6月5日 セリンパルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子変異による若年性ALS(5月31日 Nature Medicine 掲載論文)
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6月5日 セリンパルミトイルトランスフェラーゼ遺伝子変異による若年性ALS(5月31日 Nature Medicine 掲載論文)

2021年6月5日
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若年性のALSは極めて稀だが、我が国でも報告は散在する。ただ、明確な遺伝性が認められないケースでは、ほとんど病気のメカニズムが解明されることはなかった。

今日紹介する米国NIHを中心とするチームから発表された論文は、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の第2エクソンの変異により誘発された若年性ALSの解析で、代謝経路の異常でALSが起こるなど、これまでにない特徴があることから、ALS全体の理解にも今後大きく貢献する可能性がある研究だ。タイトルは「Childhood amyotrophic lateral sclerosis caused by excess sphingolipid synthesis(過剰なスフィンゴリピッド合成により誘導される児童期の筋萎縮性側索硬化症)」で、5月31日Nature Medicineにオンライン掲載された。

まずこの研究に参加した期間で、若年期に発症したことが明確なALSを選び、ゲノム検査を行い、SPT遺伝子第2エクソンに何らかの変異を持つ、7家族11例を特定することに成功している。

親兄弟のゲノム検査と比べた時、6例は、両親には全く変異が認められないde novoの変異であることが確認されたが、1例は父親および、生まれてきた全ての子供が同じ変異を持っていた。驚くことに、全ての子供でALSが発症したにもかかわらず、父親は軽い神経症状があるだけで、正常の生活を送っている。また、この家族に見られた同じ変異は、他の2症例でも見られている。

このように、特定された遺伝子はパルミトイルCoAとセリンからセラミドが合成される代謝経路の最初の段階でスフィンガニンが合成される経路で、すでに同じ遺伝子の他のエクソンの変異によりhereditary sensory and autonomic neuropathy type 1と呼ばれる家族性疾患が起こることが知られており、この場合同じ酵素の活性の変化により、セリンの代わりにアラニンを使うため、セラミド形成が低下することが知られている。

ただ、ALSの変異では、本来の経路でのスフィンガニン合成自体が上昇していることから、おそらく酵素活性が高まる変異だろうと推測された。この点を探るため、iPSの遺伝子をクリスパーで編集し、同じ突然変異を持つ運動神経細胞を用いてSPT分子の活性を調べ、最終産物セラミドによって起こるフィードバック機構に関わるORMDL分子との結合が変異により欠損し、スフィンガニン合成調節機構が外れて、過剰合成が起こっていることが明らかになった。

この結果は、もしSPTの酵素活性を全般的に低下させることができれば、遺伝子変異をそのままに、治療可能であることを示唆しており、この研究でも患者さんのファイブロブラストを用いてsiRNAによるノックダウン実験を行い、酵素活性を正常化することが可能であることを示している。

残念ながらスフィンゴリピッドの合成が高まることで、なぜ運動神経特異的な変性が起こるのかについては全く言及されておらず、今後の問題になる。また、なぜ同じ変異を持つ父親で同じ病気が発症しなかったのかも解析が必要だろう。ただ、スフィンゴリピッドはインフラマゾームを介する慢性炎症の誘導因子としても知られており、おそらくこのラインの研究が今後出てくるのではないだろうか。とすると、代謝疾患と言っても、他のALSの発症機構を考える意味でも、重要なモデルになるような予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ