl阻害剤がアザシチジンと一緒に使われる様になっているので、確かにBcl阻害もsenolysisの方法として考慮する価値はありそうだ。

あとはマウスモデルで、

  • 老化マウス腎臓では老化細胞が蓄積しているため、血流を障害して起こす急性腎障害で、強い腎硬化症が誘導されるが、まずABT-263を投与して老化細胞を除去しておくと、急性腎障害による腎硬化症を抑えることができる。
  • ABT-263処理により、老化マーカーを発現する細胞が減少させるとともに、急性腎障害による繊維化をおさえ、さらに尿細管細胞の再生増殖が高まる。すなわち、老化細胞の存在が、繊維化を高め再生を抑えていることを示し、senolysis治療の重要性を示唆している。
  • この結果、腎機能の改善も見られる。
  • 老化マウスでの結果をさらに確かめる目的で、若いマウスに放射線照射して老化を誘導し、これに急性腎障害を加える実験系で、ABT-263で老化マーカーを発現する細胞を除去できること、そしてその結果繊維化による腎硬化症を抑えることができ、さらに尿細管の再生も促すことができる。

を示している。結果は以上で、実験としては繰り返しが多く、また全て尿細管の話で、例えば糸球体の喪失も同じ様に防げるのかなどは今後の課題だろう。しかし、ある程度腎機能が改善していることから、腎硬化症に対するsenolysis誘導治療薬を使ってみる可能性はある様に思える。いずれにせよ、senolysisの重要性は疑う人はいない。その意味で、使える薬剤は多様なほどよい。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月20日 ガンが免疫システムから逃れるための必須のエピジェネティック因子:SETDB1 (5月5日 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月20日
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チェックポイント治療など、ガンに対する免疫治療導入により、ガン治療の標的が、必ずしもガン細胞自体の増殖や転移に必須の分子だけではなく、ガンを異物と認識するのに役立つ分子へと拡大したことで、一つのガンに対して使える可能性の薬剤が増えると期待できる。

今日紹介するハーバード大学からの論文はこの典型で、ガンが免疫システムから逃れるために必須の分子を特定して、それを標的にした治療法を開発しようとした研究で5月5日Natureにオンライン掲載された)。タイトルは「Epigenetic silencing by SETDB1 suppresses tumour intrinsic immunogenicity (SETDB1によるエピジェネティックな遺伝子発現抑制はガンの免疫原性を抑える)」だ。

この論文は最初からガン細胞がホスト免疫機構から逃れるためのエピジェネティックスに絞って研究を続けている。エピジェネティックスに関わる936種類の遺伝子を標的にしたガイドを用いて、クリスパーで遺伝子機能をノックアウトするシステムを2種類のガン細胞に導入し、ガン細胞をマウスに移植、ノックアウトされると免疫機構にキャッチされる遺伝子リストをまず作成している。

逆にいうと、こうしてリストされる遺伝子はガンが免疫から逃れるために必須で、失うとすぐに免疫機構にキャッチされ、ガン細胞は増殖できなくなる。

この方法で2種類のガン両方でリストトップに躍り出たのがSETDB1で、抑制方のヒストンコードH3K9のメチル化に関わることが知られている分子だ。すなわち、この分子によるクロマチン構造変化により抑制される遺伝子セットが、ガン免疫の標的になることがわかる。

このようなドンピシャの分子がこれまで気づかれなかったのかと、ヒトガンの遺伝子データベースを調べてみると、この分子が増幅している細胞ほど、確かにチェックポイント治療の効果が落ちることがわかった。一方、他の抗ガン剤に対する反応性で見ると、この分子の発現はほとんど関係ない。

次にSETDB1によりメチル化されたH3K9により支配されている遺伝子を、クロマチン免疫沈降で調べると、LTR(long terminal repeat)を持つトランスポゾンが特に抑制を受けており、SETDB1ノックアウトで、これらのクロマチンがオープンになり、7割程度の領域ではH3K27のアセチル化も進んでいることがわかった。

SETDB1ノックアウトにより抑制が外れると、理論的に2種類の遺伝子発現が誘導されると考えられる。一つは、トランスポゾンのせいで抑制されていたホストの遺伝子、およびトランスポゾン自体の遺伝子だ。

不思議なことに、トランスポゾン近くに存在したため抑制していた遺伝子には、インターフェロン、NK細胞を活性化するリガンド分子、Fcγ受容体、さらにはMHCIなどガン免疫に関わる分子が多い。

また、予想通りトランスポゾンにコードされているgag, pol, envなどのレトロウイルス分子の転写も起こっていることが確認できる。

以上の結果から、ガン自体が多面的に免疫系に脆弱になることが予想されるが、SETDB1ノックアウトガン細胞の周りには、トランスポゾンによりコードされるペプチドがMHCIとが結合した複合体を認識できるCD8T細胞が出現していることを確認している。

結果は以上で、内在性のトランスポゾンを活性化させてガン免疫を誘導するという話は珍しくないが、SETDB1という明確な標的が見つかったことで、今後新しい治療戦略につながるのではと期待している。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月19日 骨髄環境による乳ガンのリプログラムが転移を促進する(4月19日号 Cell 掲載論文)

2021年5月19日
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ガンは遺伝子変異の蓄積が基盤にあるが、エピジェネティックな機構の関与もはっきりしている。例えば、同じガンでも、ガンの幹細胞と呼ばれる細胞集団が存在しているということは、ゲノム変化ではなく、遺伝子のオン/オフを調節するクロマチンの構造の違いで、ガン内に多様性が生じていることを示す。このことから、エピジェネティック機構に介入する抗ガン剤の開発も現在進んでいる。

そこで、今日から2回に分けて、ガンのエピジェネティックスを扱った論文を紹介する。全てマウスを用いたモデル研究だが、ヒトでも同じことは十分起こっていると思う。最初のテキサス・ベーラー医科大学からの論文は乳ガン細胞が骨髄でリプログラムされ、多臓器転移のハブになるという研究で4月29日号のCellに掲載された。タイトルは「The bone microenvironment invigorates metastatic seeds for further dissemination (骨髄に転移した細胞は骨髄微小環境により活性化され他臓器に転移する)だ。

このグループは以前、エストロジェン受容体(ER)陽性の乳ガンも、骨髄に転移するとERの発現が低下、薬剤が効かなくなることを示していた(Developmental Cell 56:1100)。すなわち、骨髄により乳ガン細胞がリプログラムされることが示された。

これまで乳ガンについては、まず骨髄に転移した後、そこから多臓器に転移が進むと考える人も多かった。このグループも、骨髄の環境により、転移しやすい細胞へとリプログラムされるのではと着想し、研究を始めている。

結構マニアックな仕事で、まず骨髄に選択的に転移させる方法として、血管支配回腸動脈へのガン細胞注射、先に全身に回る回腸静脈注射を使い分けている。さらに、骨髄へ直接ガンを注射する実験も組み合わせて、全身転移が骨髄を経由しているのか、原発巣から直接他臓器に転移するのかを調べ、乳ガンが骨髄に転移すると、ここでリプログラムされ、他臓器へ転移する能力が高まる可能性が高いことを示している。面白いことに、骨髄転移した細胞はもう一度元のガン組織に侵入するが、乳ガンの原発巣が骨髄に転移する頻度はそれほど高くないことを示している。

以上のことから、乳ガンが転移しやすいのは、骨髄転移がおこったとき、リプログラムされ、新たな細胞に変化するからという可能性を示唆している。これを確かめるため、クリスパーとガイドRNAをコードする遺伝子を発現させ、導入したガイドに隣接するPAM配列自体に突然変異を導入して細胞を標識し、異なるタイミングで何度も何度も変異標識を加えながら転移を追いかけることで、原発、骨髄、他臓器転移でのクローンの多様性を調べている(詳細は省くの興味がある場合は以下の論文を読んでほしい。簡単で面白い方法だ)。

この結果、転移がゲノムの変異に基づく、クローンレベルの現象ではなく、多くのクローンがリプログラムの結果、他臓器へと転移するモデルが正しいことを示している。

最後に、リプログラミングのメカニズムを検討し、ポリコム因子EZH2が誘導され、ガンの幹細胞が発現するALDH1やCD44の発現を始め、転移に必要な遺伝子の発現が誘導される結果であることを示している。

これを確かめるため、EZH2ノックアウトガン細胞を作成し、同じように移植、転移を調べると、原発巣の増殖には影響がないが、転移は強く抑制できることを示している。

実際に同じことが人で言えるのかどうかは検討が必要だが、乳ガンでは初期から末梢血のガン細胞の数が多いなど、乳ガンの転移しやすさの原因が、検出不可能な骨髄転移が早くから起こっているため、末梢血に入りやすいと考えることもできる。だとすると、乳ガンの他の臓器への転移も、骨髄を介して起こっている可能性はある。乳ガン手術の際に、骨髄も採取して転移を探索するなど、今後の研究が待たれる。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月18日 全能性と多能性を行き来する培養法の開発(5月27日号 Cell 掲載論文)

2021年5月18日
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5月14日、文字を手書きするときの脳内表象を解読して文字をPCに書かせる技術( https://aasj.jp/news/watch/15671  ) 、15日の経口投与できるアンチセンスRNA( https://aasj.jp/news/watch/15675  )など、私が現役の頃には考えがつかなかった様々な技術が開発されているが、山中さんのiPS以来少し落ち着いていたように見えた全能性や多能性細胞の培養法も、最近様々な動きが出てきた。Austin SmithとKinoshita らが示したgerm cellとsomatic cellへの培養が高効率に誘導できるFormative Stem Cellの概念はその典型だろう。

この分野でもう一つ残された大きな問題は、胚盤胞期の内部細胞塊と最も全能の受精卵が卵割して、内部細胞塊とトロフォブラストの両方に分化できる全能性の細胞の培養だ。ESやiPSなどほとんどの細胞は、体の全ての細胞に分化できるとはいえ、胎盤などを形成するトロフォブラストには分化できないことが知られている。そのため、全能性の細胞とは呼べない。現在間違いなく全能性の細胞と呼べる受精卵から4細胞期の細胞をそのままの状態で培養することはむずかしい。

ところが今日紹介する北京大学からの論文は、なんとスプライシングを抑制するだけで、ES細胞が2−4細胞期相当の細胞へ転換できることを示した、この分野では画期的な研究で5月27日号のCellに掲載された。タイトルは「Mouse totipotent stem cells captured and maintained through spliceosomal repression(マウスの全能性幹細胞をスプライソゾーム抑制により把握し維持できる)」だ。

この研究の発端は、受精卵から胚盤胞期まで、RNAスプライシングに関わる遺伝子の発現を調べると、4細胞期から8細胞期でほとんどの分子の発現が急速に増加することの発見だ。この意味を探るため、14種類のスプライシング因子を選んでsiRNAでノックダウンすると、10種類の因子のノックダウンにより発生初期の全能性遺伝子と呼ばれている分子の発現が上昇し、多能性因子とされているOct4、Sox2、Nanogなどの山中因子の発現が低下することを発見する。

この結果を、全能細胞の培養法開発へ進めるため、まずスプライシング複合体SF3B阻害剤pladienolide BをES細胞の培養に加えると、増殖は低下するものの、1週間以内に多能性分子が低下、全能性に関わる分子が上昇し、しかもゆっくりではあるが細胞増殖を維持できることを発見する。

単一細胞のRNA発現解析から、pladienolide Bを加えて培養できる細胞の遺伝子発現プロファイルは、2−4細胞期のプロファイルに対応すること、またメチル化DNA解析、ATAC-seqによるクロマチンの構造解析でも、pladienolide B添加で培養できる細胞は2−4細胞期に相当することを明らかにしている。

つぎは、この細胞を8細胞期の胚に注射し、どの細胞へと分化するかを、試験館内分化、およびマウスに戻して胚発生を行わせて調べている。結果は全能性を証明するもので、内部細胞塊およびトロフォブラスト由来のほぼ全ての臓器に、注射した全能性細胞が寄与していることを証明している。

最後に、スプライシングのような基本的な生命機能を抑制することで、なぜこのようなドラマチックな変化が誘導できるのか、多能性因子および全能性分子のスプライシングについて調べると、全能性因子のみがイントロンが短く、またスプライシングをあまり必要としない構造をとっている一方で、多能性因子はスプライシングが抑制されると機能が失われる構造をとっていることを明らかにする。

以上、ついに全能性と多能性を行ったり来たりできる培養システムが、スプライシング抑制という意外な方法で可能になった。残念ながら、pladienolide Bを添加した現在の培養条件では細胞の増殖に問題があり、クローン化したりするのはい簡単ではないようだ。また、研究ではキメラ個体が生まれて、そこから次世代ができるのかも示されてはいない。また、ヒトES細胞でも同じことが言えるのかも知りたいところだ。とはいえ、この領域も急速に忙しくなってきた。

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5月17日 老化免疫細胞は他臓器の老化を促す(5月12日 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月17日
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老化研究により、体の全ての細胞でほぼ同じ老化のメカニズムが働いていることがわかってきた。だからといって、体の全ての細胞が同じ様に老いる訳ではない。例えば、皮膚のように紫外線などの照射により、DNA損傷が起こりやすい場所では老化が起こりやすい。

今日紹介するミネソタ大学からの論文はリンパ球などの免疫系細胞の老化は、自身だけでなく、他の臓器の細胞老化を促進するという、ちょっと恐ろしい研究で、5月12日Natureにオンライン出版された。タイトルは「An aged immune system drives senescence and ageing of solid organs(老化した免疫システムは固形臓器の老化と加齢を促進する)」だ。

研究自体は、典型的な遺伝モデルを用いた老化研究で、コケイン症候群の原因遺伝子の一つで、UVやDNA鎖をクロスリンクする様な薬剤によるDNA障害に関わるとされるERCC1遺伝子を血液系で欠損させたマウスを用いて、老化モデルとしている。これまでの研究で、ERCC1が欠損すると、おそらく自然に起こるDNA鎖同士のクロスリンクが修復できないため、p53の活性化が起こることで、細胞周期が阻害され、細胞老化、そして個体全体の老化が進むと考えられている。

このグループも、初めは血液細胞が老化するモデルを作成して研究しようとしていたのだと思う。血液だけでERCC1が欠損すると、5ヶ月でリンパ球を含む白血球数が低下し、様々な血液細胞で細胞周期の抑制を示すp21などの発現が高まり、また抗原に対する細胞性免疫機能や、抗体反応も強く低下することを示している。同じ変化は、2年以上飼育した正常老化マウスでも見られることから、ERCC1欠損により、老化が時間的に強く促進されていることがわかる。

これだけならなんのことはない研究だが、血液系だけで老化が進んでいると考えられるこのマウスの様々な臓器の細胞でのp21やp16の発現を調べると、驚くことに、血液ほどではないにせよ、細胞老化が高まっていることに気づく。老化で上昇する様々なサイトカインのうち、IL-1βやGDF-15、MCP-1などが上昇していることから、おそらく免疫系の細胞老化が、様々なサイトカインを通して、他の臓器の老化を促進するのではと着想した。

そこで、8-10か月齢のERCC1を血液で欠損させたマウス脾臓細胞、あるいは2年齢の正常マウス脾臓を若いマウスに注射すると、どちらの場合も、他の臓器のp16の発現が高まり、実際の寿命も短くなることを示している。この実験の結果、ERCC1欠損血液細胞だけでなく、正常血液細胞も老化すると、移植により他の臓器の老化を誘導できる(実際にはERCC1欠損血液細胞以上の効果がある)が明らかになり、通常の老化でも免疫細胞を若返らせることで、全体の老化を遅らせる可能性が示唆された。

これを確かめるため、今度は全身でERCC1が欠損したマウスに正常脾臓細胞を移植する実験を行い、若い細胞の移植ですぐにp16が正常化する臓器が存在することを示している。すなわち、全てではないが、臓器の一部は、老化した免疫細胞から分泌される様々な因子の影響で細胞周期が阻害され、細胞老化に陥っていることを示している。

最後に、ERCC1欠損による免疫系の機能低下と、老化促進作用は、現在老化抑制に使われているmTOR阻害剤ラパマイシンでかなり改善し、血液のp16,p21の発現が抑制されるとともに、MCP-1やTNFの分泌が抑えられることも示している。

結果は以上で、免疫系の細胞の老化が、体全体の老化を促進する作用があると言う結論は、本当なら、新しいアンチエージング法の開発や、逆に老化が急速に進む腎硬化症などの理解にも重要だ。ただ、正直実験のプロトコルや、結果の示し方が少しわかりにくく、そのためか論文サブミットから掲載までに2年以上かかっている。また、老化には炎症が関わっていることは疑う人はいない事実で、炎症とこの研究とがどう違うのかも明確にする必要があるだろう。今後、モデルマウスではなく、若いマウスと老化マウスとの間で、詰めていく必要があると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月16日 2000年前の人間の腸内細菌叢 (5月12日号 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月16日
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古代の遺跡から、化石と言っていいのか、糞便が石の様に固まった糞石が得られ、古代人が何を食べていたかについて重要な情報を提供してくれる。当然糞便には細菌叢が存在し、最新の古代DNA分析技術をもってすれば、古代の人間の細菌叢を分析できるかもしれない。とはいえ、骨の中に残る細胞DNAとは異なり、我々の体のほとんどのDNAと同じで、糞便のDNAも環境の分解力により、土に還るのではないかと思っていた。

しかし最近紹介した様に、土に還ることで、場合によっては環境の鉱物に吸着してDNAが守られることもある様で(https://aasj.jp/news/watch/15388)、ともかく糞石DNAの分析にチャレンジすることは意味がある。そう考えて、2017年ぐらいから、保存のいい古代の糞便遺物を解析する研究が進んでいた様だ。

今日紹介する糖尿病研究で有名なジョスリン研究所からの論文は、2000年前後のアメリカ原住民の糞便遺物(米国とメキシコより出土)からDNAを取り出し、当時の人間の細菌叢を再構成したと言う面白い研究で、どこまでできるのだろうと興味をもって読んでみた。タイトルは「Reconstruction of ancient microbial genomes from the human gut(古代人の腸内細菌叢を再構成する)」だ。

タイトルを見ただけで、だれでも気になるのは、人間の糞便由来の細菌叢であることを、本当に決めることができるかだ。人間自身のDNAなら、ハイブリダイゼーションで濃縮もできるし、古代DNAを現代のDNAから区別することもできる。しかし、細菌となると、無限の可能性から、動物の腸内細菌であること、そして最後に人間の腸内細菌であることを証明する必要がある。こんなこと本当にできるのか?

研究方法を読んでみると、腸内細菌叢は独自の進化を遂げており、古代の細菌叢ゲノムも、現代人の腸内細菌叢を指標に、他の細菌から選別できると言う仮説に立っている。これにより、現代人細菌叢ゲノムを手本に、人間由来と思われる細菌DNAを選び、最後に現在の家畜に存在する細菌叢も指標として用いて、最終的に人間の腸内細菌叢由来DNAライブラリーを選び出している。この方法が妥当かについては私の知識を超えているので、あまり詮索せず、当時の人間の細菌叢のDNAライブラリーが再構築されたとしておく。

さて結果だが、腸内細菌叢全体の構成、存在した細菌の全ゲノムレベルの再構成、そしてゲノムが再構成できた細菌の進化についての詳しい解析、に分けて示されている。

  • まず細菌叢の構成については、現代人の細菌叢とほぼ同じ細菌成分が特定できる(これは方法論から考えると当然と思えるが)。さらに、読めた回数からそれぞれの細菌の頻度を計算しており」これを用いて細菌構成を計算すると、古代人の細菌叢は、工業化された地域に住む人たちの細菌叢より、田舎に住む人の細菌叢に似ていることを示している。具体的には、田舎の人に多いFirmicutesは多く、都会の人に多いBacteroidetesは少ないといった具合だが、なんとなく説得されてしまう。
  • 古代人だけで多い細菌種もいくつかある。ただ、なぜこれらの細菌が現在マイノリティーになったのか理解するためには、他の時代の細菌叢を調べ、細菌叢の地理と歴史を再構成する必要があるだろう。
  • 現代の腸内細菌叢をお手本とせず、読めた配列からできるだけ完全な細菌のゲノムを再構成することにもチャレンジし、厳しい条件で配列を選別することで、古代人糞便由来のほぼ完全な細菌ゲノムを181種類決定することに成功している。これらの多くは現代人腸内細菌叢に存在する種に属しており、腸内で独自の進化が続いていたことを示す。
  • その中の1種類の細菌を用いて、人類進化と腸内細菌進化の関係を調べると、なんと細菌の方も、人類が出アフリカを果たした時に一致して進化をはじめ、またホモサピエンスがアメリカに進出したのと同時に、アメリカ原住民特異的系統が出現している。
  • 一方、再構成できた181種類の細菌ゲノムのうち、61種類は、種レベルでこれまで現代人の解析からは発見されていない古代のみに存在した細菌であることがわかった。すなわち、人間の歴史とともに大きな選択圧にさらされていることも示している。
  • この様な選択圧を調べるため、機能的見地から古代人の腸内細菌を比べると、例えば抗生物質に対する耐性に関わる遺伝子は古代人細菌叢にはほとんど存在しない。一方、古代人や田舎の人の細菌叢はデンプンを分解する遺伝子が存在しているが、都会人になると減少している。すなわち、人間の様々な歴史的変化により、腸内細菌が強く選択されることを示している。

以上が結果で、2000年と言う古代ゲノム解析からは比較的新しい時代とはいえ、よくまあここまで解析できたなと言う印象だ。ただ、結果は完全に想定内で、細菌叢の進化は、私たち自身の進化の繁栄だとでもまとめておこう。

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5月14日 アンチセンスRNAを経口投与できる(5月12日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年5月15日
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様々なモダリティーの新型コロナワクチンの中で、RNAワクチンが、スピード、量産性、そして効果で他を凌駕したことは誰もが認めるところだ。実際、我が国では現在までファイザー/ビオンテックのワクチンだけが接種されており、ようやく17日から始まる新しいワクチンもモデルナのRNAワクチンだ。これまで何度も紹介してきた様に、これらのワクチンにはRNAによる自然免疫を抑えるためのテクノロジーが用いられ、免疫と副反応の間の絶妙のバランスをとっている。

この様にRNAを異なる目的に合わせて化学的に修飾する技術は、現在大きな進展を見せている。しかし、流石に経口投与可能なアンチセンスRNAが可能だとは思わなかった。今日紹介するアストラゼネカ社の研究所からの論文は、肝臓細胞を標的にする場合なら、アンチセンスRNAを経口投与することも可能であることを示した目から鱗の驚くべき研究で、製薬企業では、素人には考えも及ばない様々な試みが行われていることを実感した。タイトルは「An oral antisense oligonucleotide for PCSK9 inhibition(PCSK9阻害のための経口投与可能なアンチセンスオリゴヌクレオチド)」だ。」

タイトルにあるPCSK9は、LDL受容体に結合して分解を早める分子で、これを抑えることでLDLコレステロールの処理力を高めることができることから、新しい高脂結晶治療標的として注目されている。現在、モノクローナル抗体を用いてPCSK9を抑える方法が先行しているが、以前紹介した様にアンチセンスRNAを用いて肝臓でのPCSK9 mRNA を抑える方法の開発も、大手の製薬会社を中心に研究が進んでいる(https://aasj.jp/news/watch/1135)。

このとき紹介したアンチセンスRNAは、新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンと同じで脂肪のナノ粒子に包んで静脈投与する方法だったが、アストラゼネカ社は、化学的に安定化させたアンチセンスRNAに、GalNacを結合させて、選択的に肝臓に取り込まれる様にする方法で、静脈ではなく、皮下投与でPCSK9のmRNAを抑えるアンチセンスRNA薬AZD8233を開発していた。

今日紹介する研究は、これまでのAZD8233研究を通して、その体内での安定性に自信を持った結果、ひょっとしたら経口投与も可能ではないだろうかと着想し、今可能性を追求したもので、具体的にはAZD8233を安定に小腸まで到達し、腸上皮を通って門脈に移行できる様、Sodium Caprateと混ぜた錠剤を開発し、これをテストしている。

研究は単純で、ラット、犬、サルを用いて、実際にAZD8233が経口投与で肝臓へと到達でき,PCSK9の分泌を抑え、最終的にLDLコレステロールの値を低下させるか検討し、全ての動物でAZD8233が期待通り門脈を通って肝臓に到達し、PCSK9の分泌をおさえ、結果として血中のLDLコレステロールを低下させることを示している。

ともかくうまくいったと言うこと自体が驚きだが、例えばサルを用いた実験で、毎日28mgのAZD8233を投与すると、LDLコレステロールが60%低下するのを見ると、ついにRNAテクノロジーも、経口投与可能なところまで到達したかと言う感慨が深い。

もちろん皮下投与と比べると、必要な量も多く、おそらく価格も眼玉が飛び出るのではないだろうか。しかし、RNA テクノロジーが着実に進んでおり、その氷山の一角にRNAワクチンがあることを理解できる論文だと思う。

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5月14日 手書きモーションの脳活動を解読して、字を書いてくれる脳コンピュータインターフェース(5月12日 Nature オンライン掲載論文)

2021年5月14日
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様々な原因で四肢の麻痺が進むと、他の人とのコミュニケーションが取れなくなる。この問題を解決する切り札が、脳コンピュータインターフェース技術で、ある行動を意図した時興奮する脳活動を解読し、どの字を書こうと意図したのか、PC上に書くことができる。おそらく多くの方が、例えばALS患者さんが脳内でPCのキーボードを操作してコミュニケーションしている情景を一度はご覧になったのではないだろうか。

この技術は、それぞれの文字の脳内表象がどう形成されているかといった、脳科学的検討はすっ飛ばして、文字を表出する時に一定の領域で見られる活動を、文字と対応させる一種のAI技術で、どのような脳活動を、文字と対応させるのかで競っている。これまで、目で見えるPCの画面上でカーソルを動かす動作や、言葉を話すときの運動皮質の活動を読み取って文字に変える技術が報告されている。すなわち、表象した文字を表出する運動野の活動を解読する手法が主流になっている。

私のような素人は、運動野の活動を解読するなら、単純な動きほど解読できるように感じるが、話すときの運動野活動を使う方が、より単純と考えられるカーソルの動きに対応する運動野活動を使うより成功を収めているのは、面白い。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、同じように複雑な動きが必要と思われる文字を手書きする運動に関わる皮質の活動を解読して、自然なスピードで文章が書けるようにした研究で、5月12日号Natureにオンライン掲載された。タイトルは、「High-performance brain-to-text communication via handwriting (手書き動作を介して脳活動を高いパーフォーマンスでテキストに変える技術)」だ。

この研究は、AIで区別させるには複雑であっても、違いがはっきりする方が良いと決めて、字を書くことを脳内で意図した時に、手指を動かす運動野の活動を、文字と対応させて、PCに学習させている。脳内に埋め込んだ1000個程度の電極が並んだクラスター電極で読み取り、それがコンピュータ上で文字として現れる様になっている。

具体的な方法やソフトなどについては、私自身機械学習として理解できているだけだ。面白いのは、最終的な文字に変換するだけでなく、実際に頭の中で書いた文字の形も読み取れる様にしており、この形を見るのが面白い。また、線を欠かせた時と、字を書かせたときの軌跡を調べることができる。この結果、単純な線を書こうと意図するより、複雑な文字を描こうと意図したときの脳活動の方が、文字の区別という点では優れており、しかも速いことを示している。

特に文字を書くとき、それぞれの文字に費やす時間的な差異は解読目的に大きな情報になることも示している。そしてその結果として、1分に90文字という、驚異的なスピードでコミュニケーションすることを達成している。他にも、脳活動として区別がしやすい文字の形まで提案できているのも、頭の中で描いている文字の軌跡が把握できているからだろう。

あとは、電極を留置することに関する問題の解決だが、これがクリアされれば、四肢麻痺の人たちと自由に筆談が可能になる日は近いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月13日 チェルノブイリ事故被爆の次世代への影響(4月22日 Science オンライン掲載論文)

2021年5月13日
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昨日に続いて、米国国立衛生研究所が中心に行ったチェルノブイリ事故による放射線暴露の影響についての研究で、今日の焦点は、両親の被曝は生まれてくる子供に影響があるのかという問題だ。

昨日紹介した甲状腺ガンで見られるゲノム変異は、原子炉の爆発で飛び散った放射線ヨードを吸収した甲状腺が直接受けた放射線照射の結果で、内部被曝と呼ばれている。これに対し、爆発時の放射線暴露、あるいは事故処理時に受ける放射線による被曝は外部被曝で、今日紹介する論文は、原子炉の事故処理に当たった人や事故時強い放射線を浴びた人たちのへの放射線の影響を、被曝した人たちから生まれた子供に見られるゲノム変異を指標に調べた研究だ。タイトルは「Lack of transgenerational effects of ionizing radiation exposure from the Chernobyl accident(チェルノブイリ事故の放射線の影響は、次世代の子供には見られない)」だ。

この研究では0-4Gy(平均0.36Gy)の照射を受けた父親、あるいは0-0.55Gy(平均0.019Gy)の照射を受けたと推定される母親から生まれた子供の血液を調べ、親には認められない子供独自のde novo変異がどの程度あるか調べることで、両親の生殖細胞ゲノムへの放射線の影響を推定している(胎内被曝とは異なることに注意)。

DNAが放射線により切断され、その修復過程で様々な変異が発生することは、昨日紹介した内部被曝の論文からも明らかだが、トータルで0.5Gyといった低線量の持続的被曝の影響を調べるのは難しい。

事実、知り合いの長崎大学医学部の宮崎先生たちは、爆心から1kmで被曝し、その後明確に急性放射線障害を示した父親から生まれた3人の子供と両親について全ゲノム解析を行い、子供だけに検出できるde novo変異は、若干の増加傾向はあるが、統計的には被曝していない平均値と違いがないという結果を報告している(Horai et al, J. Human Genetics 63:357-363, 2018)。すなわち、正常発生後という選択がかかっているとしても、予想外に放射線照射の精子や卵子への影響は少ないことを示している。

宮崎さんたちの研究で解析していたのは3人だったが、今日紹介する論文ではなんと130人の被曝2世と、両親の全ゲノム解析を行い、子供だけに見られるde novo変位の数とタイプについて探索している。

結果は次のようにまとめられる。

  • 1度に2−4Gyという線量で行われる動物実験と異なり、原発事故で見られる被曝状況では、どのタイプの変異についても、放射線照射によりde novo変異が増加しているということはない。
  • また、蓄積被曝線量とde novo変異の数も相関がない。
  • 一方、同じ子供で父親の年齢とde novo変異の数を比べると、年齢が高くなるほど変異数が増える。
  • 両親の喫煙もde novoの変異とは強く相関しない。

これは宮崎さんたちの長崎原爆による被爆者の結果と一致しており、結論的には全身被曝で、放射線による障害が出たとしても、次世代の子供のde novoの変異数には影響がないという結論になる。

ただ、この結果は放射線障害が存在しないことを示しているのではない。昨日見たように、放射線は量依存的にDNAを切断する。従って、特定の遺伝子に限って、放射線照射の影響を見ると、放射線にさらされると確率的に必ず変異は上昇する。ただ、私たちの細胞は毎日分裂し、mRNAに転写される。この時に生じるストレスによる変異は、放射線被曝による変異数を遥かに凌駕しており、放射線効果が薄まっているだけのことだ。

2日にわたって、チェルノブイリ原発事故のゲノムへの影響に関する研究を紹介したが、不幸な事故を人類の遺産として守るためには、地道な科学的蓄積が必要なことがよくわかる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ